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第二章 格好のつけ方
友達との帰り道。
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たまにいる。相手がオメガだとわかった途端、馴れ馴れしくなったり、過剰に構ってくるアルファやベータは。
意識が変化するのは決して悪いことじゃないが、それでも掌を返したように心の距離を詰められるのは、正直苦手だった。
「……やっぱガツンとすべきだったかなあ」
オレンジ色に染まる白いソックスを止め、背後で物騒なことを呟く彼方を見る。彼方は顎を摘み夕空を眺めていた。水樹も釣られて顔を上げれば首がグギッと鳴る。
視線の先ではカラスが電線に集まり、まるで作戦会議を行っているみたいだった。
「うん。賛同者を集めて抗議した方が現実的で良かったかも」
(い、いやいや! あれ以上ガツンしてたら彼方君がお咎めに遭っちゃうでしょ!)
首を全力で振ったらボキッと痛々しい音が鳴り、意気消沈。ダサいにも程がある。
授業を抜け出した後、掃除の時間に事情聴取が行われた。
『今回の件は一旦保留にする。芸術選択の締め切り日もあと六日あるし、また進展があれば連絡するから掃除に戻っていいぞ』
その時は個別で鷹橋から質問を受けたが、彼方はホームルームギリギリまで戻らなかった。まさか今日の件が今日片付くとは。
(クラスメイトからは完全に腫れ物扱いされたけど、俺なんかより彼方君の学校生活が心配だよ)
比良山が八割悪くても、彼方の顔に泥を塗ったかもしれない。
実際に彼方はクラスの人気者だ。転校生という珍しさが薄れ始めても、分け隔てなく接する性格が人気を集め、別クラスにも友人がいると聞く。
痛む首を摩っていたら、頭をくしゃりと撫でられた。彼方は踵を浮かせていた。
「じょーだん。冗談だよ。遊佐君も気持ち良い思いしないし。あんま気にしないで?」
彼方の笑顔を落ちかけた太陽は照らさない。胸の奥が締まり、謝罪の言葉を口で真似る。
「謝ることないよ。今回は完全にあっちが悪い!」
左隣にきた彼方の肩が水樹の心臓付近に触れる。百七十前後と一般男子高校生並みの身長だ。
「でも本当に良かったの? あのまま音楽選んで」
首がまだ痛む水樹は指で丸を作る。
(美術の成績は壊滅的。現実的に考えてみても俺には音楽しかない)
それに噂が本当でなければ里美教師は帰ってくる。週一の芸術科目くらい我慢できる。
「もし……」
飛び始めたカラスの集団が鳴き始める。頭上を「カア、カア」と。カラスが過ぎ去ってから、彼方は再び口を開いた。
「もし、また嫌なことをされたら遠慮なく僕に助けを求めてね。いつでもいい。どこだっていい。必ず僕が遊佐君を助けるから」
電灯が点き、彼方の自信たっぷりの笑みが輝く。奏斗の面影は微かあっても、守谷彼方は守谷彼方だった。
リュック紐を握る。月には太陽の明るさは眩しすぎた。それでも視線は逸らさない。彼方にそこまで優しくされる義理なんてないとわかっていても。
(今度はこの幸せを手離したくないな)
意識が変化するのは決して悪いことじゃないが、それでも掌を返したように心の距離を詰められるのは、正直苦手だった。
「……やっぱガツンとすべきだったかなあ」
オレンジ色に染まる白いソックスを止め、背後で物騒なことを呟く彼方を見る。彼方は顎を摘み夕空を眺めていた。水樹も釣られて顔を上げれば首がグギッと鳴る。
視線の先ではカラスが電線に集まり、まるで作戦会議を行っているみたいだった。
「うん。賛同者を集めて抗議した方が現実的で良かったかも」
(い、いやいや! あれ以上ガツンしてたら彼方君がお咎めに遭っちゃうでしょ!)
首を全力で振ったらボキッと痛々しい音が鳴り、意気消沈。ダサいにも程がある。
授業を抜け出した後、掃除の時間に事情聴取が行われた。
『今回の件は一旦保留にする。芸術選択の締め切り日もあと六日あるし、また進展があれば連絡するから掃除に戻っていいぞ』
その時は個別で鷹橋から質問を受けたが、彼方はホームルームギリギリまで戻らなかった。まさか今日の件が今日片付くとは。
(クラスメイトからは完全に腫れ物扱いされたけど、俺なんかより彼方君の学校生活が心配だよ)
比良山が八割悪くても、彼方の顔に泥を塗ったかもしれない。
実際に彼方はクラスの人気者だ。転校生という珍しさが薄れ始めても、分け隔てなく接する性格が人気を集め、別クラスにも友人がいると聞く。
痛む首を摩っていたら、頭をくしゃりと撫でられた。彼方は踵を浮かせていた。
「じょーだん。冗談だよ。遊佐君も気持ち良い思いしないし。あんま気にしないで?」
彼方の笑顔を落ちかけた太陽は照らさない。胸の奥が締まり、謝罪の言葉を口で真似る。
「謝ることないよ。今回は完全にあっちが悪い!」
左隣にきた彼方の肩が水樹の心臓付近に触れる。百七十前後と一般男子高校生並みの身長だ。
「でも本当に良かったの? あのまま音楽選んで」
首がまだ痛む水樹は指で丸を作る。
(美術の成績は壊滅的。現実的に考えてみても俺には音楽しかない)
それに噂が本当でなければ里美教師は帰ってくる。週一の芸術科目くらい我慢できる。
「もし……」
飛び始めたカラスの集団が鳴き始める。頭上を「カア、カア」と。カラスが過ぎ去ってから、彼方は再び口を開いた。
「もし、また嫌なことをされたら遠慮なく僕に助けを求めてね。いつでもいい。どこだっていい。必ず僕が遊佐君を助けるから」
電灯が点き、彼方の自信たっぷりの笑みが輝く。奏斗の面影は微かあっても、守谷彼方は守谷彼方だった。
リュック紐を握る。月には太陽の明るさは眩しすぎた。それでも視線は逸らさない。彼方にそこまで優しくされる義理なんてないとわかっていても。
(今度はこの幸せを手離したくないな)
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