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第2章:出逢い『空飛ぶウサギが来た編』
78 家族の元へ
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マサキたちは兎園でウサギたちのもふもふを堪能していた。
マサキとネージュの二人は広大な草原の中心で寝っ転がりながらウサギたちの群れに埋もれていた。
「お、溺れる……もふもふの海に溺れる……」
「も、もふもふですね~。そうだ! マサキさん。これからは毎日兎園に来ましょうよ。毎日もふもふしたいです!」
「それはナイスアイディアだ。入場料もかからないし歩いて来れる距離だし毎日来なきゃ損だよな」
マサキとネージュはご満悦だ。
人間不信のマサキと恥ずかしがり屋のネージュが毎日来たいと思うほど兎園は素晴らしいところなのである。一言で表すのならば『ウサギのもふもふ天国』だ。
「猫とか犬とかはさ、ぷにぷにの肉球があるけど、ウサギって肉球がないんだね。知らなかったよ」
「そうですね。ウサギさんに肉球はありませんね」
「そんで、肉球の代わりにさ、手足がもふもふしてるんだよ。もうもふもふじゃない部分がどこにもない……どこもかしこももふもふ……もふもふの塊だよ~」
両手が使えないマサキは顔面をウサギに踏まれながら手足のもふもふを堪能している。
右手はネージュと手を繋いでいて、左腕にはいまだに離れてくれないウサ耳の大きなチョコレートカラーのウサギがいる。だからマサキは両手が使えないのである。
「おにーちゃんおにーちゃん! すごいもふもふの子を持ってきたぞー」
「で、でかもふだ! デカすぎるだろ! そんなウサギがいんのか!」
薄桃色の髪の美少女クレールがマサキに持ってきたウサギはフレミッシュジャイアントだ。その名の通りウサギの中でも大きな種類のウサギ。
フレミッシュジャイアントの伸びきった体は低身長のクレールよりも大きい。そんなウサギをクレールは小さな体で精一杯持ちながら歩いてきたのである。
「でーかーもーふー!」
クレールは可愛らしいロリボイスで言いながらフレミッシュジャイアントをマサキのお腹の上に置いた。
「ぐほっ、お、重い……も、もふもふに……もふもふに……つ、潰される……」
マサキのお腹の上で無表情のまま乗るフレミッシュジャイアント。そのウサギの重さに肺が苦しくなり呼吸しづらくなるマサキだったが、もふもふに殺されるのなら本望だと、幸せそうな顔で苦しんでいた。
マサキのお腹の上に乗っているフレミッシュジャイアントは鼻をひくひくさせてマサキの左腕にいるウサギをじーっと見ていた。
「ンッンッ」
マサキの左腕の中にいるウサギは声を漏らしながらマサキの腹の上に乗っているフレミッシュジャイアントをじーっと見ている。
二匹ウサギの漆黒の瞳が交差し合っている。
「な、なんか……大丈夫か? あ、暴れたりしないよな?」
漆黒の瞳を交差し合う二匹のウサギに気付いたマサキは嫌な予感を感じていた。一触即発。そんなことを感じさせるような重たい空気を感じているのだ。
重たい空気の中、何も起こらない時間は身動きが取れないマサキにとっては長く感じるもの。そして恐怖をひしひしと感じてしまうものだ。
「ンッンッ」
しかしいくら待っても一向に何も起こらない。
ただ漆黒の瞳で見つめ合い、鼻をひくひくさせ声を漏らしているだけだった。
「マサキさん。ウサギさんは温厚な性格の子が多いので暴れたりしませんよ。縄張り意識もここでは意味ないですからね」
「そ、そうなのか。喧嘩すんのかと思ったよ……それにしても本当に無表情で何考えてるかわかんないよな」
「そうですよね。悩み事とかなくて幸せなのかもしれませんよ」
「幸せか……そ、そうだ! ウサギちゃんの家族を探さなきゃ!」
「そうでしたね。すっかりもふもふに魅了されて忘れてました!
