上 下
25 / 78

第24話 休日の過ごし方は人それぞれ ③

しおりを挟む



 やけに安い報酬の「落し物捜索」の依頼票を剥がした。

受付カウンターへと持って行き、受付嬢に詳しい内容を聞く事になった。

初仕事だ、報酬は安くてもしっかりやっていこう。

「すみません、この依頼を受けたいのですが?」

受付嬢は何か他事をしていた様だが、こっちが話し掛けると即座に対応してくれる。

ちゃんと仕事をする人として、扱ってくれているという事だろうか?

「はい、どういったご依頼の件ですか?」

「これなのですが」と言いながら依頼票をカウンターの上に置いた。

それを見ていた受付嬢は「ああ、この依頼ですね」と言っていた。

何か、分かっているというような態度だった。

「このご依頼を発注してきたのは、ミネラルさん家の女の子で、名前はエナちゃんという方です。何でも、お友達と遊んでいて気が付いたら無くなっていたそうですよ。この依頼をお受けになりますか?」

ふーむ、ご近所さんの依頼という訳か。

冒険者ギルドとしては、こういった依頼も引き受けるのだろうな。

こうやって信頼関係を構築していくという事だな。

中々地道にやっている様じゃないか。感心感心。

「はい、この依頼を受けます。そのミネラルさん宅はどちらになりますか?」

「では、こちらの依頼はジャズさんにお任せ致します。しっかり探してくださいね。場所は住宅街にある一軒の家です。白い壁に赤い屋根のお家です。ジャズさん、お願いしますね。」

「白い壁に赤い屋根ですね、分かりました。今から早速向かいます。ああ、それと一応報告なのですが、パーティーメンバーにガーネットを加える事になりました。二人でこの依頼をしてきます。」

「ガーネットさんにジャズさんですね、はい。承りました。それではお願いします。」

よし、取り敢えず依頼は引き受けた。まずはミネラルさん家に行ってみよう。

ガーネットから「どうするの?」と問い掛けられたので、「まず、ミネラルさん宅に向かおう」と答える。

「へ~、ジャズって意外と考えて行動できる人なのね。私に聞いてこない辺り、ラットとは違うわね。」

「ラット? ああ、あの時の荷馬車護衛の仕事を一緒にしてた男の子だよね、そう言えばそのラットは今日は一緒じゃないの?」

こちらの問いかけに、ガーネットはつまらなさそうに答えた。

「あいつとはいつも一緒って訳じゃないわ、あいつはあいつで他の冒険者パーティーに呼ばれて、そっちの方で仕事をしていると思うわ。」

「………ごめん、何か余計な事聞いちゃったかな?」

俯き加減で答えると、ガーネットは手の平をパタパタと左右に振って「違う違う」という仕草をした。

「え? いえいえ、違うのよ、ほら、私もラットもまだ駆け出しの新米冒険者でしょ。色んなパーティーと組んで、色んな経験を積んで、自分に合うパーティーを捜すってのもその一つなのよ。別に仲が悪い訳じゃないわ。」

「あ、そうなんだ。じゃあ、俺とパーティーを組んだのも経験を積む一環なんだね。」

「そういう事、さあ、行きましょう。」

こうして自分達はギルドを出て、町の中にある住宅街を目指して歩く。

自分はこの町の事を詳しく知らないので、ガーネットが先頭でその後を付いていく。

 しばらく歩いて、住宅街へとやって来た。

確か白い壁に赤い屋根のお宅だったよな。早速探す。

表札とかは出ていない、家の色で判断するしかない。

………あった! 白い壁に赤い屋根、間違いない。ここだ。

「ガーネット、見つけたよ、この家だ。ミネラルさん家だよね?」

「ええ、多分そうだと思うわよ。早速訪ねてみましょう。」

自分とガーネットは、目的の家へと向かい、玄関のドアをノックする。

すると「は~~い」と言う声が家の中から聞こえてきた。

玄関のドアがガチャリと開き、一人の女性が現れて、「どちら様ですか?」と問い掛けてきた。

「突然の訪問で恐縮です。我等は冒険者です。ミネラルさんのところのエナちゃんという女の子の依頼を受けに来ました。詳しい内容をお聞きしたく思い、ここまでやって来た次第です。」

