もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ

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番外編

【水樹、二十歳の誕生日編(二)】夜のお供に。(二)(R18)

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 四月三十日まで、残りあと七分。七分経てば水樹はようやく二十歳になる。
「はっ、はっ……はっ……!」
 布団にくるまり、右手を一心不乱に動かす。下半身の方からくちゅくちゅといやらしい音がし、上下に動かす度に粘着質な水音が増す。今までに味わったことのない感覚に己のものを包まれ、涎で濡れても構わずパジャマの裾を噛んだ。
(彼方、彼方……!!)
 頭に浮かべるのは世界で一番大好きな人。結婚を約束し、夢を叶えるために遠い国へ渡った運命の番。
 思い出と妄想を織り交ぜ、守谷彼方ならどう抜いてくれるか必死に考える。
(耳朶を食みながら愛の言葉を囁いてくれて、きっと嫌だと言ってもベトベトになるまで耳にキスされる。アナルは一回も触らずに「イッて」と言われて……)
 ゾクゾクとした快感が背筋を駆け抜け、爪先をぎゅっと丸める。
「い、イ……っ」
──♪
「ふっ。ふあっ!?」
 驚きで足の指が全部広がり、イキかけた快楽が直前で止まる。寸止めというより強制終了させられたようなものだ。
(誰からだろう……)
 仕事に関する電話かもしれない。この時間にかかってくること自体、大事な要件であることは確かだろう。
 敏感なところが反応しないよう、玩具を動かさず腹にぐっと力を入れる。急ぎ呼吸も整えてから鳴り続けるスマホを手に取った。
 画面に表示された名前、及び待っていた相手は──。
「彼……方?」
『あ、もしもし? 水樹、こんばんは』
 状況を飲み込めないままスマホを枕と右耳で挟む。懐かしい声がちゃんと聞こえてくる。頭がピリピリする甘い声。これはゆめ?
「こん、ばんは……?」
『わあ、本当に水樹だあ! 久し振りだね。メッセージではほぼ毎日やり取りしてるけど、ここのところ都合がつかなくてなかなか電話できなくてごめんね』
 彼方だ。水樹の恋人である守谷彼方だ。遅れてやってきた喜びが一気に押し寄せ、二の句を告げず口をパクパクさせてしまう。
 恋人と最後に連絡をしたのは一ヶ月と一週間前だ。フランスへ着いてから二度目の電話だったが、以降は彼方だけでなく水樹の方もスケジュールが噛み合わず、メッセージでのやり取りになっていた。
「ううん。いい……いいんだ……よ? 俺、彼方からメッセージ貰う度に嬉しくて、いつも元気貰ってた」
 彼方のメッセージにどれだけ救われたか。何枚も同じ文面をスクショして、落ち込んだ時に何度読み返したか。
(そういえば、彼方は今、フランス? 飛行機の中じゃ電話かけられなかったような……)
 生まれてから一度も飛行機に乗ったことがないため、確信できない。その疑問も、彼方の鈴みたいなころころとした笑い声で消えてしまった。
『嬉しいこと言ってくれるね。僕も、水樹のメッセージからいつも元気貰ってるよ。声が聞けてとっても嬉しいな。愛してる』
 気持ちのこもった愛の言葉。今まで文章で伝えられた愛が直接耳へ届き、水樹はうっかり玩具を持つ手を動かしてしまった。
「ふっ……!? あ、ありがとう。俺も愛してるっ」
 先端に刺激を与えてしまい、迫り来る波を抑えようと必死に股を擦り合わせる。返事も高音と掠れが混じった声になった。
(彼方が電話してくれたのに。でも、愛してるって言ってくれた)
 申し訳なさと喜びがせめぎあう。
『今電話したのはね、水樹の大事な誕生日を一緒に迎えたいからなんだ。ほら、あと五分』
 余った左手でスマホを操作すると、たしかにあと数分で四月三十日になる。
「……お、俺の誕生日、一緒に迎えてくれるの?」
 三十日になる瞬間を家族以外の誰かと迎えたことはなかった。
『うん。毎年、水樹にとって最高の誕生日を更新するって約束したでしょ?』
 温かな声と共に照れたような笑い声。
『電話で繋がりながら迎えるだけじゃないよ。明日デートして一緒に水樹の誕生日を祝おう』
