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第四章 感情を超えた
恋慕の闇。(R18)
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彼方の誕生日パーティーは午後の一時頃に開催された。手巻き寿司にお肉ごろごろのミートボールスパゲティ、ピッツァ……と数々の絶品料理が彼方をお祝いする。どれも前日から仕込んでいた彼方の母の業だ。
「宝石みたいなフルーツパイがいっちばん美味しいよ!」
飾られた果実の宝石以上に目を輝かせ、喜んでくれたのはありがたい。早朝から並んで購入した甲斐があった。彼方の母も用意したパイを取り分けながら「水樹君、センスあるわよ!」と褒めてくれ、ほっと胸を撫で下ろす。
(……ううっ)
乾杯しすぎたのか、妙に足元からの冷えが背筋まで走る。
『お手洗いどこかな?』
テーブル下で送信したメッセージにすぐ返事がくる。
『突き当たりの階段を上った二階にあるよ。ママと適当に会話続けておくからゆっくり行っておいで』
どうやら守谷家の手洗い場は二階にあるらしい。キッチンで会話する親子からそそくさと身を隠し、扉の音やスリッパの音を立てないように移動する。学校や公共施設のを利用するのとはまた違う緊張感があったからだ。
(柵のある螺旋階段……。外観もクリスマスに登場する家みたいだった。一階と二階は吹き抜けなのか)
興味本位で首も体もくるくる回る。城に招かれたプリンセスは皆、最初はこう思うのだろうか。
上りきると部屋の多さに驚く。一、二、三……。反対側も合わせたらかなりの部屋数だ。
ここは聞くのが最善かとスマホを取り出すが、水樹は思い留まる。今日は特別な日。親子二人なら募る話もあるはずだ。
とりあえず前へ進む。大抵の場合、手洗い場は奥に設置されていることが多い。細長い廊下を歩きながら残り四つの扉を通り過ぎようとしたその時。
脳天をつんざくほどの香り。体の内側から熱がぐるぐる全身を巡回する。水樹は柵に凭れかかり、立つのがやっとだった。
──ドクンドクン、ドクン。
(なんだ、これっ。眼球の裏までビリビリしてくるっ。フェ、フェロモン……?)
オメガが太刀打ちできないフェロモンといえばアルファだ。しかし、どうして守谷家でアルファのが?
見る限り、彼方は一人っ子だ。さっきまで近距離で触れ合ってはいたが、彼方のフェロモンではない。
(だって彼方君のはもっと……もっと優しい。こんなッ、強烈な毒みたいな匂い……はっ!!)
四つん這いになっても退散をするのが最適だった。
──欲しい、欲しい、欲しい。
理性はいとも簡単に殺され、水樹の本心とは反対に足が動く。
──アルファ様、噛んでください。押し倒しても、ぶっ叩いてもいいから、無理矢理でも番にさせてください!
水樹の爪先は少し角の出た部屋で止まり、飛び込む。
そこに広がるのは、白を基調とした病室のように殺風景な部屋。ベッドと勉強机が一つずつあり、ここが個人の部屋なのかと疑う。
窓は鍵をかけて閉ざされ、カーテンも締めてある。全部白。なにか写真立てのようなものが机に置かれていたが、水樹は見向きもせずにベッドへ潜り込んだ。
(はぁ……っ、はぁ、はあ……っ)
蒸せ返る痛みのあるアルファのフェロモン。考える気力は一欠片も残っておらず、シーツに舌を伝わせ、咥えるように噛む。
──もっと、もっと、もっと……!
歓喜する水樹の体には異常が起きていた。ヒート周期は去ったのにひくついたアナルから大量の愛液が溢れ、項がじんじん痛む。足指はつり、フェロモンだけで何度もイキ狂う。
「うーわ、イカくせェ。目立たせねぇために白にしたんじゃなかったんだがなっ!」
布団が引き剥がされ、しがみついた水樹は床へ勢いよく転がる。頭を強く打ち、目眩のする視界で男が胸倉を掴んだ。
「フッ、無断で人の部屋に入るとは、また随分とお仕置きされてぇみたいだな」
パチンッ。乾いた音が先に聞こえ、じわじわと右頬が痛む。
(い、痛……い?)
