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第20話 軍靴の足音 ⑨
しおりを挟む四人は第三会議室で待機している。するとガチャリと扉が開き、一人の人物が姿を現した。
「みなさん、入隊試験以来ですね。私を覚えていますか?」
「これはキエラ中尉、キエラ中尉に敬礼!」
「ああ、その必要はありませんよ。楽にしてて下さい。」
「「「「 は! 」」」」
自分達は横一列に並んで、直立する。久しぶりのキエラ中尉だ。
「みなさん、いい顔つきになってきましたね、もう一人前の顔です。それと、本日付でみなさんは二等兵へ昇進しました。その肩書きに恥じぬ働きに期待しています。こほん、では、基地がこの様な状況ですので略式ではありますが、みなさんの訓練課程終了の卒業式を行います。」
いよいよか、長い様で短い期間だったな。
確かにキツイ訓練ばかりだったけど、その分鍛えられて体力や筋力が付いてきた。
兵士として、生き延びる為の厳しい訓練は必要な事だと、今なら実感できる。
「それでは、自分からみなさんに言葉を送ります。みなさん、卒業おめでとう。これからは一兵士として立派に務めて頂き、任務に従事していく事と思いますが、これだけは覚えておいて下さい。自分一人で戦っている訳ではありません。自分の背中を守るのは同じ訓練を受けた仲間だという事を。貴方達一人一人の双肩に民を守る、延いてはこのアリシア王国を守る事へと繋がっていくのです。お互いに背中を預け合う仲間を大切にし、自分と周りを守っていって下さい。以上です。みなさん、卒業おめでとう。」
キエラ中尉の言葉に、皆は感動した。やはり訓練は人を強くするな。
鍛える事は決して無駄ではないという事か。
「本来ならばコジマ司令官殿がここへやって来て、みなさんに挨拶をするのですが、今はこんな状況ですからね、せめて自分がみなさんを送り出したいと思いました。それではみなさんには認識票を一つずつお渡しします。それと、コジマ司令より辞令が届いています。」
「「「「 は! 」」」」
皆は一人一つずつ認識票を受け取り、チェーンが付いているので首に掛ける。
鉄のプレートか何かでできた小さな鉄の板だ。ドックタグみたいだな。
アリシア王国軍所属と彫り込まれており、自分の名前も彫られている。
「その認識票は身分証にもなりますから、失くさないで下さい。それと、これからみなさんにコジマ司令より辞令があります、ニール二等兵。」
「は!」
「本日付をもって二等兵に任命し、ブラボー中隊への配属を命じる。」
「は! 謹んで拝命致します!」
「リップ二等兵。」
「は!」
「本日付をもって二等兵に任命し、ブラボー中隊への配属を命じる。」
「は! 謹んで拝命致します!」
「ルキノ二等兵。」
「はい!」
「先の戦いでの功績を認め、本日付をもって上等兵に昇進を任命し、クラッチ駐屯軍魔法兵隊への配属を命じる。」
「はい! ありがとうございます! 謹んで拝命致します!」
「ジャズ二等兵。」
「は!」
「本日付をもって二等兵へ任命し、ブラボー中隊への配属を命じる。」
「は! 謹んで拝命致します!」
「私からは以上になります。みなさん、明日からの五日間の休暇を満喫し、六日後、またこの第三会議室へと集って下さい。いいですね。」
「「「「 は! 」」」」
「ああ、それと、王都から女性士官が二人、赴任してきます。ニール達ブラボー中隊の三人はそのどちらかの小隊員メンバーとして配属されると思いますよ。とても優秀な方達らしいですので、しっかり任務に従事するように。」
「「「 はい! 」」」
(俺とニール、リップはブラボー中隊か。)
ルキノさんは魔法兵隊に所属が決まり、上等兵への昇進もした。
流石魔法使いといったところか。魔法使いの数は少ないから、きっとエリートなんだな。
キエラ中尉はうんうんと頷くと、皆を見て笑顔になり、そして俺の近くへ来た。
「ジャズ二等兵、君にはコジマ司令より命令があります。いいですか?」
「は! どの様な命令でありますか?」
「何時でもいいので、町の中にある女神教会へ赴き、そこで闇の崇拝者やダークガードについて話を聞きに行って来て下さい。との事です。ちゃんと伝えましたからね。」
「は、はい。わかりました。」
女神教会か、確か「ラングサーガ」にもあったな。
三柱の女神様を信仰する教会の事だよな。まあ、時間があれば行くだけ行ってみよう。
「では、これで卒業式を終了します。みなさん、お疲れ様でした。」
「「「「 ありがとうございました! 」」」」
キエラ中尉は何か用事があるのか、急ぎ部屋を退室していった。
まあ、大型モンスターが暴れ回った後の事後処理があるのかもしれないな。
皆は五日間の休暇だ。何しようかな。休暇って何すればいいんだ?
