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information:17 本物の黒幕について
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マヌーバは全てを話した。
質問されたことを嘘偽りなく、そして遠回しに言うことなく、全ての情報を吐いたのである。
さらには質問にない有意義な情報までも、自らが率先して吐いてくれていた。
こんなにも素直に白状したのは、全てウサギに触れるためである。
人格が変わってしまうほどの拷問――ネーヴェル式ウサギ拷問の効果だ。
「情報は十分に集まった。お疲れマヌケくん」
ほっと一息吐いたネーヴェルは拷問の終わりを告げた。
拷問を受けている側からしたら、たまらなく嬉しい瞬間であろう。
マヌーバにとっては二つの意味で嬉しいはず。
一つ目は当然ながら拷問が終わったことによる喜悦。
二つ目は――
「で、ではそちらのウサギ様を! ぜ、ぜひ、触らせていただけないでしょうか? もふもふさせていただけないでしょうか? ハァハァ……」
禁断症状が発症するほど求めているウサギに触れることができる喜悦だ。
「気持ち悪いから嫌だ」
「ンッンッ!」
「そ、そんな……」
拒むネーヴェルにマヌーバは天国から地獄へと真っ逆さまに落下する。
クロロも鳴いたがその声はどこか「嫌だ」と拒んでいるようにも聞こえる。
「そ、それでは約束のウサギ様を触らせるというのは? こ、このままでは私は、私はおかしくなってしまいます!」
「もうすでにおかしくなってるだろ」
「ウサギ様に触れなかったら今以上におかしくなる自信があります! 目の前にウサギ様がいるというのに……モニターの中の映像のウサギ様ではなく、本物のウサギ様だというのに……生き地獄……これが生き地獄ですか……もしや拷問はまだ続いている? そういうことですか……私に罪を償えと……ウサギの素晴らしさを知ってからが本当の拷問だと……」
マヌーバは本当に辛そうな表情で喋り続けた。涙も鼻水も唾液も汗も、顔から出る様々な水分を出しながら、みっともなくもしゃべり続けたのだ。
「いや、罪を償うとかはどうでもいい。キミからは情報をもらえた。だからキミをもう自由にしてあげたいんだけど、今のまま自由にしたら外のウサギたちに被害が及びそうだからね。新たな事件を生むことになりかねない。だからキミにはたっぷりとウサギに触れてもらいウサギという尊い生き物を知ってから解放しようと思ってる」
「たっぷりと……ウサギ様に……」
マヌーバは神様や天使でも見るかのような瞳でネーヴェルを見ている。
今のマヌーバにとってネーヴェルは神様や天使以上の存在なのかもしれない。
深呼吸してから自然と頭を垂れて誠心誠意「ありがとうございます」と言っているのだから。
「ああ。クロロは触らせたくないし、クロロ本人も触って欲しくないみたいだからね。ブリーダーから何匹か借りてくるとするよ」
「ウサギさん専門のペットブリーダーの方ですね!」
今までメモを綴ったノートと睨めっこしていたセリシールが実に嬉しそうに口を開いた。
セリシール自身何度も利用したことがあり面識のあるブリーダーなのだろう。
その嬉しさは止まることなく、しゃべり続ける。
「あそこにはホーランドロップイヤーさん、ネザーランドドワーフさん、フレミッシュジャイアントさん、イングリッシュロップイヤーさん、クロロちゃんと同じミニウサギさんなどがいますよね! 他には……」
「ネザーランド……フレミッシュ……イングリッシュ?」
セリシールの詠唱のように繰り返されるウサギの品種にマヌーバは混乱する。
聞いたことがある品種名だが姿形が脳内で一致しないのだ。元々ウサギへの関心がなかったからこその反応である。
そんな反応の最中、他の品種名を思い出せないセリシールに代わってネーヴェルが口を開く。
「レッキス、アメリカンファジーロップ、ジャージーウーリー、アンゴラウサギ、ライオンヘッド、この辺りもいたよ」
「ア、アメリカン……アンゴラ……ラ、ライオン!?」
