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第五節
第13話 三人の女の子
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体が軽かった。
いつも以上に、元気に動く。
しっかり体を休めたような清々しい感覚。
ユウカはその有り余った力で惜しみなく探す。
朝の出勤時間だろう。 人が沢山いる駅や移動できそうなところをほとんど回った。だが、見つからない。ならば何処かに移動しているよりは隔離されている方が可能性が高いのか。
じゃあ廃ビルか?
こういった場合、一般の素人が手の付けられる域を当に通り越している事はユウカも十分わかっている。
警察の令状や権力の持った力を働かさなければ、調べる事すらできない状況だからだ。
誰にも頼めない以上は、一つ。自分で探し出すしかないのだ。
ユウカはありとあらゆるビルや、建物に入った。
時には暴力団も出てきて殴られる。
雑に扱われ、迷惑がられたりもしたが、それでも止める事は出来ない。
エリィーを探し出さなければ。
その上を一匹のカラスが通り過ぎて行った。
『黒い鳥を追いなさい』
あの男の言葉が蘇る。
だが、カラスなど追いかけてる暇はない。
エリィーを探しているのだからと、ユウカは無視して走った。
街中に出ると、一人の女性が歩いていた。
とても、目立つ風貌。
特にド派手な衣装を着ているわけでもなく、彼女はただ、普通の人と同じなのに全ての人の視線を引き付ける。
こんな芸当ができるのは、豪邸に住むお嬢様、零錠 結だ。
この人は高嶺の花なのだが、誰もが寄りつかない。 いや、寄りつけないが近い。
賢さと権力を持っているお家柄もあり、軽々しくお近づきになれないと言う言い方が正しいか。
だから、街の人達も、ただ普通に会話がしたくても、近づき難さが彼女に付きまとって軽率に話しかけないのだ。
そんな零錠結が話しかけてきた。
「ユウカくん? 」
「あれ、零錠? おはよう」
「おはよう。
それで、こんなところで何しているの?
学校にも行かないで、さぼりかしら」
「いや、ちょっと探し物を」
「探し物?
そんな言い訳をして、あなたも不良になったものね。
私悲しくなってきたわ。
私で良ければお家を一緒に探しましょうか?
迷子の子猫さん」
彼女にとって探し物を探す事はお手の物だ。
探偵だって顔負けの推理力と、彼女の鋭い洞察力は研ぎ澄まされたように鋭い。
考察を行うことは彼女にとっては、暇を潰すいい娯楽になる。
つまり彼女に協力してもらえれば、事件解決を早める手段につながる。
「誰が不良だよ。
それに俺は帰る家を探してるんじゃないから。
迷子でもねぇし」
「はぁ、 もぅ、そんな事どうでもいいわ。
本題に入りましょ?
何を探しているの? 」
つくづくマイペースである。
ユウカ自身は彼女の性格を知っているので、このテンポに着いて来れるが、初対面の人等は彼女と話すには少し弊害を生む。
「デカいスーツケースなんだけど」
「デカいスーツケース?
そんなものを持って、あなた、どこへ行くつもりだったの?
もしかして、引っ越しでもするの?
それか、私の家の横にでも引っ越そうとしたのかしら? 」
彼女の身形は質素で整っているので、傍から見れば、凛々しいお嬢様の様に見えるが、話せば冗談好きな、普通の女の子である。
「んなわけないでしょ。
零錠とこの地域になんて住めるほど、こっちは裕福じゃないから」
「あら、そうなの。 なら、そのスーツケースってのは一体何? 」
ユウカは口を瞑った。
確かに零錠 結 に頼む事が、事件を一番早く解決させる手段なのは分かっている。
彼女が財閥の力を使えば、この街、この世界の事象など一発でわかってしまうだろう。
警察なんかより、頼りになる存在。
しかし、それは、事件の内容を話せればの話しである。
「あら?どうしたの? もしかして言いたくないのかしら?
