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第29話 休日の過ごし方は人それぞれ ⑧
しおりを挟むガーネットと二人、クラッチの町の中へ入った。
至る所で黒煙が上がっていた。誰だ? 誰がこの町を襲撃してきたというのか。
先程の壁門付近での戦いでは、倒したモンスターは砂に変わった。
これは、誰かがモンスターを召喚した、という事だ。
町の中の光景は、至る所で火の手が上がり、あちこちで消火活動が始まっていた。
こういう時の町の住人達の動きは迅速だ、近くの人に声を掛ける。
「すいません、一体何があったのですか?」
「モンスターだよ! モンスターの襲撃があったんだよ!」
ガーネットが驚き、聞き返した。
「え!? 町の中にですか?」
「ああ! そうだ、兎に角、あんた等も気を付けた方がいい。特に商業区の被害が大きいらしい。」
「わかりました、どうも。」
ふむ、モンスターが町の中にまで侵入したのを許したのか?
門衛の話では一応、門のところで食い止めたと思ったが。
ガーネットに伝えた。
「ガーネット、兎に角まず、移動しよう。商業区の被害が大きいらしい、俺達はそっちに行ってみるかい?」
「そうね、行きましょう。ジャズ!」
そうと決まれば、早速行動開始だ。この町の商業区へ向けて駆けるのだった。
女将さんが心配だ。無事だといいが。
商業区へとやって来た二人は、そこで、凄い光景を目の当たりにする。
圧倒的。
只管、圧倒的な光景が広がっていた。
モンスターが、………ではない。
人間達が、だ。
町の人々が手に武器や鉄の棒などを持って、モンスター相手に応戦していた。
女将さんも居た。フライパンを持ってゴブリンの頭を叩いていた。
衛兵も駆けつけ、モンスターを攻撃していた。
クラッチ駐屯軍も、この町の異変に気付き、基地から兵士達がぞくぞくと出て来ていた。
そして、モンスターに襲いかかっていた。
「なめるなよ、この町は駆け出し冒険者の町だぜ。町人全員冒険者経験済みなんだよ!」
「おい! そっち行ったぞ!」
「任せろ! この鉄の槍の錆にしてやるぜ!」
「あたしゃあこの程度で、怯まないよ! 覚悟しな!」
「クラッチ駐屯軍を舐めるなよ! こういう日の為に毎日厳しい訓練に耐えてきたんだ! やるぞお前等!」
「「「「「 おう!!! 」」」」」
凄いな、みんなが一丸となって事に対処している。
モンスターの構成は殆どがゴブリンで、あとワイルドウルフにオークが少々といった感じだ。
てっきり町がモンスター被害に遭っていると思っていたが、その逆だった。
モンスター共が逃げ回っていた。
あちこちで火の手が上がっていたが、それ以上に町の人々が戦っている光景というのは、実に圧倒的だ。
戦っていない人達も、火消しの為の行動をしている様だった。
町がモンスター被害に対抗していた。
何だかこっちが勇気を貰った感じだ。
よーし、こっちも負けてられない! 早速行動を開始した。
「ガーネット、俺達も戦いに参加しよう。町からモンスターを叩き出そう!」
「勿論よ! やるわ!」
こうして、ガーネットと二人、町に蔓延るモンスターを相手に戦いを始める。
町の被害を最小限に留めるよう、戦闘を開始した。
特に目覚ましい活躍をしていたのが、やはりクラッチ駐屯軍の兵士達だった。
訓練された動きは、モンスター相手にまったく怯まず、有効に働いていた。
流石先輩達。頼りになる。
そんな中で、一際目立つ大物が居た。そいつが口から火を吹いている様だった。
火災の原因はこいつか。それは、見た目が犬のドーベルマンに良く似た犬だった。
だが、大きさがまるで違う。
「チッ、こんなところにヘルハウンドがいるとはな。厄介な相手だ。」
ヘルハウンド、こいつは見た目が犬のドーベルマンだが、大きさは体長3メートルのデカイ犬だ。
間違いなく大物モンスターだな。
噛み付きや爪による攻撃の他に、口から炎のブレスを吐く。
討伐推奨レベル10の強敵で恐ろしいモンスターだ。
動きも俊敏で皮膚も硬い。炎耐性も確かあった筈だ。
まず、ショップコマンドで投げ槍のピラムを3つ購入した。
アイテムボックスからすぐさま取り出し、準備する。
(まずは第一段階!)
