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第58話 下着ドロボウを追え ③

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 女子寮前まで来た、よし! ここまでは順調だ。

特に怪しまれてはいない、大丈夫だ、やれる。

俺は懐に仕舞ってある四枚の花柄パンティーを握りしめ、自身を落ち着かせる。

今回のミッションは実に奥が深い。

只、洗濯籠へこのパンティーを放り込むだけではない。

敵地潜入、隠密行動、発見された時の対処法、など、どれも超一流の仕事が求められている。

簡単な様で難しいミッションだ。

「けど、やってみる価値はある筈だ、クリスちゃんの為にも。」

俺は今一度、パンティーを懐から握りしめ、勇気を貰う。

よっしゃあ! 一丁いきますかー!

まずは敵情視察から、兎に角まず、女子寮全体を見渡す。

うーむ、ここからではまだ何とも言えないな。

一応見張りの様な人影が見える事から、警戒は厳重と判断できる。

女性兵士達が、交代で見張りを続けているのが窺える。

(出入口からの侵入は無理そうだな、警戒が密すぎる。門番が六人、内、木剣などで武装した人が三人。手強い。)

堂々と女子寮の出入り口からの潜入は、見張りが厳しい。

遠巻きから窺える様子からはそう見える。

(よーし、ならば!)

俺は女子寮の周りを歩きながら、ぐるりと一周回る。

女子トイレ、女性士官部屋、洗濯籠が置いてあるであろう脱衣所は窓が閉まっている。

おそらく鍵もかかっている事だろう、流石だよ、抜かりはなさそうだ。

だが…………。

(よし! 侵入経路発見、ここからなら容易に潜入出来そうだぞ。)

ぐるりと女子寮を回った事で、見えてくる物もあった。

なんと、警戒中にも関わらず、女性兵士の部屋の幾つかの窓が開いている事が解った。

その中から最も脱衣所に近い部屋を見つけ、辺りをキョロキョロと見まわし、誰も俺を見ていない事を確認した。

(よーし! 今しかない! 潜入するなら今がチャンスだ!)

俺は急ぎ、女性兵士部屋の窓から潜入する、物音は立てない、音は出ていない筈だ。

大丈夫、やれている、俺は今、やれている。

女子寮の部屋の一つに、潜入した事に成功した。

よーし、まずは第一関門突破、ここからだ。

辺りを見回し、他に人が居ない事を確認して、忍び足で部屋の中を移動する。

足音を立てずにゆっくりと、だが確実に、少しずつ進んで行く。

 部屋のドアの前まで来た。ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回し、物音を手立てずにドアを少し開く。

そこから外の様子を窺い、通路に人が居ない事を確認した。

ここはもう既に女子寮だ。男の俺が見つかったら只では済まない。

慎重に行動するに越した事はない。

(廊下には人影無し、静かなものだな。………いや、静か過ぎる。何かの罠か?)

俺は一旦その場で立ち止まり、通路の様子を観察する。

人が出てくる気配は、今の所無い。ふ~う、どうやら取り越し苦労だったか。

だが、いつまでもここに立ち止まっている訳にもいかない、ここから脱衣所まで約二部屋分の距離がある。

(さあ、いくぞ! この花柄のパンティーを洗濯籠に入れて、ミッションを遂行しなければ。)

俺は忍び足で、女子寮の廊下をこっそり歩く。物音は立てない、静かに移動する。

大丈夫だ、自分でもビックリするくらい上手く事が運んでいる。

ちょっと上手く行き過ぎている気がしないでもないが、ここはこの状況を利用しようと思った。

 脱衣所の前まで来た、ここまではほぼ何事も無かった。

順調だ、………順調、なんだよな? ここまで障害の一つも無かった事が懸念されるが。

自分に運が巡って来たと思う事にした。そう思わなければやっていけないと思う。

ここは女子寮、男にとって敵地であり、楽園でもある。まあ、俺は仕事をするだけだが。

 脱衣所の中へと移動し、人が居ない事に不審に思いながらも、洗濯籠を探す。

 ………………あった! あれだ! 洗濯籠発見! 俺は急ぎ、洗濯籠に近づき懐から下着の花柄のパンティーを四枚取り出した。

ところが………………。

「そこまでだ!!」

「!?」

(しまった!? 見つかった!)

