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第4章:恋愛『授業参観編』
208 悪化とブレーキ
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学舎から家へと帰る帰り道。
マサキとダールそして双子の姉妹のデールとドールは本当の親子のように手を繋ぎながら帰っていた。
マサキと手を繋ぐのはデール。ダールと手を繋ぐのはドール。マサキとダールの二人は手を繋いではいないが、歩くたびに何度も何度も手が触れる。その度に、ビクッと反応している。まるで初デートのカップルのように。
「ンッンッ。ンッンッ」
忘れてはいけないのがマサキの頭の上にいるウサギのルナだ。
お腹が空いたのだろうか、ルナは無表情のまま鼻をひくひくとさせながら、マサキの黒髪をムシャムシャと噛んでいた。
そのことには誰も気付かずに家路を歩いているのだった。
「お兄ちゃんだったら三匹選ぶと思ったよー」
「お兄ちゃんだったら三匹選ぶと思ったよー」
ふと思い出したかのように、口を開いたデールとドール。双子のシンクロ率は非常に高く、打ち合わせをしたかのようにタイミングが同じだったのだ。
そして『マサキの回答』について気になっているのは双子の姉妹だけではない。双子の姉妹の長女のダールも気になっているのだ。さすが三姉妹といったところだろう。
「アタシもそれ気になってたッスよ」
「さっきの道徳のやつか。あん時はいきなり指されたから咄嗟に答えたけど、俺の回答は変わらないよ。そもそも三匹の中から一匹しか選べないような縛りがあったじゃん。だったら誰も選ばずに現状維持的な感じにすると思う。現状維持が不可能ならデールとドールが言ったみたいに全員を選ぶかもしれないな。とにかく、教科書の情報だけじゃ俺はリアルな判断ができないよ。というか、年少組に恋愛物語って……しかも三角関係を彷彿とするようなドロドロの恋愛の内容……」
マサキの言葉に少しだけ安心した表情をダールは見せた。『誰も選ばない』という選択肢以外にもあったことが嬉しかったのだ。
その後、ダールは笑いながら口を開いた。
「あはは、確かにそうッスね。さすがにドロドロ感はうまく消えてたッスけど、よーく考えたらドロドロ恋愛ッスね」
「だろ?」
マサキは自覚がない。『ウサ恋ものがたり』の主人公の黒色のウサギのように、ドロドロの恋愛に足を一歩踏み入れていることを。
「そういえば、ダールが黒色のウサギだったらどうするんだよ?」
「アタシッスか。アタシだったら――」
ダールが答えようとした瞬間、ルナの大きな鳴き声が、マサキの耳に、そしてジェラ三姉妹の小さなウサ耳に届く。
「ンッンッ!」
全員が視線を向けたのは、鳴き声を発したルナではなく、正面の方角だ。
そこには、住居兼店舗でもある自分たちの大樹の木が姿を表したのである。正確には天高くそびえ立つ大樹の木の葉はずっと見えていた。今回見えたのは『無人販売所イースターパーティー』の看板だ。
看板が見えたことによって、ようやく自分たちの家でもある大樹の木が見えたのだと、近付いたのだと、実感が沸いたのである。
そして大樹の木に付いている扉が見えた瞬間、タイミングよく扉が開かれた。
そこから白銀色の髪と垂れたウサ耳が特徴的な美少女と薄桃色の髪をした小柄な美少女の二人が外へ飛び出した。
「おっ、ネージュとクレールだ。気付くの早いな」
マサキは外へ飛び出した二人の美少女を見て笑顔になる。ダールもデールもドールも同じように笑顔を溢した。
そんな笑顔の授業参観組の四人とは裏腹に、外へ飛び出してきたネージュは泣き叫んでいた。
「ネージュの姉さん泣いてないッスか?」
「あぁ、ウサ耳が無い俺でも聞こえてくるよ」
「こっちに向かって走って来てるッスよ!」
「まさか……ビエルネスの魔法の効果が切れたのか?」
真っ先に思うことは、マサキが想像したビエルネスがかけた抗不安剤のような精神を安定させる魔法の効果が切れたということだ。
そうじゃなければ、泣き叫びながら駆けて来るなどはしないだろう。
「だとしたらヤバい……」
『死ぬほどの苦しみ』を知っているマサキは焦りだす。一刻も早くネージュの元へ行かなければ『死ぬほどの苦しみ』をネージュが受けてしまうとマサキは思った。
