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第1章:異世界生活『営業開始編』
38 眠りのおばあちゃん
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店内を回り、ある程度商品を見終わったマサキとネージュは本格的に買い物を始めた。
そんな中、マサキは手に持った商品と睨めっこしている。
「えーっと生クリームの値段は……」
マサキは生クリームの値札を探しているのだ。
無人販売所の経営のおかげで値札くらいは一人でも読めるようになっているマサキ。しかしどこにも値札が無く生クリームの値段がわからなかった。
「……一パック二百ラビ」
生クリームの値札を見つける前にマサキの耳に生クリームの値段が届いた。
「おっ、ありがとうネージュ。てかどこに値段書いてあったんだ? 全然見つからないんだけど。冷蔵庫の中か? 無いよな……」
「え? 知りませんよ。私じゃありません」
「え? 私じゃありませんって……じゃあ今、二百ラビって言ったのは誰なんだよ……」
その瞬間、二人は目を合わせた。日本人の特徴でもある黒い瞳とネージュの青く澄んだ綺麗な瞳。その二つの視線が交差したのだ。
その後、ゴクリと生唾を呑みゆっくりと振り向く。まるで心霊スポットにでもいるかのようにゆっくりとゆっくりと振り向いた。
ゆっくりと振り向く二人の視線は、入ってきた入り口方面、小さな木製のテーブルの前で腰掛けるおばあちゃん店主へと向かっていった。
なぜならマサキに生クリームの値段を教えた声がそこから飛んできたからだ。そしてそんなことを言えるのは店主であるおばあちゃんしかいないと思ったからだ。
マサキは生クリームの値札を探している間におばあちゃん店主の目が覚めたのだとそう考えた。
しかしおばあちゃん店主は目を開けているものの、コクンコクンと頭を動かして寝ているようにも見える。先ほどと何も変わらない光景だったのだ。
「ね、寝てるよな……で、でも声がした方向はあのおばあちゃんがいるところからなんだよな……それに目も開いてるし、やっぱり起きてる? それとも寝ぼけてたまたま反応したとかか……」
「目を開けながら寝る兎人族は結構いますよ。高齢の方に多いとか……私のおばあちゃんもそうでした」
「そ、それ初耳……」
目を開けながら寝るのは戦争があった時代の名残だ。
戦闘においては人間族の次に最弱な兎人族。敵から素早く逃げるために寝ている間でも目を開けていることがある。
特に高齢の兎人族には目を開けながら寝ることが多いのだ。
「だから寝てるはずですよ。なのに声がしたのでビックリしましたよ。悪いことしてないのにビクビクするこの気持ち……聖騎士団の前にいるみたいな……なんなんでしょうねこの気持ちは……」
「わかるわかる。俺も小学生の時、登下校で警察署の前とかビクビクしながら通ってた。何もしてないのになんでだろうな…………って話が逸れた。兎人族って目を開けながら寝れるのね。じゃあもう一回、同じ質問をしてみようかな……」
マサキは声の正体が知りたくて再び同じ質問をしようと恐る恐る口を開いた。
「な、生クリームの値段は?」
「……一パック二百ラビ」
「ひぃぃ……」
表情や姿勢は全く変わらないがハッキリとおばあちゃん店主の口が動いた。
「眠りの名探偵が頭の中でチラついてたけど、ハッキリ口が動いたな……でも寝てる……よな? どうなんてんだ……兎人族は寝ながら会話できるの?」
「寝ながら会話なんて聞いたことありませんね……」
眠っている相手から返事が来る不可思議な状況にビクビクとするマサキとネージュ。
目を開けて寝ていることに対してはなんとも思っていないネージュだが、返事までされると訳が分からない。二人はそのまま不思議そうにおばあちゃん店主を見続けていた。
そしてマサキはもう一度おばあちゃん店主が喋っているのかどうかを確認するために別の質問を繰り出す。
「しょ、食パンの値段は?」
「……一斤百ラビ」
「ニ、ニンジンの値段は?」
「……一本百ラビ」
「バ、バナナの値段は?」
「……一房百五十ラビ」
「マ、マジか……す、すごいんだけど……」