また右、次に左。左右どちらにも三発ずつ叩かれ、逆にそれが水樹に理性を覚醒させていく。
「あの頃から一つも変わってねえな、水樹。オレをイライラさせる雑魚オメガ。なんだァ、オレが卒業して恋しなったのか?」
腹の底がずくんと重くなった。腰から背中に電流が駆け抜け、浅く息を吸っただけで軽イキする。暴力的なフェロモン量だが間違いない──守谷 奏斗だ。
(ああっ、奏斗……っ!)
両頬の痛みに耐え、反射的に元彼へ腕を伸ばす。これでも水樹の初恋相手であり、恋焦がれた相手だ。
「気持ち悪っ。くんなよオメガ」
腕を振り払うと水樹をベッドへ投げ飛ばす。キツいフェロモンに脱力し、声も出せない水樹は逃げることも叶わない。
「そんなに無条件にヒート撒き散らすんなら、他人様にも迷惑だよなあ。……噛んでやろうか」
水樹の腕を背中で纏め上げ、膝を使ってそこに体重を乗せられる。
今日はタートルネックでない水樹の首筋を這うように奏斗は項付近をでろり、でろりと舐めた。水樹は返事の代わりに潮を吐き、ぐったりと項垂れる。
(噛まれるっ。俺と奏斗が番になるっ!!)
その行為は水樹がかつて望んでいたこと。胸の内側に秘め続け、いつか奏斗と運命の番になるのだと信じて疑わなかったあの頃。理性が戻ったとはいえ、オメガ本能の方がまだ上回る。
唾液で項をベトベトにされている。口は悪いが奏斗も水樹のフェロモンに幾分か溺れ、番にしたいと己の欲望を貫いているのだろう。
(俺、念願の奏斗の番に……)
「喜んでるとこ悪いけどよ。噛んだらお前は払い箱だから」
(……えっ)
「噛んで番になるのは親切心からきてる善良な行為。応急処置みたいなもんだ。お前の声と顔だけは綺麗だと思うが、お前よりも価値がある奴を嫁に迎えた方がオレのためだ」
水樹は奏斗が吐く数々を飲み込めない。自分の涎すらごっくんできないというのに。
『そ。お前、綺麗だな』
あの日、水樹は産まれて初めてオメガの自分を認めてくれるアルファに出会えたと思っていた。
『うん。だからオレ達、付き合わない?』
うんとだからの間に言葉はなくとも、告白されたのも初めてだった。
制裁を受けようが、叱られようが。瞳の裏に隠された心を探り続ければ、いつか隣に立てるのだと信じていた。
『俺が悪いんです。俺が奏斗に合わせられなかったから』
カウンセラーに何回、眉を顰められたか。
『俺が全て悪いんです。地雷を踏むようなことをしたから』
通院先の医師に何度、眼鏡の縁を直されたか。
『俺が悪いから……絶対、絶対……奏斗にだけは俺の症状を言わないでください、お願いします』
鷹橋に土下座しすぎて貧血を起こした。
『母さん、ごめん。学校生活が上手くいかなくてさ』
泣きそうな母にどんだけ嘘をついたんだ。
『……もう一度、あの学校でやり直させてください』
(……俺はなんのために?)
