情報屋バニー・ラビット 〜ウサ耳カチューシャをつけた本名・年齢・国籍不明の世界一の情報屋幼女と超絶有能を自称するポンコツ助手〜

アイリスラーメン

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information:24 ポンコツ助手による爆弾処理講座!

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『ブゥーンブゥーン。爆破装置が作動しました。ブゥーンブゥーン。直ちに避難してくださいブゥーンブゥーン。ピーポーンピーポーン。ブゥーンブゥーン』

 警報が鳴り響く教会の通路を必死に駆ける一人の少女がいた。
 薄桃色の髪と黒縁眼鏡、そして実りに実ったたわわが特徴的なセリシールだ。

「ブーンブーンうるさいですね! 集中できないじゃないですよ!」

 警報に文句を言いながら思考を巡らせるセリシール。
 ネーヴェルに任された爆弾処理のために必死で、その爆弾がどこにあるのかを探している最中なのである。

「爆弾がどこにあるか全然わからないですよー! どうしたらいいんですかー!」

『ブゥーンブゥーン。爆破装置が作動しました。ブゥーンブゥーン。直ちに避難してくださいブゥーンブゥーン。ピーポーンピーポーン。ブゥーンブゥーン』

「もーう! うるさいなー! 何度も言わなくてもわかってますよー!」

 文句を垂れるセリシールは警報よりもよりもうるさかった。
 そんなセリシールは奇跡的に爆発物の前へ――制御室へと辿り着く。

「あっ、ここですね」

 なんとなく開けた掃除用具入れの扉が通路となっており制御室に繋がっていたのだ。
 隠し通路とも呼べる通路を見つけたのは、奇跡に等しいだろう。
 セリシールは奇跡を度々引き当てる豪運の持ち主なのである。

「爆弾に付いているひもを全部切れば一件落着ってやつですよね。確かそれでいいはずですよね」

 物騒なことを呟きながら制御室の中央へと歩いていくセリシール。
 そして驚愕する。

「えっ、ひもがないんですけど……」

 セリシールの瞳には、カウントダウンを知らせるモニターが映っている。その時間は二十五分を切ったばかりだ。
 想像していた爆弾や爆弾に繋がれているひもはどこにもなく、このモニターから爆弾を止めなくてはいかなくなったのだ。

「どどどどど、どうしたらいいんですかー! ボタンもいっぱいで、どこを押せばいいかわからないですよー」

 モニターだけではなく、その周りには大量のボタンやレバーなど、コックピットのように大量にあったのだ。
 しかしセリシールがおどおどしていたのは最初だけ。

「よしっ! やるしかありませんよ。私」

 自分に言い聞かせて覚悟決める。
 覚悟が決まればあとは簡単だ。いつも通りのセリシールがいつも通りにやるだけ。
 ネーヴェルに任せられたことを全力でやるだけなのである

「超絶有能な助手による爆弾処理講座ー!」

 突然始まった爆弾処理講座。一人で何をしているのだろうかと不思議に思うが、これがセリシールなのである。

「まずは一番大きなボタンを押す!」

 一番最初に一番やってはいけないことをやってしまう。
 ポチッと存在感が大きいボタンを押した瞬間、先ほどまで鳴り響いていた警報とは全く別の警報が鳴り出す。

『ブゥーンブゥーン。設定変更設定変更――』

「な、なんですか!?」

『ブゥーンブゥーン。緊急設定緊急設定ブゥーンブゥーン。ピーポーンピーポーン。ブゥーンブゥーン。五分以内に避難してください。ブゥーンブゥーン。五分以内に――』

「えぇえええええ!?」

 モニターを見れば残り時間が五分を切っていた。先ほどまで二十分は余裕があったのにも関わらず、一つのボタンを押してしまったがために時間が短縮してしまったのである。
 そういう設定のボタンを一番最初に押してしまったのである。

「こ、このポンコツめ!!」

 もちろん自分に言ったのではない。目の前のモニターに言ったのだ。ただ八つ当たりである。

「ど、どうしたらいいんでしょうか? こういう時は適当にボタンを押す? それともこのレバーを引いてみるとか……」

 セリシールは首を横に振った。ブンブンという擬音が可視化されそうなくらい激しくだ。

「ダメです。これ以上変なことしたらすぐにドカーンですよ」

 そう言ったセリシールは手に顎を乗せて考え始めた。
 考えなければ物語は前に進まない。考えなければ爆弾処理ができない。考えなければ何も解決できないのだ。
 だから考える。考える。ネーヴェルが思考するように。ネーヴェルが情報を集めるように。五感から集まる全ての情報を屈指してセリシールは考える。