マヌーバの脳内に百獣の王ライオンの姿が映った。そのインパクトある姿にウサギの姿は一瞬でかき消される。
「とりあえず、キミに指示を出していた“本物の黒幕”と決着が付くまで、キミはここでウサギと暮らしてもらうよ。その頃には立派なウサギ好きに育ててみせるさ。ウサギの知識を得てウサギ好きになれば、犯罪を犯すことはないだろうからね」
「は、はい! よろしくお願いします! ネーヴェル様!」
「マヌーケさんがウサギさんを育てて、ネーヴェルさんがマヌーケさんを育てている……」
セリシールは思ったことを口に出してしまったが、何一つ間違いではない。
「ではウサギが集まるまでもうしばらく辛抱するんだな」
「ンッンッ! ンッンッ!」
ネーヴェルは踵を返して歩き出した。ブリーダーにウサギたちを手配してもらうために事務所に戻ろうとしているのだ。
そんな幼女の小さな背中を見たマヌーバは一言――
「ありがとうございます!」
と、心を込めて感謝の言葉を述べたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ウサギさんが来るまでちょっといいでしょうか?」
「ああ、いいよ。内容の確認だね」
「はい!」
ブリーダーに連絡した直後、セリシールはメモを綴ったノートを広げた。
マヌーバが話した内容をメモしたノートで、それに間違いがないかを確認したいのである。
「えーっとですね。マヌーケさんの本名がマヌーケ・Q・スピカでミドルネームのQの読み方はクイーンでしたよね」
「うん。そうだね」
何度も記載するがマヌーケが本名ではない。本名はマヌーバだ。
ネーヴェルがマヌケくんと呼んでいる影響でセリシールの脳内にマヌーケだと刷り込まれてしまったのである。
そして今回の取り調べもとい拷問で、その刷り込まれた情報が訂正させることはなかったのだ。
気付かない辺りセリシールのポンコツ具合は本物なのである。
「で、そのクイーンというのはマヌーケさんを国家保安局の道に導いた人の名前」
ミドルネームは様々な理由で付けられることがある。
マヌーバの場合は尊敬する人物の名前をあやかって付けさせてもらっているのだ。
クイーンという人物が国家保安局の道に導いてくれたからこそ、今のマヌーバの地位があると言っても過言ではないのである。
だからこそのあやかりだ。
「クイーンさんの名前をあやかって自分のミドルネームに付けた。それだけ尊敬している人物ということですが、実際のところ、チンピラさんたちに事件を起こすようにマヌーケさんに指示を出していたのが、そのクイーンさんという人で、他にも指名手配犯をわざと逃したり、バレないように犯罪に加担するようなことをしていたり、その全部がクイーンさんの指示に従ったものだと……」
「クイーンという人物こそ“本物の黒幕”だね」
本物の黒幕。ネーヴェルが拷問部屋から出る前に言っていた言葉だ。
その本物の黒幕というのが今話題としているクイーンという人物なのである。
「それで、そのクイーンさんはいつも深めのフードを被って顔を隠しているんですよね。マヌーケさんはクイーンさんの顔を見たことがないって……」
「まったくおかしな話だ。だが、嘘ではないみたいだね」
「それどころか、年齢やどこに住んでいか、何をしてる人かなど、そういった個人情報も一切わからないと……それだけではなく、いつマヌーケさんの前に現れて指示を出してくれるのかも不明だと……そんな人をどうして尊敬してたんですかね?」
「マヌケくんは洗脳の類をクイーンから受けてたんだろうね。自分の駒に国家アホ安局の局員がいるのは何かと都合が良いだろうからね」
「洗脳ですか……」
セリシールは自分のことのように落ち込み始める。そして深刻そうな表情を浮かべた。
彼女の脳内にはマヌーバの他に別の人物が映っているのだろう。
その別の人物が誰なのか知っているネーヴェルは水面に落ちる一雫のような静かで優しい声で答える。
