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第67話 アリシア動乱 ⑥
しおりを挟む護衛任務は順調だ、荷馬車は街道を道なりに進んで、特に問題は無い。
左右の景色を眺めながらの楽な移動だ。
勿論、警戒は怠らないが、モンスターの影も形も無い。静かなものだ。
王都はもう見えている、この任務ももうじき終わりが近づいているな。
結構王都から距離があるが、ここからでもその大きさが解る。
10メートルくらいの城壁が街全体をぐるりと囲んでいて、外からの襲撃に備えている。
壁の端から端までは見えない位に広い。とてもデカい都市だ。
流石は王都と呼ばれている、といった所か。
サキ小隊の他に、王都で活躍しているであろう、「義賊シルバーウルフ」の男が同行している。
何でも、「盗賊ギルド」に所属しているんだそうな、デカい街にはそういった「裏社会」の人達も居るという事だな。
いい人も居れば悪い人も住んでいる。それが都会ってやつかもな。
「おいシルバーウルフ、ちょっと聞きたいんだが。」
警戒しながらも、声を掛けてみる。
「ドニでいいぜ、もうシルバーウルフって名前は知れ渡っているからな、仕事がやり辛えぜ。これからは「義賊ドニ」でやっていくつもりだ。」
「ドニか、俺はジャズだ。よろしく。」
男はこちらを向きながら、嘆息した様に諦めた感じで返事をした。
「ああ、それで、何が聞きたい?」
「盗賊ギルドって事は、お前さん「裏」に精通してるんだよな?」
こちらが聞くと、ドニは表情を変えずに答えた。
「そりゃまあ、闇商売だけどよ、盗賊ギルドってのは盗みはするが殺しはしねえ。「暗殺ギルド」じゃねえからな、誰か殺せばそれだけで衛兵がすっ飛んで来る。信用問題にもなりかねねえ、華麗に決めて颯爽と立ち去る。ギルドの信条だ。」
ふむ、盗賊ギルドといっても、凌ぎを削りながらの仕事か。
まあ、やってる事は犯罪に違いはないが、今はこっちの任務が優先だ。
王都の衛兵に任せるしかないかもな。
「信条ねえ、聞きたいのはアロダント第二王子の事だ。何かヤバいらしいが、どれ位ヤバい人なんだ?」
ドニは眉根を下げ、小声で話し始めた。
「アロダントか、ヤバいなんてもんじゃねえ、奴は黒だ。真っ黒だよ、表に出回っていない情報だが、あの「闇の崇拝者」と繋がりがあるって噂だ。「ダークガード」の連中も城に出入りしているって目撃情報もある位だから、まあ、「危険」だわな。」
なるほど、そういう奴か、アロダント第二王子ってのは相当ヤバいって事だな。
上手く調べないと、こっちが痛い目にあうかもしれんな。慎重に対応せねば。
「何だ? アロダントに何か用なのか? 止めとけって、奴は城に勤めている女給や庭師なんかを自分の都合で利用して、鞭を打ち、言う事を聞かせて悪事を人にやらせて、上手くいってもいかなくても口封じに殺す、間違いなく「悪」だよ、奴は。」
「マジか?」
「マジだ。」
何だってそんな奴がこの国の王子なんてやってんだかな、大丈夫かよこの国。
まあ、ダイサーク第一王子が居るし、次の王様はその人で決まりなんだろうけど。
聞いた話じゃ、アロダントは相当ヤバい奴らしいし、玉座を狙ってアレコレ画策していそうではあるわな。
やれやれ、義勇軍任務も楽じゃないな、こりゃ。どうやってアロダントを調べようか。
叩けば埃が出てきそうではあるが、タイミングを逸するとこちらが叩かれる可能性もあるか。
相手が王子だけに、下手に動けんな。
事を慎重に運ばないと、足元を掬われるかもしれんな。
しばらく考え事をしていたら、どうやら王都の壁門に到着したようだ。
門番が何人か居て、王都へ入ろうとしている行商人や荷馬車など、入口の所で検問作業をしている。
こちらの順番に回って来るのは、少し後になりそうだ。
一応こっちはアリシア軍なので、軍事特権を使って割り込めるかもしれんが、サキ隊長は目立たない様に、敢えて列に並ぶらしい。
「ところでよ。」
ドニがこちらに声を掛けてきた。
「何だ? ドニ。」
「スラムに入ったら俺の事を護衛してくんねえか。アロダントの私兵にギルドが狙われているしよ。」
