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第七節

第44 ユウカの愛人!?

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■ユウカの愛人?

 先に動いたのは舞。 女は一歩も動くことなく、舞は壁に打ち付けられていた。


「舞!」

 ユウカが舞の身を案じる。 だが、全く女の手が離れない。痺れる体。まるで彼女に逆らうの事を許さないように。  

 フランも本気だった、。 そのスピードはすさまじく、舞が吹き飛ばされてすぐに、女との距離を詰めた。 フランの一撃。それはコンクリートですら粉々にする一撃。 その一発が女に入る。

 やった、とユウカは思った。


「それで終わりか? 」


 女は余裕な笑みを浮かべている。 聞いていないのだろか。 あのフード男のように。 頑丈だとでもいうのだろうか。 否。 フランの攻撃は彼女には入っていない。 フランの腕は女に掴まれていた。

 そのまま天井にフランをぶつけると、落ちてきたフランに一撃を入れる。 あっという間にフランは吹き飛ばされていた。 


 入れ替わりの舞の攻撃。その刃は何のためらいもなく、すさまじい速さで彼女の開いた首元へ向かう。しかし浅かったのか、早く振り過ぎたのか、 女は体を少しずずらすだけでその剣を避けた。

 舞はまた簡単に吹き飛ばされていた。 激突の際、舞は刀を落とした。

「終わりだな」

 強すぎる。 フラン10人分なんてモノじゃない。10人いたって勝てる相手ではないだろう。 女は舞を始末しに行こうとしてユウカを離す。


「おい、止めろ。 お前の目的は何なんだ」

 女はぎゅっとユウカを抱きしめた。 


「大丈夫。 必ず守るから」

 ユウカは何も出来なかった。 なぜ彼女に触れられると、切ないような感じになってしまうのだろうか。 体がまるで彼女のものであるかのように、自分の意志を聞かない。 いや、自分の意志さえも……。


 女が舞に向かって行った時だった。突如として女は倒れた。


「舞! 大丈夫か!? 」

 ユウカは急いで舞に駆け寄った。 あれだけ強い衝撃を体に受けているんだ。最悪救急車を呼ばないといけない事を想定した。


「な、……なんなの、あいつ。 とりあえず、何とか助かったって感じかしら」

 二人は倒れた女を絶望を覚えた顔で見て落ち着かせる。それと同時にもう動かないでくれと願った。


「フ、フランは? ……大丈夫」


「……私は大丈夫」

 フランも歩き方がおかしかったところを見ると腰を強打したのだろう。 相当に痛々しい姿でユウカ達の方へやって来た。


 舞は床に倒れるように寝る。

「とりあえず、……あれ、 どうする?」

「あぁ、どうするか」

「ていうか、本当にあんたの知り合いじゃないんでしょね?」

「まだ疑ってんのかよ? 俺は全く知らねぇって」


「はぁー、どうだか」

 疑う舞をダルそうに見つめるユウカ。


「紐、持ってきて」

 舞はユウカに途中まで霊力を込めていた紐に力を振り絞って、込めきった。

「はい、 それ捲いたら、たぶん大丈夫だと思うから。 まぁ気休めにしか習いかもしれないけど、無いよりはましでしょ。 後よろしく」

 舞はそのまま傷ついた体を休めた。


「フランもそこで少し休んでいてくれ」

「……また起きるかもしれない。 くくるなら私がする」

 フランは女の手足をしっかりと縛った。


「……終わった」


 三人は倒れ込むように、しばし、体を休めた。



――――夜
「ユウカ! ちょっと座って」

 舞が怒っていた。

「早く!」


「な、何でそんな怒ってんだよ」

「で、? あの女は誰?」

 舞は腕を組んで椅子に座る。ユウカは小さくなったように、椅子に座った。 女はまだ拘束されたままソファーで寝ている。 大きな魔力は尚も感じたままなので、舞も気が抜けないでいた。


