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番外編
【水樹、二十歳の誕生日編(三)】夜のお供に。(三)(R18)
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(気持ち良くてしんどい。そうだ、早く彼方に繋げないと……!)
余韻に浸るのもいいが彼方を待たせている。ちょっとどころの時間ではなかった。
頭をスマホから退け、それを操作しようとしたのだが。
『お疲れ様、水樹。頑張ってイケたね』
「ふう、ふう……えっ?」
労りの言葉と表示された画面に目を剥く。音声ミュートがすでに解除されていた。
「なんで……。い、今の……ぜ、全部……聞いて?」
『ほぼ全部かな?』
オフにした記憶はあった。自慰を早くしたい思いもあったけれどちゃんと指で押した。なのにどうして。
『十代最後に可愛い声をたくさん聞かせてくれてありがとう。くぐもった息遣いも僕を求めるおねだりも最高だったよ』
痴態を晒し、一人で夢中になっていた恋人に送る言葉が胸を温かくさせていく。
わからない。どうして自動で解除されたのかわからない。だけど。
「……彼方、俺……早く会いたい」
しん、と静まり返る空気。先ほどまであんなにギシギシ鳴っていたベッドが、身体を起こしても全然軋む気配がしなかった。
「声、たくさん聞きたい……っ。抱き締めて欲しい。通話中断させておいてオナニーする、俺が言うべきことじゃないけど……っ」
玩具から吐き出されたドロドロの熱が太腿に零れていく。白濁した水玉ができあがった。
「彼方の声が好き、彼方の温もりが好き。匂いも恋しくて堪らないんだ……ごめん」
まだ遠距離恋愛を始めて一ヶ月経ったばかり。この先が思いやられるほどの泣き声になり、全身が沈むように重くなっていく。
迷惑をかけてはいけない。実のところ、怖くて寂しかったのだ。会えるかもしれないが、生まれた日を一人で迎えてしまう。大人がこんなことで泣くとは情けない。
妄想とえっちな気分になればいくらか治まるかと思い、オナホールを通販サイトで購入した。
『全然謝る必要なんてないよ。僕もそうだから』
耳へ流れ込むのは、春風のような柔らかく温かい声。
『運命を誓った番に会えるの、すっごく楽しみにしてるんだ。水樹以上にね』
「俺……以上?」
『うん。だって、会いたいあまり深夜に電話しちゃうほどだよ? 約束した日時なわけないから、繋がらなかったらどうしようかと思ってた』
繋がらないとは、きっと水樹が眠ってしまっていたり、用事があったら出れないということだろう。
『水樹、今度は一緒にカウントアップしよ?』
ベッド上にある時計を見ると、もう二十秒は過ぎていた。
『十』
「九」
『八』
「七」
『六』
「五っ」
『四!』
「三」
『二』
「一」
『世界で一番大好きな水樹へ。二十歳の誕生日おめでとう。生まれてきてくれて本当にありがとう。出えて幸せだ』
あの日も、あの右耳が心臓になった時も同じ祝いの言葉をくれた。胸を締めつける苦しさは解け、代わりに幸せな気持ちが膨らんでいく。
「うん……っ、うん。祝ってくれて世界一幸せだ。俺を見つけてくれてありがとう、彼方」
呪いで口に出来なかった感謝の言葉を、今年こそ運命の番へ送る。
息を飲む音がしたが、すぐに優しい笑い声が耳をくすぐる。
それから水樹達は、充電が切れるまでずっと電話を繋いだままでいた。
余韻に浸るのもいいが彼方を待たせている。ちょっとどころの時間ではなかった。
頭をスマホから退け、それを操作しようとしたのだが。
『お疲れ様、水樹。頑張ってイケたね』
「ふう、ふう……えっ?」
労りの言葉と表示された画面に目を剥く。音声ミュートがすでに解除されていた。
「なんで……。い、今の……ぜ、全部……聞いて?」
『ほぼ全部かな?』
オフにした記憶はあった。自慰を早くしたい思いもあったけれどちゃんと指で押した。なのにどうして。
『十代最後に可愛い声をたくさん聞かせてくれてありがとう。くぐもった息遣いも僕を求めるおねだりも最高だったよ』
痴態を晒し、一人で夢中になっていた恋人に送る言葉が胸を温かくさせていく。
わからない。どうして自動で解除されたのかわからない。だけど。
「……彼方、俺……早く会いたい」
しん、と静まり返る空気。先ほどまであんなにギシギシ鳴っていたベッドが、身体を起こしても全然軋む気配がしなかった。
「声、たくさん聞きたい……っ。抱き締めて欲しい。通話中断させておいてオナニーする、俺が言うべきことじゃないけど……っ」
玩具から吐き出されたドロドロの熱が太腿に零れていく。白濁した水玉ができあがった。
「彼方の声が好き、彼方の温もりが好き。匂いも恋しくて堪らないんだ……ごめん」
まだ遠距離恋愛を始めて一ヶ月経ったばかり。この先が思いやられるほどの泣き声になり、全身が沈むように重くなっていく。
迷惑をかけてはいけない。実のところ、怖くて寂しかったのだ。会えるかもしれないが、生まれた日を一人で迎えてしまう。大人がこんなことで泣くとは情けない。
妄想とえっちな気分になればいくらか治まるかと思い、オナホールを通販サイトで購入した。
『全然謝る必要なんてないよ。僕もそうだから』
耳へ流れ込むのは、春風のような柔らかく温かい声。
『運命を誓った番に会えるの、すっごく楽しみにしてるんだ。水樹以上にね』
「俺……以上?」
『うん。だって、会いたいあまり深夜に電話しちゃうほどだよ? 約束した日時なわけないから、繋がらなかったらどうしようかと思ってた』
繋がらないとは、きっと水樹が眠ってしまっていたり、用事があったら出れないということだろう。
『水樹、今度は一緒にカウントアップしよ?』
ベッド上にある時計を見ると、もう二十秒は過ぎていた。
『十』
「九」
『八』
「七」
『六』
「五っ」
『四!』
「三」
『二』
「一」
『世界で一番大好きな水樹へ。二十歳の誕生日おめでとう。生まれてきてくれて本当にありがとう。出えて幸せだ』
あの日も、あの右耳が心臓になった時も同じ祝いの言葉をくれた。胸を締めつける苦しさは解け、代わりに幸せな気持ちが膨らんでいく。
「うん……っ、うん。祝ってくれて世界一幸せだ。俺を見つけてくれてありがとう、彼方」
呪いで口に出来なかった感謝の言葉を、今年こそ運命の番へ送る。
息を飲む音がしたが、すぐに優しい笑い声が耳をくすぐる。
それから水樹達は、充電が切れるまでずっと電話を繋いだままでいた。
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