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第3章:成長『食品展示会編』
108 新商品決定!
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食品展示会の会場でもある冒険者ギルドから出たマサキたち一行は家へと帰ってきた。
ダールの双子の妹デールとドールもちょうど学舎から帰ってくる時間だった。なのでデールとドールも含めた六人と一匹で食品展示会から持ち帰ったパンフレットと試供品そしてお土産品の物色を始めた。
もちろんこの物色は無人販売所イースターパーティーに活気を取り戻すための策を練るための仕事の一環だ。楽しくやりながらも真剣に考えなければならない。
「よし……ゴホンッ」
全員が揃ったところでマサキはこれからの作業の内容を伝える前に咳払いをした。そして声が喉を通ることを確認してから声を上げた。
「今からみんなにやってもらうのは無人販売所で提供することができるアイディア料理やそのまま販売できる商品をこのパンフレットと試供品の中から選んでもらう作業になる! 名付けて『第一回無人販売所に活気を取り戻そう』だ!」
マサキは張り切りながら声を上げた。張り切りすぎて左腕を掲げている。
利腕ではない左腕を掲げたのは日頃のクセだ。日頃、ネージュと手を繋ぐことによってフリーになっている左手をよく使うようになっている。そのせいで自然と左手が出るようになってしまっているのだ。
もはや両利きになりつつもある。
そしてマサキの張り切る声の後に、その場にいる全員は「おー!」と元気よく声を上げマサキと同じように腕を掲げた。
そのまま床やウッドテーブルの上に並べたられた大量のパンフレットの物色が始まった。
パンフレットを読む担当はクレールとダールそして双子の姉妹デールとドールの四人だ。そこにイングリッシュロップイヤーのルナも加えるべきかどうかは不明だが、一応加えておこう。
改めてパンフレットを読む担当はクレールとダール、双子の姉妹のデールとドールそしてイングリッシュロップイヤーのルナの四人と一匹だ。
ここで名前が上がらなかった無人販売所イースターパーティーの経営者の二人は何をするのかというと、試供品の調理だ。
店で提供するのならば味が重要。なので直接、試供品の味見をして自分たちの味覚を信じることによって、さらに良い商品が厳選されるのである。
そして食品展示会に行けなかったデールとドールの二人にも食べさせてあげたいという思惑もある。ほぼ後者の方が割合が高いかもしれない。
「どーしよー」
「ンッンッ」
「どーしよー」
デールとドールの二人はイングリッシュロップイヤーのルナを挟み寝そべりながらパンフレットを読んでいる。
双子に挟まれるウサギは、まさに『双子サンド』。この世界での言い方なら『双子ハサミ』だろう。
ルナはいつものように無表情のまま鼻をひくひくとさせながら声を漏らしていた。
そんな可愛らしい双子ハサミの正面には薄桃色の髪の美少女クレールが寝そべりながらパンフレットを読んでいる。
寝そべっているクレールの幼さが残る細くて綺麗な足は、交互にゆっくり動いている。
「こんなのもあるんだー。知らなかったー」
クレールの紅色の瞳はパンフレットに釘付けだ。なぜなら食品展示会で並んでいなかった見たこともない商品が次から次へとパンフレットに載っているからだ。
どの商品が無人販売所に最適なのかを真剣に悩んでいる。
そんなクレールの背後にあるウッドテーブルの正面にある木製の椅子にはダールが座っている。そして黄色の双眸は開いてはいない。眠っているのである。
「ヌピーヌピー」
ダールの俊足スキルは、ただ歩くだけでも他の兎人よりも多く体力を消耗する。たくさん歩いた食品展示会だけに体に疲労が溜まったのだろう。
そしてダール自身自覚している飽き性もダールの睡眠を促進させた一つの原因でもある。パンフレットを見ることを秒で飽きてしまい眠ってしまったのだ。
そんなダールが目を覚ましたのは、食欲をそそるニオイが彼女の鼻腔を刺激し誘惑してきた時だった。
「ヌピーヌピー……んっ……ぬあぁ?」
ダールの黄色の双眸にはズラリと並んだ料理の数々が映っている。
唐揚げやフライドポテトなどの揚げ物、焼き鳥や串かつなどの串物、焼売や小籠包などの蒸し物、様々なソースで味付けされたパスタ類、ソーセージなど手ごろに食べられるおつまみ品、ドーナツやバウムクーヘンなどの菓子パン、溶けてしまうアイスクリーム以外のデザート類なども並んでいる。
その光景は自分がまだ夢の中にいるのではないかと錯覚するほどだ。
しかしダール自身これが夢ではないことは起きたばかりの頭でもすぐにわかる。否、仮眠を取ったおかげでいつもよりも冴えているからわかったのである。
(食品展示会でもらった試供品だ!)