続いてアクティブスキル「フルパワーコンタクト」を発動させ、攻撃力を1.5倍にした。
(これで第二段階!)
更に精神コマンドの「必中」と「不屈」を使用し、命中率を100パーセントにした。
被ダメージも一度だけ1になった筈だ。
(よし! 第三段階!)
これで準備は整った。あとはやるだけだ。
ヘルハウンドの正面まで駆け寄り、一定の距離を空け、ピラムをおもいっきり投擲した。
「グギャッ」
よーし、攻撃は命中、まずは一撃加えた。
ストレングスレベル5にフルパワーコンタクト、おまけに必中の重ねがけ、相当なダメージを負った筈だ。
続いて二発目、ピラムを投擲、ヘルハウンドの胴体に突き刺さる。
スキル「投擲」があるから、威力は高い。
「グルルゥ………」
(よーし! かなりのダメージを与えた。もう一押し!)
しかし、ヘルハウンドも黙ってやられる筈も無く、口から炎のブレスを吐こうとしていた。
(その前にもう一丁いくぜ!)
構わず、三本目のピラムを渾身の力で投擲、ヘルハウンドの頭部に命中した。
よし、かなりダメージを与えた筈だ。
しかし、これで倒れないなんて、こいつは相当タフだな。
ヘルハウンドが口から炎のブレスを吐き、辺り一帯を炎に包む。
それに構わず雷の小太刀を抜き、両手で持って構え、ヘルハウンドへ向けて突進する。
「あつっ!」
ヘルハウンドの炎のブレスを喰らいながらも、こちらのダメージは1だった。
流石に忍び装束は焼け焦げてしまったが、その甲斐あって、ヘルハウンドの足元まで接近できた。
(これで、ラストォォォォ!!!)
雷の小太刀をヘルハウンドの喉元へ向け、勢いよく突き入れた。
小太刀は喉を貫通し、喉の傷口から炎が漏れ出てヘルハウンドを自ら焼いた。
「グギャァァァァァ………………」
ヘルハウンドの断末魔と共に、小太刀を抜き取り、一歩下がる。
ドサリ、とヘルハウンドが横倒しになり、ピクリとも動かなくなった。
周りを見ると、どうやらモンスターの数も相当数が討伐されたようだ。
{シナリオをクリアしました}
{経験点750点を獲得しました}
{ショップポイントを100ポイント獲得しました}
{スキルポイントを2ポイント獲得しました}
おや? どうやらシナリオをクリアしたみたいだぞ、女性の声がファンファーレと共に頭に直接聞こえてきた。
ふう~~、やれやれ、今回もどうやら何とかなったみたいだな。
どうやらこの場は凌いだみたいだ。
しばらくして、ガーネットがこちらへと駆け寄ってきた。
ハアハアと息を弾ませながら、それでも表情は明るいものだった。
「ジャズ! こっちは終わったわよ。って何これ? 物凄い量の砂じゃない。どうしたの、これ?」
「ああ、なんかよくわからないけど、大物が居たんじゃないのかな?」
まあ、適当にお茶を濁しとくか。
その時、丁度リカルド軍曹が駆け寄って来た。
「おお、お前達も無事だったか。よく生き延びてくれた、訓練の賜物だな。すまんが町の火消しの方を頼めんか? こっちは手一杯なんだ。」
「わかりました、火消しを手伝います。ガーネットもいいかな?」
「勿論よ、手伝うわ。」
「ありがとう、お嬢さん。よしジャズ。水の出る魔道具を貴様に一つ渡す、これで火を消してくれ。なるべく急いでな。」
「は!」
こうして、ガーネットと二人、町の消火活動に勤しむのであった。
町の被害は建物が少し焼けた程度だった、人的被害は最小限に留められたと後で聞いた。
「消火活動が終わったわよ、ジャズ。」
「ああ、こっちもだ。今終わった。」
ふう~、やれやれ、これでこの町のモンスター被害は終息していくだろうな。
しかし、まだ安心は出来ない。門衛の話に出て来た二人組みの黒ローブの男の事が気になる。
これから先、何が起きるのか? ちょっと心配だな。
と、思っていたら、件の二人組みの黒いローブの男は、なんとリカルド軍曹がお縄に着けていた。
ちゃっかりと手柄を立てている軍曹だった。凄いな軍曹殿。
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