マサキとネージュはマサキの左腕の中にいるウサギの家族探しを思い出した。
「ここには同じ種類のウサギは……いないな……ってことは家族はここにはいないってことかな? 同じ種類のウサギはどこにいるんだ?」
本来の目的を思い出したマサキは辺りを見渡し同じ種類のウサギを探すが見つけられずにいた。
そんなマサキにウサギのウサ耳をはむはむと咥えて特殊な楽しみ方をしているクレールが口を開く。
「はむっはむはむはむはむっはむはむはむ……」
「な、なにー! 同じ種類のウサギをダールが見つけただって?」
「はむはむっはむはむはむはむっはむはむ……」
「よし! わかった。案内してくれ!」
はむはむとしか言っていないクレールの言葉を完全に理解するマサキ。過去にガタガタと震えているネージュの言葉も完全に理解していたこともあったのでマサキの理解力は異常すぎるほど驚異的なものだ。
「もふもふをたっぷりと堪能できましたし、この子の家族のところへ行きましょうか」
先に立ち上がったのはネージュだ。マサキは両手が使えないので一人で立ち上がるのは困難。なのでネージュが先に立ちマサキと手を繋いでいる左手で引っ張って立ち上がらせてあげるのである。
マサキが立ち上がる前、お腹の上に乗っていたフレミッシュジャイアントやマサキの体に乗っているウサギたちをクレールが退かしてあげていた。
「ありがとうネージュ、クレール。とりあえずダールのところに行く前にここでも試してみるか。友達とかもいるかもしれないしな……」
マサキは左腕の中にいるウサギを下ろそうと試みた。
「ンッンッ」
ウサギは無表情で声を漏らしている。そしてマサキから離れるのを激しく嫌がっている。やはりマサキから離れることはなかった。
「ダメでしたね。友達はいないみたいです。でも家族のところに行けばきっと大丈夫ですよ。ダールが待ってますし行きましょう!」
「そうだな。行こう!」
マサキとネージュはクレールの案内に従ってウサ耳が大きなイングリッシュロップイヤーがいる場所へと移動した。
「もふっ……兄さん姉さん……もふっ……お、遅いッスよ!」
そんなダールの声がマサキたちの耳に届いたが、どこにもダールの姿はなかった。
しかしどこにいるかは、目の前の光景を見ればわかる。イングリッシュロップイヤーの群の中だ。大きなウサ耳のイングリッシュロップイヤーたちに群がられてダールの全身が隠れてしまっているのだ。
時々、オレンジ色の髪とむちむちの太ももが見えるのでダールで間違いないだろう。
「でかしたぞダール! ウサギちゃんにそっくりなウサギがいっぱいだ! というか全員同じ顔……家族で確定だろ! これウサギちゃんが群の中に入ったら完全に見失うな……」
「あれ? マサキさんなんか寂しそうな顔してますよ。もしかしてこの子と離れるのが寂しいんですか?」
左腕の中にいるウサギを寂しげに見るマサキの表情をネージュは見逃さなかった。
「そ、そんなことないよ……ただ、ウサギちゃんがどれだか分からなくなるのがちょっとだけ寂しいなって思っただけ。何度も兎園に来るならウサギちゃんに会いたいからさ……」
「ふふっ。その子に愛着が湧いちゃったみたいですね」
ネージュの言う通りマサキは左腕の中にいるウサギに愛着が湧いてしまったのだ。
何度も離れようとしても離れてくれないウサギ。そのウサギが仲間の群れ、家族の群れに入ってしまえばマサキは認識できなくなってしまい見失ってしまう。そんな寂しさがあるのである。
「せめて顔の特徴とか覚えておこう。どれどれ……」
マサキは左腕の中にいるウサギの顔をまじまじと見た。そして別のイングリッシュロップイヤーの顔と比較する。
比較結果。どれも同じ顔。ウサギを見慣れていないマサキには全く見分けがつかないのだった。
「顔はダメだ……ウサ耳はどうだ? 模様があったりしないか?」
ウサ耳を確認するマサキ。ネージュがウサギの耳をマサキに見やすいようにめくったりして見せている。
「どうですか? 何か特徴的な模様とかありましたか?」