おばあちゃん店主は紛れもなく眠りながらハッキリと答えていた。もはや寝ていないと思うほどハッキリと答えていたのだ。それも瞬時に。
「寝ながら仕事をこなす。まさに職人。プロだ……スゴ技だ。俺たちもこの技を習得しよう」
「す、すごいですけど、私たち無人販売所ですよ……習得しても使いどころがないです」
「た、確かに……」
おばあちゃん店主の凄技に感銘を受けるマサキ。
そのまま二人は、おばあちゃん店主をチラチラと気にしながら買い物を続けた。
「とりあえず買う物が増えそうだからカゴが必要なんだが……これ、カゴでいいんだよな? 俺の知ってるスーパーとかコンビニとかのカゴとは全然違うんだが……何というか……ダンボール……だよな。これ」
マサキが手に取ったものはクラフト色のダンボールだ。持ち運びやすいように両サイドには穴が開いている。
これが買い物カゴということにマサキは戸惑っているのである。
「そうなんですか? 兎人族の里ではこれが普通ですよ」
「おー、またしてもカルチャーショック。でも大丈夫か? 買いたい物入れてったら結構重くなるぞ。穴開いたり壊れたりしないのか? 入れて大丈夫?」
「心配しすぎですよ。大丈夫です。大樹に住む妖精さんが作ったものですから滅多なことがない限り壊れたり穴が開いたりしないんですよ」
「出た! 妖精! 袋とか歯ブラシとかも作ってたよね。製造会社かなんか運営してんのかよ……」
万能すぎる妖精に驚きを隠せないマサキ。
ネージュの言葉を信じて生クリームのパックをダンボールに詰めていく。
一見普通のダンボールだが正体は妖精が作った魔道具なのだ。耐久性はもちろん耐熱性、耐寒性に優れており魔法以外では壊すことはまず不可能だ。
このダンボールは片手で持つことができるが、商品を入れ続けると片手で持つことが不可能になる。
なのでマサキとネージュの二人は二人の空いた手で一緒にダンボールを持つ事になった。
手は繋がれたまま、ダンボールを二人で持っている。今、八百屋で、人間族と兎人族とダンボールの輪が完成したのである。
とてつもなく買い物に適していない体勢の二人だが、二人は絶対に手を離さない。
外出中に手を離してしまうと抑えていた不安と恐怖と緊張が爆発して平常心を保てなくなってしまうかもしれないからである。
だから如何なる時でも手を離すことができないのである。
このまま二人は欲しい商品をダンボールのような買い物カゴに詰めていった。
商品を入れる時は買い物カゴを一旦地面に置く。そうしなければ輪になっているので商品を買い物カゴに入れることができないのだ。
買い物を終えいよいよ会計だ。
八百屋のおばあちゃん店主は二人が買い物をしている間、一度も目を覚ましていない。
寝ている状態では商品の会計をすることは不可能だ。なのでおばあちゃん店主を起こしてあげなくてはならない。
二人がおばあちゃん店主を起こそうとした次の瞬間……
「……七千八百ラビ」
その一言が二人の耳に届いた。
確かに商品の合計金額は『七千八百ラビ』だ。二人は予め計算していたので合計金額を知っていた。
しかし合計金額を言ったのは寝ているはずのおばあちゃん店主だ。そして買い物カゴの中を確認せずに瞬時に答えた。この状況なら誰でも驚くだろう。
二人は飛び出した言葉がいきなりすぎて聞き間違いかと思ってしまった。そして二人同時に「え?」と、息を吐くように言葉が溢れる。
「……七千八百ラビ」
再びおばあちゃん店主の口からお支払いの合計金額が伝えられた。
買い物カゴに入っている商品を確認する様子は一切ない。買い物カゴの見た目はダンボールそのものなので横から商品を確認することはできない。だから上から覗き込まないと見えないはずなのだ。
そもそもおばあちゃん店主は目を開けているが木製テーブルの表面しか見ておらず買い物カゴの中身を確認することは不可能なのである。
凄技を通り越してもはや神業。誰にも真似できない神業だ。
ネージュは驚きながらも恐る恐るロリータファッションの内側にあるポケットから財布を取り出した。
そして財布から銀貨と銅貨を取り出し商品の代金を支払った。
ネージュは寝ているおばあちゃん店主に気を遣ったのだろう。お釣りが出ないようにピッタリと支払ったのである。