「あっ、無理ですね」

 考えた結果、無理だということに気付いた。
 ネーヴェルのようにはいかないのだと自覚しているのだ。

「ネーヴェルさんはなんで私に爆弾処理を……」

 人間とは考えれば考えるほど、余計なことまで思考してしまうもの。
 その人にしか分からない答えを、その人に聞かなければ出てこない答えを求めてしまうものだ。
 しかしすぐに首を横に振った。

「いいえ。今は余計なことを考えてる場合じゃないです! 爆弾処理に集中しないとですよね! でも肝心の爆弾処理がよくわかってない状況ですから……他の策を、最善の策を……」

 う~ん、と唸りながら考えるセリシール。
 残り時間が四分を切ったところで、ふとひらめく。

「そうだ! 逃げればいいんですよ!」

 爆弾処理をきっぱりと諦めて逃げを選択する判断力は、他の者には真似できないだろう。ましてや爆発物処理班なら尚更だ。責任やら義務感やら使命やらで最後まで爆発処理を全うするだろう。
 その選択をしないところがセリシールらしい。そして必死に捻ったセリシールなりの最善の策なのだ。
 しかし逃げるとなると一つ問題が生じる。

「洗脳されている人たちをどうにかしないとですよね」

 洗脳されているものたちはこの状況における人質のようなもの。
 見捨てることも可能だが、彼らを見捨てるという選択肢はセリシールにはない。

「そうだ! 牧羊犬みたいに誘導したらいいんだ!」

 突拍子もないことを思い付く。
 思い付いたからには、いてもたってもいられなくなってしまうもの。
 セリシールはすぐさま踵を返し行動に出た。
 向かう先はもちろん、演説が行われていた教会の演説会場――洗脳されている人たちいる演説会場だ。

「私が牧羊犬! みなさんが羊! よしっ! これでいきましょう!」

 牧羊犬作戦がうまくいきそうな予感がしているのだろう。ニヤニヤ顔が止まらない。

 そして道に迷いながらも目的地へと到着する。

「着きました……つ、着きました?」

 セリシールが最後に見た状況とは少し異なり戸惑いの色を見せた。
 会場の壁に大きな穴が開いており、紫紺色の煙もほとんど残っていなかった。そして人数も四分の三ほどつまり約350人にまで減っているのだ。
 人数も減り、逃げ道もある。洗脳の心配ももうない。参加者全員を逃がそうと考えているセリシールには好都合な状況が揃っていた。

『ブゥーンブゥーン。ブゥーンブゥーン。残り時間二分。ピーポーンピーポーン。ブゥーンブゥーン。二分以内に避難してください。ブゥーンブゥーン』

 警報を聞いたセリシールは絶望の色を浮かべた。

「残り二分……」

 直後、ぐっと拳を握りしめ覚悟の表情を浮かべる。

「超絶有能な助手である私にはちょうどいい残り時間ですね! いきますよー! 牧羊犬作戦開始です!」

 セリシールは避難口である開いた壁から最も遠い人のもとへと駆けていく。
 そして――

「ワン! ワン! ヴァン! ヴァォオオン! ウォォオオン!」

 吠えた。犬のように、牧羊犬が羊に向かって吠えるように吠えたのだ。
 牧羊犬作戦はその作戦名のまんま。比喩的表現でもなければ、なんの工夫もされていない純度100%の牧羊犬作戦だった。

「ど、どうして! どうして動かないんですか!」

 当然だ。誰も動くことはない。近くにいた他の洗脳者にも試したが動く気配すら見せなかった。
 たとえ洗脳されてマネキンのようにその場に立っていなくとも、セリシールの行動の意図に気付く者はごく少数だろう。