「ダメだ……全部茶色い毛……途中から毛が薄くなってピンク色の肌が見えてくるけど他のウサギも同じだ……完全に見分けがつかねー」
マサキはウサギを比較するのを断念した。肩を落とし酷く落ち込んだ様子で黒瞳はウサギの漆黒の瞳を覗き込む。
そんな落ち込むマサキにネージュが別の解決方法を導きだす。
「マサキさんがこの子を分からなくなっても、この子がマサキさんのことを認識してくれればいいんじゃないですか? こんなに懐いてますしきっと覚えてくれますよ」
「そうかな……そんなもんかな? 覚えててくれるかな?」
「はい。きっと覚えてくれます。匂いとか声とか雰囲気とかで、きっとマサキさんのことを覚えててくれますよ」
「ネージュがそこまで言うなら……わかった。ウサギちゃんを信じることにするよ。ウサギちゃんの幸せのためだ。家族の元へお帰り」
マサキはイングリッシュロップイヤーに埋もれているダールの元へと近付いた。そして左腕の中にいるウサギをその群れの中に下ろそうとする。
「ンッンッ」
ウサギは声を漏らしながら仲間の群れに帰っていった。
「……ぁ……」
マサキも自然と声が漏れた。
今まで離れなかったウサギがこうもあっさり離れたのだ。腕の中の重みが一瞬で消え寂しさや虚無感を感じるのは仕方がないこと。
左腕に残っている温もりも徐々に冷めていく。それと同時にととめどない寂しさがマサキの心を蝕んでいく。
「短い間だったけどありがとうな……もう逃げ出すなよ……幸せに暮らせよな」
「ンッンッ」
「ンッンッ」
「ンッンッ」
どのウサギが声を漏らして鳴いているのかはマサキには分からなかった。声の質も音量もリズムもほぼ同じ。出会って数時間のウサギの鳴き声などそう簡単には覚えられない。
それでもマサキは左腕の中にいたウサギが返事をしてくれたのだと信じた。そしてマサキはその場から立ち去ろうとする。
ネージュはウサギに手を振り別れを伝えてからマサキと同じようにウサギたちに背を向けた。
クレールはイングリッシュロップイヤーたちの頭を撫でてからマサキの寂しげな背中を追いかけた。
ダールはイングリッシュロップイヤーの群れから抜け出し、体についた汚れを叩いてからマサキたちの後を追いかける。
マサキたちはウサギを家族の元へ返す目的を果たして、この場から立ち去るのであった。
マサキとネージュの二人は広大な草原の中心で寝っ転がりながらウサギたちの群れに埋もれていた。
「お、溺れる……もふもふの海に溺れる……」
「も、もふもふですね~。そうだ! マサキさん。これからは毎日兎園に来ましょうよ。毎日もふもふしたいです!」
「それはナイスアイディアだ。入場料もかからないし歩いて来れる距離だし毎日来なきゃ損だよな」
マサキとネージュはご満悦だ。
人間不信のマサキと恥ずかしがり屋のネージュが毎日来たいと思うほど兎園は素晴らしいところなのである。一言で表すのならば『ウサギのもふもふ天国』だ。
「猫とか犬とかはさ、ぷにぷにの肉球があるけど、ウサギって肉球がないんだね。知らなかったよ」
「そうですね。ウサギさんに肉球はありませんね」
「そんで、肉球の代わりにさ、手足がもふもふしてるんだよ。もうもふもふじゃない部分がどこにもない……どこもかしこももふもふ……もふもふの塊だよ~」
両手が使えないマサキは顔面をウサギに踏まれながら手足のもふもふを堪能している。
右手はネージュと手を繋いでいて、左腕にはいまだに離れてくれないウサ耳の大きなチョコレートカラーのウサギがいる。だからマサキは両手が使えないのである。
「おにーちゃんおにーちゃん! すごいもふもふの子を持ってきたぞー」
「で、でかもふだ! デカすぎるだろ! そんなウサギがいんのか!」
薄桃色の髪の美少女クレールがマサキに持ってきたウサギはフレミッシュジャイアントだ。その名の通りウサギの中でも大きな種類のウサギ。
フレミッシュジャイアントの伸びきった体は低身長のクレールよりも大きい。そんなウサギをクレールは小さな体で精一杯持ちながら歩いてきたのである。
「でーかーもーふー!」
クレールは可愛らしいロリボイスで言いながらフレミッシュジャイアントをマサキのお腹の上に置いた。