走馬灯は懐かしい思い出を振り返るのではなく、死を回避するために人間が最期に行うらしい。
(そうか、死んじゃうのか……俺)
走馬灯で本当に死を回避した人間は数が限られている。多くの場合、黄泉の国に行くまでの時間潰しとなるだろう。父は走馬灯などあったのか気になるが、父の思い出に水樹は絶対にいない。
しかもこの体勢、明らかにギロチンにかけられる前の罪人だった。
酷く頭が冷静になり、感情に泥がかかる。鉛みたいに動かない水樹の瞳から水が零れた。穴に水を落としたみたいにどばどばと。
歯型をつけないよう項を押され、嫌でも体がビクビクと反応する。これからが気持ち良くないのなら、噛まれる一瞬だけでも良いものにしたいが、虚無の男にそれは無理だ。
番はどちらかが死ねば解消される。オメガがアルファを失うよりも肉体面と精神面に影響はないはずだ。地獄行きは決まっている。迷惑をかけすぎた。
理性が消える前に頭を働かせる。もう涙は出なかった。
(このヒートで狂う俺を奏斗以外に決して見せないこと。他の誰にも……特に彼方君には)
彼方だけには綺麗な自分を覚えていて欲しい。顔が綺麗で、あと一つだけ取り柄のある自分を。
(彼方君に感謝言い忘れたのが心残りかな。でも、彼はすぐに僕を忘れて……)
『遊佐君、遊佐君!』
『遊佐君のこと、水樹君って呼んでもいい?』
『本当に産まれてきてくれてありがとう。毎年、最高を更新しよ?』
遊佐呼びから水樹君呼びに変わり、第二性を語らなくてもできた初めての友達。初めての大切な人。
温度も、明るく子供みたいな声も、夕焼け色した太陽みたいな笑顔も全部、全部好きだった。
項に息が吹きかかる。これから自分は強制的に番にされる。そしてゴミのように捨てられる。
──ここまで俺を生かしたのは奏斗じゃない。
「……す、け……て……」
枯渇した愛を教えてくれたのも、与えてくれたのも全て彼方のおかげだ。彼方がいなければ水樹は生きていなかった。
「たす……け、て……かな……た……く……」
震える声で、初めて助けを求めた。
掠れた声で、初めて彼方の名前を呼んだ。
「はあ? お前、まさか彼方と──」
背後の疑問が吹っ飛ぶ。壁が割れるような音とガハッと獣みたいな鳴き声。部屋の片隅で野垂れる奏斗。
足音は水樹を素通りし、床へ伸びる奏斗へ跨る。胸倉を掴み、血走った瞳で喉の奥を鳴らす。
「僕の水樹に手を出すな、獣以下の害虫が」
「宝石みたいなフルーツパイがいっちばん美味しいよ!」
飾られた果実の宝石以上に目を輝かせ、喜んでくれたのはありがたい。早朝から並んで購入した甲斐があった。彼方の母も用意したパイを取り分けながら「水樹君、センスあるわよ!」と褒めてくれ、ほっと胸を撫で下ろす。
(……ううっ)
乾杯しすぎたのか、妙に足元からの冷えが背筋まで走る。
『お手洗いどこかな?』
テーブル下で送信したメッセージにすぐ返事がくる。
『突き当たりの階段を上った二階にあるよ。ママと適当に会話続けておくからゆっくり行っておいで』
どうやら守谷家の手洗い場は二階にあるらしい。キッチンで会話する親子からそそくさと身を隠し、扉の音やスリッパの音を立てないように移動する。学校や公共施設のを利用するのとはまた違う緊張感があったからだ。
(柵のある螺旋階段……。外観もクリスマスに登場する家みたいだった。一階と二階は吹き抜けなのか)
興味本位で首も体もくるくる回る。城に招かれたプリンセスは皆、最初はこう思うのだろうか。
上りきると部屋の多さに驚く。一、二、三……。反対側も合わせたらかなりの部屋数だ。
ここは聞くのが最善かとスマホを取り出すが、水樹は思い留まる。今日は特別な日。親子二人なら募る話もあるはずだ。
とりあえず前へ進む。大抵の場合、手洗い場は奥に設置されていることが多い。細長い廊下を歩きながら残り四つの扉を通り過ぎようとしたその時。
脳天をつんざくほどの香り。体の内側から熱がぐるぐる全身を巡回する。水樹は柵に凭れかかり、立つのがやっとだった。
──ドクンドクン、ドクン。
(なんだ、これっ。眼球の裏までビリビリしてくるっ。フェ、フェロモン……?)
