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第4章:恋愛『グルメフェス満腹祭編』

228 一つの仮説

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 新たに作戦会議に加わったビエルネスのために、マサキは改めて『グルメフェス満腹祭』のチラシを読み直す。

「とりあえず、もう一回、読んでみるか」






 グルメフェス満腹祭

 食べ物に感謝して、今後も飢餓のない生活を続けよう!

 屋台コーナー、料理コンテスト、満腹踊り、花火大会、抽選会など企画盛り沢山!

 日程 ○月○日
 時間 九時から二十一時
 会場 鹿人族の国ナラーン鼠人族すじんぞくの里全域
 主催 タイジュグループ 代表 フェ・ルーネス 副代表 フェ・マルテス


 今年も開催! 料理コンテスト
 今年のお題は炒飯チャーハンです。
 一番美味しい炒飯チャーハンを作り、審査員たちを唸らせろ!

 時間 十時から十三時
 会場 『小さな傭兵団』本部
 参加者はひとチーム一名様。
 そして獣人様のみの参加となりますのでご注意ください。
 食材は各自持ち込み。
 調理器具はこちらで用意します。

 優勝賞金 百万ラビ
 準優勝賞金 十万ラビ
 特別賞一名 一万ラビ 

 参加希望者は参加用紙に必要事項を記入の上『小さな傭兵団』までご提出お願いします。






 マサキは『グルメフェス満腹祭』の内容を読み終えた。

「という感じだな。そんで、ネージュを料理コンテストに出場させたいんだけど、精神不安定な状態で……」

 マサキが握っている手を離すと、ネージュはガタガタと小刻みに震え出す。また握り返せば平常心を保つことが可能となり、いつも通りのネージュに戻る。緊張している間はそれの繰り返しだ。

「ん~、これは悪化してますね。とりあえずいつもの魔法かけちゃいますか?」

「それで落ち着くんならお願いしたい」

「はい! マスターの頼みなら! ネージュ様のためなら!」

 ビエルネスの手のひらから、深緑、薄緑、深黄色、薄黄色、さらには黒色に近い緑色の魔法の粉が光となって、マサキとネージュに向かって放たれた。
 その緑色の光を浴びるマサキとネージュの心は暖かな何かに包まれる。まるで母親の温もりを感じる赤子のような感覚。それをマサキとネージュは感じているのである。
 その感覚を感じたのならば、精神を安定させる抗不安剤のような魔法の効果が発動した証拠。魔法が切れるまでの間、二人は常人並の精神状態を保つことが可能になるのである。
 なのでマサキが手を離してもネージュが震えることはないのである。

「よ、よし、大丈夫だな」

「はい! 大丈夫ですよ。心配し過ぎです」

「い、いや、誰だってガタガタ震えてる姿見たら心配するだろ」

「そんなに震えてましたか?」

 やはりネージュには、自分が緊張で震えていたという自覚がないのである。
 そんなネージュの惚け顔を見たマサキは、ビエルネスに向かって話しかけた。

「なあ、ビエルネス」

「はい。なんですか? ご褒美のえっちっちでも? あ~ん。今ここでだなんて、マスターったら大胆! ハァハァ……」

「相変わらず妄想が激しいな……。なあ、ビエルネスから見てどう思う? 魔法込みでネージュが『料理コンテスト』に一人で参加できると思うか?」

「う~ん。マスターがそばにいれば大丈夫だと思うのですが……これ以上強い魔法もありませんし……料理コンテストまでに精神を鍛えるしかないと思いますよ」

「料理コンテストに向けてやることが、料理の練習じゃなくて精神を鍛えるって、いよいよ訳わからなくなってきたな。でもやるしかないよな」

 マサキもビエルネスの意見には同意だ。
 調理師の短期大学を卒業して、大手居酒屋チェーン店で四年間働いていたマサキが認めるほど、ネージュの料理は完璧なのである。
 だからこそ、料理の練習よりも、精神を鍛える方が大事なのである。

「問題はどうやって精神を鍛えるかだよな。人間不信ヒキニートの俺には、見当もつかないよ……。ダールとビエルネスは、何か良いアイディアとかある?」

 ダールとビエルネスに案を聞いたのは、消去法によるものだ。
 人間不信のマサキ。恥ずかしがり屋のネージュ。左右非対称のウサ耳には悪魔が宿るという伝承のせいで、人目を避けるクレール。幼い双子の姉妹は社会経験がほぼない。
 よって精神を鍛えることに対してのアイディアを聞くのに、ダールとビエルネスが適任なのである。

「……アタシは、生まれ付き、こんな感じッス……なので、わからないッス……」

 根本的な問題。
 ネージュの一族は先祖代々恥ずかしがり屋の家系だ。遺伝子や生活環境によって変化するものならば、ネージュはすでに手遅れなのである。
 それに比べてダールの家系は、コミュニティ能力が高いのだ。