まぁ、あなたも健全な思春期の男の子ですものね。
そういうものも隠したくなる気持ちは察してあげてもいいけど 」
「おいおい、何考えてんだよ。
そんな如何わしい本を入れてる訳ないから」
「あら? 違った? あなたの事だからてっきり。
私の推理が外れるなんて、これが初めてだわ」
零錠 唯は物思いに下を向いた。
「こらこらこらこら、止めろ。
あんたの推理は、今まで何度も外れてんだよ。
それより、教えて欲しんだけど?
もし、零錠がでっかいスーツケースをもって動くとしたら、どこに潜む? 」
零錠の目つきが変わる
「それって、誘拐って事かしら? 」
今の情報量から誘拐と言い切ってしまう彼女はやはり天才なのかもしれない。
一般の人とは、かけ離れた頭脳をもっているのは間違いないだろう。
「いや、誘拐だなんて、大それたことは。
ただもしだけど、頭のいいあんたが犯人なら、どこを拠点にするのかなって思って」
「そう。
そうね、私なら……」
零錠は顔を上げ、高く指さす。
「あの高層マンションの一角に住処を置くわ。
一つはダミー、もう一つは自分の部屋ね。
そうね、大体最低でも最上階に一つは、部屋を借りるんじゃないかしら。
そこなら、監視もしやすくて。
もし、囲われても、突入するのに、時間稼ぎができる。
気づきやすくもなるし、もし、ヘリ等を用意しているなら、尚更ね」
冗談も大概にしてほしい所だ。
新築の高層マンション65階建てを二部屋なんて、どんな金持ちの誘拐方法だ。
これは零錠のようなお金持ちでなければ実行できない。
と改めて彼女との資産の違いを感じさせられた。
「そりゃ、あんただから成せる技だろ……
ありがとな、アンタに聞いた俺が間違いだわ」
「あら、酷い事を言うのね。
真剣に考えさせておいて、人の意見に全く聞く耳を持たないなんて。
ユウカ君いつからそん酷い人になり果ててしまったのかしら。
やっぱりこうやって学校をさぼってしまう人は不良になって行ってしまうものなのね。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏 」
「零錠だって休んでるじゃん! 」
「ん? 私は学校の許可で、お休みしているのよ。
それに、今日は授業が無い日だし。
貴方とは休み方が違うわ」
零錠は主席で学校を出て、飛び級で大学に行っている。
彼女は何だって上を行く存在だった。
その為、同期からも年上の様に頼られることが多い。
そして同期生の間でも、零錠は高嶺の花子さんだった。
「せこいよな。
いつも、そう言いう所。
ほんとフェアじゃない」
「あら、嫉妬かしら。
だったら、あなたもそうなれるようにしてみたらいいのではないかしら」
「いいよ。 もともと頭の出来が違うから。
俺は俺で、この生活が気に入ってるし。
零錠みたいな生活しちまったら逆に、忙しさとプレッシャーに押しつぶされそうだから。
ほんとすげぇよ、零錠は! 」
零錠は余裕そうにその辺を嗜んでいるように見えるが、こう見えて彼女の一日は本当に忙しい。
プライベートに見えている時間はほとんど自分の時間ではなく仕事関係だ。
そんな零錠を見て、周りの人間が思うのはうらやましいという事。
それを分かってくれる人間は同業者を除いて、そう居なかった。
だから、零錠はユウカの事を一目置いてもいる。
皮肉が言える仲なのもお互いがお互いを思っている証拠である。
「悪い、じゃ俺もう行くから。
一応、考察ありがとう」
「そんなに大事なものなら、私も一緒に探そうか? 」
「大丈夫だ、零錠だって忙しいだろうし。 もし手伝ってくれるのなら、スーツケースを見かけたら教えてくれ。 それだけでいい。 白いやつだから」
ユウカは駆けて行った。
「あいつらしいわね。
まぁ、彼がそう言うなら、それでいいわ。
周りだけには気をけて歩いてみましょう」
ユウカは零錠の出した考察のマンションに向けて走っていた。
考察は信じていない。
だが、その周辺にも立派なマンションがある。
探すには、持ってこいの地区であった。
そして、零錠の直感にかけてみようとも思ったのだ。
本来であれば、零錠に手伝ってもらうべきだ。
しかし、ユウカはこの事件が命に関わるほどの事件だと感じている。
あの男と対峙する事になったら確実死ぬ。
そんな危険な事に零錠を巻き混む訳にはいかなかったので、ユウカは頼まなかった。
このエリアは本当に綺麗な建物や店が多い。
ちょっとした観光スポットにもなっている為、いろんな国の人種が目につく。
ユウカは男と交えて分かった事があ。
あの男はたぶん普通の人間ではない。
だとすると、そういう人間が集まる場所は、こういう所が好都合なのかもしれない。
どれほど探しただろうか。
一人で探すには限界がある。
と、突然スマホが鳴る。
誰からだろうか?