オメガが太刀打ちできないフェロモンといえばアルファだ。しかし、どうして守谷家でアルファのが?
見る限り、彼方は一人っ子だ。さっきまで近距離で触れ合ってはいたが、彼方のフェロモンではない。
(だって彼方君のはもっと……もっと優しい。こんなッ、強烈な毒みたいな匂い……はっ!!)
四つん這いになっても退散をするのが最適だった。
──欲しい、欲しい、欲しい。
理性はいとも簡単に殺され、水樹の本心とは反対に足が動く。
──アルファ様、噛んでください。押し倒しても、ぶっ叩いてもいいから、無理矢理でも番にさせてください!
水樹の爪先は少し角の出た部屋で止まり、飛び込む。
そこに広がるのは、白を基調とした病室のように殺風景な部屋。ベッドと勉強机が一つずつあり、ここが個人の部屋なのかと疑う。
窓は鍵をかけて閉ざされ、カーテンも締めてある。全部白。なにか写真立てのようなものが机に置かれていたが、水樹は見向きもせずにベッドへ潜り込んだ。
(はぁ……っ、はぁ、はあ……っ)
蒸せ返る痛みのあるアルファのフェロモン。考える気力は一欠片も残っておらず、シーツに舌を伝わせ、咥えるように噛む。
──もっと、もっと、もっと……!
歓喜する水樹の体には異常が起きていた。ヒート周期は去ったのにひくついたアナルから大量の愛液が溢れ、項がじんじん痛む。足指はつり、フェロモンだけで何度もイキ狂う。
「うーわ、イカくせェ。目立たせねぇために白にしたんじゃなかったんだがなっ!」
布団が引き剥がされ、しがみついた水樹は床へ勢いよく転がる。頭を強く打ち、目眩のする視界で男が胸倉を掴んだ。
「フッ、無断で人の部屋に入るとは、また随分とお仕置きされてぇみたいだな」
パチンッ。乾いた音が先に聞こえ、じわじわと右頬が痛む。
(い、痛……い?)
また右、次に左。左右どちらにも三発ずつ叩かれ、逆にそれが水樹に理性を覚醒させていく。
「あの頃から一つも変わってねえな、水樹。オレをイライラさせる雑魚オメガ。なんだァ、オレが卒業して恋しなったのか?」
腹の底がずくんと重くなった。腰から背中に電流が駆け抜け、浅く息を吸っただけで軽イキする。暴力的なフェロモン量だが間違いない──守谷 奏斗だ。
(ああっ、奏斗……っ!)
両頬の痛みに耐え、反射的に元彼へ腕を伸ばす。これでも水樹の初恋相手であり、恋焦がれた相手だ。
「気持ち悪っ。くんなよオメガ」
腕を振り払うと水樹をベッドへ投げ飛ばす。キツいフェロモンに脱力し、声も出せない水樹は逃げることも叶わない。
「そんなに無条件にヒート撒き散らすんなら、他人様にも迷惑だよなあ。……噛んでやろうか」
水樹の腕を背中で纏め上げ、膝を使ってそこに体重を乗せられる。
今日はタートルネックでない水樹の首筋を這うように奏斗は項付近をでろり、でろりと舐めた。水樹は返事の代わりに潮を吐き、ぐったりと項垂れる。
(噛まれるっ。俺と奏斗が番になるっ!!)
