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神頼み。 ー神様、お願いー

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私の目の前には一匹の猫が横たわっている。

苦しそうな浅い息をして。

彼は私を守ったせいで、そこで死にかけている。

突然飛び出してきた車から救ってくれたのだ。
私はこの猫の事を知らない。

だけどよく、私には懐いて来た猫だった。

私には力がある。
どうして、こんな力が私に使えるのかは、私も知らない。

だけどこの力のせいで、小さい頃からとても辛い思いをしてきた。

正直こんな力欲しくなかった。
何でこんな力を持っているのかすら、わからない。

私は前世の事を、知ることができる。
勿論誰にもこんな事は言ってない。

言ったらどうなるかは身に染みて知ってる。

だけどこの力のおかげで、今日、私たちはまた会う事が出来たんだ。

彼はずっと私を助けてくれていたこと。前の前世でも、その前の時でも、時を超えて必ず、今日の様に、私の命を助ける為に犠牲になって亡くなっていたこと。
それを知った。

どうやら、私と彼は愛し合っていたようだ。
ずっと、何年も時代ときを超えて、私たちは巡り合うと約束した。
私たちは引かれ合っていて、そして必ず彼が、私の代わりに死んでいた。
そういう運命なのだろうか。
私たちは叶わぬまま、ずっと添い遂げる約束をしてきた。
叶わぬ私たちの恋を、いつか実らせてくれるであろう、未来の私たちに託して。
ずっと耐えてきていた。


これを知ることをできたのも、彼のことを思い出せたのも、私を苦しめてきた、この忌々しい力のおかげだった。
この力がもし、私になければ、きっと、彼だとは永遠に気づけなかっただろう。
だから、今になって、お礼を言いたいほど感謝している。
本当にありがとう。


そして、今度は私の番。
今度は私が助けるんだ。
ただ、どうして今回彼は猫だったのかはわからないけれど

彼は私の大切な人だから。
絶対に死なせない。


私は神様のいる神社に行ってお願いをした。

神頼みだ。

「どうか彼を助けてください」

――それはどういう意味か知っているのか?――

どうなるかは知っていた。
命を救うにはそれ相応の対価がいる、ということを。


「私の体を使って、彼を人間にしてあげてください。
私は彼の代わりに、猫になります」


九尾の神様は言った。
――何故、人生を辞め、死にかけている猫の方になりたいのだ?――
と。

「彼は何度も自分の代わりに、私に命を与えてくれた人だからです。
彼がずっと願っていた、好きな人との素敵な恋愛を送る生活を、今度は彼が叶えてほしいからです」

――また、おまえらと言う人間は。
同じことばかり。それが望みと言うのであれば叶えてやろう。救われない人間どもだ――

こうして私は猫になった。

体中がとても痛かった。
彼の名前を呼びたかったけど、声も出ない。
お腹と肺が潰れているのだろう。

手足も冷えてきて、まともに動かすことすら辛い。
息ができなくて苦しい。
私の手はぐったりしていて、冷えるあなたの体を優しく包んであげたいのに動かない。
いつもこんな苦しみを、あなたが耐えてくれていたんだね。
ありがとう。

折角、時を超えて、やっとまた会えたのに、また私たちの恋は叶わなかったね。
どうしてだろうね。
こんなに近くにいたのに。
結ばれるって難しいね。

でも、次の未来では必ず会おうね。
今度こそ結婚して、子供作って、一緒に暮らそうね。
私たちのたった一つの叶えたい夢を叶えようね。

だから、この世界では、今度はあなたが幸せでいてほしいな。
いつも私にしていてくれたように。
人間同士で二人がまた会えるように。
私たちの想いが途絶えないように残して!

過去の私たちが、ずっと願ってきた思いが叶えられるように。

あぁ、寒いし、痛いし、もう、何も考えられない。
頭が回らない。
もう、……なにも…考え…ら…れ…ない…。
頭が……、真っ白……
これが死なのかな……



あれ、
何だろう、この暖かい温もりは。

苦しいのに、落ち着く。

ああ、そうか。
彼が私を、抱きしめてくれているのか。
私がやりたかったのに。
また先にあなたがやってくれるんだ。
でも、幸せだな。
もっとあなたの腕の中で眠っていたい。


いつも、
最後までありがとう。
幸せな家庭をもってね。























僕は猫になった。
こうなったのには訳がある。

小さい頃、大切な女の子がいた。

だけど彼女の命を助ける為に自分が犠牲になった。

おかげで僕は天界に行った。



僕には力があった。前世を知ることのできる力だ。
幼い頃にこの力を使って、大切な人を見つけることができた。

だけど、この力を使う対価に、どうやらその対象に、災いが降り注ぐらしい。


今回も僕のせいで彼女には途轍もない災いが降り注ぐのだろう。

彼女を守らなくてはいけない。

だから僕は、神様に頼んで彼女を守りたいとお願いした。

いわゆる神頼みだ。

「神様、お願いします。どうか彼女を守らせて下さい」

――またお前ら人間か――と神は言った。


続けざまに、人間にすることはできないが、猫という形でなら、もう一度だけ生を与えてくれると言うので、僕は猫として再び生きることにした。


彼女を探し、やっと彼女を見つけてすぐだ。
それは彼女をこっそりと尾行していた時だった。

暴走した車が彼女目掛けて走ってきた。

これも災いの一つなんだろう。

前世を見た対価だ。

尾行していて正解だった。

僕はこの為に生まれてきた。

覚悟はとうに出来ている。

何の躊躇もなく、僕は彼女を押し飛ばした。

大きな音と共に、僕は地面に押さえつけられた。
お腹に激痛が走るのと同時に、息ができなくなった。

とても苦しい。


そうだ、彼女は、
彼女は無事なのだろうか。

目が霞んで見えない。
だが幸いに、僕は猫だった。
鼻なら人よりはるかに利くだろう。
研ぎ澄ましながら匂いに集中する。
色んな匂いが混ざっていて、彼女の匂いはあまりわからない。


だけど僕の体が急に温かみを感じた。
ほのかに彼女の匂いがした。

なんだか暖かい。きっと彼女は無事なのだろう。

彼女は僕を抱えてくれているみたいだ。

これで災い終わればいいのだけど。

どうか幸せに生きてね。
また違う時代で、今度こそ君と結ばれたいな。
家庭を築いて幸せに暮らしたい。
いつ叶うのかな。この願いは。
それまで、何度でも君を探して、君を守るよ。
例え幾ら時がかかろうとも。

もう瞼を上げるのも重い。
自分じゃ開けられない。
温かくて気持ちいいから、もう、寝てしまいそうだ。
このまま君の腕の中で。


僕たちの出会いは一瞬だったけど。僕は君の腕の中で眠れた。

こんなに幸せな事はない。

ありがとう。おやすみなさい。
























―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。










目が覚めた。


ここは……、
天界?夢?

ではなくここは現世?

俺何してたんだっけ?
俺の目の前には死にかけの猫が横たわっている。

何だよこれ?
どうして猫が?

壁には激突したトラックがあって、血だらけの猫は胴体が潰れていた。

どしゃ降りの天気は、とても冷たく、体の体温を奪っていった。

お前、俺を助けたのか?
俺の代わりに引かれたのか?


見ず知らずの俺をどうして?
痛いだろう? 寒いだろう?


ごめんな。ありがとう。

俺は猫がなるべく痛くないよう、そっと抱き上げ、抱きしめた。
何故かこうしないといけない気がした。
いや、こうする事しか、俺にはできなかった。
何故こんな現場になっているのか俺には分からない。
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