そして購入した商品を買い物カゴから袋に詰める。ダンボールのような買い物カゴは店の買い物カゴなので持ち帰り厳禁なのだ。なので袋に詰め替えて持ち帰らなければならない。
この袋は大樹に住む妖精が作った茶色い袋だ。家にある砂糖を保存している茶色い袋の大きいバージョンだ。
妖精が作っていることもあって魔法以外のダメージでは袋は絶対に破れることはない。
袋に入れ終わった二人は八百屋を退店。
二人が退店する時もおばあちゃん店主からの退店の挨拶はなかった。
「本当に寝てるみたいだな……レジができたのってもしかしてスキルとか魔法とかの効果?」
「そうかもしれませんが、寝ながら会話ができて瞬時に商品の計算ができる……こんなスキルとか魔法とか聞いたことありませんよ」
「じゃあやっぱり長年の経験から生み出した神業ってことなんだな。す、すごい……」
マサキは退店してからもしばらくの間、八百屋を見続けていた。どうしてもおばあちゃん店主が気になっているみたいだ。
うとうとと頭を揺らすあばあちゃん店主の姿は二人が店から離れても一切変わることはなかった。
「また八百屋に来よう。寝てるおばあちゃん相手なら買い物も緊張せずにできるからね。でもいつ起きるか分からない緊張感はあったけどな……とりあえず神業の真相が気になる」
「そうですね。見られてないなら私も恥ずかしくありませんし……ショッピングモールよりは断然買い物がしやすかったです。おかげで思ったよりもたくさん買ってしまいましたね」
「結局ニンジン全部買っちゃったしね……」
「ふふっそうですね」
二人は手を繋ぎながら大量に買った商品を分け合い持っている。
本来なら男のマサキが荷物係になるはずだ。しかし手を繋いでいて片手でしか荷物が持てないのでネージュも荷物を持ってくれているのだ。
手を繋いでいなかったとしてもネージュはマサキに全ての荷物は持たせなかっただろう。そしてマサキも枝のように細い腕のネージュに荷物は持たせたがらなかっただろう。
手を繋いでいなかったら相手のことを思い荷物を持つ持たせないの話になり話がまとまらずにギクシャクしていたかもしれない。
そう思うと心優しい二人は手を繋いでいてよかったのかもしれない。
重たい荷物を分け合いながら手を繋ぐ二人は何気ない会話を交わしながら家に帰るのであった。
そんな中、マサキは手に持った商品と睨めっこしている。
「えーっと生クリームの値段は……」
マサキは生クリームの値札を探しているのだ。
無人販売所の経営のおかげで値札くらいは一人でも読めるようになっているマサキ。しかしどこにも値札が無く生クリームの値段がわからなかった。
「……一パック二百ラビ」
生クリームの値札を見つける前にマサキの耳に生クリームの値段が届いた。
「おっ、ありがとうネージュ。てかどこに値段書いてあったんだ? 全然見つからないんだけど。冷蔵庫の中か? 無いよな……」
「え? 知りませんよ。私じゃありません」
「え? 私じゃありませんって……じゃあ今、二百ラビって言ったのは誰なんだよ……」
その瞬間、二人は目を合わせた。日本人の特徴でもある黒い瞳とネージュの青く澄んだ綺麗な瞳。その二つの視線が交差したのだ。
その後、ゴクリと生唾を呑みゆっくりと振り向く。まるで心霊スポットにでもいるかのようにゆっくりとゆっくりと振り向いた。
ゆっくりと振り向く二人の視線は、入ってきた入り口方面、小さな木製のテーブルの前で腰掛けるおばあちゃん店主へと向かっていった。
なぜならマサキに生クリームの値段を教えた声がそこから飛んできたからだ。そしてそんなことを言えるのは店主であるおばあちゃんしかいないと思ったからだ。
マサキは生クリームの値札を探している間におばあちゃん店主の目が覚めたのだとそう考えた。
しかしおばあちゃん店主は目を開けているものの、コクンコクンと頭を動かして寝ているようにも見える。先ほどと何も変わらない光景だったのだ。
「ね、寝てるよな……で、でも声がした方向はあのおばあちゃんがいるところからなんだよな……それに目も開いてるし、やっぱり起きてる? それとも寝ぼけてたまたま反応したとかか……」
「目を開けながら寝る兎人族は結構いますよ。高齢の方に多いとか……私のおばあちゃんもそうでした」
「そ、それ初耳……」