そして、デールと繋いでいる手を離して、向かって来るネージュの元へと走って行く。
「ネージュ!」
「うぅ……ましゃ、き、さ~ん!」
走って来るネージュの勢いは止まらない。このままでは衝突してしまうと思ったマサキは急ブレーキをかけて、向かって来るネージュを受け止める体勢を取った。
そのままネージュは、受け止める体勢を取っているマサキに向かって飛び込んだ。
「マサキさーん!」
「うっ、お、おいっ!」
もやし体型で筋肉がないマサキは、ネージュを受け止め切れずにそのまま押し倒された。
マサキが倒れる前に、マサキの頭の上にいるウサギのルナは、長いウサ耳をパタパタと羽ばたかせて怪我なく着地した。
「マサキさん。マサキさん」
ネージュはマサキの胸元で涙と鼻水を拭う。マサキの黒ジャージはいつも美少女たちの涙と鼻水を拭き取るのにはちょうどいいのだ。
「お、落ち着けネージュ。どうした? 大丈夫か?」
「うぅ……うぐっ……マサキさん……あぅ……」
嗚咽が出るほど泣いているネージュからは、なぜ泣いているのか理由を聞くことができない。
そのため仰向けに倒れているマサキは、視線を上に乗っているネージュのさらに奥を映した。その黒瞳には、ネージュに追い付いた薄桃色の髪をしたクレールの姿が映る。
「おにーちゃん!」
「クレール、これは一体どういうことだ。なんでネージュだけ魔法が解けてんだ」
「ううん。ビエルネスちゃんの魔法は解けてないよ」
「それじゃなんでこんなに泣いてんだ?」
「それはね……」
クレールはネージュが嗚咽するほど泣いている理由を話し始めた。
「最初はね、大丈夫ですって言ってて普通に、おにーちゃんの帰りを待ってたんだけど……だんだん不安になってきたのか、ソワソワしはじめちゃって……それで気が付いたら泣き始めちゃって……」
「な、なるほど。魔法じゃどうしようもならない、ネージュの素の部分ってわけか…………というか悪化してないか?」
「うん。悪化してると思うぞー」
「だ、だよな……」
事情を知ったマサキは、倒れながらもネージュの白銀の髪を優しく撫でる。泣き喚く子供を慰めるように優しく優しく撫で続けた。
「マサキ……さ、ん……」
すると、ネージュは段々と落ち着きを取り戻していって澄んだ青色の瞳を閉じた。そしてそのまま眠りに着いた。
「あ、あれ? 寝た? 寝た感じ?」
「ずっと泣いてたから疲れたんだと思うぞー」
「赤ちゃんかよ。でもまぁ、こればかりはしょうがないか。とりあえず家に帰ろう。みんな俺とネージュを起き上がらせてくれ」
クレールとダールとデールとドールの四人は協力しながら、泣き疲れて眠ってしまったネージュと、そのネージュに押し倒されたマサキをなんとか起き上がらせた。
そのままマサキは、眠ってしまったネージュをおんぶした。
「よいしょっと」
ネージュをおんぶした瞬間、マサキは黒ジャージの裾が引っ張られる感覚を味わった。その感覚に視線を向けると、ルナが短い前脚を使って、マサキのジャージの裾を引っ張っていた。
「ンッンッ!」
「あー、さすがにおんぶしちゃったから頭には乗せらんないわ。誰かルナちゃんを抱っこしてあげてくれ」
「ンッンッ」
声を漏らすルナは羨ましそうにネージュを見つめながら、クレールに持ち上げられた。
「クーが抱っこしてあげるぞー」
ルナを抱っこしたクレールの両サイドに双子の姉妹が回り込んだ。
「デールはなでなでするー」
「ドールはなでなでするー」
デールとドールがルナを撫でと、ルナは鼻をひくひくとさせて「ンッンッ」と、声を漏らした。そのままルナは、スライムのように体をだらりと伸ばしながらクレールに体を預けたのだった。
そんなルナの様子を見て安心したマサキは、おんぶしているネージュを落とさないようにと、少しだけ上げて位置を調節する。
その横でダールはネージュが落ちてしまわないように支えていた。
「姉さん大丈夫ッスかね」
「今のところは大丈夫だけど、これからが心配だよな。さっきも言ったけど、どんどん悪化してるように見える。俺は大丈夫なのに……なんでだろう」
「そうッスよね。心配ッス」
授業参観は成功に終わったものの、ネージュの心の病が悪化していることが判明した。このままではマサキに依存してしまい、ビエルネスの魔法があったとしても離れることが不可能になってしまう。