「まあ、これはどうもご丁寧に。今エナを呼んできます。少々お待ちになって下さい。」

母親らしき人は家の中へ入って、「エナ~、どこ~、お客さんよ~」と声が響いた。

しばらくして、母親に連れられて、一人の女の子が玄関口までやって来た。

「あたしエナ、なにかごようですか?」

ふむ、見たところ五歳くらいの女の子だな。

この女の子が依頼主かな? だから報酬が安かったのか。

詳しく話が聞けるといいのだが。

「君がエナちゃんだね、僕達は冒険者だよ。君が出した依頼を受けてやって来たのさ。君に詳しいお話を聞きたいんだけど、いいかな?」

「………………。」

こちらが話し掛けると、エナちゃんは母親の陰に隠れてしまい、こちらを見つめていた。

参ったな。俺じゃあこの子に話が聞けそうになさそうだ。

「ガーネット、頼めるかい?」

「まあ、そうくると思っていたわ、私に任せなさい。」

ガーネットはエナの視線に目を合せて屈み込み、にこりと笑顔を見せて、優しく問い掛けた。

「ねえ、エナちゃん、おねえちゃん達こう見えて冒険者なのよ。エナちゃんが落として無くしちゃった物を探してあげるわ。何を落としちゃったのか、おねえちゃんに教えてほしいなあ。」

すると、女の子は母親の陰から出て来て、ガーネットに話し始めた。

「んーとねえ、たっくん。」

「たっくん?」

ガーネットが母親の方を見る。母親は「ぬいぐるみです」と答えた。

「そっかー、たっくん落としちゃったのか。どこで落としちゃったのかな?」

「えーとねえ、おともだちとあそんでたの、おママごとよ。広場であそんでたの。」

「広場? 噴水のある広場なの?」

「ううん、ちがう。ただの広場。」

「そっかー、広場かあー。それから?」

「わんちゃんがやってきたの、う~~ってうなってたからこわくなってにげたの。」

「わんちゃん? ああ、犬ね。それで?」

「そのときにたっくんおいてきちゃったの。」

「そっかー、犬にびっくりしてたっくんを置いてきちゃったのかー。よ~~し、おねえちゃんが探してあげる。ちょっとの間、待っててくれるかな?」

「うん! いいよ、まってる。」

「それじゃあ、探してくるわね。」

ガーネット凄いな。女の子から情報を聞き出してしまったぞ。やるなあ。大したもんだ。

ガーネットは立ち上がり、こちらの方を向いた。

「この近くに広場があると思うわ。多分そこよ。早速行ってみましょう。早くしないと何処かに持っていかれてしまうかもしれないわ。」

「ああ、わかった。」

 こうして、二人で辺りを捜索して広場がある所を見つけた。

少ない情報で、ここまで漕ぎ着けたのは流石ガーネットだ。

「ここね、広場っていうのは。ここで無くしたのよね。」

広場は大体家一件分の広さがある、空き地ってやつだな。

ここでエナちゃんは友達と遊んでいて、ぬいぐるみを落としたという事らしい。

犬がやって来たので怖くなって逃げ出したという事らしい。

まだこの近くにあるかもしれない。隅々まで探してみよう。

「ねえジャズ、貴方はここから右半分を探して頂戴。私は左半分を探すから。」

「わかった。探してみる。」

おままごとをしていたって言っていたな。

という事は、この空き地の真ん中辺りが怪しいが、さて、見つかるかな?

あちこち探し回っていると、何やら「う~~」という唸り声が聞こえた。

何だろうと思い、唸り声の方を見ると、そこには。

「何だ、犬か。………ん? 何か咥えているな? 何だ?」

そこにいた犬は、あろう事かぬいぐるみの様な物を口に咥えていた。

おそらくあれが対象のぬいぐるみだろう。

ココであったが百年目。

少しずつ近づき、軍で支給されている干し肉をポケットから取り出し、犬の前に置いた。

「よーしよし、いい子だ。その肉やるから、そっちのぬいぐるみを放してそこに置いてくれよ。」

犬はゆっくりと近づき、干し肉を咥える為にぬいぐるみを口から放した。

犬は干し肉を咥えて一目散に逃げ出していった。よーし! 第一段階突破。

ぬいぐるみを拾い上げ、埃を払い確認する。

そのぬいぐるみは犬がガシガシと噛んでいたのか、所々穴が空いていた。

至る箇所がほつれて、中の綿がはみ出ていた。

「ガーネット! ぬいぐるみを見つけた! だがこれじゃああの女の子はきっと悲しむかもしれない。どうすりゃいい?」

「え!? ぬいぐるみを見つけたの? やるじゃないジャズ!」

うーむ、しかし困ったぞ。

このままこのぬいぐるみを女の子に渡したら、間違いなく泣かれる。

どうしたもんかな?






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生の果てに

北丘 淳士
ファンタジー
先天性の障害を持つ本条司は、闘病空しく命を落としてしまう。 だが転生した先で新しい能力を手に入れ、その力で常人を逸した働きを見せ始める。 果たして彼が手に入れた力とは。そしてなぜ、その力を手に入れたのか。 少しミステリ要素も絡んだ、王道転生ファンタジー開幕!

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

処理中です...