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第1章:異世界生活『兎人ちゃんと一緒に暮らそう編』
1 プロローグ
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平日の真昼間、仕事もせずにだらだらと寝腐っている青年がいた。
青年の名は、瀬兎谷雅輝、二十四歳。元社畜だ。
調理師の短期大学を卒業後、大手居酒屋チェーン店に就職。
仕事のために生きて、仕事だけの毎日を四年間も続けてきた。
上司や先輩には厳しく怒鳴られ、過重労働を強いられる毎日。いわゆるパワハラというものだ。
ホールに出て接客をすれば迷惑な酔っ払いに絡まれ散々な目に遭わされてきた。
そのせいでマサキの心と体はズタボロ。人を信じることができなくなるほどの人間不信に陥ってしまった。
そんな社畜人生に疲れ果てたマサキは居酒屋を退職。退職前にひと騒動を起こしてやろうと計画を立てるも実行する勇気もなくそのまま退職したのだ。
その後、精神不安定な状態が続いてしまい半年間就職することが出来ず、だらだらと苦しく辛い日々を過ごしていた。世間一般的にいうヒキニートだ。
そして人間不信になってからは人と目を合わせるどころか会話すらまともにできないただの臆病者へと成り下がってしまったのだった。
マサキの心の奥底では今の苦しくて辛い人生などをこれっぽっちも望んではいない。むしろ人間不信を克服し社会復帰したいと強く願っているほどだった。
しかし、現実はそう甘くない。
腐った心はどんどんと腐る一方。転機が訪れない限り彼は社会復帰できないだろう。そして転機など滅多に起こるものではない。ましてやマサキのようなヒキニートに起こるなど奇跡に等しい。
しかし、奇跡というものは突然訪れるのだ。
マサキの強い願いがどこかの優しい神様に届いたのだろうか。それとも神様の気まぐれだろうか。
寝腐っていたマサキが目を開けた瞬間、今までにない感触が手のひらから脳へと伝えた。そして初めての感触に脳は混乱状態に陥った。
「……ん、なんだこれ。柔らかい……今まで触った事ない感触だ……」
マサキは意識が覚醒したのと同時に柔らかい何かを揉んでいることに気が付く。そしてマサキの耳に鈴のように美しい声が届いた。
「な、何してるんですかー!?」
その声は真上、寝ているマサキの頭上から聞こえた。直後、頭の下にあったマシュマロのように柔らかい枕のようなものから硬い地面へと転がり落ちた。鈴のように美しい声の持ち主に体を押され落とされたのだった。
「いてて……って、つ、土!? なんで? なんで俺の部屋に土が……って部屋じゃない。ここどこだよ……」
マサキの視界には竹のような形をした茶色い木が無数に映っていた。そして土、石、木の枝、落ち葉。マサキはすぐに理解した。ここは森の中なのだと。
「目が覚めたと思ったらいきなり私のマフマフを揉むなんて! 助けなければ良かったですよ……」
「……マ、マフマフ? って、なんのことだよ?」
地べたに転がるマサキは、体についた土や落ち葉を叩きながら立ち上がり体を押した人物を見た。
その人物はブラウン色のロリータファッションに身を包み、青く澄んだ瞳を涙で光らせ頬を膨らませながら豊満な胸を隠す白銀の髪で垂れたウサ耳を付けた美少女だった。
その美少女は正座をしている。美少女のすぐ横にはラタン製のバスケットが置かれている。ピクニックでもしていたのだろうか。
「惚けないでくださいよ! 人間族の変態さん! 私のマフマフを……私のマフマフを……うぅ」
頬を膨らませたり顔を赤らめたり涙目になったりと情緒不安定で忙しい美少女だ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! えーっと、これどういう状況? なにが起きたんだ? 夢か? なんなんだ?」
マサキは自分の頬を抓って夢ではない事を確認した。ありがちな確認方法だがそれ以外の確認方法をマサキは知らない。
「痛みを感じるってことは夢じゃないってことでいいんだよな……大丈夫だよな。それすら信じられない。自分すらも信じられなくなったらいよいよ終わりだぞ……俺」
夢ではないという事を一応確認したマサキは手に顎を乗せこの状況について思考を始めた。そして垂れたウサ耳を付けた美少女の周りをくるくると歩き出す。
目を覚ましてからまだ数十秒だ。ボーッとする頭でマサキは、この不可思議な状況の整理を始めたのだ。