目を開けながら寝るのは戦争があった時代の名残だ。
戦闘においては人間族の次に最弱な兎人族。敵から素早く逃げるために寝ている間でも目を開けていることがある。
特に高齢の兎人族には目を開けながら寝ることが多いのだ。
「だから寝てるはずですよ。なのに声がしたのでビックリしましたよ。悪いことしてないのにビクビクするこの気持ち……聖騎士団の前にいるみたいな……なんなんでしょうねこの気持ちは……」
「わかるわかる。俺も小学生の時、登下校で警察署の前とかビクビクしながら通ってた。何もしてないのになんでだろうな…………って話が逸れた。兎人族って目を開けながら寝れるのね。じゃあもう一回、同じ質問をしてみようかな……」
マサキは声の正体が知りたくて再び同じ質問をしようと恐る恐る口を開いた。
「な、生クリームの値段は?」
「……一パック二百ラビ」
「ひぃぃ……」
表情や姿勢は全く変わらないがハッキリとおばあちゃん店主の口が動いた。
「眠りの名探偵が頭の中でチラついてたけど、ハッキリ口が動いたな……でも寝てる……よな? どうなんてんだ……兎人族は寝ながら会話できるの?」
「寝ながら会話なんて聞いたことありませんね……」
眠っている相手から返事が来る不可思議な状況にビクビクとするマサキとネージュ。
目を開けて寝ていることに対してはなんとも思っていないネージュだが、返事までされると訳が分からない。二人はそのまま不思議そうにおばあちゃん店主を見続けていた。
そしてマサキはもう一度おばあちゃん店主が喋っているのかどうかを確認するために別の質問を繰り出す。
「しょ、食パンの値段は?」
「……一斤百ラビ」
「ニ、ニンジンの値段は?」
「……一本百ラビ」
「バ、バナナの値段は?」
「……一房百五十ラビ」
「マ、マジか……す、すごいんだけど……」
おばあちゃん店主は紛れもなく眠りながらハッキリと答えていた。もはや寝ていないと思うほどハッキリと答えていたのだ。それも瞬時に。
「寝ながら仕事をこなす。まさに職人。プロだ……スゴ技だ。俺たちもこの技を習得しよう」
「す、すごいですけど、私たち無人販売所ですよ……習得しても使いどころがないです」
「た、確かに……」
おばあちゃん店主の凄技に感銘を受けるマサキ。
そのまま二人は、おばあちゃん店主をチラチラと気にしながら買い物を続けた。
「とりあえず買う物が増えそうだからカゴが必要なんだが……これ、カゴでいいんだよな? 俺の知ってるスーパーとかコンビニとかのカゴとは全然違うんだが……何というか……ダンボール……だよな。これ」
マサキが手に取ったものはクラフト色のダンボールだ。持ち運びやすいように両サイドには穴が開いている。
これが買い物カゴということにマサキは戸惑っているのである。
「そうなんですか? 兎人族の里ではこれが普通ですよ」
「おー、またしてもカルチャーショック。でも大丈夫か? 買いたい物入れてったら結構重くなるぞ。穴開いたり壊れたりしないのか? 入れて大丈夫?」
「心配しすぎですよ。大丈夫です。大樹に住む妖精さんが作ったものですから滅多なことがない限り壊れたり穴が開いたりしないんですよ」
「出た! 妖精! 袋とか歯ブラシとかも作ってたよね。製造会社かなんか運営してんのかよ……」
万能すぎる妖精に驚きを隠せないマサキ。
ネージュの言葉を信じて生クリームのパックをダンボールに詰めていく。
一見普通のダンボールだが正体は妖精が作った魔道具なのだ。耐久性はもちろん耐熱性、耐寒性に優れており魔法以外では壊すことはまず不可能だ。
このダンボールは片手で持つことができるが、商品を入れ続けると片手で持つことが不可能になる。
なのでマサキとネージュの二人は二人の空いた手で一緒にダンボールを持つ事になった。
手は繋がれたまま、ダンボールを二人で持っている。今、八百屋で、人間族と兎人族とダンボールの輪が完成したのである。
とてつもなく買い物に適していない体勢の二人だが、二人は絶対に手を離さない。
外出中に手を離してしまうと抑えていた不安と恐怖と緊張が爆発して平常心を保てなくなってしまうかもしれないからである。
だから如何なる時でも手を離すことができないのである。
このまま二人は欲しい商品をダンボールのような買い物カゴに詰めていった。