「こんな状態だからしばらくは、ネージュと一緒にいるようにしてみるよ。ダールには仕入れとか色々と迷惑をかける事になるけど、これからもよろしくな」
「もちろんッスよ。仕事ッスからね。アタシに任せてくださいッス!」
それは同時に告白の返事の先送りを意味する。
それでもダールは良いと思っている。マサキ同様にネージュも恩人であるからだ。そしてネージュにならマサキを取られてもいいとも思っている。
ダールは自覚しているのだ。ネージュには勝てないことを。だから少しでもマサキの役に立って、マサキとの心の距離を近付け、少しでもマサキの側にいられるように努力している。
負けヒロインやセカンドヒロインは、メインヒロインには絶対に敵わない。稀にメインヒロインに勝つことがあるだろう。
その時、ダールは素直に喜ぶことはできるだろうか。否、できない。先ほど説明した通り、ダールにとってネージュは恩人だからだ。だからダールもマサキと同じ、『ウサ恋ものがたり』の主人公の黒色のウサギと同じ選択する。
「アタシも『誰も選ばない』を選択するかもしれないッスね」
「ん? なんか言った?」
マサキの耳に届かないほど、ダールは小声で言ったのだ。
「なんでもないッスよ!」
と、太陽のように明るい笑顔でダールは返事をした。
そして、この瞬間思ったのだ。
(返事はいつでもいいって言って、よかったかもしれないッス。やっぱりこのままの関係を……兄さんの隣を歩けるこの関係をずっと続けていけるなら。黒色のウサギみたいにみんなが幸せなら。このままでもいいッスよね。アタシの、兄さんのことが好きって気持ちが本物なら。いいッスよね)
恋する乙女は、その恋にブレーキをかけた。いつも通りの幸せな日々をみんなで過ごすために。
ぐぅううううううううう~
「え? まさか……」
「兄さん……おな、か、すい、た……ッス」
大きな腹の虫を鳴らしてダールも倒れてしまった。
「ちょ、お、おい、せめて家に付いてから倒れてくれよ」
「お、なか、すい……たんで、無理……ッス……兄さん……だ、っこ……」
「無理無理無理無理。そんなにマッチョじゃねーよ。デールドール、姉ちゃんをよろしく頼む!」
こうして何気ない、いつも通りの幸せで大変な日々が繰り返されるのであった。
マサキとダールそして双子の姉妹のデールとドールは本当の親子のように手を繋ぎながら帰っていた。
マサキと手を繋ぐのはデール。ダールと手を繋ぐのはドール。マサキとダールの二人は手を繋いではいないが、歩くたびに何度も何度も手が触れる。その度に、ビクッと反応している。まるで初デートのカップルのように。
「ンッンッ。ンッンッ」
忘れてはいけないのがマサキの頭の上にいるウサギのルナだ。
お腹が空いたのだろうか、ルナは無表情のまま鼻をひくひくとさせながら、マサキの黒髪をムシャムシャと噛んでいた。
そのことには誰も気付かずに家路を歩いているのだった。
「お兄ちゃんだったら三匹選ぶと思ったよー」
「お兄ちゃんだったら三匹選ぶと思ったよー」
ふと思い出したかのように、口を開いたデールとドール。双子のシンクロ率は非常に高く、打ち合わせをしたかのようにタイミングが同じだったのだ。
そして『マサキの回答』について気になっているのは双子の姉妹だけではない。双子の姉妹の長女のダールも気になっているのだ。さすが三姉妹といったところだろう。
「アタシもそれ気になってたッスよ」
「さっきの道徳のやつか。あん時はいきなり指されたから咄嗟に答えたけど、俺の回答は変わらないよ。そもそも三匹の中から一匹しか選べないような縛りがあったじゃん。だったら誰も選ばずに現状維持的な感じにすると思う。現状維持が不可能ならデールとドールが言ったみたいに全員を選ぶかもしれないな。とにかく、教科書の情報だけじゃ俺はリアルな判断ができないよ。というか、年少組に恋愛物語って……しかも三角関係を彷彿とするようなドロドロの恋愛の内容……」
マサキの言葉に少しだけ安心した表情をダールは見せた。『誰も選ばない』という選択肢以外にもあったことが嬉しかったのだ。
その後、ダールは笑いながら口を開いた。
「あはは、確かにそうッスね。さすがにドロドロ感はうまく消えてたッスけど、よーく考えたらドロドロ恋愛ッスね」
「だろ?」