「ぐほっ、お、重い……も、もふもふに……もふもふに……つ、潰される……」
マサキのお腹の上で無表情のまま乗るフレミッシュジャイアント。そのウサギの重さに肺が苦しくなり呼吸しづらくなるマサキだったが、もふもふに殺されるのなら本望だと、幸せそうな顔で苦しんでいた。
マサキのお腹の上に乗っているフレミッシュジャイアントは鼻をひくひくさせてマサキの左腕にいるウサギをじーっと見ていた。
「ンッンッ」
マサキの左腕の中にいるウサギは声を漏らしながらマサキの腹の上に乗っているフレミッシュジャイアントをじーっと見ている。
二匹ウサギの漆黒の瞳が交差し合っている。
「な、なんか……大丈夫か? あ、暴れたりしないよな?」
漆黒の瞳を交差し合う二匹のウサギに気付いたマサキは嫌な予感を感じていた。一触即発。そんなことを感じさせるような重たい空気を感じているのだ。
重たい空気の中、何も起こらない時間は身動きが取れないマサキにとっては長く感じるもの。そして恐怖をひしひしと感じてしまうものだ。
「ンッンッ」
しかしいくら待っても一向に何も起こらない。
ただ漆黒の瞳で見つめ合い、鼻をひくひくさせ声を漏らしているだけだった。
「マサキさん。ウサギさんは温厚な性格の子が多いので暴れたりしませんよ。縄張り意識もここでは意味ないですからね」
「そ、そうなのか。喧嘩すんのかと思ったよ……それにしても本当に無表情で何考えてるかわかんないよな」
「そうですよね。悩み事とかなくて幸せなのかもしれませんよ」
「幸せか……そ、そうだ! ウサギちゃんの家族を探さなきゃ!」
「そうでしたね。すっかりもふもふに魅了されて忘れてました!
マサキとネージュはマサキの左腕の中にいるウサギの家族探しを思い出した。
「ここには同じ種類のウサギは……いないな……ってことは家族はここにはいないってことかな? 同じ種類のウサギはどこにいるんだ?」
本来の目的を思い出したマサキは辺りを見渡し同じ種類のウサギを探すが見つけられずにいた。
そんなマサキにウサギのウサ耳をはむはむと咥えて特殊な楽しみ方をしているクレールが口を開く。
「はむっはむはむはむはむっはむはむはむ……」
「な、なにー! 同じ種類のウサギをダールが見つけただって?」
「はむはむっはむはむはむはむっはむはむ……」
「よし! わかった。案内してくれ!」
はむはむとしか言っていないクレールの言葉を完全に理解するマサキ。過去にガタガタと震えているネージュの言葉も完全に理解していたこともあったのでマサキの理解力は異常すぎるほど驚異的なものだ。
「もふもふをたっぷりと堪能できましたし、この子の家族のところへ行きましょうか」
先に立ち上がったのはネージュだ。マサキは両手が使えないので一人で立ち上がるのは困難。なのでネージュが先に立ちマサキと手を繋いでいる左手で引っ張って立ち上がらせてあげるのである。
マサキが立ち上がる前、お腹の上に乗っていたフレミッシュジャイアントやマサキの体に乗っているウサギたちをクレールが退かしてあげていた。
「ありがとうネージュ、クレール。とりあえずダールのところに行く前にここでも試してみるか。友達とかもいるかもしれないしな……」
マサキは左腕の中にいるウサギを下ろそうと試みた。
「ンッンッ」
ウサギは無表情で声を漏らしている。そしてマサキから離れるのを激しく嫌がっている。やはりマサキから離れることはなかった。
「ダメでしたね。友達はいないみたいです。でも家族のところに行けばきっと大丈夫ですよ。ダールが待ってますし行きましょう!」
「そうだな。行こう!」
マサキとネージュはクレールの案内に従ってウサ耳が大きなイングリッシュロップイヤーがいる場所へと移動した。
「もふっ……兄さん姉さん……もふっ……お、遅いッスよ!」
そんなダールの声がマサキたちの耳に届いたが、どこにもダールの姿はなかった。
しかしどこにいるかは、目の前の光景を見ればわかる。イングリッシュロップイヤーの群の中だ。大きなウサ耳のイングリッシュロップイヤーたちに群がられてダールの全身が隠れてしまっているのだ。
