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063:決着、そして死亡
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「5発目……確率は50パーか……」
キンタロウは震える手で拳銃を拾う。
腰が抜けてしまって立ち上がることができないが立ち上がらなければいけないルールはない。キンタロウは立つことできなくなった足を無理に立ち上がらせない。このままの状態でロシアンルーレットを続行しようとしているのだ。
ボドゲ部の3人はそれぞれがそれぞれの呼び方でキンタロウの名前を呼んだ。イチゴは「キンタロウくん」モリゾウは「キンちゃん」ノリは「キンタロウ」だ。
「これが正真正銘最後の1発。あっという間だったな。死にたくねーな。死にたくねーよ」
キンタロウは仲間たちの声が耳に入らず独り言を淡々と呟いている。そして震える手で銃口を自分のこめかみに向けた。
「はぁ、ぅ……ぁ……な、情けねぇ……」
キンタロウの瞳から大量の涙がこぼれ落ちる。恐怖で精神が狂い涙が勝手に流れたのだ。止まる様子もない。止めようともしない。
「はぁ……うぅ、うぐ……」
自分の涙と鼻水で溺れそうになり再び過呼吸状態へ。
「お、しえ、て、くれ……」
「あぁ?」
キンタロウの小さな声が聞き取れずにイラッとした態度で聞き返す黒田。
「おれ、が、いきて、たら……みょうじを、なんで、しってたのか……はぁはぁ」
キンタロウは必死に言葉を繋いだ。キンタロウが黒田に望んだのは『自分の苗字を知っていた理由を教えろ』だ。
その望みを聞いた黒田の口元はニヤけた。
「ああ、いいぜクソガキ。そん時は俺が死ぬ時だからな。教えてやるよ。フヘッヘヘッヘヘヘ」
ニヤけていた黒田の顔はいつの間にか凶悪な笑みへと変わっていた。
ダメもとで聞いた望みだったが教えてくれるとのこと。ただの口約束だがその口約束でも凶悪な男とできたことはキンタロウにとって利点でしかない。
その約束が叶わなくとも望みを断れていない時点で良いのだ。これ以上は深くは追求しない。残りはこめかみに銃口を向けている拳銃の引き金を引くだけだ。
「すー、はー、すー、ふぁー」
涙は止まらない。鼻水で鼻腔が堰き止められているので口呼吸しかできない。キンタロウは口呼吸をゆっくりと行い落ち着こうとする。平常心まではこの状況では無理だ。だが引き金を引くくらいの精神状態は保てるだろう。
あとは引き金を引くだけ。しかしそれが難しい。
成功する未来を想像したいが、どうしても悪い方の未来しか見えない。良い未来を想像した途端、悪い未来がそれを塗りつぶす。
想像しているのは良い未来だ。なのに想像したくもない悪い未来ばかり頭に浮かぶ。
「くッ」
キンタロウは唇を強く噛んだ。痛みで恐怖を忘れようとしている。拳銃を持っていないフリーの左手は爪で指に痛みを与えている。
キンタロウは痛みととも『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』のボドゲ空間という世界に連れ込まれてからの死の恐怖を走馬灯のように頭の中をめぐっていた。
処刑人Xとの死のジャンケン。ドラゴンの脅威。明かされたデスゲーム。緑ヘビとの死闘。火ノ神との炎の脱出ゲーム。どれも死とはすぐ隣り合わせだった。
そして今、同等の死のニオイを全身に感じている。
今までと違う点を提示するならばそれは自ら命を絶つかもしれないということだろう。今までは殺されかけたり敵の殺意を感じていたが、今は自分で自分を殺そうとしている。それが何よりも恐怖なのだ。
死ぬタイミングも自分次第。
「お願いです神様。キンタロウくんを助けて。お願いお願いぃ」
イチゴは手を合わせて神に願っている。イチゴが願っている神はこの世界の神では無く元の世界の神様だ。この世界を作った神様に願ってしまえば逆に殺されてしまう可能性だってある。