「だから知らねぇっての」

「知らない人があんたの事好きって言って抱き着いてなんて来ないでしょうが」



「本当に知らないんだから、知らないっての。 大体、 向こうの勘違いとこもあるだろ。 寝起きなんだし」


「ない」
「……ない」

 舞とフランは声をそろえて行った。


「ユウカが忘れているだけとかか?」

 ユウカは色々おもいだしてはみるものの、やはり主当たる節は無い。ただこの場にエリィ-がいなくて良かったと、頭はエリィ-でいっぱいだった。


「わかんないけど、エリィ-まで襲われることがなくて、ほんと良かったよ」


「ユウカ……」

 舞もユウカの心にぽっかりと空いてしまってる穴を感じた。


「……ところであれ、どうする?」


 三人は処理に困った。その夜は作戦会議だ。 外に捨てるなど色々案は出た。 

「いや、待てよ。裸で外に捨てるってのか? それもやばいだろ」

「何でだ裸なのよ、あのままに決まってるでしょ」

「あほか、俺の服着てんだろうが。 服は返せよ」

「ちっちゃい男ね。 何よ服ぐらい、それか政府かに突き出す? 私達よりは確実な対処をしてもらえると思うけど」

「それはダメだと思う。 もしあんな奴らが世界ここに居るんだと知れたら、捜索が始まるかもしれない。 そうしたらフランも危なくなる」


「じゃあ、どうすんのよ?」 

 本当に手詰まりだった。結局話し合った結果自分たちで処理するしかなく、
埋めるかばらす事になった。

「可哀想だけど、仕方ないわよね」

「あぁ、頼む舞」

「はぁ? 何でばらすのが私のなのよ! あんたの女でしょ! 自分でやりなさいよ」

「俺には、……こんなきれいな人は切れねぇ」

「なに、ちょっと、本当に引くわ。 キモイんですけど……」

「大体あいつ切れるのお前しかいねぇだろ」

「それかフランに殴り殺させるのか」

 二人はその光景を想像した。 とても酷いやり方だと。

「ダメね」

「止めよう。 それに、起きるだろ普通」

 舞が切る。 話はそれで落ち着きそうだった時。


「誰を殺すですって?」


「え?」

「嘘でしょ?」

 三人は起きてユウカの後ろに立つ彼女を見た。

 舞たちは勢いよく立ち上がり、また構える。 椅子に座ってるのはユウカだけだ。


「何?まだ私と戦いたい訳?」

 女は舞たちを見て話す。

「あんたこそ、早くここから出ていきなさい。 話し合いするつもりはないんでしょ?」


「うむ。それなんだがな、お前たちは敵ではないのか?」


「敵ってどういう事よ? 私達の家にあんたがいたからこっちは構えてるんだけど」

 舞は冷や汗をかきながら強がって見せる。気が抜けない。

「いやなに、倒れた私を寝かせたままだったり、こんな弱い拘束をつけてみたりと、すぐにでも殺せたと言うのに、殺さなかったであろう?」


「まぁ、殺す必要はないからな。 お前が俺たちに危害を加える奴ではないならな」
 
 ユウカは女に真意を話す。

「ユウカ!」

 女はユウカに飛びついた。 

「やっぱりお前は私を殺せないと言った。 洗脳されていても、私のことをこんなにも思ってくれているのだな。 ユウカ!」


「ちょっと、何してんのよ。 ユウカから離れなさい」

「黙れ女。 お前こそ私の大事なユウカの洗脳を早く解け」


「洗脳ってなんの事よ。 私別に何もしてないんだけど」

「お前は奇妙な微弱な魔術か何かを使っているのだろ? しっかりと感じているぞ。 お前の周りにあるその気のような白いもやもやをな」


「あなたは何者なの?」


「とりあえず、刀を下ろせ。 話をしよう。 私を切りたいと言うのであれば、お相手するが」

