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番外編
【水樹、二十歳の誕生日編(四)】緊張感のある再会。
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「き、緊張してきた……」
本音を漏らしてしまうほど、心臓のバクバクが治まらない。
現在水樹は空港にやって来ており、到着ロビー近くで彼方を待っている。予定時間より早めに着いてしまい、一度はカフェで時間を潰そうと試みた。
ところが挽きたての香ばしさや見た目映えするメニューに癒されることもなく、そわそわと落ち着かない。腕時計が壊れているのかと疑ったくらいだ。
しかしながら待ち合わせ時間ギリギリになり、カフェオレを一杯流し込むように飲んでカフェを出た。
(予想を遥かに超えた人がいる。ここで待っていていいんだよね?)
忙しない人の波。視線が高かろうと彼方の姿をまだ見つけられない。各所で見かける感動的な再会に微笑ましくなりつつも、羨ましい気持ちが募っていく。
それに通行人の邪魔にならないようしていたら、どんどん端っこへ追いやられてしまっていた。
「あー、婆ちゃん? 今着いたところ。えっと……」
たまたま隣で電話していた男性が水樹を見上げる。身長は彼方とそう変わらず、荷物以外におみやげらしき袋を大量に持っていた。
「めっちゃ背の高い美女が隣にいるからすぐわかると思う」
(……な、なんか色々勘違いされてる!?)
一般成人に比べたら頭一つ分あるが、モデル体型のようなマネキンでもなければ、女性でもない。
だからと言い、声を掛けてまで訂正する必要もないだろう。男性は今、祖母と会う約束をしている。
「君、誰待ち?」
「……へ?」
まさかあっちから声をかけてくるとは思わず、間抜けな返事が飛び出した。
「見たところ、帰国したばかりのオレとは違いそうだし……。友達とか親とか?」
男は頭のてっぺんから爪先まで舐め回すように見て、子供っぽく笑う。二十代前後だろうか。
水樹が首を横に振ると、なぜかスマホを取り出す。
「お互い待っているの暇だしさ、連絡先教えてよ」
出会って一分程度、しかも見ず知らずの相手と連絡先を交換?
「あの……連絡先は……」
事務所からも、一般人と連絡を交換するのは止められている。個人情報流出を防ぐ以外にトラブル防止のためでもある。
「じゃ、SNSやってる?」
「SNSですか?」
「そ。そっちなら本名知られないからいけるでしょ。フォロワーも稼げるし一石二鳥」
ブイサインをする青年に水樹は戸惑いつつも、提案された内容に悩んでしまう。
水樹はまだまだ駆け出しの新人声優だ。初オーディションは惜しくも落ちてしまい、トレーニングをしながら次の機会を狙っている。
守谷水樹の世間認知度も低く、SNSのフォロワーもまだまだ少ない。フォローするのも外すのも相手の自由だ。新規ファンを招き入れるチャンスに越したことはないが……。
(もし、この方が今後ファンになったとしたら……。そもそも俺みたいな新参者がファンサービスを怠る訳にも……)
頭の中はもはや、新人声優としてどう接すべきか、になっていた。
「あ、紹介が遅れたね。挨拶する順番間違えちゃった。オレは──、え?」
男の視線は、水樹の隣に向けられている。
「僕の連れに何か用?」
ふわっと靡いたオレンジ色の髪。水樹が瞬きし終わる前に、隣の人物は腕を絡ませてきた。まるで自分の大切な人だ、と言いたげに。
「か、彼方!?」
いつの間に来たんだろうか。気配すら感じなかった。
しかし驚く水樹を尻目に、彼方は眼前の男に眉根を寄せている。
「あー……、お連れさんいた系?」
「いた系ですけど?」
「オレより低そうな身長じゃん。子供?」と聞こえるか聞こえないかの独り言を耳にし、体が反応して一歩前に出る彼方を水樹はどうどうと抑えた。
「……っ、水樹行こう」
文句を言いたげな彼方に連れられそうになったが。
「彼方、ま、待って!!」
本音を漏らしてしまうほど、心臓のバクバクが治まらない。
現在水樹は空港にやって来ており、到着ロビー近くで彼方を待っている。予定時間より早めに着いてしまい、一度はカフェで時間を潰そうと試みた。
ところが挽きたての香ばしさや見た目映えするメニューに癒されることもなく、そわそわと落ち着かない。腕時計が壊れているのかと疑ったくらいだ。
しかしながら待ち合わせ時間ギリギリになり、カフェオレを一杯流し込むように飲んでカフェを出た。
(予想を遥かに超えた人がいる。ここで待っていていいんだよね?)