マサキは自覚がない。『ウサ恋ものがたり』の主人公の黒色のウサギのように、ドロドロの恋愛に足を一歩踏み入れていることを。
「そういえば、ダールが黒色のウサギだったらどうするんだよ?」
「アタシッスか。アタシだったら――」
ダールが答えようとした瞬間、ルナの大きな鳴き声が、マサキの耳に、そしてジェラ三姉妹の小さなウサ耳に届く。
「ンッンッ!」
全員が視線を向けたのは、鳴き声を発したルナではなく、正面の方角だ。
そこには、住居兼店舗でもある自分たちの大樹の木が姿を表したのである。正確には天高くそびえ立つ大樹の木の葉はずっと見えていた。今回見えたのは『無人販売所イースターパーティー』の看板だ。
看板が見えたことによって、ようやく自分たちの家でもある大樹の木が見えたのだと、近付いたのだと、実感が沸いたのである。
そして大樹の木に付いている扉が見えた瞬間、タイミングよく扉が開かれた。
そこから白銀色の髪と垂れたウサ耳が特徴的な美少女と薄桃色の髪をした小柄な美少女の二人が外へ飛び出した。
「おっ、ネージュとクレールだ。気付くの早いな」
マサキは外へ飛び出した二人の美少女を見て笑顔になる。ダールもデールもドールも同じように笑顔を溢した。
そんな笑顔の授業参観組の四人とは裏腹に、外へ飛び出してきたネージュは泣き叫んでいた。
「ネージュの姉さん泣いてないッスか?」
「あぁ、ウサ耳が無い俺でも聞こえてくるよ」
「こっちに向かって走って来てるッスよ!」
「まさか……ビエルネスの魔法の効果が切れたのか?」
真っ先に思うことは、マサキが想像したビエルネスがかけた抗不安剤のような精神を安定させる魔法の効果が切れたということだ。
そうじゃなければ、泣き叫びながら駆けて来るなどはしないだろう。
「だとしたらヤバい……」
『死ぬほどの苦しみ』を知っているマサキは焦りだす。一刻も早くネージュの元へ行かなければ『死ぬほどの苦しみ』をネージュが受けてしまうとマサキは思った。
そして、デールと繋いでいる手を離して、向かって来るネージュの元へと走って行く。
「ネージュ!」
「うぅ……ましゃ、き、さ~ん!」
走って来るネージュの勢いは止まらない。このままでは衝突してしまうと思ったマサキは急ブレーキをかけて、向かって来るネージュを受け止める体勢を取った。
そのままネージュは、受け止める体勢を取っているマサキに向かって飛び込んだ。
「マサキさーん!」
「うっ、お、おいっ!」
もやし体型で筋肉がないマサキは、ネージュを受け止め切れずにそのまま押し倒された。
マサキが倒れる前に、マサキの頭の上にいるウサギのルナは、長いウサ耳をパタパタと羽ばたかせて怪我なく着地した。
「マサキさん。マサキさん」
ネージュはマサキの胸元で涙と鼻水を拭う。マサキの黒ジャージはいつも美少女たちの涙と鼻水を拭き取るのにはちょうどいいのだ。
「お、落ち着けネージュ。どうした? 大丈夫か?」
「うぅ……うぐっ……マサキさん……あぅ……」
嗚咽が出るほど泣いているネージュからは、なぜ泣いているのか理由を聞くことができない。
そのため仰向けに倒れているマサキは、視線を上に乗っているネージュのさらに奥を映した。その黒瞳には、ネージュに追い付いた薄桃色の髪をしたクレールの姿が映る。
「おにーちゃん!」
「クレール、これは一体どういうことだ。なんでネージュだけ魔法が解けてんだ」
「ううん。ビエルネスちゃんの魔法は解けてないよ」
「それじゃなんでこんなに泣いてんだ?」
「それはね……」
クレールはネージュが嗚咽するほど泣いている理由を話し始めた。
「最初はね、大丈夫ですって言ってて普通に、おにーちゃんの帰りを待ってたんだけど……だんだん不安になってきたのか、ソワソワしはじめちゃって……それで気が付いたら泣き始めちゃって……」
「な、なるほど。魔法じゃどうしようもならない、ネージュの素の部分ってわけか…………というか悪化してないか?」
「うん。悪化してると思うぞー」
「だ、だよな……」
事情を知ったマサキは、倒れながらもネージュの白銀の髪を優しく撫でる。泣き喚く子供を慰めるように優しく優しく撫で続けた。
「マサキ……さ、ん……」
すると、ネージュは段々と落ち着きを取り戻していって澄んだ青色の瞳を閉じた。そしてそのまま眠りに着いた。
