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第4章:恋愛『相性診断をやってみた編』

213 全裸の二人

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 マサキたちの何気ないいつも通りの一日が終わろうとしていた。

「今日もお疲れ様でしたッス。それじゃおやすみなさいッス」

「おう。また明日な!」
「ンッンッ!」

 無人販売所イースターパーティーの営業、そして夕食を終わらせたダールとデールとドールのジェラ三姉妹は、ネージュの家の横にある自分たちの家へと帰ろうとしていた。

「またねー」
「またねー」

 手を振る双子の姉妹の笑顔は、夜でも関係ないほど明るい。まるで太陽のように。
 そんな双子の姉妹に手を振り返すネージュとクレールも天使のような笑顔をしていた。

「ゆっくり休んでくださいね」
「おやすみだぞー!」

 挨拶を終えたジェラ三姉妹は、無人販売所イースターパーティーの出入り口から外へ出て、自分たちの家へと帰っていった。
 マサキたちは寝支度を始めるため、各自行動を始める。

「それじゃお風呂に入りましょうか」

「うん!」

 ネージュとクレールはお風呂に入るために準備を始めた。
 二人はいつも一緒にお風呂に入っている。仲が良いというのもあるが、節約節水のためでもある。

「絶対に覗かないでくださいね!」
「覗くんじゃないぞー!」

「はいはい。わかってますよー」

 マサキに向ける辛辣な言葉と厳しい視線。それに合わせてマサキは両手を上げて降参のポーズを取る。その後、ネージュとクレールの二人は脱衣所に入り服を脱いでから風呂場に入る。
 ここまでがネージュとクレールがお風呂に入るまでの一連の流れだ。

 ネージュとクレールが風呂に入っている間のマサキは、自分たちが寝る布団を用意する。
 そして、布団の用意を済ませると、愛兎あいとのルナとの二人っきりの時間が始まる。

「今日ももふもふでいい匂いだなぁ~、ぷはぁ~」

「ンッンッ」

「お手手もウサ耳もウサ尻尾も可愛い。でも一番可愛いのはぷにぷにのお腹~ぷはぁ~」

「ンッンッ」

「あぁ~、癒される。ぷはぁ~」

 マサキはルナを全力でふもふする。さらに全力で吸う。
 対してルナは、嫌がることも抵抗することもなく、無表情のまま鼻をひくひくとさせていた。しかし、マサキにはわかる。ルナが喜んでいることを。

 ネージュとクレールが風呂から上がったのは十五分後だ。二人が風呂から上がると今度はマサキの風呂の番となる。

「マサキさんどうぞ」

「おう」

 風呂から上がったばかりのネージュとクレールから石鹸の香りが部屋中に漂う。その石鹸の香りにマサキの心は癒される。そのままマサキは、石鹸の香りが一番濃い風呂場へと向かう。
 ルナは風呂場へと向かうマサキの後ろを短い手足で歩きながら付いていく。イングリッシュロップイヤーの特徴的な長いウサ耳は、床に届いている。短い手足も相まってとても歩きづらそうだ。

「ンッンッ」

 よちよちと歩きづらそうにマサキの後ろを付いていたルナは、風呂場へと繋がる扉の前でピタリと止まる。そして短い手足をぐーんっと伸ばしてその場に寝転んだ。
 ルナは風呂場にまで付いていかない賢いウサギなのである。そして飼い主を風呂場から出るまで待つ忠実なウサギなのである。

 マサキが風呂に入ってから数分後――お互いに髪を乾かしあっているネージュとクレールのウサ耳は、物音を感じ取った。
 その物音がする方へ、自然と瞳が動く。そこは天井。ネージュの青く澄んだ瞳とクレールの紅色の瞳に映ったのは――

「こんばんわ~」

「ビエルネスちゃん!?」

 薄緑色の髪をした子ウサギサイズの妖精族の美少女――フェ・ビエルネスだった。
 ビエルネスは妖精族専用の扉から家の中へと入ってきたのである。

「仕事が終わったので来ちゃいましたー!」

 と、ビエルネスは平気で嘘をついた。これも自然にマサキと二人っきりで話すためだ。

「それじゃ今日はお泊まりですね!」

「はい。今日もお泊まり失礼します」

「わーい! 嬉しいぞー!」

 ビエルネスが嘘をついているとも知らずに、ネージュとクレールはビエルネスの急な泊まりに心から喜んでいた。
 そのままビエルネスは本来の目的を果たすために行動を始めた。

「マスターはお風呂ですよね?」

「はい。そうですよ。ビエルネスちゃんでも覗いたら――」

 ダメですよと、ネージュが注意しようとしたが、その言葉の前にビエルネスはパタパタと羽を羽ばたかせて、風呂場へと繋がる扉へと向かった。そして鍵のかかっていない扉を開けて中へと入る。

 人間不信のマサキが鍵をかけていなかったのは、ネージュとクレールとルナを信用しているからである。そして風呂場で何か起きた際にすぐに逃げれるようにと、鍵を開けているというマサキらしい考えもある。

(侵入成功です)