「牧羊犬作戦……失敗です……ど、どうしたら……」

 膝から崩れ落ちそうな勢いで落ち込み始めた。それほど牧羊犬作戦に自信があったということである。

「だったら、ちょっと強引ですが、やるしかないです!」

 セリシールは自分よりも2回りも大きな男を押した。
 普通なら押されたことにより後ずさったりするのだが、直立しているマネキンのような男はそのまま倒れる。
 まるでマネキンが倒れたかのように。それほどレジーナの洗脳が強いのである。

「わ、私、悪くないですよ! お、押しましたけど、倒れるとは思ってませんでしたから! わざとじゃないので私は悪くないです!」

 倒れた男を起こそうと腕を引っ張るが、相手に意識がない限り立つことは不可能。体は地面に吸い込まれているのかと思うくらい重たい。

「お願いします! 立ってください!」

 諦めずに男の腕を引っ張り続けるセリシール。
 その諦めない心が洗脳されている男に届いたのか、男は自らの意思で立ち上がった。
 そんな突然の反応にセリシールは驚きの表情を見せる。

「え? あ、あれ? 立てるじゃないですか! 意識が戻ったんですか?」

 その質問に男は答えない。
 先ほど同様にマネキンのようにただ直立しているだけだ。
 そして表情は洗脳された人間のそれ。意識や感情などなく、ただそこに立っているだけだ。

「ど、どっちなんですかー! ふざけないでください!」

 意識があるのかないのか、よく分からない行動を取られたため、セリシールは怒りの色を混じえながらツッコミを入れた。
 もちろんこのツッコミも男に対しては無害である。そして無反応である。
 その無反応が時間がないセリシールの癇に障った。

「もう! 時間がないんですから! あなただけを相手にしてられないんですよ! もし意識があるんだったらさっきみたいに動いてください! ここから逃げてください!」

 叫ぶセリシール。またしても無反応で返ってくるかと思いきや……

「あ、え?」

 男は壁に空いた穴の方へと走って行った。セリシールの言うことを聞きここから逃げようとしているのだ。

「な、なんだ……意識あるじゃないですか。それじゃ次の人に……も?」

『ブゥーンブゥーン。ブゥーンブゥーン。残り時間60秒。ピーポーンピーポーン。ブゥーンブゥーン。残り時間57秒。ブゥーンブゥーン。速やかに避難してください』

 警報が残り時間一分を切ったのを知らせる中、セリシールは先ほどの男の不可解な行動から何かを閃く。

「ふっふっふ。私って本当に超絶有能ですね。ふっふっふ」

 謎の笑い。そして謎のポーズ。
 セリシールにはポンコツの他にナルシスト気質があるのだが、それがここに来て頂点にまで達したのだ。
 今世紀最大級に自惚れしている。
 もしもここに鏡があるなら自分の顔を舐め回すように見ていたかもしれない。もしくは崇め奉っていたかもしれない。
 そんなセリシールは閃いたことを実行するために口を開く。

「皆さん! 聞いてください! ここから速やかに避難してください!」

 警報にかき消されないように腹の底から声を出した。
 マネキンのようにただ立っているだけの人たちにその声は届かないはずがなのだが、驚くことに一斉に全員が動き出した。
 セリシールの指示に従っているのだ。

「やはり! やはりそうでしたか! ふっふっふ」

 ドヤ顔をかますセリシール。
 彼女が閃いた策とは――

大成功です!」

 洗脳された状態を利用した作戦だったのだ。
 洗脳された状態だが、彼らはマネキンのように一切動いていない。なぜなら命令を受けていないからだ。
 レジーナが既に命令を出していたようにも思えたが、あの状態の時では完全に洗脳されていなかったため、命令を受け付けなかったのである。つまりあの時のレジーナは目的をただ宣言しただけになるのだ。

 洗脳薬が混ざった紫紺色の煙は視界で確認できないほどに薄まっている。
 それでもここに残っている者たちは煙を長時間吸い込んでしまった者たちだ。十分に洗脳薬の効果を受けているのである。
 だからこそセリシールの命令に反応して、それに応えるべく動き出したのだ。
 ここまで簡単に洗脳されてしまうのだからレジーナがやろうとしていたことは恐ろしいことである。