「俺は家で気持ちよく寝てたはずだ。だって俺はヒキニートだからな。その証拠にジャージだし、靴だって履いてな……履いてる!? 誰の靴?」
マサキの部屋着はジャージだ。部屋にいる時は、寝るときでもお気に入りの黒いジャージを着る。滅多に外出しないので着替える必要もない。
しかし、不可解なことに靴を履いていた。その靴は自分のものではないが、ジャストフィットしている。まるでサイズを測って購入したかのように。
「まぁ、靴のことは置いといて……目が覚めると俺は森の中。そして俺の目の前には膨れっ面で涙目の獣耳美少女が正座してこちらを睨んでいる。正座ってことは俺は膝枕されていたのかもしれない……ひ、膝枕!?」
顔に残る柔らかい感触から膝枕をされていた事を理解する。そしてその膝枕をしていた人物が絶大の美少女でマサキは困惑した。
「そ、そんで……俺の手に残るマシュマロ、いや、それ以上にを柔らかいものを揉んだかのようなこの感触。そして獣耳美少女の反応。そこから推測するに俺は……俺は……俺は、おっぱいを揉んでしまったのかもしれない! これはいわゆる不可抗力からのラッキースケベってやつか……こればかりは仕方ない。そう俺は悪くない」
ぶつぶつ独り言を言うマサキ。ボーッとしている頭から繰り出される推理は、ほぼほぼ正解。
そんな名探偵のような名推理をするマサキをウサ耳の美少女は睨みながらも不思議そうに目で追っている。
独り言が終わった直後、マサキの足はピタリと止まった。マサキはこの状況の答えにたどり着いたのだ。
「……そうか誘拐か。そんでキミも誘拐されてここにいるのか!?」
「違いますよ。誘拐されたんなら森の中にいるわけないじゃないですか!」
マサキは見当違いの答えにたどり着いてしまったらしい。
ウサ耳の美少女の言う通り誘拐されたのなら自然豊かな森の中ではなく薄暗い倉庫などが定番だろう。
そして自由に歩けて体も拘束されていないことから誘拐されていないということが子供でもわかる。
「えーっと、誘拐されたんじゃないの? じゃあこの状況なに? 全く理解できないんだが……もしかしてキミが俺を誘拐したのか?」
「なんでそうなるんですかー! 誘拐じゃないって言ってるじゃないですか。アナタがそこに倒れてたから助けてあげたんですよ! こんな変な人だったら助けなければよかったですよ」
あらぬ疑いをかけられてしまったウサ耳の美少女は、疑いを晴らそうと必死に声を荒げながらマサキが倒れていたという真実を告げた。
その後、頬を膨らませ垂れたウサ耳をさらに垂らしながらマサキを助けた事を後悔し始めてしまった。
その姿に焦るマサキは早口になりながら咄嗟に謝罪をし質問攻めを開始した。
「ごめんごめん。まさか助けてくれた恩人だったとは。でもなんで俺はここに倒れてたんだ? それにここはどこ? なんで獣耳付けてるの? コスプレか何か? それとマフマフってなに?」
頭から離れない『マフマフ』という言葉も無意識に質問攻めの一つに加えていた。
質問攻めを受けたウサ耳の美少女は目をぐるぐると回し混乱しながらも一つの質問に突っかかった。
「そうやってまた私のマフマフを狙ってるんですね? 人間族の男性は何考えてるか分からないからやっぱり恐ろしいです」
ウサ耳の美少女は顔を真っ赤にして豊満な胸を再び隠し始めた。その姿にマサキは理解した。
「マフマフっておっぱいのことか!?」
「ハッキリ言わないでくださいよ。恥ずかしいです」
ウサ耳の美少女の反応からして、マフマフとはおっぱいのことで合っているらしい。
「やはり不可抗力からのラッキースケベだったのか」
「さっきからなに言ってるんですか。やっぱり変態さんだったのですね。元気になったのなら私はここでさよならしますよ。もう倒れないでくださいね」
ウサ耳の美少女は不審な目でマサキのことを睨みつけこの場を立ち去ろうと正座をしている足を崩した。しかし足を崩してからは立ち上がろうとしない。むしろ動こうともしない。時間が止まったかのような硬直状態だ。
その姿にマサキは小首を傾げる。
「ど、どうしたの?」
「あ、足が……」
「足?」
マサキはウサ耳の美少女の細くて長い足をまじまじと見る。しかし外傷などは見当たらない。それなら一体、足になにがあるというのだろうか。
マサキはもう一度、細くて長い足をまじまじと見つめた。先ほどよりもじっくりと。虫眼鏡を使ってじっくりと見るかのように。