その行為は水樹がかつて望んでいたこと。胸の内側に秘め続け、いつか奏斗と運命の番になるのだと信じて疑わなかったあの頃。理性が戻ったとはいえ、オメガ本能の方がまだ上回る。
唾液で項をベトベトにされている。口は悪いが奏斗も水樹のフェロモンに幾分か溺れ、番にしたいと己の欲望を貫いているのだろう。
(俺、念願の奏斗の番に……)
「喜んでるとこ悪いけどよ。噛んだらお前は払い箱だから」
(……えっ)
「噛んで番になるのは親切心からきてる善良な行為。応急処置みたいなもんだ。お前の声と顔だけは綺麗だと思うが、お前よりも価値がある奴を嫁に迎えた方がオレのためだ」
水樹は奏斗が吐く数々を飲み込めない。自分の涎すらごっくんできないというのに。
『そ。お前、綺麗だな』
あの日、水樹は産まれて初めてオメガの自分を認めてくれるアルファに出会えたと思っていた。
『うん。だからオレ達、付き合わない?』
うんとだからの間に言葉はなくとも、告白されたのも初めてだった。
制裁を受けようが、叱られようが。瞳の裏に隠された心を探り続ければ、いつか隣に立てるのだと信じていた。
『俺が悪いんです。俺が奏斗に合わせられなかったから』
カウンセラーに何回、眉を顰められたか。
『俺が全て悪いんです。地雷を踏むようなことをしたから』
通院先の医師に何度、眼鏡の縁を直されたか。
『俺が悪いから……絶対、絶対……奏斗にだけは俺の症状を言わないでください、お願いします』
鷹橋に土下座しすぎて貧血を起こした。
『母さん、ごめん。学校生活が上手くいかなくてさ』
泣きそうな母にどんだけ嘘をついたんだ。
『……もう一度、あの学校でやり直させてください』
(……俺はなんのために?)
走馬灯は懐かしい思い出を振り返るのではなく、死を回避するために人間が最期に行うらしい。
(そうか、死んじゃうのか……俺)
走馬灯で本当に死を回避した人間は数が限られている。多くの場合、黄泉の国に行くまでの時間潰しとなるだろう。父は走馬灯などあったのか気になるが、父の思い出に水樹は絶対にいない。
しかもこの体勢、明らかにギロチンにかけられる前の罪人だった。
酷く頭が冷静になり、感情に泥がかかる。鉛みたいに動かない水樹の瞳から水が零れた。穴に水を落としたみたいにどばどばと。
歯型をつけないよう項を押され、嫌でも体がビクビクと反応する。これからが気持ち良くないのなら、噛まれる一瞬だけでも良いものにしたいが、虚無の男にそれは無理だ。
番はどちらかが死ねば解消される。オメガがアルファを失うよりも肉体面と精神面に影響はないはずだ。地獄行きは決まっている。迷惑をかけすぎた。
理性が消える前に頭を働かせる。もう涙は出なかった。
(このヒートで狂う俺を奏斗以外に決して見せないこと。他の誰にも……特に彼方君には)
彼方だけには綺麗な自分を覚えていて欲しい。顔が綺麗で、あと一つだけ取り柄のある自分を。
(彼方君に感謝言い忘れたのが心残りかな。でも、彼はすぐに僕を忘れて……)
『遊佐君、遊佐君!』
『遊佐君のこと、水樹君って呼んでもいい?』
『本当に産まれてきてくれてありがとう。毎年、最高を更新しよ?』
遊佐呼びから水樹君呼びに変わり、第二性を語らなくてもできた初めての友達。初めての大切な人。
温度も、明るく子供みたいな声も、夕焼け色した太陽みたいな笑顔も全部、全部好きだった。
項に息が吹きかかる。これから自分は強制的に番にされる。そしてゴミのように捨てられる。
──ここまで俺を生かしたのは奏斗じゃない。
「……す、け……て……」
枯渇した愛を教えてくれたのも、与えてくれたのも全て彼方のおかげだ。彼方がいなければ水樹は生きていなかった。
「たす……け、て……かな……た……く……」
震える声で、初めて助けを求めた。
掠れた声で、初めて彼方の名前を呼んだ。
「はあ? お前、まさか彼方と──」
背後の疑問が吹っ飛ぶ。壁が割れるような音とガハッと獣みたいな鳴き声。部屋の片隅で野垂れる奏斗。
足音は水樹を素通りし、床へ伸びる奏斗へ跨る。胸倉を掴み、血走った瞳で喉の奥を鳴らす。
「僕の水樹に手を出すな、獣以下の害虫が」
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