だってこの世界の神様はクリア率0%のデスゲームを作った神様だからだ。
「お願いしますお願いしますお願いします」
何度も何度も願うモリゾウ。頭脳派のモリゾウでも願うしか方法はない。そして願っても結果は変わらないことも知っている。だけど願わずにはいられない。
願ったことによって結果が変わるかもしれないなどと思わない。けれど今だけは結果が変わる気がしている。だから願わずにはいられないのだ。
ノリは心の中でキンタロウの成功を願う。言葉に出してないものの、この場の誰にも負けないくらい強く願っている。『頼む頼む』と何度も何度も心の中で願い続ける。
「絶対に勝ってやるよ! クソガァアアアアア」
キンタロウは叫んだ。痛みで恐怖を無理やり抑え、ゆっくりとした口呼吸で心を落ち着かせ、最後の叫びで固まる体と怯える心を無理やり動かす。
「サーンッ」
キンタロウはカウントを始めた。もう後戻りはできない。
「ニィイッ」
引き金にかかっている指に力が加わる。あとはその力で引き金を目一杯引くだけだ。
「イーチィッ」
この時キンタロウは知らない顔が頭の中に現れた。仲間の顔でも自分の顔でもない。知らない顔だがどこか懐かしさを感じる顔だ。
誰なのだろうかと、考えている余裕は少年いはない。次のカウントはゼロ、引き金を引くカウントだからだ。
「ゼロォオオオオ」
少年のゼロの叫びとともにボドゲ部の全員の強く願う想いは一つになった。こんなに願っているのだ。きっと、いや、絶対大丈夫だろう。
誰もがそう思った。キンタロウも対面にいる黒田も。
しかし現実は残酷だ。
拳銃からは激しい銃声。
そしてキンタロウの頭から血飛沫が飛び散るのをこの場にいた全員の視界が映す。
激しい銃声は耳に残り、目の前の光景は記憶に残る。
キンタロウは静かに音を立てながら倒れた。まるで人形のように。
倒れた頭からは大量の血が流れる。このマスのあちらこちらに溜まっている血の池のように、血は見る見るうちに溜まっていく。
檸檬髪の少年、金宮キンタロウは黒田との死のロシアンルーレットに敗北したのだ。そして死亡。
キンタロウは震える手で拳銃を拾う。
腰が抜けてしまって立ち上がることができないが立ち上がらなければいけないルールはない。キンタロウは立つことできなくなった足を無理に立ち上がらせない。このままの状態でロシアンルーレットを続行しようとしているのだ。
ボドゲ部の3人はそれぞれがそれぞれの呼び方でキンタロウの名前を呼んだ。イチゴは「キンタロウくん」モリゾウは「キンちゃん」ノリは「キンタロウ」だ。
「これが正真正銘最後の1発。あっという間だったな。死にたくねーな。死にたくねーよ」
キンタロウは仲間たちの声が耳に入らず独り言を淡々と呟いている。そして震える手で銃口を自分のこめかみに向けた。
「はぁ、ぅ……ぁ……な、情けねぇ……」
キンタロウの瞳から大量の涙がこぼれ落ちる。恐怖で精神が狂い涙が勝手に流れたのだ。止まる様子もない。止めようともしない。
「はぁ……うぅ、うぐ……」
自分の涙と鼻水で溺れそうになり再び過呼吸状態へ。
「お、しえ、て、くれ……」
「あぁ?」
キンタロウの小さな声が聞き取れずにイラッとした態度で聞き返す黒田。
「おれ、が、いきて、たら……みょうじを、なんで、しってたのか……はぁはぁ」
キンタロウは必死に言葉を繋いだ。キンタロウが黒田に望んだのは『自分の苗字を知っていた理由を教えろ』だ。
その望みを聞いた黒田の口元はニヤけた。
「ああ、いいぜクソガキ。そん時は俺が死ぬ時だからな。教えてやるよ。フヘッヘヘッヘヘヘ」
ニヤけていた黒田の顔はいつの間にか凶悪な笑みへと変わっていた。
ダメもとで聞いた望みだったが教えてくれるとのこと。ただの口約束だがその口約束でも凶悪な男とできたことはキンタロウにとって利点でしかない。
その約束が叶わなくとも望みを断れていない時点で良いのだ。これ以上は深くは追求しない。残りはこめかみに銃口を向けている拳銃の引き金を引くだけだ。
