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第2章:出逢い『腹ぺこな兎人ちゃんが来た編』

69 抱き付きながら眠る美少女たち

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 マサキは体の違和感に気が付き、暗い暗い闇の中から意識が覚醒した。

(なんだろう……体が重い……それに動けない……)

 金縛りにかかっているのだろうかと思うくらい体の自由が効かない状態に陥っていた。
 その原因を確認するべくマサキは目蓋を開ける。
 マサキの黒瞳に映るのは茶色い天井だ。家は大樹でできている。つまりその大樹の内側の部分がマサキの黒瞳に映っているのだ。
 そして甘くて心が落ち着き安らぐ、そんな嗅ぎ慣れた香りがマサキの嗅覚を刺激する。そう。この香りはどんな時でも隣にいる相棒のネージュだ。
 ネージュの隣で寝ていたのでマサキの隣にネージュがいても不自然ではない。
 しかしマサキは気が付いた。ネージュが右側にいることを。

(たしか床で寝た時はネージュは左側にいたはずだよな……体が動かなくてはっきり見えないけどネージュは俺の右側にいるぞ……なんでだ? 仰向けからうつ伏せに変われば左右変わるだろうけど、寝る前も今も仰向けだ。どうなってる……ってそれよりもネージュ近すぎないか? ウサ耳が当たりそう。ってこれはチャンスなんじゃないか? 一度でいいからネージュのウサ耳に顔を当ててすりすりしたい……だが、無理だ……動けない……)

 マサキの右側にはネージュがいる。しかも密着しているほど近い。そのせいでネージュの垂れているウサ耳がマサキの顔に当たりそうになっているのだ。

(なんでこういう時に限って動けないんだよ……というか俺の右腕がめちゃくちゃ柔らかい何かに当たってる。それに背中も……なるほど。俺はいつの間にか布団の中に入ってしまったってことか。だからネージュが右側に……今回は俺の寝相が悪かったってことね。まあ昨日の疲れもあったししょうがない。誤解される前にここから出たいが……やっぱり動けない……にしても右腕だけやけに気持ちいいわ。柔らかすぎる……)

 マサキは背中と右腕に感じた柔らかい感触から布団の上へ移動したのだと考察した。
 毎回マサキとネージュは寝相が悪く朝目が覚めると抱き合っていることがほぼ毎日だ。それはお互いの寝相が悪いということで仕方のないことだと話し合いで解決した。
 しかし今回は違う。明らかに床で寝ていたマサキの方から布団に潜り込んでいるのだ。

(やべーぞ。体が動けない分、頭が冴えてきた。もしかしてもしかすると……俺の右腕に感じるこのマシュマロのように柔らかい感触って……ネージュのマフマフなんじゃないか?)

 マサキは気が付いてしまった。右腕に感じる柔らかい感触の正体を。それはマサキの想像通りネージュの胸。そう。マフマフだ。
 そして密着していることからネージュはマサキの右腕を挟み抱き付いて寝ているということがわかる。

(まずい……早くここから出ないと……またネージュに怒られる。今まではラッキースケベで不可抗力そして無意識だったけど今は完全に意識しちゃってる。右腕がネージュのマフマフの柔らかさを楽しんじゃってる!)

 ネージュのマフマフの谷間にマサキの右腕はしっかりと挟まれている。まるでクダモノハサミの果物のように。
 そして右腕を動かすことはできないがネージュが呼吸するたびにマフマフが動くのでマサキは常時右腕に柔らかい感触を感じてしまっているのだ。

(お、落ち着け俺……ネージュのウサ耳もマフマフもいつも見てるだろ……だから平常心、平常心を保つんだ……そんでまずは金縛りを解く方法を探ろう。そうじゃなきゃいつまで経っても動けないままだ)

 マサキはネージュが起きる前に体を動かす方法がないかを考え始めた。考えた結果、まずは体の中で動く部位を探り始める。
 足の指を曲げてみる。成功。足の指は動く。次にくるぶし。動かない。次に膝。動かない。次に股関節。動かない。動いたとしても今は役に立たない。
 そんな感じで下から上へと徐々に体の部位で動くところはないかと探っていた。そして体の部位の一つ一つに集中することで新たな発見もあった。

(てっきり金縛りで体が動かないと思ってたけど腹と胸の部分を集中させてようやく気が付いた。この体の重みは肉体的な重み。つまり疲労によるものじゃない……この重みは物理的な重み……そうクレールだ)

 マサキは体が動けない原因の一つがクレールだと考察した。クレールが仰向けで寝ているマサキの上に乗り抱きついているせいで動けないのだと。
 だからこそマサキは真実を確かめるためネージュの白銀の頭の先を細目で見た。そして視界の先には薄桃色の頭が微かに見えたのだ。
 マサキの考察通り。クレールはマサキの上でマサキに抱きつきながら寝ている。だから体が重く感じ動けないのである。