ズラリと並んだ料理を見ていたダールの黄色の双眸に、料理を運んでいる白銀の艶めいた髪でウサ耳が垂れている兎人族の美少女の姿が映った。
「ネージュの姉さん。もうできたんすか? 早いッスね」
「あっ、起こしちゃいましたか」
ネージュは疲れて眠っているダールを起こさないようにと、気を使ってそっと料理をウッドテーブルの上に置いていたのだ。
そのままネージュはダールが寝ていた間の料理について少し語り始める。
「ダールとクレールがもらってくれた試供品たちの調理はあっという間に終わりましたよ。どれも簡単なものばかりで温めたり、焼いたり、蒸したりするだけで完成しました。私とマサキさんは、ほぼ手を付けてませんよ! それだけでも美味しいんですからビックリしますよね」
そんなネージュの言葉に続いて、料理を運ぶマサキが口を開く。
「だよな。もう料理人とかいらなくなるよな。さすが妖精。万能すぎる」
マサキが呟きながら置いたのは、食品展示会に参加した全員の舌を納得させた料理『冷凍餃子』だ。
焼き過ぎずにこんがりとした色合いの餃子が、高級感のある真っ白なお皿の上で円状に並んでいる。
まるでサンプル食品のように計算されて均等に並んでいるのはネージュの『盛り付けスキル』の影響だ。ネージュが盛り付けたものは全て最高級の盛り付けへと変化、否、進化するのである。
そんな最高級の盛り付けをされた餃子を見てダールが口を開いた。
「食品展示会で食べた餃子と全然見た目が違うッスね。もっと美味しそうに見えるッス」
喋りながらヨダレを垂らすダールは、食品展示会の時に食べた餃子の味でも思い出してしまったのだろう。それほど記憶に、舌に、鮮明に味が残っているのである。
マサキは自分で盛り付けたわけではないが、自分が盛り付けた料理かのように嬉しそうな表情を浮かべながらダールの言葉に返事をする。
「あそこで食べた餃子は爪楊枝が刺さってただけだからな。こうやってたくさん並べたらそりゃ美味しそうに見えるわな。いや、もっと美味しくなってるはず! 確実に!」
「そうッスね。そうッスね。絶対美味しいッスよ!」
何を根拠においしくなったと思っているのだろうか。
パックから取り出して焼いただけの冷凍餃子だ。何一つアレンジしていない。手を付けたと言える部分はネージュが盛り付けたところだけだ。
それでもマサキとダールは、食品展示会で食べた餃子よりも確実に美味しいと食べる前から豪語している。
それほどネージュの盛り付け方が美しく、そして愛情のようなものが二人に伝わったのだろう。
餃子に見惚れているマサキとダールに向かってネージュが鈴のように耳心地の良い声を出す。
「マサキさんが持ってきた餃子で全部運び終わりましたから、冷めないうちに夕飯にしましょう!」
「「「はーい」」」
その場にいる全員が声を揃えて返事した。
その息のあった返事に驚くネージュだったがすぐに天使のような笑顔を溢す。
床で寝転がりながらパンフレットを見ていたクレールとデールとドールは、パンフレットをそのまま床に置いて勢いよく立ち上がった。まるでウサギがぴょんと真上に飛ぶように。
そのままズラリと料理が並ぶウッドテーブルへと向かい、ウッドテーブルの前にある木製の椅子に横一列三人並んで腰掛ける。三人の幼い兎人族の美少女たちが腰掛けるタイミングは、ほぼ同じで、その腰掛ける姿を見ただけで癒されるほどだ。
クレールたちが木製の椅子に腰掛けた時、イングリッシュロップイヤーのルナはマサキの足元にいた。
垂れている大きなウサ耳を床に付けながら短い足でマサキの足元まで歩いたのである。そして鼻先でマサキの足を押している。
「ンッンッ」
「おっ。ルナちゃん。よいっしょっと……」
「ンッンッ」
マサキはルナを両手で持ち上げる。家の中ではネージュと手を繋いでいない。なので両手で安定しながらルナを持ち上げることができるのである。
