上 下
27 / 97

027:白い老兎

しおりを挟む
 女子高生のソラはセーラー服をだらしなく着こなしている。檸檬色と桃色そして緑色の3色が混じった派手なロングヘアーをしている。つけまつげをしていて化粧も濃い。爪にはマニキュアをしていて、いかにもイケイケJKという感じの雰囲気だ。
 妹のウミは小学3年生の幼い少女だ。栗色の髪と無邪気な笑顔が似合いそうな整った顔立ちをしている。姉とは違い清潔感ある真っ白なワンピースに頭には大きな黄色い花のリボンをつけている。
 こんな幼い子もこんな危険なゲームに参加しているのだ。

 ミッション中の兄、この場にいる姉のソラ。そして妹のウミ。おそらく家族で『神様が作った盤上遊戯ボードゲーム』をプレイしたのだろう。なんて仲が良い兄妹なんだ。
 今日は日曜日でソラがセーラー服を着ているのには違和感があるが、そのイケイケの見た目から学校で補習などがあったに違いない。その帰りに兄妹でプレイしてゲームに巻き込まれたのだろう。


「ところでミッションってなんだ?」
 ソラのスカートとニーハイの間から出ている太もも絶対領域を見ながらキンタロウが気になっていた事を口にした。
 明らかにおかしな目線だがその目線の隣にはウミがいるので、ソラは気になっていないようだ。

「ミッションについてはワシが説明しよう」
「今度は誰だ!?」
 杖を持った年寄りの白いウサギがゆっくりと歩きながら現れた。
 どこにいたのかどこから来たのかは全くわからない。本当に突然現れたのだ。

 年寄りの白いウサギはキンタロウに向かって杖を向けた。
「な、なんだよ……てか、どこから現れたんだよ。全く気付かなかったんだが」
「少年にまた会えるとは……長生きするもんじゃな。いやいや、懐かしいのう」
「俺の質問は無視か……って俺に会った事あるのか? 悪い、ウサ爺さん。前回はドラゴンにやられてからの記憶が全くなくてウサ爺さんのこと覚えてないわ」
「はて? 前回……ドラゴン……なんのことじゃ?」
 キンタロウと年寄りの白いウサギの会話は全く噛み合っていない。

「あぁ、そうそう」と年寄りの白いウサギは伸びている顎髭を触りながら話を続けた。
「ワシはここ『第5層17マス』の案内兎のゴロウじゃ」
 年寄りの白いウサギが名乗った。

「ミッションとは1時間以内に宝物を探す『宝探しゲーム』のことじゃ」
「宝探しゲームですか?」
 暑さに耐えられずにノリを日陰にして座っているモリゾウが言った。

「2時間以内に宝物を見つけられんくても先に進むことができるので安心してミッションを受けてくれ。2時間以内に宝物を見つけたらその宝箱の中に最終ミッションの内容が書かれておる。それをクリアして『宝探しゲーム』はコンプリートじゃ。コンプリートすると豪華な報酬がもらえる。もちろんのことじゃが宝物の場所や報酬の内容は秘密じゃ」
 ゴロウはゆっくりと喋りながら宝探しゲームについて説明した。

「アタシたちはアンタらが来る15分前にゲームをスタートしているぜ」
 ソラはゴロウの説明の後に自分たちの開始した時間を伝えた。つまりソラの兄は15分間ジャングルの中で宝探しをしていることになる。そして残り時間は1時間45分。
 2時間経てば無傷のまま次のマスに進むことができるがソラとウミの兄は報酬をもらい有利にゲームを進めるためにミッションに挑戦しているのだ。

「ちょっと待ってください」といつものようにモリゾウが待ったをかける。
「なんじゃ?」
「このジャングルは安全でしょうか? 動物の鳴き声やさっきキンちゃんが踏んだふん、そして足跡などが見えますよね。ここにはどんな生き物がいるんでしょうか?」
 今から行こうとしている目の前のジャングルの危険性について案内兎のゴロウに質問をした。

 得られる情報ならなんでも欲しい。『どんな情報でも必ず役に立つ』とは言い過ぎだが命がけのゲームでは『どんな情報』でも欲しくなるのだ。

「第6層にいるような化け物はいない」
「お、よかった。ドラゴンとかいたらマジでやばいからな。ジャングルならキングコングか?」
 ドラゴンやキングコングのような空想上の生物がいないことを知り喜ぶキンタロウ。

 しかし喜ぶキンタロウにゴロウは「じゃが……」と言葉を続ける。
「人間を襲う生き物はいるぞ」
 ゴロウはジャングルの奥を見つめながら答えた。

 そのゴロウの言葉にソラとウミの顔が一気に青ざめた。2人は人間を襲う生き物については知らなかったようだ。
 ジャングルには2人の兄がミッション中だ。人間を襲う生き物がいるのなら、たった15分だけでも命取りになる。そして連絡手段は無い。生存確認もできない。誰でもこの状況なら心配するだろう。

