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番外編
【父の日編(七)】奇跡の贈り物。(七)
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「おいで……?」
ベッドの上で腕を広げると、彼方は目を丸めたまま枕を落とした。
「み、水樹、どうしたの?」
「子供達と眠る時の練し……、やっぱ、いい……」
「ああー、待って待って!?」
襲ってきた羞恥心に耐えきれなくなって布団を被ろうとしたら、彼方が布団を掴んで制する。
「いつもは僕がしてるから驚いただけ。やめないで?」
うるうるとした瞳で覗かれる。首をこてんと傾げて見つめられ、恥ずかしさと相まり心臓がドキドキする。
「おいで?」
ベッドの中へ入り、もぞもぞと近寄った彼方は水樹をぎゅうと抱き締めた。
「水樹の『おいで』は、安心してふわふわするな。絶対喜ぶし、飛び込んで大好きな気持ちを伝えてくれるよ」
「そ、う……かな」
「うん。僕だって我慢したのに」
彼方に肯定されると、自信がないことも「そうだといいな」と思える。自己評価が低い水樹にとって感謝しかなかった。
水樹も背中に腕を回す。鼓動の速さが伝わってもいい。
「彼方はますます格好良いお父さんになるね。自信のつく言葉や安心する言葉を、昔から何度も俺に伝えてくれた。俺達の子にとって自慢と信頼しかないよ」
「僕……が」
胸から顔を離した彼方が、水樹を見つめる。赤オレンジ色の瞳はゆるゆる揺れ、滴が零れる前に水樹は微笑んだ。
「俺の惚れ具合、知っているでしょ?」
さっきの旦那を真似してたら、彼方は腕の中から抜け出し潜っていく。予想外の動きに固まっていると、腹に手を置かれた。
パジャマを捲り、陶器のように滑らかな水樹の白い肌を撫でる。吹きかけられた息が臍の奥まで届く。
「あ、あの……っ! 彼方さ……、んっ!?」
まだ膨らんでいないそこへ口付けされ、彼方の唇が全体に触れる。愛のスタンプを押すようなキスが続き、水樹はこそばゆくて仕方なくなる。
「お腹、さっきもキス……したっ……!」
帰宅後、風呂に入る前に一回。
二人で身体を洗い合い、タオルで拭き終わってからまた一回。
夕飯前後に一回ずつ……。
(それから……パジャマ着る前にもされて、ベッドに入る前にも……)
息まで吸われる口唇同士のキスとは違い、じっくりたくさんのキスだ。時間を込めて丁寧に大切に扱われる度、彼方の大きな愛情がずっと伝わってきて、顔を両手で覆わずにはいられなかった。
「……っぷは」
戻った夫は首筋や額に汗をかき、息を整えている。指の間から覗ける彼方がキラキラして見えた。
「寝る前の挨拶だよ。『おやすみなさい』って」
熱心なキスを受けたおかげで、子供の眠る場所がとても温かい。水樹はそこに両手を当てる。
「お父さんのキス、気持ち良かったね。安心して眠れるね」
と、笑みを隠すことなく呟いた。
彼方は一瞬声を詰まらせたが、一つ咳払いをして水樹の名を呼ぶ。
「僕ね、決めたんだ。お腹の子達と水樹、命を懸けて絶対に守る」
真っ直ぐな瞳が水樹を射抜く。
「運命の番と出会い、僕は幸せを貰い続けている。昔も今も、この先もそうだ。そんな、愛してやまず感謝しても足りない大好きな君と僕の子達に出会えるなんて、遊佐彼方は世界一幸せな夫だね」
目を細めた彼方が眉を下げた途端、目の端から涙を流す。顔や口元が濡れようと、水樹には笑顔を向けられる。
「大事な宝物……増えていくな。味わうだけじゃなくてこの幸せを守らなきゃ。格好良いお父さんに絶対なるよ。だから水樹、何度も言わせて。ありがとう。それから、おめでとう」
世界がぱちんと弾け、水樹は涙を飲んだ。