電話には星の名が表示される。
「もしもし! 私。
星だけど、ユウカ君今どこにいるの? 」
「どこって、町中駆けずり回ってる所で」
「何してるの!!
ねぇ、聞いたよ! 病院に運ばれたって」
ユウカにとって病院に運ばれている事が知られてしまっているのは痛手だった。
「あ、えっと、ちょっと転んじゃって。 大したことないのにな。
だけど、もう大丈夫だって。 先生から退院して良いって言われて」
「言ってないよね。
私たち、今病院来てるんだよ! 病室行ったら、誰もいないし、病室間違えたと思って先生に聞いたら、血相を変えて探してるし!
一体なにしてるの?
そんなことして、
ユウカ君、何かあったらどうするの? 」
電話口の声はすごく高ぶっている。
「いや、ごめん。
でも本当に大丈夫なんだ。 体が動かないと、病院から飛び出すことなんてできないだろ?
それに、俺の声聞いて分かると思うんだけど、本当に苦しくないんだ。
本当に何ともない。 どこもケガしてないし、痛くないから。
心配かけてごめん」
「確かに、元気そうだけど。 でも、どういう事?
怪我とかしてないなら入院なんてするわけないじゃん!
仮に何ともないとしても、どうしてお医者さんにちゃんと診断してもらう前に飛び出しちゃうの?
そんなの普通じゃないよ?
みんなだって心配してるよ。
もしかして、スーツケースの事探しに行ってるの? 」
ここは嘘うついても意味がない。
「あぁ、そうなんだ」
「どうして、そんなに困ってるなら、相談してくれればいいのに。 警察に任せて追わなくていいじゃん。
お金の事なら少しなら、力になれると思うし、それより今は取られたお金より、体の方が大事でしょ! 」
言いたい、言いたくて仕方がないもどかしさが込み上げてくる。
いっそ中身が何で、何を守ろうとしているのか言えればどれほど楽か。
だが、中身がお金と言ってしまっている以上、どうしたってお金で困っているようにしか見えない。
真実を伝えられない状況で、星の正論を論破するのは至難の業だ。
「心配かけてることは謝る。
だけど、わかってほしい。 どうしても見つけなきゃならないんだ」
「ユウカ君、それっていったい…… 本当は何なの?」
「ごめん、そろそろ切るな。 病院まで来てくれてありがとう。
じゃあ」
「あ、ちょっと、待って、 ユウカ君?! ユウカ君! 」
ユウカは電話を切った。
星からの電話を自分から切るのは初めての事だがここに後悔は無かった。
どうしても、今日中には見つけたい。
日がたてば経つほど、生存率は少なくなる。
そうはいっても、どこを探すべきなのかはまったく見当がついていない。
その時、ユウカの頭上を何かが霞める。
ブーンと言う羽音。 黒い物体は悠々とユウカを抜かしていく。
あれは!?