「だよな……。デールとドールも人前で臆することなく喋れるもんな。やっぱり生活環境とか影響してるんだろうな。ビエルネスは何かあるか? 精神的なこと色々調べてるんだろ? 何かいい案ない?」

「そうですね。これはマスターにも関係があることなんですが……」

「俺にも?」

「はい。マスターとネージュ様が離れることができない体質、弱りきった精神についてある仮説が一つ浮かび上がったのです」

「……仮説」

 ビエルネスは、マサキと二人きりで風呂に入ったあの日から、マサキの謎について考察していた。
 マサキが『異世界転移した』という秘密をビエルネスに告白したことによって、いくつかのヒントを得ていたのだ。そして、ある仮説が生まれる。
 その仮説とは――

ですね」

「の、呪い……随分と物騒な単語だな……魔法かかってなかったら、怯えて震えてたところだったわ……」

「呪い……ですか……」

 この世界における呪いは、魔法やスキル、加護などといった特別なものと同じ枠で括られている。

 魔法は、八属性ある自然系の魔法とその派生魔法。
 そして、八属性魔法とはまた違った、種族によって使える魔法なども存在する。ビエルネスの妖精族の魔法がそれだ。

 スキルは、経験や成長、才能などが営業して得ることができる特殊な能力のこと。
 親からの遺伝がほとんどで、生まれ付き持っている場合が多い。

 加護は、神様や天使族などの上級種族、能力を授けることが実力者などから、授かった特殊な能力のこと。
 これは人以外にも、森や洞窟などにも授けることが可能な能力だ。

 そして、ビエルネスの仮説にも上がった『呪い』。
 呪いは、負の感情から発生される力や、加護やスキルの反動、また様々な要因のもとに覚醒してしまう能力のこと。

 負の感情を感じやすいネージュやマサキだからこそ、呪いの影響ではないかと、ビエルネスは考えたのだ。

「マスターから聞いた話をによると、マスターはネージュ様と出会ってから、精神が負の感情に蝕まわれ、怯えやすくなってしまうようになったと。そして、ネージュ様と離れることができなくなった。もしも、離れてしまった場合、想像を絶する痛みが二人に襲いかかる。つまりこれは、呪いによるもの。それ以外、考えられません。マスターとネージュ様は呪いにかかっていると思われます!」

「た、たしかに、説得力があるし、それ以外思い付かないよな……ネージュはどう思う?」

「そ、そうですね。ビエルネスちゃんの言う通り、マサキさんと離れることができないのは私も不思議に思ってました。それが呪いだなんて考えてませんでしたけど……今の話で呪いの可能性は十分に高いですよね」

 納得のマサキとネージュ。
 デールとドールにはまだ話が早かったのか、きょとんとした表情で聞いていた。
 クレールに至っては、頷いたりしていたので『呪い』について多少なりとも知っているのだろう。
 ダールは相変わらずウッドテーブルの上で寝そべったままなので、表情が見えず、『呪い』についてどう思っているのかは、定かではない。

「ビエルネスちゃんの仮説が正しいとして、私たちにかかっている『呪い』を解呪かいじゅする方法はあるんですか?」

「そうですね。『呪い』は様々な要因で発動します。それと同じように解呪かいじゅ方法も様々ですので……色々とを試すしかないですね」

「それっぽいことですか……」

 俯くネージュ。
 仮説を立てた呪いを解呪できるとわかったとしても、解呪かいじゅ方法がわからなければ意味がないのだ。

「ネージュ様、そんなに心配しないくても大丈夫ですよ。料理コンテストまであと一ヶ月もあります。色々と試してみましょうよ。きっと解呪かいじゅできますよ」

「そ、そうですかね……」

「ビエルネスの言う通りだ。俺たちにかかってる、いや、呪いってやつを解呪することができたら、料理コンテストだけじゃなくて、仕事も、私生活も、どれだけ楽になることか。だから祭りの日まで出来ることをやろう!」

「マサキさん……」

 マサキとビエルネスだけではない。
 クレールもデールもドールも、笑顔と協力的な眼差しをネージュに向けている。

 さらに、ウッドテーブルで寝そべっていたダールも黄色の双眸でマサキとネージュの二人を見つめていた。

 ネージュの足にもふもふボディを擦り付けているルナも、「ンッンッ」と、声を漏らし、応援しているようにも見える。

「よしっ、そんじゃ早速、呪いってやつを解呪するぞー!」

「「「おー!!」」」

 マサキの掛け声に合わせて、ダール以外の全員が拳を天高く掲げ、声を上げた。
 拳も声も上げなかったダールは、代わりに腹の虫が「ぐぅうううう」と、空腹を知らせる鳴き声を鳴らす。

「ははっ。まずは腹ごしらえからだな」

 腹ごしらえ後、マサキたちは呪い解呪に向けて試行錯誤を重ねるのであった。
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