俺は手にパンティーを持ったままの状態で、ピタリと静止した。

 目の前には目的である洗濯籠。そして、脱衣所の出入り口には女性兵士達がわらわらと集まりだして、退路を塞がれた。

そこにはサキ少尉達が居て、こちらを物凄い顔で睨んでいた。

「とうとう尻尾を出したな! 下着ドロボウめ! 出入口を固め、窓を幾つかわざと開けておいて、賊が侵入してきた場合の行動として、コマンド兵に賊を尾行させておいたのだが、まさか貴様が犯人だったとはな! ジャズ上等兵!」

(しまった! やはり罠だったか、万事休すか! いや、起死回生の一手が必ずある筈だ! 探せ! 探すんだ俺!)

しかし、色々考えてみたものの、何も思いつかなかった。ここまでか、俺はここまでなのか。

「ジャズ上等兵、ここは女子寮だ。男の貴様が居ていい場所ではない。解るな?」

「はい、解ります。」

「そして、貴様のその手に持っている下着、それは女物の下着で相違ないな?」

「はい、そうです。」

「………ジャズ上等兵、覚悟は、出来ているんだろうな?」

「はい、存じ上げております。」

「そうか、例えどの様な事があろうと、男の貴様が女子寮に居て、手にはパンティーを握っている。男の貴様がパンティーを握っているのだ。この状況は覆る事は無い。解るな? ジャズ上等兵。」

「はい。」

俺は足を肩幅まで開き、両腕を後ろに回して組み、俯いて歯を食いしばり、前を見据えた。

サキ少尉が女性兵士達に言う。

「全員、制裁準備、目標、ジャズ上等兵。」

その時、女性兵士達は一斉に手を上げ、ビンタの構えを取った。

俺は最早、力を抜いた。覚悟は出来た。後は時が過ぎるのを待つばかり。

パチーン、パチーン、パチーン、バチコーン、ペチ、パチーン、ペチ、ズドカ、パチーン、パチーン、………………………………。

(おい、誰だ今グーで殴ったのは。)

ビンタをする人の中には手加減をしてくれる人もいたが、割と本意気でかます人もいた。

俺は、ビンタを喰らいまくった。成すすべも無く。只、ビンタされた。

30分後、俺は解放された。

「よし、制裁完了、ジャズ上等兵、貴様の持つそのパンティーを渡せ。」

「ばい、どうぞ。」

俺はパンティーを差し出す。サキ少尉がそれを受け取る。

「よし、制裁は済んだ。ジャズ上等兵、持ち場に戻れ。」

「ばい、どうもずみまぜんでじだ。」

俺の両頬は見事に腫れ上がっていた。喋ると痛い。歩く度にジンジンと頬が痛む。

俺はゆっくりとした足取りで、男性用兵舎へと戻った。

(まあ、クリスちゃんに事が及ばなかった事だけは、自分に誇れるよな。)

俺が泥を被ればいいだけだ、何の問題も無い。

クリスちゃんもきっと反省している。あの子は悪くない。いい子だ。これでいいんだ。

兵舎へと戻って来た俺は、ベッドへと横になり、目を瞑った。そこへ、ニールが声を掛けてきた。

「お? 何だジャズ、どうした? そのほっぺた?」

「いや、何でもない、なあニール、女って怖いな。」

俺の声は小さかったのか、ニールには元気が無いと思われた様だ。

「………もう寝ろよ、何もかも忘れて寝ちまえよ。」

「………ああ、そうする、…………俺、寝る。」

俺は寝た。

何も考えず、寝た。

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