もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ

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【後編 了】第十二章 待っていてくれてありがとう

感謝の日。

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──ピコン、ピコンピコン。
 タイマー代わりに大量の通知音。数や文字数よりも、込められた気持ちに感動した男は笑顔を浮かべ「行ってきます」とマンションを出た。
「今日もウォーキングがてら現場へ直行だ。あ、おはようございます!」
 元気よくハキハキと挨拶すれば、隣人も「朝から元気ですね。おはよう」と笑顔で返してくれる。
  そのままスタジオのあるビルへと直行した。
──ピコ、ピコン。ピコン。
 心拍数が上昇するより早く通知が鳴る。赤信号に足留めを食らわされて待つ間、送られてきたメッセージに一つ一つ返していく。「毎年毎年、大手間なんだからグッドだけに留めておいたら?」と心配されるが、今の自分があるのは間違いなく彼らのおかげだ。せめて今日だけは自ら返事をしたい。
 すれ違った女子高生達は、赤いジャージのチャックを顎まで上げ欠伸を漏らす。傍目に観察しつつも、指はキーボードを打っていく。
「ふわあ……。朝練つらーい」
「早起きは三文の徳。朝を怠る奴は全国制覇なんて夢のまた夢。美海みみさんは今年行きたくないのかな?」
「副部長容赦なーい。ああ、絶対、結実ゆみの方が部長に向いてたじゃん!」
──ピコン。
「……ん? んん??」
「どした、やる気なし部長」
「……来た!! ね、これ、見てよ見て」
「『温かいお祝いのメッセージ、今年もありがとうございます。ミミーさんもいい一年にしてくださいね』? 美海さん彼氏いたっけ?」
「いるわけないじゃん! くわあ……やばあ。推しの誕生日祝ったのに逆にこっちが幸せ祈られたああ!! 元気出たぞ。今年こそ全国……いや、世界行けるくらい頑張るぞ!」
 やる気に満ち溢れた女子高生を見て、眠気や怠さが残る周囲の顔がふっと綻ぶ。一部始終を眺めていた水樹も微笑ましくなった。
 水樹はあれだけ嫌いだった朝を克服した。理由は仕事もあるが、ここ数年は不思議とエネルギーがみなぎって仕方ない。起きる時間も徐々に早くなり今では余裕を持って準備ができる。
(今日も一日頑張るぞ)
 雲の合間から差し込む春の陽に目を細め、マスクのヘッドを上げた。
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