 舞は刀を下げた。


「で、……何でアンタがユウカの隣に座ってる訳?」

「それはそうであろう。こやつは私のものなのだから」

「なぁ、俺たちってどこかであっているのか? 誰かと間違えてないか?」

「何だと!? ユウカお主は本気で行っておるのか? 女狐女いい加減に術を解かないと許さないぞ」

「だから、そんなの掛けてないってば」

「私からも問おう。私は何故このような珍妙な場所で目覚めたのだ?」

「いや、それはこっちが聞きたいんですけど」

 四人は沈黙を続ける。皆が理解できていない。

「お前は私と同じ同類の匂いがする。 ここはどこなのだ?」

 女はフランを指さす。

「ここは成華町だけど、もしかするとあんたがいた世界じゃないんじゃないか?」

 ユウカはエリィ-飲みに起きた事と照らし合わせていた。 また穴とかいうモノから落ちてきた人ではないのかと。


「世界が違う? ここは?ヴァンビルではないのか」

 ヴァンビル? ユウカはその言葉に反応する。 エリィ-も以前、ヴァルビン等と似たようなところから来たと言っていたのを思い出した。

 エリィ-とは同類なのだろうか。 エリィ-似合った羽と大きさは違えど、似ていると言えば似ていた。


「それと、もう一つ、聞き捨てならない事を聞いたが。私達の家と言っていたな。 私達とは誰の事を指しているのだ?」


 舞とユウカは見つめ合う。


「私の家じゃないけど、こいつと、私の事よ」


 舞はユウカを指さし言い放った。


「お前やはり私の大事なものを取ろうとしているな」

 女は睨みを利かせる。 余程ユウカに入れ込んでいるらしい。

「大事とかよくわからないけど、ちょっと分け有って私がここに住まわせてもらってるだけ。別にユウカをどうこうしようって訳じゃないけど、あんたみたいに物扱いとかもしていないわ」


 まるで女の戦い。 舞も負けじと、言いたい放題言う女に言い返す。 圧されるつもりは全くない。


「お前、いい度胸しているな。 女狐目。 まぁいい、お前がどれだけユウカに言い寄ろうがユウカは見向きもせんからな」


 その自信にまで溢れる大人の女性感、 彼女のユウカにたいする信頼は相当のものらしい。

「なぁ、ユウカー」

 こうしてユウカに体や顔を擦り付ける仕草さえしなければ、もっとかっこよく締まったのだが……。

「もう少しユウカと一緒に居たっかったが、なんとなくわかった。 タイムリミットだ。 そろそろし連れさせてもらう」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。 こっちは全然聞きたい事聞けてないんだから」

 女が指を鳴らした瞬間。 大きな圧が一気に三人にかかった。  気づいた時には。 すでに次の日をまたいでいた。


 女の姿はなく、魔力も全く感じない。 そして、律義にユウカの服を脱ぎ散らかしたまま、どこかへと言ってしまったようだった。




――――バイパー本部。


「総長! やりましたぜぇ。 六道の持つ、拠点をひとつ押えました。 あいつらは、不正行為が認められ、事業を撤回。 代厳の言う通りそこの買収に成功。 俺らが事業を乗っ取った」


「でかしたじゃねぇか」


 バイパーは表立っては政府に鎮圧されたと報道されていた。 町の暴動も被害は無くなり、代厳正治の偽の遺体を作ってそれを遺棄し、バイパーの幹部の一人が主導者として捕まることでこの騒動は幕を下ろした。 
 しかし、裏ではバイパー達が代厳指揮のもと、着々と政府の事業所を潰していた。 巧妙な手段を使い、あたかも、汚職が行われているかのようにして政府の建設事業に食い込んでいった。