(右側ではネージュが俺を抱き枕に。しかもいつも以上にがっつり抱きついてやがる。そんでいつもは上になんて乗らないクレールが今日に限って上に乗って抱きついてる。子供だと侮っていた。抱き付く力が強くて抜け出せない……ペットとか飼ってると朝起きた時に上で寝てて重いってよく聞いたことがあるぞ。それと同じ感覚か……だとしたらクレールの頭とかめちゃくちゃ撫でたい。わしゃわしゃしたい。って今はそれどころじゃない……クレールもクレールでラッキースケベとかに厳しいからな。早く抜け出さなきゃ。怒られる。金縛りじゃないってわかればあとは俺の力の問題だ。寝起きでしかもひょろひょろのもやしボディだが俺だって男だ。抜け出してやる)

 マサキは力を振り絞った。しかし体は全く動かない。

(あ、あれ……体ってどうやって動かすんだっけ? いつもやってることがこうも意識するとできなくなってしまうものなのか。この現象なんていうだっけか? ゲシュタルト崩壊? それは何回も同じ文字を書くやつか……って今はそれどころじゃない。この状況は楽園いや、天国以上の極楽だが、あとで変態呼ばわりされるのは御免だ)

 マサキは天国にずっといたいという気持ちを押し殺した。そして後に訪れるであろう地獄から回避しようと再び思考を始める。
 そして閃いた。この状況を打破する方法を。

(右側にはネージュ。上にはクレール。それなら左側だ。左腕が自由に動けばあとは簡単。左腕と体の筋肉を集中させて一気に動けばここから抜け出せられるはずだ。よしやってみよう!)

 マサキは左腕に力を込めた。しかし動かない。全くと言っていいほど動かないのだ。まるで何かが左腕を掴んでいるかのように。
 そして左腕を掴んでいる何かはとても柔らかい。ネージュのマフマフと同等レベルの柔らかさだ。
 マサキは左腕を掴んでいる正体が何なのか思考する。そして思考している最中マサキの視線の左上にオレンジ色の影が見えた。

(オレンジ色の……髪か……オレンジ……髪……ま、まさか……)

 マサキは気付いた、否、思い出した。今日の朝はいつもの朝とは違うことを。
 それはオレンジ色の髪をしたダールとその妹たちも泊まりに来ているということに。
 そのことさえ気付いてしまえばあとは簡単。左腕に感じる柔らかいもの、そして左上に見えるオレンジ色の髪の正体。それはダールだということだ。

(こ、この左腕の柔らかいのってダールの太ももじゃないか? 足を曲げて足のみで俺に抱き付いてきてるってことだよな。だから俺の視線の上にダールのオレンジ色の髪が見えたんだ。ってこの状況なんだ? 右側にネージュ、上にクレール、左側にダール。これって変形合体ロボみたいじゃんか! それか一対三のプロレス! またはあらゆる生物が融合したキメラだ! ってそんなことはどうでもいいんだよ。早くこの天国から抜け出さないと……)

 マサキの想像通りダールは太ももでマサキの左腕に抱き付いている。
 そして体を曲げてマサキと密着しているのだ。だからマサキの視線の左上にダールのオレンジ色の髪の毛が見えたのである。

 マサキは異様な形で抱き付く兎人族とじんぞくたちをありとあらゆる例えで想像していた。その後、冷静に戻りこの状況から抜け出す方法を必死に考える。

(ダ、ダメだ。こりゃ抜け出せん……諦めが肝心っていうよな……よし。諦めよう。諦めてネージュのマフマフとウサ耳、クレールの可愛らしい重さと温もり、ダールの太ももを堪能しよう。うん。そうしよう。これはご褒美だ。ご褒美は受け取ってこそご褒美なのだ)

 マサキは抜け出すのを諦めた。そして五感全てを集中してこの状況を精一杯楽しんだ。

 五感を集中させることに疲れたマサキは目蓋を閉じる。そのまま意識が朦朧とし始める。
 マサキが眠りかけたその時、誰かが玄関をノックをした。
 その誰かは客ではない。客ではないとわかったのはその人物が名乗ったからだ。

「聖騎士団白兎びゃっと所属のアンブル・ブランシュだ。セトヤ・マサキ並びにフロコン・ド・ネージュに話があってここに来た」

 その声に全員がパッと瞳を開けて起きた。
 全く動くことができなかったマサキの体はここでようやく動きだす。マサキの体は小刻みに震え始めて止まらなくなってしまった。

(な、なんで騎士が! 俺たちになんの用事だよ!)

 一気に目が覚めるマサキだった。
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