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賑やかな昼食

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 時刻は12時を指した。午前の部が終わり13時30分まで昼食と昼休憩に入る。

 午前の部では各々得られるものが多かったらしく満足気な表情で集まっていた。
 十真は紅と交わした約束通り7戦7勝で狐山高校の部員に一度も負けなかった。玲奈と交互に戦い見学をしていたので7戦だけで午前の部が終わったのだ。
 実戦もそうだが見学もそれなりに勉強になる。何よりオレンジ色のショートヘアーの美少女、玲奈も強い。
 王人との引き分けの勝負以外は十真と同じく全勝だ。ただ十真の試合の見学とイチャイチャが激しく4戦しかしていない。
 一緒に行動していた十真には気づいた事があった。否、十真にしか気付かない事があった。

(戦っている時と戦っていない時の差が激しい!!)

 厳密に言えば戦っている時と十真にイチャついている時の差だ。
 玲奈のイチャつき慣れてきた十真は、これが普通なんだと思っている。
 そこのところが恋愛経験0の十真の鈍感なところでもある。
 好意を寄せているのにそうだとは思っていないのだ。

 そして同じ1年の美少年、夢野遥は天空寺紅との戦いで全力を尽くし見学をしていた。
 見学と言っても兎島高校の陣地で座って見ていただけなのでちゃんとした見学はできていない。
 それに戦いの疲労も残っていてボーッとしていたのだ。

 さらに同じ1年の王子様系イケメンの空風王人は一人で黙々と対戦を続けていた。
 結果は15戦10勝4敗1引き分けといった感じで良い勝負をしていたのだった。負けた4戦は全て狐山高校の2年生との戦いだった。
 王人の課題は自分よりも少しでも強い相手に勝てないという事だとこの午前中の練習で判明した。
 十真のように自分よりも強い相手に勝てる強さを身につけたいと必死に模索していたのだ。
 そしてその課題をクリアする頃には自分の『スタイル』も見つけられると確信していた。

 十真たち1年の先輩達はというと、スタイルの使い手だけあって疲労が一切見られない。
 おそらく彼らにとって通常の構えで行う指スマは準備運動に過ぎないのだろう。
 彼らの本番は『スタイルあり』の実践がある午後からだ。

 結蘭の場合は行列が出来ていた。セクシーギャルという数少ない希少種と指スマをしたいと狐山高校の部員が勝手に行列を作っていたのだった。
 おもちゃを見つけたかのようにどんどんと親指でなぎ倒していく姿は圧巻だった。

 金髪モヒカンヤンキーの亜蘭は茶髪センター分けの爽やか系イケメンの真田達也と因縁の対決、そして遥とのツーショットをさせないために集中力を高めていた。

 3年のキャプテン圭二とセクシーギャルの結蘭と筋肉男の勇は強者の天空寺蒼との指スマのために亜蘭同様に集中力を高めている。

 そんな先輩たちの様子を見て十真は緊張感に狩られた。

(なにこの雰囲気……いつもの楽しい指スマ部じゃない、みんな真剣だ。緊張して食事が喉を通さない……それに……)

 十真は横目で自分の隣に座る人物を見た。

「はい、あ~ん」

 その人物はオレンジ色のショートヘアーの美少女で一口サイズのハンバーグを箸で持ち食べさせようとしていた。
 食事が喉を通らないのにこのハンバーグを断ってしまうとなにをされるかわからないと、十真は差し出されたハンバーグを次から次へと口の中に入れていった。
 そのハンバーグは十真の弁当のおかずで緊張している十真に気付き玲奈が優しく食べさせていたのだった。
 お節介焼きとはこの事なのだろうか……

「もぅう、無理でふ、ごめんなふぁい、もふ食べられまへふ」

 口の中に食べ物をたくさん詰め込んで、否、詰め込まれて苦しむ十真。それを見てなぜか頬を赤らめ愛おしいものを見るかの表情で十真を見つめる玲奈。
 その二人の光景を王人と遥は唖然としながら見ていたのだった。