そう、あの時家で現れた黒いドローンだった。
アイツを追えば何かわかるかもしれない。
もしかしたら、そこにエリィーは。
走るスピードが変わる。
ドローンを見失わない様、必死で食らいつく。
丁度、薄暗い路地を抜けたところだった。
大通りに出る道に差し掛かった時の事。
「きゃぁ」
「痛ってぇ」
女性とぶつかってしまった。
彼女の持っていたスマホも、道端に落ちた。
「痛たったたたぁ」
女の子はスカートを抑えながら、立ち上がった。
このままこけていてはドローンを見失う。
「すみません。大丈夫ですか? 」
落ちているスマートフォンが幾度となく振動していた。
「あぁ、大丈夫。 こっちもスマホ見てたから、すみま……、
……って、アンタ!? 」
「んっ? 」
ユウカは次の一言で身が固まる。
「あん時の変態野郎じゃん! 」
ユウカにはその記憶がない。
しかし、この女性の事はなんだが見覚えがあった。
この女とぶつかってから、気が付くと病院で目覚めていたという事だけは記憶が蘇る。
だけど、変態ってなんだ? そんなことを言われる覚えが、これっぽちもない。
それに、街中で変態、なんてデカい声で言うのはやめてほしい事だ。
人通りもある大通りで、変態だなんて言われようものなら、警察だたになりかねない。
なんてったって、ギャルだ。 あまり周りを気にしてないのか。
声がでかすぎる。
「えっと、確か前にもぶつかった人ですよね?
俺、別に変態とかじゃないんだけど…… 」
「はぁ? 何しらばっくれてんの?
ぶつかってきた挙句、アンタ、私を押し倒してきたんじゃん。
忘れたわけ? 」
これ以上こいつと話すのはまずい。
何か誤解があるのなら弁解を図ろうとしたが、話せば話すほど、いろんな事象が出てくる。
そして、声がでかい。
ギャル風の女子は威嚇するように構えた。
いつ何時、ユウカに襲われるかわからないので、戦闘態勢でユウカを睨んでいる。
実際ユウカには全く押し倒した記憶は無い。
あの時点で意識が朦朧としていたユウカは、必死に体を支えようとガードにしがみついていた事だけが記憶に新しい。
追いかけていたドローンの姿が小さくなっていっていた。
見失っては一貫の終わりだ。
これはきっとエリィーを見つけられる最後のチャンス。
「いや、えっと、ちょっと何を言っているのかわからないんだけど。
とりあえず俺急いでいるから、それじゃ」
あっさりとユウカはその場を後にすることにした。
「いや、ちょっと、待ちなさいよ! 逃げる気? 何なのよもぉ! 」
ギャルなど、お構いないしにユウカはその場を走り去っていった。
「つうか、アイツ、なんであんなに元気になってる訳?
おかしくない? あんなに重症そうだったのにそんなにすぐ治るもんか、普通?
もしかして、アイツ……」
ギャルは深く考える。 その目はまるで冷たい何か。
「まぁ、良いっか。
どうせその時が来たらどうせ。
まぁ、……一応、覚えてはおくか」
ギャルはスマホを拾うと、黒い筒を背負いながらまた人混みの中へと消えて行った。
黒いドローンはどんどんと小さくなっていく。
その距離200m以上。
それでも、ユウカは必死に追いつこうと走り抜ける。
いつも以上に、元気に動く。
しっかり体を休めたような清々しい感覚。
ユウカはその有り余った力で惜しみなく探す。
朝の出勤時間だろう。 人が沢山いる駅や移動できそうなところをほとんど回った。だが、見つからない。ならば何処かに移動しているよりは隔離されている方が可能性が高いのか。
じゃあ廃ビルか?