「こりゃ、本当に面白い事になりそうだ。 お偉いさん型は、何が起こっているのか、全くわかってねぇ。 俺たちはまるで人間の体内に入り込んだウイルスみたいだ」


 総長は満足そうに高笑いが止まらずにいた。






――――朝。


ユウカ達は三人で食卓を囲んでいた。

「もしかして、舞が見た幽霊ってアイツの事なんじゃ」

「それは違うわ。 あれも魔力はでかかったけど。 あんなものじゃない。 髪の色も違うし。まぁシルエットとか身長は、あんなもんだったかもだけど……いや、もうちょっと高かったわね。 とにかく別人よ」


 二人は早めに学校に登校した。ユウカは荷物を持っていない。なぜなら、昨日学校に置いたまま学園を飛び出してきたからだ。 舞もユウカも体操服のまま登校しなければならなかった。


「なんか朝練みたいだな。これ」

「うっさい。 で、あんた本当に大丈夫なんでしょうね、フラン連れてきて!」

ユウカと舞の間をフランがローブを被って歩いていた。

「あぁ、あのままあそこに置いとくのも心配だろ。 大丈夫、頼れる当てがあるから」

 そしてついたのは令嬢学園

「あんたまさフランを学校に隠しておくって算段じゃないでしょね?」

「それは流石に無理があるだろ」

 ユウカもそこまで馬鹿ではない。2人は自分の制服に着替えてから行こうと更衣室に向かったが、制服がなかった。

「あんた何で着替えてないのよ……」

「制服がなくてさ。 そう言うお前は……?」

「いっしょね」

 2人は溜息をついた。 また厄介事が増える。 ともかく先に、フランを隠せると言う場所に届けたら、今度は学校が始まるまでに、制服探しである。


「失礼します」

「やぁ、ユウカ君、朝早くから連絡が来てびっくりしたよ。 でもよく僕の連絡先を知っていたね」

「いや、先生が俺の所に連絡先を置いて行ったんでしょ。 饅頭くれた時に」

「あれ?そうだったかい? で、フランちゃんを今日一日、誰にも見つからないように匿えばいいだよね?」

「あぁ、そうなんだ。 お願いできますかね?」

「お安い御用さ。 また会えたねフランちゃん」

 ユウカが頼りにできる人とは。 それは錘凪先生であった。 彼に朝早くから、電話を飛ばし、預かってもらう算段を立てていた。


「所で後ろの彼女はどちら様かな? ユウカ君のフィアンセかい? とても美人さんだけど」

「ち、違います」
「ち、違うわよ」


「息、ぴったりだね……」

「とにかく今日一日お願いします」

「任せて、まかせて、僕も暇していたところなんだよ。 この学園広くて、もう何したらいいやら」

 舞は本当にこの人で大丈夫なのか自信がない。

「所でどうして2人は体操服なんて来て登校してるんだい?
 あ、ごめんそう言う事か。 そりゃ制服より、色が違うだけの方がペアルクッテって感じがするもんね。 いやーユウカ君も隅に置けないな。 近な綺麗な奥さんといつも一緒だなんてさ」

 二人は想像したのか急に顔を赤くし出した。 

『ペアルックじゃないし、第一、相性あってません!』

 ダブルパンチを受ける錘凪先生。

「そ、そう、それにしては、さっきから一言一句ぴったりと息があってると思うけど。 本当に相性抜群だと思うんだけどなぁ2人」

 先生もこれほど相性があっていると言うのに気づかない鈍感学生二人の鈍さに、顔を引きつっていた。

「と言うのは冗談で、探してるのはこれでしょ? 」


 錘凪先生は机の上に綺麗にたたんであった学生服を見せる。

「あ、これ」

「私達の」

「だけど、どうして先生が?」


 ユウカ達は不思議に思っていると。


「今日さ職員室に寄ったらたまたま制服が置いてあったからね。 誰かの忘れ物かと思ったんだけど、ユウカ君が深夜の4時ごろに電話をかけてきた当たり、もしかしたらと思ってね。一応持ってきてみたんだけど、 当たったみたいだね、 良かった」