 鍵をかけなかったマサキに代わってビエルネスは小さな手を使い鍵をかけた。

「ンッンッ」

 ガチャという音に反応したルナは、漆黒の瞳で扉を見続けた。そして鼻をひくひくとさせながら小さく声を漏らしていた。

 ビエルネスが鍵をかけた理由は、二人っきりの時間を誰にも邪魔させないためだ。
 ビエルネスが風呂場に入ったことにより、ネージュとクレールとルナが続け様に風呂場に入ってくる可能性が高くなる。
 それはビエルネスを連れ戻すためや、この流れに乗じてマサキにいたずらするため、マサキのそばにいたいルナが入り込んだりするなど、風呂場に入りやすい環境になってしまったからこそあらゆることが想定できる。だからこそ鍵を閉めるのは必須なのである。

(そうだ。せっかくのお風呂なんだから私も脱がないとですよね。ぐへへへ。マスターと二人っきり。しかも、裸。ぐへへへへ。ハァハァ……)

 ビエルネスは、もこもこの毛皮の服を勢いよく脱いだ。そして、マサキが脱いだ衣服の上へ投げ飛ばした。
 その勢いのまま、ビエルネスはマサキが入っている風呂場へと突撃する。

「私の愛するマスター!!!」

「うぎゃ!?」

 扉が空いたことによる空気の流れと、大声を上げながら入ってきた侵入者に驚くマサキ。
 反射的にシャワーのホースを侵入者に向けて放出する。

「ばばばばばばば、ま、マスター!!」

 その声にようやく侵入者がビエルネスだと気付く。

「お、おい、なんだよ。ビエルネスかよ。って、なんで入って来てるんだよ!」

「ひ、酷いじゃないですかー! いきなりシャワーをかけるだなんてー! でも刺激的で気持ちよかったですよ。ハァハァ……」

「いや、風呂場に虫とか入ってきたら殺すためにとりあえずシャワーかけるだろ」

「妖精である私を虫呼ばわりですか!? う~ん。マスターに言われるとゾクゾクしますね。ハァハァ……」

「興奮すんな! というかなんでお前がここに、ってなんで裸なんだよ!」

「ぐへへへへ。マスターの裸。ハァハァ……」

 話が全く噛み合わない二人。マサキは襲われると確信し、男の大事な部分を隠しながら一歩後退する。

(なんでビエルネスが戻ってきてるんだよ。仕事に行って帰ったんじゃなかったのかよ。というか恥じらいもなく素っ裸で……素っ裸で…………ま、まずい。相手はビエルネスなのに……妖精なのに……変態の妖精なのに……変に裸に意識しちゃって、まずい。興奮というか恥ずかしいというか……いや、これはいつもと見た目が違うから、脳が違和感を感じてるだけだ。きっとそうだ)

「どうしたんですか? マスター? まさか、私の体に興奮を!? お、お望みであれば今ここで、マスターの奴隷になりますよ。ハァハァ……」

「う、うるせー! 興奮なんて――」

 してないぞと反論しようとしたマサキだったが、口に出さずに心の中で叫び始まる。

(普通に興奮するわ! おっぱいデカすぎなんだよ! というか妖精の裸見て興奮するとか、俺の性癖いつからこんなに歪んじゃったんだよ)

 目を逸らして動揺するマサキを見たビエルネスは、濡れた髪と半透明の羽を整え始めた。その後、パタパタと半透明の羽を羽ばたかせてマサキの頭の上に止まる。

「ひぃっ! 変態! サキュバス! 変態!」

「興奮しすぎですよ。マスター」

「それ、お前が言うか? というか、興奮じゃなくてビックリしたんだよ!」

 マサキは顔を赤らめながら叫ぶ。その叫び声は部屋にいるネージュたちの耳に届くが、仲良しだな程度にしか思っておらず、自分たちの髪を乾かすのに集中していた。

「ハァハァ……」

 頭の上で息を荒げるビエルネスにマサキは少しだけほっとする。

(くそ、取り乱しすぎた。はぁ……視界に入らなければなんとか大丈夫だそうだな。というかマジで何しに来たんだよ……って、俺と風呂入るためだよな……相性診断の結果が高かったからいつも以上に大胆になってんだろうな……まあいい。早く風呂から上がろう。お湯も無駄だしな)

 マサキは頭の上にいるビエルネスのことを気にせずに体を洗い始めようとする。そんなマサキの動きを見てビエルネスは口を開く。

「あっ、私も石鹸ください」

「俺の頭の上で洗うなよな。さっき洗ったばかりだからさ」

「そうなんですね。では……」

 マサキに言われた通り頭の上から降りようとするビエルネスだったが、それを言った張本人が止めた。

「や、やっぱり頭の上にいてくれ。そんで、俺が上がってから洗ってくれ」

「ここにいていいんですね~。ハァハァ……」

「あー、言葉を間違えた。風呂から出てってくれー!」

「もう遅いですよー。ハァハァ……」

「じゃあ大人しくしててくれよ」

「了解でーす。ハァハァ……」

 マサキは中断していた体洗いを普通に再開する。急いで出たい一心でいつも以上に洗う速度が速い。
 全身を石鹸で洗い終えて、シャワーで洗い流そうとした時、今までとは明らかに違う声質でビエルネスが口を開いた。

「マスターは一体何者なんですか?」

 マサキはビエルネスの言葉をいつものおふざけではないことのだとすぐに理解する。

「マスターってここの世界の人間族様ではないですよね?」

 それはマサキが今まで誰にも言っていたなかった秘密に深く触れる言葉だった。
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