時々、オレンジ色の髪とむちむちの太ももが見えるのでダールで間違いないだろう。
「でかしたぞダール! ウサギちゃんにそっくりなウサギがいっぱいだ! というか全員同じ顔……家族で確定だろ! これウサギちゃんが群の中に入ったら完全に見失うな……」
「あれ? マサキさんなんか寂しそうな顔してますよ。もしかしてこの子と離れるのが寂しいんですか?」
左腕の中にいるウサギを寂しげに見るマサキの表情をネージュは見逃さなかった。
「そ、そんなことないよ……ただ、ウサギちゃんがどれだか分からなくなるのがちょっとだけ寂しいなって思っただけ。何度も兎園に来るならウサギちゃんに会いたいからさ……」
「ふふっ。その子に愛着が湧いちゃったみたいですね」
ネージュの言う通りマサキは左腕の中にいるウサギに愛着が湧いてしまったのだ。
何度も離れようとしても離れてくれないウサギ。そのウサギが仲間の群れ、家族の群れに入ってしまえばマサキは認識できなくなってしまい見失ってしまう。そんな寂しさがあるのである。
「せめて顔の特徴とか覚えておこう。どれどれ……」
マサキは左腕の中にいるウサギの顔をまじまじと見た。そして別のイングリッシュロップイヤーの顔と比較する。
比較結果。どれも同じ顔。ウサギを見慣れていないマサキには全く見分けがつかないのだった。
「顔はダメだ……ウサ耳はどうだ? 模様があったりしないか?」
ウサ耳を確認するマサキ。ネージュがウサギの耳をマサキに見やすいようにめくったりして見せている。
「どうですか? 何か特徴的な模様とかありましたか?」
「ダメだ……全部茶色い毛……途中から毛が薄くなってピンク色の肌が見えてくるけど他のウサギも同じだ……完全に見分けがつかねー」
マサキはウサギを比較するのを断念した。肩を落とし酷く落ち込んだ様子で黒瞳はウサギの漆黒の瞳を覗き込む。
そんな落ち込むマサキにネージュが別の解決方法を導きだす。
「マサキさんがこの子を分からなくなっても、この子がマサキさんのことを認識してくれればいいんじゃないですか? こんなに懐いてますしきっと覚えてくれますよ」
「そうかな……そんなもんかな? 覚えててくれるかな?」
「はい。きっと覚えてくれます。匂いとか声とか雰囲気とかで、きっとマサキさんのことを覚えててくれますよ」
「ネージュがそこまで言うなら……わかった。ウサギちゃんを信じることにするよ。ウサギちゃんの幸せのためだ。家族の元へお帰り」
マサキはイングリッシュロップイヤーに埋もれているダールの元へと近付いた。そして左腕の中にいるウサギをその群れの中に下ろそうとする。
「ンッンッ」
ウサギは声を漏らしながら仲間の群れに帰っていった。
「……ぁ……」
マサキも自然と声が漏れた。
今まで離れなかったウサギがこうもあっさり離れたのだ。腕の中の重みが一瞬で消え寂しさや虚無感を感じるのは仕方がないこと。
左腕に残っている温もりも徐々に冷めていく。それと同時にととめどない寂しさがマサキの心を蝕んでいく。
「短い間だったけどありがとうな……もう逃げ出すなよ……幸せに暮らせよな」
「ンッンッ」
「ンッンッ」
「ンッンッ」
どのウサギが声を漏らして鳴いているのかはマサキには分からなかった。声の質も音量もリズムもほぼ同じ。出会って数時間のウサギの鳴き声などそう簡単には覚えられない。
それでもマサキは左腕の中にいたウサギが返事をしてくれたのだと信じた。そしてマサキはその場から立ち去ろうとする。
ネージュはウサギに手を振り別れを伝えてからマサキと同じようにウサギたちに背を向けた。
クレールはイングリッシュロップイヤーたちの頭を撫でてからマサキの寂しげな背中を追いかけた。
ダールはイングリッシュロップイヤーの群れから抜け出し、体についた汚れを叩いてからマサキたちの後を追いかける。
マサキたちはウサギを家族の元へ返す目的を果たして、この場から立ち去るのであった。
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