神様が作った盤上遊戯(ボードゲーム)〜クリア率0%のデスゲームだろうが俺は何度でも挑戦する〜

アイリスラーメン

文字の大きさ
上 下
61 / 97

060:死のロシアンルーレット

しおりを挟む
「死のゲームの内容はロシアンルーレットだ」
「ロシアンルーレット……」
 殺気を放ちキンタロウを睨み続ける黒田の口から死のゲームが明かされた。

 黒田は右手で服の中のを探り始めた。そしてすぐに手に収まりの良い黒い何かを取り出した。その黒い何かをキンタロウに向ける。

「おいッ!」
 キンタロウは黒田が向けた黒い何かを認識し叫んだ。震えていた体だったが全身に血が一気に走った。そして頭では危険信号が鳴り響く。
 死の危険。なぜなら黒田が向けている黒い何かは拳銃だ。黒田は服から拳銃を取り出したのだ。
 とっさにキンタロウは手を広げた。それは自分を守るためではなく己の後ろに立つ仲間たちを守るためだ。仲間を助けるために過去に戻ったキンタロウの体は自然と動いたのだ。
 そんなキンタロウの広げた手は小刻みに震えていた。

「フッヘッヘッヘヘ。逃げねーなんてな。腰抜けのクソガキかと思ってたぜ。その目、本当ににそっくりでムカつくなー。今すぐ殺したい気分だ」
 黒田は引き金を引かずに拳銃を下ろした。その姿を見てキンタロウも震える手を下ろす。

「キ、キンタロウくん」
 不安と恐怖に呑み込まれているイチゴは、キンタロウが腰に巻いているパーカーを指で摘んだ。キンタロウが受けた恐怖を手を握って拭おうと思ったのだろう。しかしイチゴの手はキンタロウのパーカーにまでしか届かなかったのだ。

「そ、それでロシアンルーレットのルールは……」
 キンタロウは怯えながら口を開いた。

「フヘッヘヘヘ。ルールは簡単だ。銃に弾を1発だけ入れて自分の頭に銃口を向けて交互に撃ち合う。直接殺せないってのが残念だけどよ、目の前でクソガキの頭が吹っ飛ぶところを見て我慢してやるよ。フヘヘヘヘッヘ」
 狂気的に笑い目を充血させながらルール説明をする黒田。

 ロシアンルーレットとは回転式拳銃に実弾を1発入れて交互に自分の頭に銃口を向けて引き金を引く死のゲームだ。

「ワサビじゃないのかよ……」
 ロシアンルーレットのルールを聞いたキンタロウが軽口を叩く。

 銃口を向けてきた時点でロシアンルーレットがワサビやカラシのような可愛いものではないことぐらい誰でもわかる。

「俺と金宮のクソガキのタイマン勝負だ。。金宮のクソガキが死んだら次のマスに行っていいぞ。てめーらには興味がないからな。フヘヘッヘヘ」
 黒田はキンタロウとの1対1の対決を要求、否、強制した。
 黒田自身も死ぬかもしれない死のゲームだが黒田は自信満々だ。

「くそ……」
 キンタロウは逃げられない状況に舌打ちを打った。そして震える拳を握りしめ震えを止めようとする。

「キンちゃん。こんなことやめましょう。別の方法を今考えます」
 モリゾウは思考を巡らせてロシアンルーレットそしてこのマスからの脱出方法を考え始めた。いつものように手に顎をのせなかったのは恐怖で腕が上がらなかったからだ。

「フヘッヘヘヘヘ。無駄だ。ソイツはここで死ぬ。それにこのマスから出る方法はゲームを終わらせる以外ねーんだよ。フヘヘッヘヘ」
 黒田が狂気的に笑いながら言ったようにマスからの脱出方法はそのマスで行われるゲームを終わらせる以外方法はない。仮に方法があったとしてもそれはバ・グ・以外あり得ないのだ。

 そしてモリゾウもマスからの脱出方法は何も浮かばない。このマスに止まる前からずっと考えていたものだ。その方法が浮かばなかったからこそ今までのマスは真っ当にゲームに参加しクリアしたのだ。
 もしマスからの脱出方法が浮かんでいたとしたらこれまで止まってきたマスでもその方法を試していただろう。