 さも当然のように格好良い演出を用意され、キュンキュンが止まらない。
 今年は、彼方から祝いの言葉を貰えたらありがたいと思っていた。空港での約束は覚えているが、勉強も治療もしている恋人に負担をかけたくなかった。
 もうさっき浮かんだ疑問も一人で過ごす不安も忘れていく。
『早く会いたい。たくさん好きって伝えて抱き締めたい。……好き』
 怒涛の愛の言葉に目を見開く。無意識なのだろうか、それともわざとなんだろうか。
 キュンキュンするところは胸の奥だけとは限らない。
「彼方、あのね。ちょ、ちょっとだけミュートにしてもいい? 誕生日は絶対一緒に迎えるから」
『うん、いいよ。突然の電話だったもんね。僕はゆっくり待ってるから急がなくていいよ』
 水樹はミュートを押し、玩具を動かすのを再開させた。
──くちゅくちゅ。
「ふっ……ううっ」
 尻を弄る時とはまた違った搾り取られそうな感覚。ローションと先走りが中で混ざり、溢れ出る透明の液体がどっちなのかわからない。その行為だけでは飽き足らず、左手を服の中に滑り込ませた。
 下腹部に溜まっていた熱の復活は恐ろしいほど早く、胸の突起を爪先が掠めとったくらいで声が出る。
「あっ! ひんっ……ひゃあっ」
 形を確かめるように摘み、爪で引っ掻き、ぎゅっと強めに摘む。同じ部位への刺激でも変化や緩急をつけると気持ち良いのがずっと続いた。
『……ふう』
 電話の向こうで彼方の息遣いが聞こえる。久方振りの大好きな人の呼吸を一音も聴き逃したくなくて、スマホを押し潰すくらい耳を近付けた。
(まるで、本当に彼方が隣にいるみたい。すごく安心するな)
 水樹は仕事で安眠ASMRを撮ったことがある。需要あるのかと不安を抱えていたが、ファンが求めるシチュエーションの良さを実感した。
「彼方、大好き。もっと聞きたい。声も、息遣いも。名前呼んで……うっ、くれないかな……」
 リラックスできたおかげか本音がすらすら滑り出す。ぐちょぐちょと淫らな音が下の方から聞こえるが、リアルに彼方と通話してる今、妄想ではなかなか達せない。
「でも、えっちなことしてるのばれるの嫌だ……。変態だってがっかりさせちゃう。彼方は俺を祝うために……」
『水樹、大丈夫かな』
 突然、彼方の心配そうな声が耳を打った。
『三十日まであと少しだし……。お母様に怒られていないかな』
「違っ……!」
 そこまで言いかけてミュート中なのに気付く。
『あー、そうだ。水樹が戻ってくるまで一人テンカウントをしよう!』
 一人テンカウント? と水樹が不思議がるのをまるで見透かしたかのように。
『水樹が来るまで十、九』
 かくれんぼの鬼が数をかぞえる時みたいに、彼方はカウントダウンを始めた。
(待って、待って待って……!)
 今すぐミュート解除をしたい。ただ、下手に熱が残ったまま電話に出ると、変なタイミングで射精するかもしれない。そんな最悪な状況が頭を過ぎり、水樹は彼方のカウントに合わせてオナホールを動かす。
(テンカウント中にイケばいいんだ)
 散々乳首を弄っていた指を満遍なく唾液で濡らし、熱気が漂う窄みへ誘う。
「六、五」
「ふっ、ふうっ……ああっ!!」
 同時に弄ったことはほぼなかったが、前と後ろで得る感覚が異なり、両手も塞がって声を抑えられない。
『まだかなあー』
 楽しんでいるような声色に、腰の方へゾワゾワした波がやってくる。腰が何度も浮き、ベッドが激しく軋む。
「あっ、ああ……! こっんなの、彼方に聞かせられ……」
「三……」
 迫るタイムアップ。そろそろ終わりだと思ったら目の前が白黒点滅し、無様にも腰がヘコヘコ動いてしまう。
「っ、ふううっ! イク、イッちゃ……!」
『二……、イけそうかな?』
 自慰に夢中なのを知らないはずなのに。
 水樹は自らの前立腺を引っ掻き、咥えんだ指を痛いほどぎゅっと締め付ける。目蓋で火花が散り「一」を聞き終える前に、足が痙攣を起こして精を吐き出す。
「はあー、はあー……!!」
 胸と肩の落ちる間隔がとても短く、疲労感もいつもより大きい。溜まった熱を吐き切るまで時間が長かったからだろうか。照明が妙に眩しくてぼんやり開いた目がチカチカした。
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