すると足が小刻みに震えていることに気が付いた。
正座をしていたウサ耳の美少女は足が小刻みに震えているのだ。そこまでの情報があれば答えは一つしかない。
「キミ、足痺れてんのか?」
「ぅひ……そ、そうですけど、こ、これくらいへっちゃらです。兎人族の名にかけてへっちゃらなんです」
マサキを背にしたウサ耳の美少女。痺れる足を無理やり動かして立ち上がろうとするが「ぅひ、ぁひ」と、情けない声が可愛らしい口からこぼれ落ちて立ち上がる事ができない。
そしてマサキは聞き流すことが出来ない言葉が耳に入り、背中を向けるウサ耳の美少女を呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! キミ今、兎人族って言ったか?」
マサキは兎人族という言葉が引っ掛かったのだ。
その言葉を発した美少女には特徴的なウサ耳が付いているのは最初からわかっていた。
そして背中を向けたことによって新たな発見もあったのだ。それはめくれたスカートから見えるお尻に、丸いふわふわした白い尻尾のようなものが飛び出ていたのだ。
どっからどう見ても丸いふわふわなウサギの尻尾だ。
「そうですよ。それが何か? もしかして私の耳も触りたいとか言わないですよね……ひぃい」
「その不審者を見るような目で俺を見るのはやめてくれ。いや、触ってみたいってのは事実だが……って、もしかして心読めたりとかもすんの?」
「心は読めませんが、変態さんだってのだけはわかります」
軽口を叩いたせいで余計に怒らせてしまったらしい。
膨れっ面になったウサ耳の美少女は振り向いた顔を正面に戻し痺れが治らない足でゆっくりと立ち上がろうとする。しかし生まれたばかりの子馬のようにすぐに座り込んでしまう。
「最初はなんかのコスプレかと思ったけどやっぱり違うのか。リアルすぎるし、それに、目覚めたら森の中という不可思議な現象。マフマフとかいう聞き慣れない言葉。薄々気付いていたんだが、にわかに信じられなくてその可能性を無意識に否定していた。むしろ完全に消去していた。つまりあれだ。そうあれだ。この状況…………」
再びぶつぶつと独り言を言いだしたマサキは本当の答えにたどり着いた。
「異世界転移ってやつか…………」
瀬兎谷雅輝。二十四歳。元社畜の青年はこの日、異世界に転移した。
三百六十五日後に大戦争が待ち受けていることを、まだ知る由もなかった。
青年の名は、瀬兎谷雅輝、二十四歳。元社畜だ。
調理師の短期大学を卒業後、大手居酒屋チェーン店に就職。
仕事のために生きて、仕事だけの毎日を四年間も続けてきた。
上司や先輩には厳しく怒鳴られ、過重労働を強いられる毎日。いわゆるパワハラというものだ。
ホールに出て接客をすれば迷惑な酔っ払いに絡まれ散々な目に遭わされてきた。
そのせいでマサキの心と体はズタボロ。人を信じることができなくなるほどの人間不信に陥ってしまった。
そんな社畜人生に疲れ果てたマサキは居酒屋を退職。退職前にひと騒動を起こしてやろうと計画を立てるも実行する勇気もなくそのまま退職したのだ。
その後、精神不安定な状態が続いてしまい半年間就職することが出来ず、だらだらと苦しく辛い日々を過ごしていた。世間一般的にいうヒキニートだ。
そして人間不信になってからは人と目を合わせるどころか会話すらまともにできないただの臆病者へと成り下がってしまったのだった。
マサキの心の奥底では今の苦しくて辛い人生などをこれっぽっちも望んではいない。むしろ人間不信を克服し社会復帰したいと強く願っているほどだった。
しかし、現実はそう甘くない。
腐った心はどんどんと腐る一方。転機が訪れない限り彼は社会復帰できないだろう。そして転機など滅多に起こるものではない。ましてやマサキのようなヒキニートに起こるなど奇跡に等しい。
しかし、奇跡というものは突然訪れるのだ。
マサキの強い願いがどこかの優しい神様に届いたのだろうか。それとも神様の気まぐれだろうか。
寝腐っていたマサキが目を開けた瞬間、今までにない感触が手のひらから脳へと伝えた。そして初めての感触に脳は混乱状態に陥った。
「……ん、なんだこれ。柔らかい……今まで触った事ない感触だ……」
マサキは意識が覚醒したのと同時に柔らかい何かを揉んでいることに気が付く。そしてマサキの耳に鈴のように美しい声が届いた。
「な、何してるんですかー!?」