忙しない人の波。視線が高かろうと彼方の姿をまだ見つけられない。各所で見かける感動的な再会に微笑ましくなりつつも、羨ましい気持ちが募っていく。
それに通行人の邪魔にならないようしていたら、どんどん端っこへ追いやられてしまっていた。
「あー、婆ちゃん? 今着いたところ。えっと……」
たまたま隣で電話していた男性が水樹を見上げる。身長は彼方とそう変わらず、荷物以外におみやげらしき袋を大量に持っていた。
「めっちゃ背の高い美女が隣にいるからすぐわかると思う」
(……な、なんか色々勘違いされてる!?)
一般成人に比べたら頭一つ分あるが、モデル体型のようなマネキンでもなければ、女性でもない。
だからと言い、声を掛けてまで訂正する必要もないだろう。男性は今、祖母と会う約束をしている。
「君、誰待ち?」
「……へ?」
まさかあっちから声をかけてくるとは思わず、間抜けな返事が飛び出した。
「見たところ、帰国したばかりのオレとは違いそうだし……。友達とか親とか?」
男は頭のてっぺんから爪先まで舐め回すように見て、子供っぽく笑う。二十代前後だろうか。
水樹が首を横に振ると、なぜかスマホを取り出す。
「お互い待っているの暇だしさ、連絡先教えてよ」
出会って一分程度、しかも見ず知らずの相手と連絡先を交換?
「あの……連絡先は……」
事務所からも、一般人と連絡を交換するのは止められている。個人情報流出を防ぐ以外にトラブル防止のためでもある。
「じゃ、SNSやってる?」
「SNSですか?」
「そ。そっちなら本名知られないからいけるでしょ。フォロワーも稼げるし一石二鳥」
ブイサインをする青年に水樹は戸惑いつつも、提案された内容に悩んでしまう。
水樹はまだまだ駆け出しの新人声優だ。初オーディションは惜しくも落ちてしまい、トレーニングをしながら次の機会を狙っている。
守谷水樹の世間認知度も低く、SNSのフォロワーもまだまだ少ない。フォローするのも外すのも相手の自由だ。新規ファンを招き入れるチャンスに越したことはないが……。
(もし、この方が今後ファンになったとしたら……。そもそも俺みたいな新参者がファンサービスを怠る訳にも……)
頭の中はもはや、新人声優としてどう接すべきか、になっていた。
「あ、紹介が遅れたね。挨拶する順番間違えちゃった。オレは──、え?」
男の視線は、水樹の隣に向けられている。
「僕の連れに何か用?」
ふわっと靡いたオレンジ色の髪。水樹が瞬きし終わる前に、隣の人物は腕を絡ませてきた。まるで自分の大切な人だ、と言いたげに。
「か、彼方!?」
いつの間に来たんだろうか。気配すら感じなかった。
しかし驚く水樹を尻目に、彼方は眼前の男に眉根を寄せている。
「あー……、お連れさんいた系?」
「いた系ですけど?」
「オレより低そうな身長じゃん。子供?」と聞こえるか聞こえないかの独り言を耳にし、体が反応して一歩前に出る彼方を水樹はどうどうと抑えた。
「……っ、水樹行こう」
文句を言いたげな彼方に連れられそうになったが。
「彼方、ま、待って!!」
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