ルナを持ち上げたまま、マサキは一番近くにある木製の椅子に腰かけた。そして自分の太ももの上にルナを置いて座らせる。
「ンッンッ!」
ルナはウッドテーブルの上にズラリと並ぶ料理に感動している。
そのルナの視線の先、テーブルの向かいにいる三人の幼い兎人族の美少女たちもルナと同じように料理を見て感動していた。開いた口が塞がっておらずよだれが垂れるのを服の袖で乱暴に拭いている。
残りの開いている椅子は二つ。マサキの両サイドだ。そこに、まだ座っていないネージュとダールが自然と座る。
マサキの両サイド、正面、膝の上には花。なんと贅沢な夕飯なのだろうか。
全員が座ったことによって色鮮やかで美しい花に囲まれているマサキが口を開く。
「それじゃあ食べようか。今日も一日お疲れ様でした! いただきます!」
「「「いただきます!」」」
マサキたちは食品展示会でもらった試供品だけの夕飯が始まった。
試供品だけと言っても六人と一匹が腹を満たすぐらいの量は十分にある。その証拠に食べ終えた後の全員のお腹はパンパンに膨らんでいた。
「もうお腹いっぱーい」
「もうお腹いっぱーい」
「食べすぎたー」
「食べすぎたー」
食品展示会に参加できなかった双子の姉妹デールとドールも大満足の様子で大きく膨らんだお腹をさすっていた。
その横で薄桃色の髪の兎人族の美少女クレールも幸せそうな表情をしながら自分のお腹をさすっていた。
全員の食事が終わったところでマサキは口を開く。
「そんじゃ一番美味しかった料理のアンケートをとるから手を挙げてくれー! ソーセージが美味しかった人ー? 唐揚げが美味しかった人ー?」
無人販売所イースターハウスで提供する料理を決めるためにアンケートを取り始めたのだ。
ウッドテーブルの上でズラリと並べられていた食品展示会でもらった全種類の試供品を、全員が味見し挙手制でアンケートをおこなった結果、満場一致で冷凍餃子が一番美味しいという結果になった。
これによって無人販売所イースターパーティーの新商品は『冷凍餃子』に決定したのである。
注文方法は冷凍餃子のパンフレットに記載されている通り、注文書に必要事項を記入して冒険者ギルドの窓口に渡し、そこでお支払いをするだけ。あとは注文書に記入した住所に冷凍餃子が届けられるという仕組みだ。
そして冷凍餃子を販売するのに欠かせない魔道具『凍結珠』も同じ注文方法だ。まとめて冒険者ギルドの窓口に注文書を渡せばいいのである。
幸い運搬業者はどちらもタイジュグループが管理している。なので冷凍餃子と凍結珠は同じタイミングで届く。届いたら予め準備していた商品棚に置くだけで冷凍餃子を提供することができるのである。
こうしてマサキたちは、サトオサからもらった招待状のお陰でタイジュグループ主催の食品展示会に参加することができ、冷凍餃子という無人販売所イースターパーティーに希望をもたらすであろう商品に出会うことができた。
そして冷凍餃子をパックのまま提供するために必要な、商品棚を冷凍庫に変える魔道具『凍結珠』にも出会うことができたのだ。
無人販売所イースターパーティーのさらなる発展・向上が期待できる食品展示会だったのであった。
ダールの双子の妹デールとドールもちょうど学舎から帰ってくる時間だった。なのでデールとドールも含めた六人と一匹で食品展示会から持ち帰ったパンフレットと試供品そしてお土産品の物色を始めた。
もちろんこの物色は無人販売所イースターパーティーに活気を取り戻すための策を練るための仕事の一環だ。楽しくやりながらも真剣に考えなければならない。
「よし……ゴホンッ」
全員が揃ったところでマサキはこれからの作業の内容を伝える前に咳払いをした。そして声が喉を通ることを確認してから声を上げた。