「皆さん! 焦らずゆっくり!」

 避難訓練や実際の避難でもよく聞く言葉だ。
 その言葉に全員が従い動きが緩やかになる。

『ブゥーンブゥーン。ブゥーンブゥーン。残り時間30秒。ピーポーンピーポーン。ブゥーンブゥーン。残り時間27秒。ブゥーンブゥーン。速やかに避難してください』

「やっぱり急いで! 焦って! 早くー!」

 残り時間三十秒を切った警報を聞いたセリシールは焦り始めた。
 三十秒では全員が外へと避難することは不可能だとわかっているからだ。
 だから避難する際における『焦らずゆっくり』という大事なこととは逆の命令を出した。
 命令を受けた人たちは、命令に従い急ぎ始める。その動きは実にスムーズで混乱を招くことがなければ機械で操作しているかのような精密さもあった。
 これは人間の欲や心が関与していないが故の結果なのである。
 人間を動かす際に一番邪魔となる部分が“心”である。それを取り除いた洗脳とは本当に恐ろしいものだ。

「ふぅ~。なんとか間に合いそうですね。これで一安心……じゃないです! 私も逃げないと!」

 一番重要なことに気付くセリシール。自分が爆発に巻き込まれてしまえば元も子もないのだ。
 それで死んでしまったら英雄として未来永劫語られるかもしれないが、それではダメなのである。

「皆さん! 外へ避難したら建物からなるべく離れてください! 急いで急いでー!!!」

『残り時間13秒。カウントを始めます。10、9――』

 爆発までのカウントが始まった。

「やばいやばいやばいです! こう言う時ネーヴェルさんだったら、ネーヴェルさんだったらー」

 洗脳者たちに肉壁になるように命令を出しているかもしれない、と不謹慎なことを思い浮かんでしまったため言葉にはしなかった。
 そしてなぜかその思考がセリシールを逃げることだけに集中するように切り替えさせた。
 その結果――

『2、1……』

 教会は轟音を響かせながら爆発。
 跡形もなく派手に吹き飛びドス黒い煙を上げた。
 一瞬で周囲に焦げた臭いが漂う。

 そんな教会だった施設の少し離れた場所にセリシールと洗脳された者たち数名が倒れていた。
 爆風に巻き込まれてここまで吹き飛ばされたのだ。

「いててててて……」

 奇跡的に軽傷で済んだのは、先を走っていた人たちが下敷きになってくれたからだ。
 下敷きになった人たちも軽傷で済んでいるのは、奇跡と呼んでも問題はないだろう。
 既に述べているが、セリシールは豪運の持ち主でもあるのだ。

「な、なんとか……大丈夫でした……危機一髪ってやつですね……」

 そう呟きながら先ほどまで自分がいた場所へと目を向けた。
 悲惨な光景に疲れがどっと襲いかかる。そして安堵で体に力が入らなくなる。
 そのままぐったりとその場に倒れた時、彼女を呼ぶ声が微に聞こえてきた。

「……シールさん! セリシールさん!」

 その声は段々と近付いてくる。

「セリシールさん! セリシールさん!」

「ンッンッ! ンッンッ!」

 朧げになりつつある意識の中、誰の声かはっきりとわかった。
 ボブとクロロの声だと。
 そしてもう一つわかったことがある。
 その声の中に最も聞きたい声がなかったことに。

「セリシールさん大丈夫ですかい?」

「わ、私は大丈夫ですが……ネーヴェルさんは、ネーヴェルさんはどこですか?」

 セリシールはネーヴェルがいないことに気付きゆっくりと上半身を起こした。
 朧げだった意識はいつの間にか通常通りに戻っていたのだ。
 それだけネーヴェルのことが心配なのである。

「大丈夫ですぜ。あ、いや、大丈夫じゃないかもしれません……」

 どっちなのかわからない返事をしたボブ。それがますます不安を掻き立てる。

「どう言うことですか?」

「先ほどネーヴェルの姉貴から連絡があって、無事だと言うことはわかったんですが、どうも声が弱っているような気がして……」

「そ、そんな……それじゃ今からネーヴェルさんのところに向かいましょう」

「はい! そのつもりですぜ! 乗ってくだせぇ!」

「ンッンッ!」

 ボブはセリシールを立ち上がらせてハクトシンタクシーの後部座席に乗せた。
 そしてナビが指し示す場所へと真っ直ぐに向かった。ネーヴェルの位置を指し示す場所へと。
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