もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ

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【前編 了】第五章 呪いが解ける時、魔法がかかる時

謝罪より感謝。

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「じゃあ、また学校でね!」と両手を振る恋人に片手で返す。真隣に立つ母は終始、事の成り行きを観察しているようにも見えた。
 朝食時に昨夜みたいな重い空気が感じられなかったのは、彼方の頑張りがあってこそだ。彼方本人にその気はなくとも見事に食事に会話を織り交ぜ、「そうね」「そうかしら」と最初は相槌を打つ母だったが、
「……あの子、まあまあ良い子ね」
「えっ」
 もう彼方の姿は見えず、それでも玄関に立つ母はぽつりと褒めた。
「『水樹君が僕の兄に襲われました』とか『責任を持って僕が送り届けます』とか事細かく説明する割には腹立つくらい冷静で、焦る親の気持ちにも配慮しなさいよ、と子供相手に思ったわ」
「……彼方君、母さんにそこまで?」
 抑制剤を飲んだ後、一眠りした水樹はその間に起きたことを彼方の口から語られた部分からしか知り得ない。いわゆる鬼電がかかり、彼方が代わりに出たことや『僕からも説明させて欲しい』と手を挙げたのがきっかけだ。
「ええ。後は『水樹君にアレルギーはありますか?』とか『汚れた服の代わりを取り揃えますのでサイズを教えてください』とか。無関係なことも質問されたわ……ほんと」
 母はため息を吐くが、横顔から覗く表情は朝の穏やかそのもので目元のクマが少し消えている。
「おかげで変な落ち着きを取り戻したのよね。二時間も話っぱなしだから疲れたのかしら。でも、彼方さんには『水樹君から直接ご報告したいことがあるようです』と聞かされただけで、真相は教えてくれなかった。はあーあ、ようやく遊佐家自慢の息子の魅力に気づいた輩が現れたか、と父さんと作戦練り捲っていたわ」
 どこか吹っ切れた物言いに水樹は鳥肌が立った。感情がもう喉まででかかっているのに、母音の『あ』くらいしか出せない。
「さ、そろそろ家に入りましょう。今日は母さん独占日よ。水樹の好きな……」
「か、か、母さん……っ!」
 唐突に出た。緊張で語尾が震えたが、振り返る母は急かさずに静かに待ってくれる。いつだって水樹の母は息子が本音を暴露するまで待ち続ける、根性のある母親だ。もしくは信頼していると言っても過言ではないだろう。
──いつか謝りたい。
 この約一年、もしくは十年以上前からそんな腑甲斐無い気持ちを母の背中に投げかけた。
「あ、りがとう。いつも、本当にありがとう。今までもじゃなく、これからも迷惑かけるかもしれないけれど、母さんの息子で僕は良かった」
 伝えたら伝えたですっきりし、脱力感と一気に涙が流れた。随分とでかくて泣き虫な息子が目に映っただろう。なにか言いかけた母はそんな息子を抱き締める。いや、抱き着いた。
「本当に、良かったわ……水樹っ」
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