「俺に本物の幸せを……お、教えてくれたのは、彼方の方だよ。彼方が保健室で声を掛けたあの日、俺は仄暗い人生から救われた。初めて友情を知り、怖がっていた恋心を全身で受け止められた。人間関係が修復出来ることを知ったのも、夢に向かって歩けたのも、……ううっ……!」
大事なところで涙が止まらなくなる。頭を駆けて行く思い出に言葉が追いつかない。でも、呼吸が乱れようとぐちゃぐちゃになろうと、感謝を伝えたかった。
「ぜん、ぶっ。彼方から貰ったものだ。俺も、彼方との子に会えるの凄く楽しみ。彼方と出会い、番にならなければ受け取ることもなかった幸福な贈り物。遊佐水樹を世界一幸せな夫にしてくれてありがとう……っ!」
締まりのない笑顔になったが、大好きな人へ最高の想いを捧げる。
「……っ、水樹」
「かな……んっ、ふう……あ……」
「後で……お腹……んっふ、拭いてあげ、んあっ、から」
「うん……っ、あぁあ」
獣のようながっつくキスに、水樹はおろか彼方まで唇の隙間から涎を垂れ流す。互いの唾液を交換し、自分のかどうかもわからない液体を飲む。
(頭がふわふわ……するっ。甘くてとろけそ……)
「ふっ……。水樹、調子は大丈夫?」
愛する人の唇が離れ、名残惜しくてつい袖を握ってしまった。彼方の驚いた顔と取った行動を確認し、水樹の頬に朱色を差す。
「あっ……ごめ、ん。唇のキス……昨日出来なかったから……かな」
新婚ホヤホヤの二人は毎日しているので、昨日振りのキスに思わず嬉しくなったのだろう。
(俺の馬鹿あああ……!!)
「お腹拭くタオル……持ってく……んんっ……」
今度はちゅうちゅうと唇を吸われるキスだ。さっきのように乱れはしないが、胸の中で甘いときめきがする。しかも顔中にキスの雨を降らされ、彼方の唇が離れる頃には蕩けた顔を見せていた。
「可愛い旦那さんが寂しくないよう、毎日ちゃんとキスするよ。子供達が産まれてからも、ね」
耳の近くで囁き声。肩で息をしながら「彼方……っ」と呟いたらシーツに涎が溢れた。
ベッドの上で腕を広げると、彼方は目を丸めたまま枕を落とした。
「み、水樹、どうしたの?」
「子供達と眠る時の練し……、やっぱ、いい……」
「ああー、待って待って!?」
襲ってきた羞恥心に耐えきれなくなって布団を被ろうとしたら、彼方が布団を掴んで制する。
「いつもは僕がしてるから驚いただけ。やめないで?」
うるうるとした瞳で覗かれる。首をこてんと傾げて見つめられ、恥ずかしさと相まり心臓がドキドキする。
「おいで?」
ベッドの中へ入り、もぞもぞと近寄った彼方は水樹をぎゅうと抱き締めた。
「水樹の『おいで』は、安心してふわふわするな。絶対喜ぶし、飛び込んで大好きな気持ちを伝えてくれるよ」
「そ、う……かな」
「うん。僕だって我慢したのに」
彼方に肯定されると、自信がないことも「そうだといいな」と思える。自己評価が低い水樹にとって感謝しかなかった。
水樹も背中に腕を回す。鼓動の速さが伝わってもいい。
「彼方はますます格好良いお父さんになるね。自信のつく言葉や安心する言葉を、昔から何度も俺に伝えてくれた。俺達の子にとって自慢と信頼しかないよ」
「僕……が」
胸から顔を離した彼方が、水樹を見つめる。赤オレンジ色の瞳はゆるゆる揺れ、滴が零れる前に水樹は微笑んだ。
「俺の惚れ具合、知っているでしょ?」
さっきの旦那を真似してたら、彼方は腕の中から抜け出し潜っていく。予想外の動きに固まっていると、腹に手を置かれた。
パジャマを捲り、陶器のように滑らかな水樹の白い肌を撫でる。吹きかけられた息が臍の奥まで届く。
「あ、あの……っ! 彼方さ……、んっ!?」
まだ膨らんでいないそこへ口付けされ、彼方の唇が全体に触れる。愛のスタンプを押すようなキスが続き、水樹はこそばゆくて仕方なくなる。