「あ、あれ? 寝た? 寝た感じ?」
「ずっと泣いてたから疲れたんだと思うぞー」
「赤ちゃんかよ。でもまぁ、こればかりはしょうがないか。とりあえず家に帰ろう。みんな俺とネージュを起き上がらせてくれ」
クレールとダールとデールとドールの四人は協力しながら、泣き疲れて眠ってしまったネージュと、そのネージュに押し倒されたマサキをなんとか起き上がらせた。
そのままマサキは、眠ってしまったネージュをおんぶした。
「よいしょっと」
ネージュをおんぶした瞬間、マサキは黒ジャージの裾が引っ張られる感覚を味わった。その感覚に視線を向けると、ルナが短い前脚を使って、マサキのジャージの裾を引っ張っていた。
「ンッンッ!」
「あー、さすがにおんぶしちゃったから頭には乗せらんないわ。誰かルナちゃんを抱っこしてあげてくれ」
「ンッンッ」
声を漏らすルナは羨ましそうにネージュを見つめながら、クレールに持ち上げられた。
「クーが抱っこしてあげるぞー」
ルナを抱っこしたクレールの両サイドに双子の姉妹が回り込んだ。
「デールはなでなでするー」
「ドールはなでなでするー」
デールとドールがルナを撫でと、ルナは鼻をひくひくとさせて「ンッンッ」と、声を漏らした。そのままルナは、スライムのように体をだらりと伸ばしながらクレールに体を預けたのだった。
そんなルナの様子を見て安心したマサキは、おんぶしているネージュを落とさないようにと、少しだけ上げて位置を調節する。
その横でダールはネージュが落ちてしまわないように支えていた。
「姉さん大丈夫ッスかね」
「今のところは大丈夫だけど、これからが心配だよな。さっきも言ったけど、どんどん悪化してるように見える。俺は大丈夫なのに……なんでだろう」
「そうッスよね。心配ッス」
授業参観は成功に終わったものの、ネージュの心の病が悪化していることが判明した。このままではマサキに依存してしまい、ビエルネスの魔法があったとしても離れることが不可能になってしまう。
「こんな状態だからしばらくは、ネージュと一緒にいるようにしてみるよ。ダールには仕入れとか色々と迷惑をかける事になるけど、これからもよろしくな」
「もちろんッスよ。仕事ッスからね。アタシに任せてくださいッス!」
それは同時に告白の返事の先送りを意味する。
それでもダールは良いと思っている。マサキ同様にネージュも恩人であるからだ。そしてネージュにならマサキを取られてもいいとも思っている。
ダールは自覚しているのだ。ネージュには勝てないことを。だから少しでもマサキの役に立って、マサキとの心の距離を近付け、少しでもマサキの側にいられるように努力している。
負けヒロインやセカンドヒロインは、メインヒロインには絶対に敵わない。稀にメインヒロインに勝つことがあるだろう。
その時、ダールは素直に喜ぶことはできるだろうか。否、できない。先ほど説明した通り、ダールにとってネージュは恩人だからだ。だからダールもマサキと同じ、『ウサ恋ものがたり』の主人公の黒色のウサギと同じ選択する。
「アタシも『誰も選ばない』を選択するかもしれないッスね」
「ん? なんか言った?」
マサキの耳に届かないほど、ダールは小声で言ったのだ。
「なんでもないッスよ!」
と、太陽のように明るい笑顔でダールは返事をした。
そして、この瞬間思ったのだ。
(返事はいつでもいいって言って、よかったかもしれないッス。やっぱりこのままの関係を……兄さんの隣を歩けるこの関係をずっと続けていけるなら。黒色のウサギみたいにみんなが幸せなら。このままでもいいッスよね。アタシの、兄さんのことが好きって気持ちが本物なら。いいッスよね)
恋する乙女は、その恋にブレーキをかけた。いつも通りの幸せな日々をみんなで過ごすために。
ぐぅううううううううう~
「え? まさか……」
「兄さん……おな、か、すい、た……ッス」
大きな腹の虫を鳴らしてダールも倒れてしまった。
「ちょ、お、おい、せめて家に付いてから倒れてくれよ」
「お、なか、すい……たんで、無理……ッス……兄さん……だ、っこ……」
「無理無理無理無理。そんなにマッチョじゃねーよ。デールドール、姉ちゃんをよろしく頼む!」
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