こういった場合、一般の素人が手の付けられる域を当に通り越している事はユウカも十分わかっている。
警察の令状や権力の持った力を働かさなければ、調べる事すらできない状況だからだ。
誰にも頼めない以上は、一つ。自分で探し出すしかないのだ。
ユウカはありとあらゆるビルや、建物に入った。
時には暴力団も出てきて殴られる。
雑に扱われ、迷惑がられたりもしたが、それでも止める事は出来ない。
エリィーを探し出さなければ。
その上を一匹のカラスが通り過ぎて行った。
『黒い鳥を追いなさい』
あの男の言葉が蘇る。
だが、カラスなど追いかけてる暇はない。
エリィーを探しているのだからと、ユウカは無視して走った。
街中に出ると、一人の女性が歩いていた。
とても、目立つ風貌。
特にド派手な衣装を着ているわけでもなく、彼女はただ、普通の人と同じなのに全ての人の視線を引き付ける。
こんな芸当ができるのは、豪邸に住むお嬢様、零錠 結だ。
この人は高嶺の花なのだが、誰もが寄りつかない。 いや、寄りつけないが近い。
賢さと権力を持っているお家柄もあり、軽々しくお近づきになれないと言う言い方が正しいか。
だから、街の人達も、ただ普通に会話がしたくても、近づき難さが彼女に付きまとって軽率に話しかけないのだ。
そんな零錠結が話しかけてきた。
「ユウカくん? 」
「あれ、零錠? おはよう」
「おはよう。
それで、こんなところで何しているの?
学校にも行かないで、さぼりかしら」
「いや、ちょっと探し物を」
「探し物?
そんな言い訳をして、あなたも不良になったものね。
私悲しくなってきたわ。
私で良ければお家を一緒に探しましょうか?
迷子の子猫さん」
彼女にとって探し物を探す事はお手の物だ。
探偵だって顔負けの推理力と、彼女の鋭い洞察力は研ぎ澄まされたように鋭い。
考察を行うことは彼女にとっては、暇を潰すいい娯楽になる。
つまり彼女に協力してもらえれば、事件解決を早める手段につながる。
「誰が不良だよ。
それに俺は帰る家を探してるんじゃないから。
迷子でもねぇし」
「はぁ、 もぅ、そんな事どうでもいいわ。
本題に入りましょ?
何を探しているの? 」
つくづくマイペースである。
ユウカ自身は彼女の性格を知っているので、このテンポに着いて来れるが、初対面の人等は彼女と話すには少し弊害を生む。
「デカいスーツケースなんだけど」
「デカいスーツケース?
そんなものを持って、あなた、どこへ行くつもりだったの?
もしかして、引っ越しでもするの?
それか、私の家の横にでも引っ越そうとしたのかしら? 」
彼女の身形は質素で整っているので、傍から見れば、凛々しいお嬢様の様に見えるが、話せば冗談好きな、普通の女の子である。
「んなわけないでしょ。
零錠とこの地域になんて住めるほど、こっちは裕福じゃないから」
「あら、そうなの。 なら、そのスーツケースってのは一体何? 」
ユウカは口を瞑った。
確かに零錠 結 に頼む事が、事件を一番早く解決させる手段なのは分かっている。
彼女が財閥の力を使えば、この街、この世界の事象など一発でわかってしまうだろう。
警察なんかより、頼りになる存在。
しかし、それは、事件の内容を話せればの話しである。
「あら?どうしたの? もしかして言いたくないのかしら?
まぁ、あなたも健全な思春期の男の子ですものね。
そういうものも隠したくなる気持ちは察してあげてもいいけど 」
「おいおい、何考えてんだよ。
そんな如何わしい本を入れてる訳ないから」
「あら? 違った? あなたの事だからてっきり。
私の推理が外れるなんて、これが初めてだわ」
零錠 唯は物思いに下を向いた。
「こらこらこらこら、止めろ。
あんたの推理は、今まで何度も外れてんだよ。
それより、教えて欲しんだけど?