「お腹、さっきもキス……したっ……!」
帰宅後、風呂に入る前に一回。
二人で身体を洗い合い、タオルで拭き終わってからまた一回。
夕飯前後に一回ずつ……。
(それから……パジャマ着る前にもされて、ベッドに入る前にも……)
息まで吸われる口唇同士のキスとは違い、じっくりたくさんのキスだ。時間を込めて丁寧に大切に扱われる度、彼方の大きな愛情がずっと伝わってきて、顔を両手で覆わずにはいられなかった。
「……っぷは」
戻った夫は首筋や額に汗をかき、息を整えている。指の間から覗ける彼方がキラキラして見えた。
「寝る前の挨拶だよ。『おやすみなさい』って」
熱心なキスを受けたおかげで、子供の眠る場所がとても温かい。水樹はそこに両手を当てる。
「お父さんのキス、気持ち良かったね。安心して眠れるね」
と、笑みを隠すことなく呟いた。
彼方は一瞬声を詰まらせたが、一つ咳払いをして水樹の名を呼ぶ。
「僕ね、決めたんだ。お腹の子達と水樹、命を懸けて絶対に守る」
真っ直ぐな瞳が水樹を射抜く。
「運命の番と出会い、僕は幸せを貰い続けている。昔も今も、この先もそうだ。そんな、愛してやまず感謝しても足りない大好きな君と僕の子達に出会えるなんて、遊佐彼方は世界一幸せな夫だね」
目を細めた彼方が眉を下げた途端、目の端から涙を流す。顔や口元が濡れようと、水樹には笑顔を向けられる。
「大事な宝物……増えていくな。味わうだけじゃなくてこの幸せを守らなきゃ。格好良いお父さんに絶対なるよ。だから水樹、何度も言わせて。ありがとう。それから、おめでとう」
世界がぱちんと弾け、水樹は涙を飲んだ。
「俺に本物の幸せを……お、教えてくれたのは、彼方の方だよ。彼方が保健室で声を掛けたあの日、俺は仄暗い人生から救われた。初めて友情を知り、怖がっていた恋心を全身で受け止められた。人間関係が修復出来ることを知ったのも、夢に向かって歩けたのも、……ううっ……!」
大事なところで涙が止まらなくなる。頭を駆けて行く思い出に言葉が追いつかない。でも、呼吸が乱れようとぐちゃぐちゃになろうと、感謝を伝えたかった。
「ぜん、ぶっ。彼方から貰ったものだ。俺も、彼方との子に会えるの凄く楽しみ。彼方と出会い、番にならなければ受け取ることもなかった幸福な贈り物。遊佐水樹を世界一幸せな夫にしてくれてありがとう……っ!」
締まりのない笑顔になったが、大好きな人へ最高の想いを捧げる。
「……っ、水樹」
「かな……んっ、ふう……あ……」
「後で……お腹……んっふ、拭いてあげ、んあっ、から」
「うん……っ、あぁあ」
獣のようながっつくキスに、水樹はおろか彼方まで唇の隙間から涎を垂れ流す。互いの唾液を交換し、自分のかどうかもわからない液体を飲む。
(頭がふわふわ……するっ。甘くてとろけそ……)
「ふっ……。水樹、調子は大丈夫?」
愛する人の唇が離れ、名残惜しくてつい袖を握ってしまった。彼方の驚いた顔と取った行動を確認し、水樹の頬に朱色を差す。
「あっ……ごめ、ん。唇のキス……昨日出来なかったから……かな」
新婚ホヤホヤの二人は毎日しているので、昨日振りのキスに思わず嬉しくなったのだろう。
(俺の馬鹿あああ……!!)
「お腹拭くタオル……持ってく……んんっ……」
今度はちゅうちゅうと唇を吸われるキスだ。さっきのように乱れはしないが、胸の中で甘いときめきがする。しかも顔中にキスの雨を降らされ、彼方の唇が離れる頃には蕩けた顔を見せていた。
「可愛い旦那さんが寂しくないよう、毎日ちゃんとキスするよ。子供達が産まれてからも、ね」
耳の近くで囁き声。肩で息をしながら「彼方……っ」と呟いたらシーツに涎が溢れた。
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