「今からみんなにやってもらうのは無人販売所で提供することができるアイディア料理やそのまま販売できる商品をこのパンフレットと試供品の中から選んでもらう作業になる! 名付けて『第一回無人販売所に活気を取り戻そう』だ!」
マサキは張り切りながら声を上げた。張り切りすぎて左腕を掲げている。
利腕ではない左腕を掲げたのは日頃のクセだ。日頃、ネージュと手を繋ぐことによってフリーになっている左手をよく使うようになっている。そのせいで自然と左手が出るようになってしまっているのだ。
もはや両利きになりつつもある。
そしてマサキの張り切る声の後に、その場にいる全員は「おー!」と元気よく声を上げマサキと同じように腕を掲げた。
そのまま床やウッドテーブルの上に並べたられた大量のパンフレットの物色が始まった。
パンフレットを読む担当はクレールとダールそして双子の姉妹デールとドールの四人だ。そこにイングリッシュロップイヤーのルナも加えるべきかどうかは不明だが、一応加えておこう。
改めてパンフレットを読む担当はクレールとダール、双子の姉妹のデールとドールそしてイングリッシュロップイヤーのルナの四人と一匹だ。
ここで名前が上がらなかった無人販売所イースターパーティーの経営者の二人は何をするのかというと、試供品の調理だ。
店で提供するのならば味が重要。なので直接、試供品の味見をして自分たちの味覚を信じることによって、さらに良い商品が厳選されるのである。
そして食品展示会に行けなかったデールとドールの二人にも食べさせてあげたいという思惑もある。ほぼ後者の方が割合が高いかもしれない。
「どーしよー」
「ンッンッ」
「どーしよー」
デールとドールの二人はイングリッシュロップイヤーのルナを挟み寝そべりながらパンフレットを読んでいる。
双子に挟まれるウサギは、まさに『双子サンド』。この世界での言い方なら『双子ハサミ』だろう。
ルナはいつものように無表情のまま鼻をひくひくとさせながら声を漏らしていた。
そんな可愛らしい双子ハサミの正面には薄桃色の髪の美少女クレールが寝そべりながらパンフレットを読んでいる。
寝そべっているクレールの幼さが残る細くて綺麗な足は、交互にゆっくり動いている。
「こんなのもあるんだー。知らなかったー」
クレールの紅色の瞳はパンフレットに釘付けだ。なぜなら食品展示会で並んでいなかった見たこともない商品が次から次へとパンフレットに載っているからだ。
どの商品が無人販売所に最適なのかを真剣に悩んでいる。
そんなクレールの背後にあるウッドテーブルの正面にある木製の椅子にはダールが座っている。そして黄色の双眸は開いてはいない。眠っているのである。
「ヌピーヌピー」
ダールの俊足スキルは、ただ歩くだけでも他の兎人よりも多く体力を消耗する。たくさん歩いた食品展示会だけに体に疲労が溜まったのだろう。
そしてダール自身自覚している飽き性もダールの睡眠を促進させた一つの原因でもある。パンフレットを見ることを秒で飽きてしまい眠ってしまったのだ。
そんなダールが目を覚ましたのは、食欲をそそるニオイが彼女の鼻腔を刺激し誘惑してきた時だった。
「ヌピーヌピー……んっ……ぬあぁ?」
ダールの黄色の双眸にはズラリと並んだ料理の数々が映っている。
唐揚げやフライドポテトなどの揚げ物、焼き鳥や串かつなどの串物、焼売や小籠包などの蒸し物、様々なソースで味付けされたパスタ類、ソーセージなど手ごろに食べられるおつまみ品、ドーナツやバウムクーヘンなどの菓子パン、溶けてしまうアイスクリーム以外のデザート類なども並んでいる。
その光景は自分がまだ夢の中にいるのではないかと錯覚するほどだ。
しかしダール自身これが夢ではないことは起きたばかりの頭でもすぐにわかる。否、仮眠を取ったおかげでいつもよりも冴えているからわかったのである。
(食品展示会でもらった試供品だ!)