「俺はてめーを今すぐに殺したいんだ。さっさと始めるぞコラァ」
 急き立てる黒田は右手で持つ拳銃のシリンダーを親指で乱暴に回し続けている。そして苛立ち貧乏ゆすりが早くなる。

「キンタロウくん。嫌だよぉ」
 イチゴはキンタロウのパーカーを小さな手で掴んで引っ張っている。キンタロウを死のゲームに参加させないために引っ張っているのだ。
 その手は震えて力が入っていない状態だったが決して掴んだパーカーを離そうとしなかった。この手を離してしまったらキンタロウが帰ってこない気がしたのだ。

「キンタロウ……」
 ノリもキンタロウの心配をし名前を呼んだ。普段マッチョポーズばかりとっているノリだったがこの時はマッチョポーズをとっていなかった。

「死人に別れの言葉なんて必要ねーだろォ! さっさとしやがれェ!」
 しんみりとしているボドゲ部に苛立った黒田は叫んだ。どうせ死ぬのだから早くしろと憤怒している。
 そしてキンタロウの死のゲームに挑戦するための覚悟の時間すらも与えてはくれない。

 そんな黒田の態度に覚悟が決まらないキンタロウは息を思いっきり吐いた。
 息を吐いた瞬間キンタロウは頭を切り替えた。覚悟は決まっていない。けれどやるしかない。それなら切り替えてロシアンルーレットに集中するしかないのだ。

「あぁあああああ、もうやるしかねーんだよな。やるよやるよ。クソクソクソクソクソ!」
 頭を切り替えたキンタロウはいつものように騒ぎ始めた。騒ぐことによって少しでも恐怖を打ち消そうとしているのだ。
 それは自然に出た行為だ。ルーティーンとでもいうのだろうか。

「やるよやるよ。やってやるよ。おっさん!」
 キンタロウは威勢を張りながら歩き出した。しかし一歩前に出たキンタロウの足は止まった。キンタロウの足を止めたのはイチゴだ。

「キンタロウくん。ダメだって」
 キンタロウのパーカーを掴んでいたイチゴの手はとっさにキンタロウの手を握りしめていたのだ。

 キンタロウは不安な声を出すイチゴに心配かけまいと声をかける。

「大丈夫だよ」
 何が大丈夫なのだろうか

「絶対に大丈夫……」
 だから何が大丈夫なのだろうか

「絶対に勝つから」
 震える少年のどこからそんな根拠が出るのだろうか

「だから大丈夫だよ」
 キンタロウはイチゴの手を強く握り締め返した。そして心配そうに見つめる仲間の顔を一人ずつ見る。
 しかし顔を見るだけでそれ以上の言葉はかけなかった。これ以上時間を使ってしまうと苛立っている黒田が何をしで出すかわからない。
 あまりにも遅すぎると仲間の命を先に奪うだなんてこともする可能性があると思ってしまったからだ。だからキンタロウはイチゴの震える小さな手から自分の手をするりと抜いた。
 イチゴの手は恐怖で力が入っていなかった。だからこそ簡単に手が抜けたのだ。

「ぁ……」
 キンタロウの手が離れた瞬間イチゴの口から声が自然とこぼれた。離れた手を再びつかもうと手を伸ばしたがイチゴの小さな手はもう届かなかった。

 キンタロウの背中は火ノ神との戦いでシャツが焦げ火傷の痕が目立っている。イチゴは遠くなるキンタロウの背中を見て泣きそうになる。
 しかしイチゴは泣かなかった。キンタロウはまだ生きている。死んでしまう未来を想像するよりも生きて笑顔で戻ってくる姿を想像した方がずっと良いからだ。

 だからイチゴは一歩一歩遠くなるキンタロウの背中に声をかけた。

「キンタロウくん! 頑張ってぇ!」
「まかせんしゃい!」
 イチゴの言葉を受けたキンタロウは歯を光らせサムズアップをした。そして恐怖と不安で震えていたキンタロウの体はピタリと止まったのだ。
 一歩ずつ歩くキンタロウは真っ直ぐに黒田の目を見た。キンタロウの瞳は不安と恐怖の色が薄くなっていた。

 そのキンタロウの瞳を見た黒田はニヤリと微笑んだ。

「やっぱりてめーはに似てんな」
 その声は声にならないほど小さな声で口の中だけで呟いたのだった。


 キンタロウと黒田の死のロシアンルーレットが始まろうとしている。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...