もし、運命の番になれたのなら。

プロローグ

遊佐 水樹、初めて告白される。

「遊佐 水樹ゆさ みずきさん、この段落を読んでください」
「はい」
　水樹呼ばれた青年は椅子を引いてその場に立つ。現代文の教科書、百五十六ページ目。遥か昔に卒業した生徒の小説が載っており、すっと息を吸い込んで読みだす。
「綺麗だな」
　授業後、とある男子に声をかけられた。まともに関わったことはない。せいぜい四月の自己紹介の時に名前を覚えた程度。
「……守谷もりや君」
　息を吸った際にふわりと香る、アルファのフェロモン。カーストの頂点に君臨する彼らは、水樹のクラスでは二名しかいない。
「そ。お前、綺麗だな」
守谷 奏斗かなと。思い出せた。
綺麗という評価を十七年の人生において一度も自分に向けられたことがないため、水樹の頭が、ぐぐっ、と横に落ちた。
「綺麗？」
「うん。だからオレ達、付き合わない？」
　うんとだからの間に説明はなかった。求めてもいいのだが、次は移動授業で体育だ。棟を超えて階段を駆け降りなきゃならない。しんどいし体力は温存しておきたい。
　なにより通常時でも鼻をくすぐるアルファのフェロモンは、少々オメガにはきつい。微量だとしても距離が縮まれば本能に抗えなくなる。呼吸しないよう、頷いた。
　うしっ、と小さくガッツポーズをする守谷は何事もなかったように歩き出す。五歩遅れて水樹も後を追った。