「すー、はー、すー、ふぁー」
涙は止まらない。鼻水で鼻腔が堰き止められているので口呼吸しかできない。キンタロウは口呼吸をゆっくりと行い落ち着こうとする。平常心まではこの状況では無理だ。だが引き金を引くくらいの精神状態は保てるだろう。
あとは引き金を引くだけ。しかしそれが難しい。
成功する未来を想像したいが、どうしても悪い方の未来しか見えない。良い未来を想像した途端、悪い未来がそれを塗りつぶす。
想像しているのは良い未来だ。なのに想像したくもない悪い未来ばかり頭に浮かぶ。
「くッ」
キンタロウは唇を強く噛んだ。痛みで恐怖を忘れようとしている。拳銃を持っていないフリーの左手は爪で指に痛みを与えている。
キンタロウは痛みととも『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』のボドゲ空間という世界に連れ込まれてからの死の恐怖を走馬灯のように頭の中をめぐっていた。
処刑人Xとの死のジャンケン。ドラゴンの脅威。明かされたデスゲーム。緑ヘビとの死闘。火ノ神との炎の脱出ゲーム。どれも死とはすぐ隣り合わせだった。
そして今、同等の死のニオイを全身に感じている。
今までと違う点を提示するならばそれは自ら命を絶つかもしれないということだろう。今までは殺されかけたり敵の殺意を感じていたが、今は自分で自分を殺そうとしている。それが何よりも恐怖なのだ。
死ぬタイミングも自分次第。
「お願いです神様。キンタロウくんを助けて。お願いお願いぃ」
イチゴは手を合わせて神に願っている。イチゴが願っている神はこの世界の神では無く元の世界の神様だ。この世界を作った神様に願ってしまえば逆に殺されてしまう可能性だってある。
だってこの世界の神様はクリア率0%のデスゲームを作った神様だからだ。
「お願いしますお願いしますお願いします」
何度も何度も願うモリゾウ。頭脳派のモリゾウでも願うしか方法はない。そして願っても結果は変わらないことも知っている。だけど願わずにはいられない。
願ったことによって結果が変わるかもしれないなどと思わない。けれど今だけは結果が変わる気がしている。だから願わずにはいられないのだ。
ノリは心の中でキンタロウの成功を願う。言葉に出してないものの、この場の誰にも負けないくらい強く願っている。『頼む頼む』と何度も何度も心の中で願い続ける。
「絶対に勝ってやるよ! クソガァアアアアア」
キンタロウは叫んだ。痛みで恐怖を無理やり抑え、ゆっくりとした口呼吸で心を落ち着かせ、最後の叫びで固まる体と怯える心を無理やり動かす。
「サーンッ」
キンタロウはカウントを始めた。もう後戻りはできない。
「ニィイッ」
引き金にかかっている指に力が加わる。あとはその力で引き金を目一杯引くだけだ。
「イーチィッ」
この時キンタロウは知らない顔が頭の中に現れた。仲間の顔でも自分の顔でもない。知らない顔だがどこか懐かしさを感じる顔だ。
誰なのだろうかと、考えている余裕は少年いはない。次のカウントはゼロ、引き金を引くカウントだからだ。
「ゼロォオオオオ」
少年のゼロの叫びとともにボドゲ部の全員の強く願う想いは一つになった。こんなに願っているのだ。きっと、いや、絶対大丈夫だろう。
誰もがそう思った。キンタロウも対面にいる黒田も。
しかし現実は残酷だ。
拳銃からは激しい銃声。
そしてキンタロウの頭から血飛沫が飛び散るのをこの場にいた全員の視界が映す。
激しい銃声は耳に残り、目の前の光景は記憶に残る。
キンタロウは静かに音を立てながら倒れた。まるで人形のように。
倒れた頭からは大量の血が流れる。このマスのあちらこちらに溜まっている血の池のように、血は見る見るうちに溜まっていく。
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