もし、零錠がでっかいスーツケースをもって動くとしたら、どこに潜む? 」
零錠の目つきが変わる
「それって、誘拐って事かしら? 」
今の情報量から誘拐と言い切ってしまう彼女はやはり天才なのかもしれない。
一般の人とは、かけ離れた頭脳をもっているのは間違いないだろう。
「いや、誘拐だなんて、大それたことは。
ただもしだけど、頭のいいあんたが犯人なら、どこを拠点にするのかなって思って」
「そう。
そうね、私なら……」
零錠は顔を上げ、高く指さす。
「あの高層マンションの一角に住処を置くわ。
一つはダミー、もう一つは自分の部屋ね。
そうね、大体最低でも最上階に一つは、部屋を借りるんじゃないかしら。
そこなら、監視もしやすくて。
もし、囲われても、突入するのに、時間稼ぎができる。
気づきやすくもなるし、もし、ヘリ等を用意しているなら、尚更ね」
冗談も大概にしてほしい所だ。
新築の高層マンション65階建てを二部屋なんて、どんな金持ちの誘拐方法だ。
これは零錠のようなお金持ちでなければ実行できない。
と改めて彼女との資産の違いを感じさせられた。
「そりゃ、あんただから成せる技だろ……
ありがとな、アンタに聞いた俺が間違いだわ」
「あら、酷い事を言うのね。
真剣に考えさせておいて、人の意見に全く聞く耳を持たないなんて。
ユウカ君いつからそん酷い人になり果ててしまったのかしら。
やっぱりこうやって学校をさぼってしまう人は不良になって行ってしまうものなのね。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏 」
「零錠だって休んでるじゃん! 」
「ん? 私は学校の許可で、お休みしているのよ。
それに、今日は授業が無い日だし。
貴方とは休み方が違うわ」
零錠は主席で学校を出て、飛び級で大学に行っている。
彼女は何だって上を行く存在だった。
その為、同期からも年上の様に頼られることが多い。
そして同期生の間でも、零錠は高嶺の花子さんだった。
「せこいよな。
いつも、そう言いう所。
ほんとフェアじゃない」
「あら、嫉妬かしら。
だったら、あなたもそうなれるようにしてみたらいいのではないかしら」
「いいよ。 もともと頭の出来が違うから。
俺は俺で、この生活が気に入ってるし。
零錠みたいな生活しちまったら逆に、忙しさとプレッシャーに押しつぶされそうだから。
ほんとすげぇよ、零錠は! 」
零錠は余裕そうにその辺を嗜んでいるように見えるが、こう見えて彼女の一日は本当に忙しい。
プライベートに見えている時間はほとんど自分の時間ではなく仕事関係だ。
そんな零錠を見て、周りの人間が思うのはうらやましいという事。
それを分かってくれる人間は同業者を除いて、そう居なかった。
だから、零錠はユウカの事を一目置いてもいる。
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「悪い、じゃ俺もう行くから。
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考察は信じていない。
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ユウカは男と交えて分かった事があ。
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だとすると、そういう人間が集まる場所は、こういう所が好都合なのかもしれない。
どれほど探しただろうか。
一人で探すには限界がある。
と、突然スマホが鳴る。
誰からだろうか?
電話には星の名が表示される。
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星だけど、ユウカ君今どこにいるの? 」
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「何してるの!!
ねぇ、聞いたよ! 病院に運ばれたって」
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だけど、もう大丈夫だって。 先生から退院して良いって言われて」
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私たち、今病院来てるんだよ! 病室行ったら、誰もいないし、病室間違えたと思って先生に聞いたら、血相を変えて探してるし!
一体なにしてるの?
そんなことして、
ユウカ君、何かあったらどうするの? 」
電話口の声はすごく高ぶっている。
「いや、ごめん。
でも本当に大丈夫なんだ。 体が動かないと、病院から飛び出すことなんてできないだろ?
それに、俺の声聞いて分かると思うんだけど、本当に苦しくないんだ。
本当に何ともない。 どこもケガしてないし、痛くないから。
心配かけてごめん」
「確かに、元気そうだけど。 でも、どういう事?
怪我とかしてないなら入院なんてするわけないじゃん!
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そんなの普通じゃないよ?