「お、おいコラ……ウミを心配させるようなこと聞いてんじゃねえよ。それにウサギもそう言うことはっきり言うんじゃねえよ」
 ソラは質問をしたモリゾウと質問に答えたゴロウに唾を飛ばしながら怒鳴った。

「す、すみません……」
 モリゾウはウミに聞こえないようにこっそりと質問したらよかったと反省した。

「うぅ……にーに……ぁぅ……ぁぅ……」
 ウミは泣いてしまった。幼い子供だ。泣いて当然だろう。
 泣いてしまったウミの頭をソラが優しく撫でる。そしてイチゴもウミに近付き、慰めるために背中をさすってあげている。

 そしてキンタロウも優しくウミに声をかけた。
「ウミちゃんの兄ちゃんは俺たちが見つけてくるよ。そんで一緒にクリアしようぜ」
「うぅ……うん……にーにを……うぅ……ぁぅ……にーにを……」
 キンタロウの優しい言葉に余計に泣き出してしまったウミ。

「ウサ爺さん。他のチームと一緒に宝物見つけてクリアするのってありか?」
「宝箱から出たミッション次第じゃな」
「じゃあ宝箱見つけるしか無いな!」
 キンタロウは拳を固く握りしめて奥のジャングルを睨みつけた。

「き、金髪のお兄ちゃん……ぅぅう……にーにを助けて」
「おう。俺たちに任せときな。絶対に助けるよ」
 キンタロウはニッコリと笑い自身満々に答えた。

 涙を思いっきり拭き取ったウミは笑顔いっぱい希望いっぱいに笑って「うん!」と一言元気よく言った。
 その笑顔を見届けたキンタロウはモリゾウに視線を向けた。
「モリゾウ他に質問はあるか?」
「いいえ。もう充分です。ありがとうございます」
 キンタロウとモリゾウは、お互い心の準備が整ったのを確認し頷き合った。

 ノリはマッチョポーズをとってウミを笑わしている。イチゴはしゃがんでウミの頭を撫でながらノリのマッチョポーズを一緒に見ている。
 ウミの姉のソラは、マッチョポーズをしているノリをパシャパシャとスマホで撮っていた。筋肉フェチなのだろうか?

「ワシの合図でスタートじゃが準備はいいかな?」
 ゴロウは白く長い髭の中から時計のようなものを取り出した。

「準備はいつでもOKだ。さて、ジャングルで宝探しと兄ちゃん探し。いっちょ行くか!」
「「「おう!」」」
 キンタロウの掛け声とともにボドゲ部の士気が高まった。

「制限時間は2時間じゃ! それではスタートじゃ!」
 ゴロウは取り出した時計のボタンを押した。ボタンが押された瞬間にボドゲ部たちの頭の中に残り時間が表示された。
 ボドゲ空間のルールが頭の中に光の速さで流れたときと比べればなんにも感じない痛みだった。そして頭の中の残り時間はデジタル時計のように表示されている。


『第5層17マス』で行われる時間制限ありの宝探しゲームが開始した。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

ark

たける
SF
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 【あらすじ】 友人のタルト艦長から、珍しく連絡を貰ったフラム。だがその内容は、彼女の夫、リチャードと離婚しろと言うものだった…… 歪み抑圧されていた想いが、多くの無関係な命を巻き込み、最悪の事態へと転がって行くが…… 士官候補生のジョシュ・デビット達が辿り着いた結末は……? 宇宙大作戦が大好きで、勢いで書きました。模倣作品のようですが、寛容な気持ちでご覧いただけたら幸いです。

夜空に瞬く星に向かって

松由 実行
SF
 地球人が星間航行を手に入れて数百年。地球は否も応も無く、汎銀河戦争に巻き込まれていた。しかしそれは地球政府とその軍隊の話だ。銀河を股にかけて活躍する民間の船乗り達にはそんなことは関係ない。金を払ってくれるなら、非同盟国にだって荷物を運ぶ。しかし時にはヤバイ仕事が転がり込むこともある。  船を失くした地球人パイロット、マサシに怪しげな依頼が舞い込む。「私たちの星を救って欲しい。」  従軍経験も無ければ、ウデに覚えも無い、誰かから頼られるような英雄的行動をした覚えも無い。そもそも今、自分の船さえ無い。あまりに胡散臭い話だったが、報酬額に釣られてついついその話に乗ってしまった・・・ 第一章 危険に見合った報酬 第二章 インターミッション ~ Dancing with Moonlight 第三章 キュメルニア・ローレライ (Cjumelneer Loreley) 第四章 ベイシティ・ブルース (Bay City Blues) 第五章 インターミッション ~ミスラのだいぼうけん 第六章 泥沼のプリンセス ※本作品は「小説家になろう」にも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

処理中です...