ちょっとニール達に聞いてみよう。
「なあニール、お前は休暇どうするんだ?」
「何だジャズ? 決まって無いのか? 俺とリップは生まれ育ったソケット村へ一旦帰って、まあ両親に報告だな。そうだろリップ?」
「ええ、そうね。ルキノさんはどうするの?」
「私はこの町に家族がいます。なので、妻や娘の顔を見に帰りますよ。もう長い間娘の顔を見ていませんからね。」
「そうですか、ルキノさんはご結婚をされていたのですか。お子さんは何人ですか?」
「二人ですよ、ジャズ君。長女に次女です。長女の方は今年で十五歳の成人になったので、そのお祝いも兼ねての帰宅になりますね。」
な、なんだって? 十五歳で成人?
そうか、この世界では成人年齢は十五歳からなのか。
やはり日本とは違うなあ。流石異世界。
「ジャズはどうするんだ?」
「俺か? うーん、そうだな~、帰る場所が無いんだよなあ。まあ、この町の中をブラブラしながら過ごすさ。」
「折角の休暇なのに、何だか損してる感じね、ジャズって帰らないの?」
(帰る、か。ジャズの帰る家があるのだろうか? ちょっと解らないな。)
「そうでもないさ、これでも休暇は楽しみにしているんだぜ。」
なるほど、みんなは色々やる事があるみたいだな、羨ましい限りだ。
自分はどうしようかな、あ、そう言えばコジマ司令から言われていたっけ。
女神教会に行って情報を聞いてくる事って、まあやる事も無いし、そっち方面で時間を潰すか。
あとはこの町の観光とかかな。
そうして、四人は第三会議室を後にして、まずは兵舎へと戻った。
自分のベッドを掃除し、ロッカーの中の荷物をまとめて外へと出る。
外は青空が広がり、いい天気だった。
「いい天気だな、快晴ってやつだな。」
クラッチ駐屯地内は酷い有様だが、みんなは前を向き、復旧作業に勤しんでいた。
怪我を負った兵士達も少しずつ回復しているみたいで、動ける者から作業に参加していた。
俺達休暇しててもいいのかなと思わなくも無いが、折角のお休みだ。満喫しよう。
駐屯地の出入り口付近に来た自分とニールは、リップを待ちながら駄弁っていた。
ルキノさんは既に基地を出て、家族の元へと帰って行った。
「お先に」と言いながら、これまたいい顔をしていて、直ぐにでも家族に会いたいんだなと解る。
「なあジャズ、お前さえ良ければ俺達の村へ来ないか?」
「うーん、いや、いいよ。親子水入らずを邪魔するつもりは無いよ。リップと二人ゆっくりしてきなよ。」
「そうか? じゃあそうするよ、お前はこの町に居るんだよな?」
「ああ、そうなるかな、他に行く所が無いんだよね、まあ俺の事は心配すんな。自分でちゃんと休暇を満喫するよ。」
「はは、だといいがな、気が向いたらソケット村に来いよ、歓迎するぞ。」
「ああ、その時にはな。」
そんな、どうでもいい事をニールと駄弁っていたら、リップがこちらへとやって来た。
なんか知らんが、かわいい服に着替えていた。
「待たせたね、行こうニール。」
「おう、それじゃあなジャズ。六日後にまた会おう。」
「それじゃあねジャズ。気が向いたらそっち行くから。」
「ああ、お前等も気を付けて帰れよ。じゃあな。」
こうして、四人はクラッチ駐屯地を後にし、それぞれの家路への方向を向き、元気良く別れた。
今日から休暇だ。まず何をしようかな。
そんな事を思いつつ、ニールとリップが町中で見えなくなるまで見送った。
(さてと、俺もそろそろ行くか。もし今後、軍を除隊して冒険者にでもなってから、ジャズの過去を振り返って実家を探すのもいいかもな。)
などと思っていると、お腹のムシがグ~ッと鳴った。
まあ取り敢えず飯を食いに行こうか。女将さんの手料理がまた食べたくなってきた。
女将さんの作るスローターフィッシュの煮付けを思い出し、店へと向かい、急ぎ足で歩くのだった。
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