「ああ、シールくんが病院送りになったときのあの花に化学薬品が塗られていただろ? おそらく洗脳するための化学薬品があるんだろうね。度々マヌケくんの前に姿を現すのは、その化学薬品の効果が切れないようにするためだとボクは思うよ。まあ、ウサギと触れ合っているうちに効果が切れると思うからそのことについては心配はいらないさ。だけど問題はその化学薬品だね。一体どれだけの人間に使われ続けたのか……十七年前も、そのまた十七年前も同じように洗脳された人がいたとしたら……これは大問題だね」
「そうですよね。これからもその化学薬品が使われて、被害者が増えるのなら、今すぐにでも止めなきゃですよね。私のお父さんも洗脳されていたのなら、お父さんみたいな被害者がこれ以上出ないように。お父さんを失った私のような子供たちが増えないように。そして洗脳された人に殺さる被害者を一人も出さないように……」
悲しみの色をした瞳の先に覚悟の灯火がふつふつと湧き上がっている。拳も無意識に強く握っていた。
そんなセリシールを見たネーヴェルは「そうだね」と静かに答えた。
重くなった空気に気付いたセリシールは、いつもの明るく元気でポンコツなセリシールに戻り、その持ち前の明るさで口を開く。
「クイーンさんは今どこにいるんですかね?」
「ボクでもまだ特定できてないよ。クイーンという名前が本名かどうかもわからないしね。でもクイーンという名前、それに関連する名前の人物の情報を手当たり次第集めようと思っているよ」
「ん? クイーンに関する名前って何ですか?」
小首をかしげるセリシール。純粋にネーヴェルの言葉の意味が理解できなかったのである。
「例えばトランプやチェス。そういったテーブルゲームにもクイーンという名前が使われているだろ。トランプならモデルになった人物の名前とかね。他にもアルファベットの順番を変えて別の言葉にするとか、それこそ逆から読むとかね。クイーンという言葉一つにも様々な情報が含まれてるのさ。女王蟻や女王蜂なんかでも手掛かりになりそうだしね。シンプルに歴代の女王の名前とかも……映画などの登場人物もありだな」
「す、すごい……そこまで考えてるんですね。そ、それじゃ早速、そのなぞなぞみたいなひっかけ問題みたいなやつやりましょう! 善は急げです!」
「なぞなぞでもひっかけ問題でもないけどね。でも善は急げには賛成だよ」
それからは二人はブリーダーが来るまで、クイーンについて話し合ったのであった。
質問されたことを嘘偽りなく、そして遠回しに言うことなく、全ての情報を吐いたのである。
さらには質問にない有意義な情報までも、自らが率先して吐いてくれていた。
こんなにも素直に白状したのは、全てウサギに触れるためである。
人格が変わってしまうほどの拷問――ネーヴェル式ウサギ拷問の効果だ。
「情報は十分に集まった。お疲れマヌケくん」
ほっと一息吐いたネーヴェルは拷問の終わりを告げた。
拷問を受けている側からしたら、たまらなく嬉しい瞬間であろう。
マヌーバにとっては二つの意味で嬉しいはず。
一つ目は当然ながら拷問が終わったことによる喜悦。
二つ目は――
「で、ではそちらのウサギ様を! ぜ、ぜひ、触らせていただけないでしょうか? もふもふさせていただけないでしょうか? ハァハァ……」
禁断症状が発症するほど求めているウサギに触れることができる喜悦だ。
「気持ち悪いから嫌だ」
「ンッンッ!」
「そ、そんな……」
拒むネーヴェルにマヌーバは天国から地獄へと真っ逆さまに落下する。
クロロも鳴いたがその声はどこか「嫌だ」と拒んでいるようにも聞こえる。
「そ、それでは約束のウサギ様を触らせるというのは? こ、このままでは私は、私はおかしくなってしまいます!」
「もうすでにおかしくなってるだろ」
「ウサギ様に触れなかったら今以上におかしくなる自信があります! 目の前にウサギ様がいるというのに……モニターの中の映像のウサギ様ではなく、本物のウサギ様だというのに……生き地獄……これが生き地獄ですか……もしや拷問はまだ続いている? そういうことですか……私に罪を償えと……ウサギの素晴らしさを知ってからが本当の拷問だと……」
マヌーバは本当に辛そうな表情で喋り続けた。涙も鼻水も唾液も汗も、顔から出る様々な水分を出しながら、みっともなくもしゃべり続けたのだ。