ズラリと並んだ料理を見ていたダールの黄色の双眸に、料理を運んでいる白銀の艶めいた髪でウサ耳が垂れている兎人族の美少女の姿が映った。
「ネージュの姉さん。もうできたんすか? 早いッスね」
「あっ、起こしちゃいましたか」
ネージュは疲れて眠っているダールを起こさないようにと、気を使ってそっと料理をウッドテーブルの上に置いていたのだ。
そのままネージュはダールが寝ていた間の料理について少し語り始める。
「ダールとクレールがもらってくれた試供品たちの調理はあっという間に終わりましたよ。どれも簡単なものばかりで温めたり、焼いたり、蒸したりするだけで完成しました。私とマサキさんは、ほぼ手を付けてませんよ! それだけでも美味しいんですからビックリしますよね」
そんなネージュの言葉に続いて、料理を運ぶマサキが口を開く。
「だよな。もう料理人とかいらなくなるよな。さすが妖精。万能すぎる」
マサキが呟きながら置いたのは、食品展示会に参加した全員の舌を納得させた料理『冷凍餃子』だ。
焼き過ぎずにこんがりとした色合いの餃子が、高級感のある真っ白なお皿の上で円状に並んでいる。
まるでサンプル食品のように計算されて均等に並んでいるのはネージュの『盛り付けスキル』の影響だ。ネージュが盛り付けたものは全て最高級の盛り付けへと変化、否、進化するのである。
そんな最高級の盛り付けをされた餃子を見てダールが口を開いた。
「食品展示会で食べた餃子と全然見た目が違うッスね。もっと美味しそうに見えるッス」
喋りながらヨダレを垂らすダールは、食品展示会の時に食べた餃子の味でも思い出してしまったのだろう。それほど記憶に、舌に、鮮明に味が残っているのである。
マサキは自分で盛り付けたわけではないが、自分が盛り付けた料理かのように嬉しそうな表情を浮かべながらダールの言葉に返事をする。
「あそこで食べた餃子は爪楊枝が刺さってただけだからな。こうやってたくさん並べたらそりゃ美味しそうに見えるわな。いや、もっと美味しくなってるはず! 確実に!」
「そうッスね。そうッスね。絶対美味しいッスよ!」
何を根拠においしくなったと思っているのだろうか。
パックから取り出して焼いただけの冷凍餃子だ。何一つアレンジしていない。手を付けたと言える部分はネージュが盛り付けたところだけだ。
それでもマサキとダールは、食品展示会で食べた餃子よりも確実に美味しいと食べる前から豪語している。
それほどネージュの盛り付け方が美しく、そして愛情のようなものが二人に伝わったのだろう。
餃子に見惚れているマサキとダールに向かってネージュが鈴のように耳心地の良い声を出す。
「マサキさんが持ってきた餃子で全部運び終わりましたから、冷めないうちに夕飯にしましょう!」
「「「はーい」」」
その場にいる全員が声を揃えて返事した。
その息のあった返事に驚くネージュだったがすぐに天使のような笑顔を溢す。
床で寝転がりながらパンフレットを見ていたクレールとデールとドールは、パンフレットをそのまま床に置いて勢いよく立ち上がった。まるでウサギがぴょんと真上に飛ぶように。
そのままズラリと料理が並ぶウッドテーブルへと向かい、ウッドテーブルの前にある木製の椅子に横一列三人並んで腰掛ける。三人の幼い兎人族の美少女たちが腰掛けるタイミングは、ほぼ同じで、その腰掛ける姿を見ただけで癒されるほどだ。
クレールたちが木製の椅子に腰掛けた時、イングリッシュロップイヤーのルナはマサキの足元にいた。
