もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ

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第八章 エンカウント

メイクアップ。

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「メイクばっちりー! 美人がメイクするともっと化けるねー」
「希星さんは自信をつかせるのが上手いね、ありがとう。化け物じゃなかったらいいな」
 カラフルなメイク道具を持ち照れる希星が退くと、女優ライトばりばりの鏡台に微笑んだ青い女性が映る。青のアイシャドウや星を散りばめた長髪、桜がふっくらと咲く唇。アイラインで目尻を跳ね上げ、二重ふたえのアーモンド型の瞳が際立つ。
「これが……俺?」
「うちに任せておけばこんなもんよー……って言いたいとこだけど、素材がいいから光るねー」
「メイクは初めての経験だ。希星さんの力添えがあったからこそ光るし、噂通り自信がつく。ありがとう」
 予想以上の仕上がりに心配は杞憂に終わった。女友達と笑い合い、席を立つ。
 メイク室となった裁縫室から出ると、「わあ!」と早くも喝采が沸き起こった。
「二次元の魔法少女がそのまま三次元に飛び出した!?」
「ルル様が……ルル様が降臨……なされた」
 中には天を仰ぎ、顔を覆う者もいる。水樹は『魔法少女ルルア』に登場する元魔法少女のラスボス「ルル」のコスプレをした。ルルのイメージカラーは青で、長髪と高身長がチャームポイント。このキャラしかいないと即決だった。
「体のラインが浮き出るファッションなのにめちゃくちゃ似合う。マーメイドスカートから覗き見える御御足まで綺麗……。ルルア達より少しお姉さんのルルだからこそ着れる、唯一無二のシンプルな衣装。その良さが最大限生かされているわ。ブーツを履きこなすのも素敵……!」
 芳美が語る褒めの嵐は大袈裟だが、頭を掻きつつ礼を述べる。
「い、一枚お願いできるでござるか!?」
「やめなさい、カルタくん。尊みが現像化されたら目が潰れるわよ」
「拙者は紅城あかぎでござるが、そんな術が! 恐るべし遊佐殿」
「ちょいちょい。真面目ズがぶっ壊れてどうすんの。芳美もサングラスかけてないで、SPコーデでみずくんを護衛するわよ」
「全然大丈夫だよ。紅城君もコンテスト後で良ければ」
「ひい、ありがたき幸せっ」
「水樹くんのナチュラルファンサに負傷者が出たわ。カルタくん、しっかり!」
「……紅城でござ……る」
「あー、うちも皆と撮りたーい」
 水樹が身構えていたよりも一組のクラスメイト達はノリが良く、カースト差も比較的小さい。視野が狭かったことを反省し、会話に加われるくらいには仲良くなれた。
(ちょいとばかり反応が大きいのが恥ずかしいんだがな……)
 場も暖まったところで一人の男子生徒が辺りを見回す。
「あれ。守谷君は?」
 名前を聞いただけでも胸はピリつき、水樹は無意識に左胸を掻きそうになった。縫いつけられたビーズに爪が触れ、さっとスカートの後ろへ手を隠す。
「あいつ、また場所間違えてんのかな。この間も物理と生物を逆に覚えていてさ。もしかしたら家庭科室と間違えたとか」
「呑気なことほざかないで、心当たりあるんだったら探しに行きなよ。ルルとルルア揃えなきゃいけないのに」
「そうそう。あんたのメイクは最後に回すねー」
「チッ。さっきからメッセージは送ろうが反応ねえし、電話かけても繋がんねえんだよ。遊佐はどうなんだ、なんも返事……」
 面倒臭そうに問いかけた男子の頭を芳美がゲンコツを入れた。かなり痛かったのか眉と目の間を縮め、「悪ぃ」と謝る。
 水樹は、ふっと口元を笑みを浮かべた。彫ったところをなぞるのはとても容易い。
「……返事はないかな。最悪、守谷君が間に合わなくても俺だけ出場すれば済む話でしょ?」
 あれから、ただでさえ離れた距離から気持ち二歩程度引いた。挨拶を本人からされようが、第三者から無邪気に掘り起こされようが関係ない。水樹は感情を殺して笑顔を取り繕う技を習得したため、問題を起こさず接点や話題を強制終了させる。
(毎日鏡の前に立って完璧にした作り笑顔。俺は良くても、周囲からすれば引っかかりを覚えるのは当然なのか)
 もう誰も彼方を「水樹のセコム」呼ばわりはしない。
 男子は気まずそうに頭をガシガシ掻き、「わーかってるよ」と渋々方向へ向かう。蒼空学園では裁縫室が屋上に近い場所にあり、一階の隅っこにある家庭科室までは走らないと間に合わない。
「はっ、約束も守れないとかどんだけ……」
「光希」
「みーくん。カラコン忘れていたよー」
 アウェーな空気感ですら浮き気味の希星から青のカラコンと手鏡を受け取る。何回か練習したものの付け心地悪い。目の奥がじんじんするから嫌いだが、しばらくの辛抱だと水樹は自分を慰めた。

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