「ああ、まあ、護衛ぐらいはしてやるが、自分でも逃げる用意だけはしとけよ、守り切れん場合もあるかもしれんからな。」
「へっへっへ、解ったぜ。兵隊さんの護衛がありゃあ、問題無いぜ。まあ、守ってくれるってんなら、こっちも王都やスラムの情報を提示出来なくは無いからよ。頼むぜ、ジャズ。」
「解った、出来るだけの事はしてやる。だが、あまり当てにはするなよ。こっちだって色々あるからな。」
「おう、頼らせて貰うぜ。」
王都の壁門の門番に手招きされ、サキ小隊は門のところまで進む。
門番に色々と事情を話し、サキ隊長が対応して難なく門を通過できそうだった。
こういう時は軍属である事が有利に働く事があるので、まあ、列に並んでも問題は無いという事だな。
「通ってよし」と言われたので、ニールが馬車を進ませる。壁門を潜り、王都の街中へと入った。
「いいか! 王都に入ったからと言って気を抜くなよ! 気合だけは入れたままだ! いいな!」
「「 はい! 」」
サキ隊長は任務に真剣だ。当然だな、ここは王都、都会だ、何があるか解らない。
警戒はしたままという事だな。
王都に入って、まず目につくのはやはり人の多さだ。
中世ヨーロッパ風の建物が建ち並び、道幅も広い。歩行者用の道と、馬車用の道が分かれており、沢山の人や馬車が往来している。
人種も様々で、人間は勿論、エルフ、ドワーフ、獣人など、実に様々な人が行きかって
遠くの方に王城が見えていて、とても背の高い建物が幾つも建ち並ぶ、立派な都市だ。
「すげーなジャズ、見てみろよ、人が沢山居るぞ。馬車も二頭立てのがあったりして、流石王都って感じだよな~。」
「ああ、そうだなニール。凄いな、どれ位の人が住んでいるのかな? ちょっと想像が付かん。」
答えたのはサキ隊長だ。
「ここ、王都には約50万人の人々が生活をしている。とても大きな街だろ。色んな奴が居るから、十分に気を付けて進めよ。警戒だけは怠るなよ、いいな。」
「はい、しかし、目的地のスラム街へは、かなり遠そうですが、このまま進むのでありますか?」
「そうだ、早くこの荷物を届けなくては、任務は終わらん。急ぐぞ。」
「「 了解。 」」
このまま道なりに進み、その途中でスラム方面への看板があったので、その通りに進む。
街の中に看板があるなんて、やっぱり都会なんだな。
はぐれない様にしなくては。迷子になる。この歳で迷子とか、ちょっと恥ずかしいよね。
しかし、迷子になる時は迷子になるものだからな、まあ、このまま荷馬車の荷台に乗っていれば問題ないよね。
しばらく進んで行くと、周りの景色が都会的なものから、人が疎らな場所へと変わってきた。
道も舗装されておらず、土が剥き出しの道へと変わってきていた。そろそろスラム街に入ったといった所か。
ドニが声を掛けてきた。
「ここからは気をつけな、スラムだ。表向きは平和だが、裏では何があるかわかったもんじゃねえぞ。」
ドニの言う通りだな、ここからは要警戒だ。
「隊長、目的地のスラム街の空き地というのは、どのあたりになりますか?」
「もう間も無くだ、暫く進め、警戒しながら注意深く辺りを見回せよ。」
どうやら、スラム街に入ったようだ、周りを見渡す、確かに、スラムっぽい。
地面に座り込んでいる者やこちらを物欲しそうに見つめる子供。
何を売っているのか解らない、如何にも怪しい店、女性が道端で立っていて、こちらを見ながらウインクしてスカートの裾を開く「客待ち」。
なるほど、実に様々な人が居るみたいだ。怖いなー。変な奴に絡まれなければいいが。
「よーし止まれ。 ここだ、目的地の空き地は。」
サキ隊長が指示を出した、ニールは空き地の少し手前で馬車を止め、馬を落ち着かせている。
「ジャズ上等兵、ここから目的の場所の中が窺えるか?」
「………はい、見えます、そして居ます。受取人らしき人物が。しかも。」
「しかも? 何だ?」
確かに、目的地の空き地に到着したが、その場所には、20人程の黒いお揃い鎧を着た集団が、目をぎらつかせながらこちらを見ていた。
「どう見ても、堅気じゃありませんね、ありゃあ。」
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