「いや、罪を償うとかはどうでもいい。キミからは情報をもらえた。だからキミをもう自由にしてあげたいんだけど、今のまま自由にしたら外のウサギたちに被害が及びそうだからね。新たな事件を生むことになりかねない。だからキミにはたっぷりとウサギに触れてもらいウサギという尊い生き物を知ってから解放しようと思ってる」
「たっぷりと……ウサギ様に……」
マヌーバは神様や天使でも見るかのような瞳でネーヴェルを見ている。
今のマヌーバにとってネーヴェルは神様や天使以上の存在なのかもしれない。
深呼吸してから自然と頭を垂れて誠心誠意「ありがとうございます」と言っているのだから。
「ああ。クロロは触らせたくないし、クロロ本人も触って欲しくないみたいだからね。ブリーダーから何匹か借りてくるとするよ」
「ウサギさん専門のペットブリーダーの方ですね!」
今までメモを綴ったノートと睨めっこしていたセリシールが実に嬉しそうに口を開いた。
セリシール自身何度も利用したことがあり面識のあるブリーダーなのだろう。
その嬉しさは止まることなく、しゃべり続ける。
「あそこにはホーランドロップイヤーさん、ネザーランドドワーフさん、フレミッシュジャイアントさん、イングリッシュロップイヤーさん、クロロちゃんと同じミニウサギさんなどがいますよね! 他には……」
「ネザーランド……フレミッシュ……イングリッシュ?」
セリシールの詠唱のように繰り返されるウサギの品種にマヌーバは混乱する。
聞いたことがある品種名だが姿形が脳内で一致しないのだ。元々ウサギへの関心がなかったからこその反応である。
そんな反応の最中、他の品種名を思い出せないセリシールに代わってネーヴェルが口を開く。
「レッキス、アメリカンファジーロップ、ジャージーウーリー、アンゴラウサギ、ライオンヘッド、この辺りもいたよ」
「ア、アメリカン……アンゴラ……ラ、ライオン!?」
マヌーバの脳内に百獣の王ライオンの姿が映った。そのインパクトある姿にウサギの姿は一瞬でかき消される。
「とりあえず、キミに指示を出していた“本物の黒幕”と決着が付くまで、キミはここでウサギと暮らしてもらうよ。その頃には立派なウサギ好きに育ててみせるさ。ウサギの知識を得てウサギ好きになれば、犯罪を犯すことはないだろうからね」
「は、はい! よろしくお願いします! ネーヴェル様!」
「マヌーケさんがウサギさんを育てて、ネーヴェルさんがマヌーケさんを育てている……」
セリシールは思ったことを口に出してしまったが、何一つ間違いではない。
「ではウサギが集まるまでもうしばらく辛抱するんだな」
「ンッンッ! ンッンッ!」
ネーヴェルは踵を返して歩き出した。ブリーダーにウサギたちを手配してもらうために事務所に戻ろうとしているのだ。
そんな幼女の小さな背中を見たマヌーバは一言――
「ありがとうございます!」
と、心を込めて感謝の言葉を述べたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ウサギさんが来るまでちょっといいでしょうか?」
「ああ、いいよ。内容の確認だね」
「はい!」
ブリーダーに連絡した直後、セリシールはメモを綴ったノートを広げた。
マヌーバが話した内容をメモしたノートで、それに間違いがないかを確認したいのである。
「えーっとですね。マヌーケさんの本名がマヌーケ・Q・スピカでミドルネームのQの読み方はクイーンでしたよね」
「うん。そうだね」
何度も記載するがマヌーケが本名ではない。本名はマヌーバだ。
ネーヴェルがマヌケくんと呼んでいる影響でセリシールの脳内にマヌーケだと刷り込まれてしまったのである。
そして今回の取り調べもとい拷問で、その刷り込まれた情報が訂正させることはなかったのだ。
気付かない辺りセリシールのポンコツ具合は本物なのである。
「で、そのクイーンというのはマヌーケさんを国家保安局の道に導いた人の名前」
ミドルネームは様々な理由で付けられることがある。
マヌーバの場合は尊敬する人物の名前をあやかって付けさせてもらっているのだ。
クイーンという人物が国家保安局の道に導いてくれたからこそ、今のマヌーバの地位があると言っても過言ではないのである。
だからこそのあやかりだ。