「先生……」

 この先生はやたらとこういう所は本当にすごい。まるで相手のして欲しい事がわかっているかのように、ただ偶然を装ってやってしまう。 本当に偶然なのだろうが、だから彼は人望が厚いのかもしれない。 普段はへらへらしていても。


「フランと先生はあったことがあるんですか?」

 舞が錘凪先生に問う。

「うん? そうだね、 成華学院があった時に、色々と二人にはお世話になってね」

「ほぉう」

 舞は冷たい目でユウカを見た。

「な、何だよ」

「後で詳しく聞かせてもらえるかしら? 私まだ聞いてないんだけど」

 ユウカは苦笑いするしかなかった。


「大丈夫だよ、僕は口が堅いから。 二人の愛の隠し子を全力で守り通して見せるから。
 この子は絶対に、誰にも知らさせない。 君もお父さんお母さんににて本当にかわいい子だよ」

『誰が二人の子ですか』

 二人は爆発寸前だった。

「あれ違うの? 
 嘘嘘、冗談だよ、嫌だな、二人とも、本気にしちゃって。 でも、ほんとの所はどうなのかなぁ~」

 ニヤニヤと口元を隠し笑う先生。

「あ~もう! それじゃあよろしくお願いしますね」

 ユウカは扉を閉めて出て行った。

「あらら、行っちゃった」




「ちょっと、ほんとにあんな奴に預けて大丈夫なの!」

「あぁ、あんなんだけど、一番頼りになるかも知れない。 ほんとあんなんだけど」

「私あの人嫌い! なんか頼りなさそうだし」

 大概最初に会う人はみんな先生の事を嫌う。 かく言うユウカもそうだった。 だが本当の先生を知れるのは、もっとその後だ。 そうして皆錘凪先生と言う人柄に惹かれて行ってしまうのだ。 こうして大事な事を頼めてしまうほどに。



「でも、本当にいい人だから」


「あんたさ、見る目おかしいんじゃないの?」

 舞は一言もユウカの話しを信じていない。

「いきなりなんだよ」

「変な知らない外人の愛人はいるし、変な事ばっかりいう先生とかさ」

「おい、愛人って誰の事言ってんだよ。 まさか昨日の奴の事じゃないだろうな」


「そうよ! それ以外誰がいるって言うのよ」

「愛人じゃねぇ。 どうやったらそう言う風な考えになるんだよ!」

「あんたたちずっとイチャイチャくっついてたじゃない!」

「あれは向こうが勝手に勘違いしてやって来ただけだろが!」

「あれぇ? そうかしら。 心の奥底では喜んでたんじゃないの? その証拠に全然離れようとしなかったし」


「それは、何か変な感じがして。 なぁ、魔力って相手の体の自由を奪ったりって出来るもんなのか?」

「知らないわよ。 あんたが喜んでただけでしょ」

「な、何だと。 喜んでねぇ」

「喜んでたわよ!」

「喜んでねぇって言ってんだろ」

「喜んでましたぁー」

 あまりにもイラっと来たユウカはすっと行こうとする舞の腕もつかんで壁に押し付けた。

「ちょっと!何すんのよ!」

 舞の腕は持たれたまま、自分の顔の近くで押し付けられる。

「俺は、喜んでねぇ」

 真剣な眼差しが舞に向けられる。 顔が近い。


「わ、わかったわよ」

 舞が恥ずかしくて目をそらす。

 だんだん顔を赤める舞に、ユウカも自我を取り戻した。


「あ、えっと、そ、そう言う事だ」

「わ、わかったから、話して。 顔近いし、バカ」

 ユウカはそっと舞の手を離す。

「わ、わりぃ」


 二人はしばらく無言だった。




 みんなが登校してからは、ユウカは四人に尋問にあった。

「おい、お前ら、昨日授業抜け出してどこ行ってたんだよ」

「えっと、ちょっと色々あってな、ね、…… ね、ねこがな、そのあれだ」

 猫?一度は聞き返した。 猫と授業を抜け出すのと何の関係があろと言うのか。 皆は気になって仕方がない。

 ユウカは何とか思いついたね声でどうにか丸めようとしていた。

「舞の奴、授業に鞄こっそり持ってきてて、その中の、ポーチを持って行かれたのを偶然見て二人で追いかけたんだ」

「へぇ~ 嘘っぽ~」

 完全にばれている。 だがユウカはそれで押し通すことにした。
 この後すぐに、学園内放送で舞とユウカは職員室に呼ばれこっぴどく怒られた。 授業を抜け出して行方不明になったのだから当然だ。