「プフッ……」

 笑いを堪えられずに吹き出す結蘭。

「本当っ最高っ……プフッ、こりゃ何杯でも行けそう。アッハッ」

 十真と遥をおかずにご飯を食べている。ご飯を口に入れるスピードが早く、本当に何杯でも食べそうな勢いだった。

「結蘭……おかず、おかず」

 キャプテンの圭二が結蘭の弁当の中身を見て声をかけた。
 弁当の中身は白飯だけが空になりおかずに一切手をつけていなかったのだ。

「いけない! って、圭二、言うの遅い! あの二人を見てただけで米がなくなっちゃった~とほほ~」

 空になった白飯が入っていた弁当箱を置きしょぼんと落ち込む金髪ロングのセクシーギャル。
 そんな彼女に金髪モヒカンの弟が声をかけた。

「やっぱりなァ、ねーちゃんあの二人で米、全部いくと思ったからァかーちゃんに頼んでおいて正解だったぜェ」

 と、亜蘭は自分のバックから白米だけが入った弁当箱を結欄に渡した。

「さすが弟よ~出来の良い弟がいてねーちゃん嬉しいぞっ」

 すかさず渡された弁当箱を受け取り再び十真と玲奈の方を見た。

「おかずを食え!!」

 とおかずの入った弁当箱を結蘭の頬に当てて優しく圭二がツッコんだ。
「あはは」と、笑いながらおかずの入った弁当箱を受け取り自我を抑えながら食事を進めた。

「ところで岩井先輩、なんなんですかそれ?」

 今度は王人が勇に気になることを問いただした。

「これか? これは俺の筋肉に成るものだ」

 と、上腕二頭筋を膨らませ答えた勇の目の前には10段ほど積まれた弁当箱がある。
 とても1人前とは思えない。
 10段あるので10人前か?そこまで体積は広くないので2段で1人前くらいだろと王人は弁当箱を見て考えた。

「中身は……」と、遥も勇の弁当が気になり立ち上がり中身を確認した。

「肉類、魚介類、卵、大豆、どれも筋肉に良い食べ物だ!!」

 中身を確認する遥と王人に生き生きと説明し出す勇。
 その説明を受けながら遥は「タンパク質~タンパク質~タンパク質~」と連呼しふらつきながら王人に寄り掛かった。

「岩井先輩っ! 遥が先輩の弁当見て倒れましたっ!」

「ちょっとこっちも! 十真くんがっ! 十真くんがっ!」

 王人は遥を、玲奈は十真を抱えて叫んでいる。
 遥は過酷な筋トレを思い出し倒れ、十真は玲奈の十真用の手作り弁当を見て倒れたのだった。
 玲奈の手作り弁当は「宝石箱や~」と言ってしまいたくなるほど豪華で美味しそうだった。
 しかし十真は自分の弁当で精一杯だった。
 それに無理やり詰め込んだので余計に苦しかったのだ。

 遥の事に対しては勇はダブルバイセップスのポーズで応えた。大丈夫だろと膨らんだ上腕二頭筋の筋肉が言っているかのように王人は感じ取った。

 そんな王人に寄りかかりながら「タンパク質~」と、遥は呪われたかのように永遠と言い続けていた。

 そして、「こりゃ食い過ぎだなァ」と、ツンツンと十真のお腹を触る亜蘭。

「先輩、十真くんを生き返らせて~!!」

「いや、そのうち起きるだろォ……もう食い過ぎなんだろォ、それは夜飯にしてやれェ」

 玲奈が作った十真用の弁当の中身を見て「豪華すぎる」と思いながら亜蘭は応えた。捨てるのはもったいな過ぎるほど豪華だったので夜食にしろと提案したのだった。

「プフッ、1年は本当に面白いな……アッハッッハ!! 最高っ」

「ふふ、そうだな。賑やかになって本当に嬉しいわ……本当に良かった」

 大笑いする結蘭と綻ばしい表情で目の前の賑やかな光景を見つめるキャプテンの圭二。
 圭二は胸もお腹もいっぱいだった。

 そんな感じで兎島高校指スマ部の昼食の時間を楽しく過ごしたのだった。


 ちなみに顧問の白田先生は保健室で保険の若い女性の先生に昼食を食べさせてもらっていたのだった。
 もしかしたらわざと腕を痛めたのではないかと思うくらいだった。
 白田先生は策略家だったのかもしれない。  
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