垂れている大きなウサ耳を床に付けながら短い足でマサキの足元まで歩いたのである。そして鼻先でマサキの足を押している。
「ンッンッ」
「おっ。ルナちゃん。よいっしょっと……」
「ンッンッ」
マサキはルナを両手で持ち上げる。家の中ではネージュと手を繋いでいない。なので両手で安定しながらルナを持ち上げることができるのである。
ルナを持ち上げたまま、マサキは一番近くにある木製の椅子に腰かけた。そして自分の太ももの上にルナを置いて座らせる。
「ンッンッ!」
ルナはウッドテーブルの上にズラリと並ぶ料理に感動している。
そのルナの視線の先、テーブルの向かいにいる三人の幼い兎人族の美少女たちもルナと同じように料理を見て感動していた。開いた口が塞がっておらずよだれが垂れるのを服の袖で乱暴に拭いている。
残りの開いている椅子は二つ。マサキの両サイドだ。そこに、まだ座っていないネージュとダールが自然と座る。
マサキの両サイド、正面、膝の上には花。なんと贅沢な夕飯なのだろうか。
全員が座ったことによって色鮮やかで美しい花に囲まれているマサキが口を開く。
「それじゃあ食べようか。今日も一日お疲れ様でした! いただきます!」
「「「いただきます!」」」
マサキたちは食品展示会でもらった試供品だけの夕飯が始まった。
試供品だけと言っても六人と一匹が腹を満たすぐらいの量は十分にある。その証拠に食べ終えた後の全員のお腹はパンパンに膨らんでいた。
「もうお腹いっぱーい」
「もうお腹いっぱーい」
「食べすぎたー」
「食べすぎたー」
食品展示会に参加できなかった双子の姉妹デールとドールも大満足の様子で大きく膨らんだお腹をさすっていた。
その横で薄桃色の髪の兎人族の美少女クレールも幸せそうな表情をしながら自分のお腹をさすっていた。
全員の食事が終わったところでマサキは口を開く。
「そんじゃ一番美味しかった料理のアンケートをとるから手を挙げてくれー! ソーセージが美味しかった人ー? 唐揚げが美味しかった人ー?」
無人販売所イースターハウスで提供する料理を決めるためにアンケートを取り始めたのだ。
ウッドテーブルの上でズラリと並べられていた食品展示会でもらった全種類の試供品を、全員が味見し挙手制でアンケートをおこなった結果、満場一致で冷凍餃子が一番美味しいという結果になった。
これによって無人販売所イースターパーティーの新商品は『冷凍餃子』に決定したのである。
注文方法は冷凍餃子のパンフレットに記載されている通り、注文書に必要事項を記入して冒険者ギルドの窓口に渡し、そこでお支払いをするだけ。あとは注文書に記入した住所に冷凍餃子が届けられるという仕組みだ。
そして冷凍餃子を販売するのに欠かせない魔道具『凍結珠』も同じ注文方法だ。まとめて冒険者ギルドの窓口に注文書を渡せばいいのである。
幸い運搬業者はどちらもタイジュグループが管理している。なので冷凍餃子と凍結珠は同じタイミングで届く。届いたら予め準備していた商品棚に置くだけで冷凍餃子を提供することができるのである。
こうしてマサキたちは、サトオサからもらった招待状のお陰でタイジュグループ主催の食品展示会に参加することができ、冷凍餃子という無人販売所イースターパーティーに希望をもたらすであろう商品に出会うことができた。
そして冷凍餃子をパックのまま提供するために必要な、商品棚を冷凍庫に変える魔道具『凍結珠』にも出会うことができたのだ。
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