 いつしか2人は付き合っているのではと噂する生徒が出だした。


 放課後、舞のと同じクラスの女子の何グループかは舞に声をかけてみようとしていた。 仲良くなりたいのだ。  一つのグループの女子1人が、恐る恐る、舞に声をかけた。


「あ、あの、お、桜華さん」


「ん?なに?」

 舞は普通に答えたつもりだったが、傍から見ればとても冷たい言葉に聞こえる。 印象操作がさらにそれに拍車をかけているのもあるのだろうが、まるで顔を上げ、上から見下されているような感覚に声を掛けた女の子は思わされた。


「あ、あ、あの、その、 きょ、今日私達と一緒に帰らない?」

 声が震えている。 

 舞は驚いた。 そんな風に誘われた事がなかったから。気持ちは嬉しかった。だけどフランを連れてきているので、一緒に帰るなんてことはできない。 


「ごめん、今日は用事あるから。 それじゃぁ」

 舞は嬉しくて、あまりに胸が高ぶり、言葉が上手く出てこない。舞なりに丁寧に断ったつもりだった。 断って、その場にいるのは恥ずかしいので帰る準備をしていた鞄を持って、さっさと教室を出て行ってしまった。
 だが傍から見れば、その行動は冷たい。 表情が動かないから余計なのだ。 勇気を出して声をかけた彼女は怒らせてしまったのではと半泣きになっていた。それをグループの子が優しく迎え入れた。

「や、やっぱ桜華さんて怖いね」

「声かけなかった方が良かったかも」

 それは声を掛けようとしたグループ全員が思った。


 舞は朝来た、錘凪のいる部屋へやって来た。

「しつれいします」

「やぁ、桜華君。 早かったね。 もういいの? 友達とも積もる話があるんじゃないの? もうちょっとゆっくりして来たら?」

 大きなお世話だった。 舞に友達と呼べるような人はこの学園にはいない。

「ありがとうございます。 預かっていただいて。 フラン行こ―」

 舞は錘凪の言葉を流し、フランに手を差し伸ばす。 フランは舞の手を取る。


「……先生ありがとう」

「こちらこそ。 僕の相手なんかしてくれて嬉しかったよ」

 錘凪は舞の方を見ると、ユウカが来ていない事を伝えた。

「あぁ、まだホームルームだと思いますんで。 それじゃあ、ありがとうございました」

「いいの?先に帰っちゃって? 旦那さん怒らない?」

 その言葉には何故かイラっと来た。

「誰が旦那よ!」

 フランもいきなりの舞の威勢に肩が上がった。

「そ、そんな怒らなくても……。 でも、僕で良かったらまたいつでも言ってね。 フランちゃんもまたいつでもおいで。 今度はエリィ-ちゃんも一緒に来れたらいいね」

 舞は怒りのこもったお礼を伝えると、扉を勢いよく


「ったく。 何なの、あの人」

「……舞、怖い……」



 舞は起こりながら、生徒に見つからないように足早に校門を出た。


「フラン。 今日は行くわ。 付き合って」


「……今日は行くの。 わかった。あれは持ってる?」

「持ってきてる。 ちょっと、私の家の偵察も兼ねさせてね」

「……ユウカには」

「大丈夫、バイトもあるだろうし、そんなに遅くはならないわ」


 舞の本気の目が何かを見ていた。

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