みんなだって心配してるよ。
もしかして、スーツケースの事探しに行ってるの? 」
ここは嘘うついても意味がない。
「あぁ、そうなんだ」
「どうして、そんなに困ってるなら、相談してくれればいいのに。 警察に任せて追わなくていいじゃん。
お金の事なら少しなら、力になれると思うし、それより今は取られたお金より、体の方が大事でしょ! 」
言いたい、言いたくて仕方がないもどかしさが込み上げてくる。
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「心配かけてることは謝る。
だけど、わかってほしい。 どうしても見つけなきゃならないんだ」
「ユウカ君、それっていったい…… 本当は何なの?」
「ごめん、そろそろ切るな。 病院まで来てくれてありがとう。
じゃあ」
「あ、ちょっと、待って、 ユウカ君?! ユウカ君! 」
ユウカは電話を切った。
星からの電話を自分から切るのは初めての事だがここに後悔は無かった。
どうしても、今日中には見つけたい。
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そうはいっても、どこを探すべきなのかはまったく見当がついていない。
その時、ユウカの頭上を何かが霞める。
ブーンと言う羽音。 黒い物体は悠々とユウカを抜かしていく。
あれは!?
そう、あの時家で現れた黒いドローンだった。
アイツを追えば何かわかるかもしれない。
もしかしたら、そこにエリィーは。
走るスピードが変わる。
ドローンを見失わない様、必死で食らいつく。
丁度、薄暗い路地を抜けたところだった。
大通りに出る道に差し掛かった時の事。
「きゃぁ」
「痛ってぇ」
女性とぶつかってしまった。
彼女の持っていたスマホも、道端に落ちた。
「痛たったたたぁ」
女の子はスカートを抑えながら、立ち上がった。
このままこけていてはドローンを見失う。
「すみません。大丈夫ですか? 」
落ちているスマートフォンが幾度となく振動していた。
「あぁ、大丈夫。 こっちもスマホ見てたから、すみま……、
……って、アンタ!? 」
「んっ? 」
ユウカは次の一言で身が固まる。
「あん時の変態野郎じゃん! 」
ユウカにはその記憶がない。
しかし、この女性の事はなんだが見覚えがあった。
この女とぶつかってから、気が付くと病院で目覚めていたという事だけは記憶が蘇る。
だけど、変態ってなんだ? そんなことを言われる覚えが、これっぽちもない。
それに、街中で変態、なんてデカい声で言うのはやめてほしい事だ。
人通りもある大通りで、変態だなんて言われようものなら、警察だたになりかねない。
なんてったって、ギャルだ。 あまり周りを気にしてないのか。
声がでかすぎる。
「えっと、確か前にもぶつかった人ですよね?
俺、別に変態とかじゃないんだけど…… 」
「はぁ? 何しらばっくれてんの?
ぶつかってきた挙句、アンタ、私を押し倒してきたんじゃん。
忘れたわけ? 」
これ以上こいつと話すのはまずい。
何か誤解があるのなら弁解を図ろうとしたが、話せば話すほど、いろんな事象が出てくる。
そして、声がでかい。
ギャル風の女子は威嚇するように構えた。
いつ何時、ユウカに襲われるかわからないので、戦闘態勢でユウカを睨んでいる。
実際ユウカには全く押し倒した記憶は無い。
あの時点で意識が朦朧としていたユウカは、必死に体を支えようとガードにしがみついていた事だけが記憶に新しい。
追いかけていたドローンの姿が小さくなっていっていた。
見失っては一貫の終わりだ。
これはきっとエリィーを見つけられる最後のチャンス。
「いや、えっと、ちょっと何を言っているのかわからないんだけど。
とりあえず俺急いでいるから、それじゃ」
あっさりとユウカはその場を後にすることにした。
「いや、ちょっと、待ちなさいよ! 逃げる気? 何なのよもぉ! 」
ギャルなど、お構いないしにユウカはその場を走り去っていった。
「つうか、アイツ、なんであんなに元気になってる訳?
おかしくない? あんなに重症そうだったのにそんなにすぐ治るもんか、普通?