商品を入れる時は買い物カゴを一旦地面に置く。そうしなければ輪になっているので商品を買い物カゴに入れることができないのだ。
買い物を終えいよいよ会計だ。
八百屋のおばあちゃん店主は二人が買い物をしている間、一度も目を覚ましていない。
寝ている状態では商品の会計をすることは不可能だ。なのでおばあちゃん店主を起こしてあげなくてはならない。
二人がおばあちゃん店主を起こそうとした次の瞬間……
「……七千八百ラビ」
その一言が二人の耳に届いた。
確かに商品の合計金額は『七千八百ラビ』だ。二人は予め計算していたので合計金額を知っていた。
しかし合計金額を言ったのは寝ているはずのおばあちゃん店主だ。そして買い物カゴの中を確認せずに瞬時に答えた。この状況なら誰でも驚くだろう。
二人は飛び出した言葉がいきなりすぎて聞き間違いかと思ってしまった。そして二人同時に「え?」と、息を吐くように言葉が溢れる。
「……七千八百ラビ」
再びおばあちゃん店主の口からお支払いの合計金額が伝えられた。
買い物カゴに入っている商品を確認する様子は一切ない。買い物カゴの見た目はダンボールそのものなので横から商品を確認することはできない。だから上から覗き込まないと見えないはずなのだ。
そもそもおばあちゃん店主は目を開けているが木製テーブルの表面しか見ておらず買い物カゴの中身を確認することは不可能なのである。
凄技を通り越してもはや神業。誰にも真似できない神業だ。
ネージュは驚きながらも恐る恐るロリータファッションの内側にあるポケットから財布を取り出した。
そして財布から銀貨と銅貨を取り出し商品の代金を支払った。
ネージュは寝ているおばあちゃん店主に気を遣ったのだろう。お釣りが出ないようにピッタリと支払ったのである。
そして購入した商品を買い物カゴから袋に詰める。ダンボールのような買い物カゴは店の買い物カゴなので持ち帰り厳禁なのだ。なので袋に詰め替えて持ち帰らなければならない。
この袋は大樹に住む妖精が作った茶色い袋だ。家にある砂糖を保存している茶色い袋の大きいバージョンだ。
妖精が作っていることもあって魔法以外のダメージでは袋は絶対に破れることはない。
袋に入れ終わった二人は八百屋を退店。
二人が退店する時もおばあちゃん店主からの退店の挨拶はなかった。
「本当に寝てるみたいだな……レジができたのってもしかしてスキルとか魔法とかの効果?」
「そうかもしれませんが、寝ながら会話ができて瞬時に商品の計算ができる……こんなスキルとか魔法とか聞いたことありませんよ」
「じゃあやっぱり長年の経験から生み出した神業ってことなんだな。す、すごい……」
マサキは退店してからもしばらくの間、八百屋を見続けていた。どうしてもおばあちゃん店主が気になっているみたいだ。
うとうとと頭を揺らすあばあちゃん店主の姿は二人が店から離れても一切変わることはなかった。
「また八百屋に来よう。寝てるおばあちゃん相手なら買い物も緊張せずにできるからね。でもいつ起きるか分からない緊張感はあったけどな……とりあえず神業の真相が気になる」
「そうですね。見られてないなら私も恥ずかしくありませんし……ショッピングモールよりは断然買い物がしやすかったです。おかげで思ったよりもたくさん買ってしまいましたね」
「結局ニンジン全部買っちゃったしね……」
「ふふっそうですね」
二人は手を繋ぎながら大量に買った商品を分け合い持っている。
本来なら男のマサキが荷物係になるはずだ。しかし手を繋いでいて片手でしか荷物が持てないのでネージュも荷物を持ってくれているのだ。
手を繋いでいなかったとしてもネージュはマサキに全ての荷物は持たせなかっただろう。そしてマサキも枝のように細い腕のネージュに荷物は持たせたがらなかっただろう。
手を繋いでいなかったら相手のことを思い荷物を持つ持たせないの話になり話がまとまらずにギクシャクしていたかもしれない。
そう思うと心優しい二人は手を繋いでいてよかったのかもしれない。
重たい荷物を分け合いながら手を繋ぐ二人は何気ない会話を交わしながら家に帰るのであった。
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