その声は真上、寝ているマサキの頭上から聞こえた。直後、頭の下にあったマシュマロのように柔らかい枕のようなものから硬い地面へと転がり落ちた。鈴のように美しい声の持ち主に体を押され落とされたのだった。
「いてて……って、つ、土!? なんで? なんで俺の部屋に土が……って部屋じゃない。ここどこだよ……」
マサキの視界には竹のような形をした茶色い木が無数に映っていた。そして土、石、木の枝、落ち葉。マサキはすぐに理解した。ここは森の中なのだと。
「目が覚めたと思ったらいきなり私のマフマフを揉むなんて! 助けなければ良かったですよ……」
「……マ、マフマフ? って、なんのことだよ?」
地べたに転がるマサキは、体についた土や落ち葉を叩きながら立ち上がり体を押した人物を見た。
その人物はブラウン色のロリータファッションに身を包み、青く澄んだ瞳を涙で光らせ頬を膨らませながら豊満な胸を隠す白銀の髪で垂れたウサ耳を付けた美少女だった。
その美少女は正座をしている。美少女のすぐ横にはラタン製のバスケットが置かれている。ピクニックでもしていたのだろうか。
「惚けないでくださいよ! 人間族の変態さん! 私のマフマフを……私のマフマフを……うぅ」
頬を膨らませたり顔を赤らめたり涙目になったりと情緒不安定で忙しい美少女だ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! えーっと、これどういう状況? なにが起きたんだ? 夢か? なんなんだ?」
マサキは自分の頬を抓って夢ではない事を確認した。ありがちな確認方法だがそれ以外の確認方法をマサキは知らない。
「痛みを感じるってことは夢じゃないってことでいいんだよな……大丈夫だよな。それすら信じられない。自分すらも信じられなくなったらいよいよ終わりだぞ……俺」
夢ではないという事を一応確認したマサキは手に顎を乗せこの状況について思考を始めた。そして垂れたウサ耳を付けた美少女の周りをくるくると歩き出す。
目を覚ましてからまだ数十秒だ。ボーッとする頭でマサキは、この不可思議な状況の整理を始めたのだ。
「俺は家で気持ちよく寝てたはずだ。だって俺はヒキニートだからな。その証拠にジャージだし、靴だって履いてな……履いてる!? 誰の靴?」
マサキの部屋着はジャージだ。部屋にいる時は、寝るときでもお気に入りの黒いジャージを着る。滅多に外出しないので着替える必要もない。
しかし、不可解なことに靴を履いていた。その靴は自分のものではないが、ジャストフィットしている。まるでサイズを測って購入したかのように。
「まぁ、靴のことは置いといて……目が覚めると俺は森の中。そして俺の目の前には膨れっ面で涙目の獣耳美少女が正座してこちらを睨んでいる。正座ってことは俺は膝枕されていたのかもしれない……ひ、膝枕!?」
顔に残る柔らかい感触から膝枕をされていた事を理解する。そしてその膝枕をしていた人物が絶大の美少女でマサキは困惑した。
「そ、そんで……俺の手に残るマシュマロ、いや、それ以上にを柔らかいものを揉んだかのようなこの感触。そして獣耳美少女の反応。そこから推測するに俺は……俺は……俺は、おっぱいを揉んでしまったのかもしれない! これはいわゆる不可抗力からのラッキースケベってやつか……こればかりは仕方ない。そう俺は悪くない」
ぶつぶつ独り言を言うマサキ。ボーッとしている頭から繰り出される推理は、ほぼほぼ正解。
そんな名探偵のような名推理をするマサキをウサ耳の美少女は睨みながらも不思議そうに目で追っている。
独り言が終わった直後、マサキの足はピタリと止まった。マサキはこの状況の答えにたどり着いたのだ。
「……そうか誘拐か。そんでキミも誘拐されてここにいるのか!?」
「違いますよ。誘拐されたんなら森の中にいるわけないじゃないですか!」
マサキは見当違いの答えにたどり着いてしまったらしい。
ウサ耳の美少女の言う通り誘拐されたのなら自然豊かな森の中ではなく薄暗い倉庫などが定番だろう。
そして自由に歩けて体も拘束されていないことから誘拐されていないということが子供でもわかる。
「えーっと、誘拐されたんじゃないの? じゃあこの状況なに? 全く理解できないんだが……もしかしてキミが俺を誘拐したのか?」
「なんでそうなるんですかー! 誘拐じゃないって言ってるじゃないですか。アナタがそこに倒れてたから助けてあげたんですよ! こんな変な人だったら助けなければよかったですよ」