「クイーンさんの名前をあやかって自分のミドルネームに付けた。それだけ尊敬している人物ということですが、実際のところ、チンピラさんたちに事件を起こすようにマヌーケさんに指示を出していたのが、そのクイーンさんという人で、他にも指名手配犯をわざと逃したり、バレないように犯罪に加担するようなことをしていたり、その全部がクイーンさんの指示に従ったものだと……」
「クイーンという人物こそ“本物の黒幕”だね」
本物の黒幕。ネーヴェルが拷問部屋から出る前に言っていた言葉だ。
その本物の黒幕というのが今話題としているクイーンという人物なのである。
「それで、そのクイーンさんはいつも深めのフードを被って顔を隠しているんですよね。マヌーケさんはクイーンさんの顔を見たことがないって……」
「まったくおかしな話だ。だが、嘘ではないみたいだね」
「それどころか、年齢やどこに住んでいか、何をしてる人かなど、そういった個人情報も一切わからないと……それだけではなく、いつマヌーケさんの前に現れて指示を出してくれるのかも不明だと……そんな人をどうして尊敬してたんですかね?」
「マヌケくんは洗脳の類をクイーンから受けてたんだろうね。自分の駒に国家アホ安局の局員がいるのは何かと都合が良いだろうからね」
「洗脳ですか……」
セリシールは自分のことのように落ち込み始める。そして深刻そうな表情を浮かべた。
彼女の脳内にはマヌーバの他に別の人物が映っているのだろう。
その別の人物が誰なのか知っているネーヴェルは水面に落ちる一雫のような静かで優しい声で答える。
「ああ、シールくんが病院送りになったときのあの花に化学薬品が塗られていただろ? おそらく洗脳するための化学薬品があるんだろうね。度々マヌケくんの前に姿を現すのは、その化学薬品の効果が切れないようにするためだとボクは思うよ。まあ、ウサギと触れ合っているうちに効果が切れると思うからそのことについては心配はいらないさ。だけど問題はその化学薬品だね。一体どれだけの人間に使われ続けたのか……十七年前も、そのまた十七年前も同じように洗脳された人がいたとしたら……これは大問題だね」
「そうですよね。これからもその化学薬品が使われて、被害者が増えるのなら、今すぐにでも止めなきゃですよね。私のお父さんも洗脳されていたのなら、お父さんみたいな被害者がこれ以上出ないように。お父さんを失った私のような子供たちが増えないように。そして洗脳された人に殺さる被害者を一人も出さないように……」
悲しみの色をした瞳の先に覚悟の灯火がふつふつと湧き上がっている。拳も無意識に強く握っていた。
そんなセリシールを見たネーヴェルは「そうだね」と静かに答えた。
重くなった空気に気付いたセリシールは、いつもの明るく元気でポンコツなセリシールに戻り、その持ち前の明るさで口を開く。
「クイーンさんは今どこにいるんですかね?」
「ボクでもまだ特定できてないよ。クイーンという名前が本名かどうかもわからないしね。でもクイーンという名前、それに関連する名前の人物の情報を手当たり次第集めようと思っているよ」
「ん? クイーンに関する名前って何ですか?」
小首をかしげるセリシール。純粋にネーヴェルの言葉の意味が理解できなかったのである。
「例えばトランプやチェス。そういったテーブルゲームにもクイーンという名前が使われているだろ。トランプならモデルになった人物の名前とかね。他にもアルファベットの順番を変えて別の言葉にするとか、それこそ逆から読むとかね。クイーンという言葉一つにも様々な情報が含まれてるのさ。女王蟻や女王蜂なんかでも手掛かりになりそうだしね。シンプルに歴代の女王の名前とかも……映画などの登場人物もありだな」
「す、すごい……そこまで考えてるんですね。そ、それじゃ早速、そのなぞなぞみたいなひっかけ問題みたいなやつやりましょう! 善は急げです!」
「なぞなぞでもひっかけ問題でもないけどね。でも善は急げには賛成だよ」
それからは二人はブリーダーが来るまで、クイーンについて話し合ったのであった。
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