もしかして、アイツ……」
ギャルは深く考える。 その目はまるで冷たい何か。
「まぁ、良いっか。
どうせその時が来たらどうせ。
まぁ、……一応、覚えてはおくか」
ギャルはスマホを拾うと、黒い筒を背負いながらまた人混みの中へと消えて行った。
黒いドローンはどんどんと小さくなっていく。
その距離200m以上。
それでも、ユウカは必死に追いつこうと走り抜ける。
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九龍懐古
カロン
キャラ文芸
香港に巣食う東洋の魔窟、九龍城砦。
犯罪が蔓延る無法地帯でちょっとダークな日常をのんびり暮らす何でも屋の少年と、周りを取りまく住人たち。
今日の依頼は猫探し…のはずだった。
散乱するドラッグと転がる死体を見つけるまでは。
香港ほのぼの日常系グルメ犯罪バトルアクションです、お暇なときにごゆるりとどうぞ_(:3」∠)_
みんなで九龍城砦で暮らそう…!!
※キネノベ7二次通りましたとてつもなく狼狽えています
※HJ3一次も通りました圧倒的感謝
※ドリコムメディア一次もあざます
※字下げ・3点リーダーなどのルール全然守ってません!ごめんなさいいい!
表紙画像を十藍氏からいただいたものにかえたら、名前に‘様’がついていて少し恥ずかしいよテヘペロ
紡子さんはいつも本の中にいる
古芭白あきら
キャラ文芸
――世界は異能に包まれている。
誰もが生まれながらにして固有の異能《アビリティ》を持っている。だから、自己紹介、履歴書、面接、合コンetc、どんな場面でも異能を聞くのは話の定番ネタの一つ。しかし、『佐倉綴(さくらつづる)』は唯一能力を持たずに生を受けており、この話題の時いつも肩身の狭い思いをしていた。
そんな彼の行き着いた先は『語部市中央図書館』。
そこは人が息づきながらも静寂に包まれた綴にとって最高の世界だった。そして、そこの司書『書院紡子(しょいんつむぐこ)』に恋をしてしまう。
書院紡子はあまりの読書好きから司書を職業に選んだ。いつも本に囲まれ、いつもでも本に触れられ、こっそり読書に邁進できる司書は彼女の天職であった。しかし、彼女には綴とは真逆の悩みがあった。それは彼女の異能が読書にとってとても邪魔だったからである。
そんな紡子さんの異能とは……
異能を持たずにコンプレックスを抱く綴と異能のせいで気がねなく読書ができない紡子が出会う時、物語が本の中で動き出す!
便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~
卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。
店主の天さんは、実は天狗だ。
もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。
「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。
神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。
仲間にも、実は大妖怪がいたりして。
コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん!
(あ、いえ、ただの便利屋です。)
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ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。
カクヨムとノベプラにも掲載しています。
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
死華は鳥籠の月を射堕す 〜ヤンデレに拾われた私は、偏愛の檻に閉じ込められる〜
鶴森はり
キャラ文芸
〈毎週水曜日、21時頃更新!〉
――裏社会が支配する羽無町。
退廃した町で何者かに狙われた陽野月音は、町を牛耳る二大組織の一つ「月花」の当主であり、名前に恥じぬ美しさを持った月花泰華により九死に一生を得る。
溺愛しつつも思惑を悟らせない泰華に不信感を抱きながらも「匿ってあげよう。その命、必ず俺が守る」という提案と甘美な優しさに絆されて、生き延びるため共に過ごすことになる。
だが、やがて徐々に明らかになる自分自身の問題と、二つの組織に亀裂を入れる悪が月音と町を飲み込でいく。
何故月音は命を狙われるのか、泰華は月音に執着して囲うのか。様々な謎は、ある一つの事件――とある「当主殺人未遂事件」へと繋がっていく。
「私は、生きなきゃいけない。死んでも殺しても生きる」
月音の矛盾した決意と泰華の美しくも歪んだ愛、バランスを崩し始めた町の行く末は破滅か、それとも――。
偏愛✕隠れヤンデレに囲われる、死と隣り合わせな危険すぎる同棲生活。
ほんのりミステリー風味のダークストーリー。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
反倫理的、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※カクヨムさま、小説家になろうさま、エブリスタさまにも投稿しております。
好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。
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お神楽×オフィスラブ。
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