あらぬ疑いをかけられてしまったウサ耳の美少女は、疑いを晴らそうと必死に声を荒げながらマサキが倒れていたという真実を告げた。
その後、頬を膨らませ垂れたウサ耳をさらに垂らしながらマサキを助けた事を後悔し始めてしまった。
その姿に焦るマサキは早口になりながら咄嗟に謝罪をし質問攻めを開始した。
「ごめんごめん。まさか助けてくれた恩人だったとは。でもなんで俺はここに倒れてたんだ? それにここはどこ? なんで獣耳付けてるの? コスプレか何か? それとマフマフってなに?」
頭から離れない『マフマフ』という言葉も無意識に質問攻めの一つに加えていた。
質問攻めを受けたウサ耳の美少女は目をぐるぐると回し混乱しながらも一つの質問に突っかかった。
「そうやってまた私のマフマフを狙ってるんですね? 人間族の男性は何考えてるか分からないからやっぱり恐ろしいです」
ウサ耳の美少女は顔を真っ赤にして豊満な胸を再び隠し始めた。その姿にマサキは理解した。
「マフマフっておっぱいのことか!?」
「ハッキリ言わないでくださいよ。恥ずかしいです」
ウサ耳の美少女の反応からして、マフマフとはおっぱいのことで合っているらしい。
「やはり不可抗力からのラッキースケベだったのか」
「さっきからなに言ってるんですか。やっぱり変態さんだったのですね。元気になったのなら私はここでさよならしますよ。もう倒れないでくださいね」
ウサ耳の美少女は不審な目でマサキのことを睨みつけこの場を立ち去ろうと正座をしている足を崩した。しかし足を崩してからは立ち上がろうとしない。むしろ動こうともしない。時間が止まったかのような硬直状態だ。
その姿にマサキは小首を傾げる。
「ど、どうしたの?」
「あ、足が……」
「足?」
マサキはウサ耳の美少女の細くて長い足をまじまじと見る。しかし外傷などは見当たらない。それなら一体、足になにがあるというのだろうか。
マサキはもう一度、細くて長い足をまじまじと見つめた。先ほどよりもじっくりと。虫眼鏡を使ってじっくりと見るかのように。
すると足が小刻みに震えていることに気が付いた。
正座をしていたウサ耳の美少女は足が小刻みに震えているのだ。そこまでの情報があれば答えは一つしかない。
「キミ、足痺れてんのか?」
「ぅひ……そ、そうですけど、こ、これくらいへっちゃらです。兎人族の名にかけてへっちゃらなんです」
マサキを背にしたウサ耳の美少女。痺れる足を無理やり動かして立ち上がろうとするが「ぅひ、ぁひ」と、情けない声が可愛らしい口からこぼれ落ちて立ち上がる事ができない。
そしてマサキは聞き流すことが出来ない言葉が耳に入り、背中を向けるウサ耳の美少女を呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! キミ今、兎人族って言ったか?」
マサキは兎人族という言葉が引っ掛かったのだ。
その言葉を発した美少女には特徴的なウサ耳が付いているのは最初からわかっていた。
そして背中を向けたことによって新たな発見もあったのだ。それはめくれたスカートから見えるお尻に、丸いふわふわした白い尻尾のようなものが飛び出ていたのだ。
どっからどう見ても丸いふわふわなウサギの尻尾だ。
「そうですよ。それが何か? もしかして私の耳も触りたいとか言わないですよね……ひぃい」
「その不審者を見るような目で俺を見るのはやめてくれ。いや、触ってみたいってのは事実だが……って、もしかして心読めたりとかもすんの?」
「心は読めませんが、変態さんだってのだけはわかります」
軽口を叩いたせいで余計に怒らせてしまったらしい。
膨れっ面になったウサ耳の美少女は振り向いた顔を正面に戻し痺れが治らない足でゆっくりと立ち上がろうとする。しかし生まれたばかりの子馬のようにすぐに座り込んでしまう。
「最初はなんかのコスプレかと思ったけどやっぱり違うのか。リアルすぎるし、それに、目覚めたら森の中という不可思議な現象。マフマフとかいう聞き慣れない言葉。薄々気付いていたんだが、にわかに信じられなくてその可能性を無意識に否定していた。むしろ完全に消去していた。つまりあれだ。そうあれだ。この状況…………」
再びぶつぶつと独り言を言いだしたマサキは本当の答えにたどり着いた。
「異世界転移ってやつか…………」
瀬兎谷雅輝。二十四歳。元社畜の青年はこの日、異世界に転移した。
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