15 / 78
第14話 軍靴の足音 ③
しおりを挟むこれからアリシア王国軍の入隊実技試験が始まるのだが。
的に向かって、何でもいいので攻撃を与える事、と説明された。
何でも、というのは武器、魔法、道具、などのあらゆる方法を使ってという事だろう。
さてと、自分には何の武器が性に合っているのかな。
キエラ中尉が試験内容の説明をしだした。準備の方はいいみたいだ。
「みなさんにはこれからあの的を攻撃していただきます、あのターゲットマークには特別な模様で書き込まれていて、一種の魔道具になっています。攻撃が的に命中すると同時に威力が算出される仕組みになっていて、それぞれの攻撃に対して表示されるようになっています。」
なるほど、つまりあの的に何でもいいので攻撃を当てればいい訳か。
俺は魔法が使えない、かと言って剣も使った事が無い。
この世界に来てやった事といえば、小石の投擲とアサシンダガーの投擲ぐらいだ。
ふーむ、今のところはその線でいった方がいいのかもしれない。
「それではまず、ニールから試験を開始して下さい。その後、リップ、ルキノ、ジャズという順番で行っていただきます。」
「よし! まずは俺からだな。俺の使う武器はこれだ!」
そう言いながら、ニールと呼ばれた男は両手持ちの大きな幅広の大剣を選んだようだ。
あんな重そうな大剣、うまくいけるのか?
ニールはこっちと同じ様な体格をしている、歳も同じぐらいか。
「うおおおーーー!!」
ニールは気合を入れながら的へ向けて一直線に駆け出し、そのままの勢いで大剣を振り下ろした。
しかし。
「あれ? 当たらなかった。」
ニールの攻撃はスカった。
その後、ニールは的の前に立ち、更に武器を「よっこらしょ」と振り上げて、「せい!」と掛け声とともに振り下ろす。だが。
「あれ? また当たらない。何でだ?」
ニールは動かない的相手に、攻撃をことごとく外していた。
もしかしてあいつ、武器が合ってないんじゃないだろうか?
だが、何度か武器を振り回している内にとうとう攻撃が的に当たった。
5回中1回の確率で当てたといった感じだな。
ニールの器用の能力値は意外と低いのかもしれない。
キエラ中尉は木の板のような物を見て、何やら紙にペンを走らせている。
おそらく記録を取っているのだろう。
ニールはぜえぜえと息を乱し、こちらに戻って来た。
キエラ中尉が今の結果をニールに伝える。
「ニール、君は攻撃回数が5回で、攻撃を当てたのが1回、そしてその当てた攻撃の威力は10ダメージだった。これは大剣を使ったにしては中々の数字だよ。攻撃を当てる工夫はこれからの課題だね。それでは次、リップ、試験を始めて下さい。」
「はいよ。」
リップと呼ばれた女性はしなやかな体をしていて、歳は十八前後といった感じだ。
選んだ武器はダガーみたいだ。
この人は斥候か盗賊のようなコマンド兵といった兵種なのかな?
リップはダガーを逆手に持ち、素早く動き出した。
速い! なんという身のこなしだ。
あっという間に的に急接近し、腕を右フックの要領で素早く振り抜き、ダガーを見事一撃で的に当てていた。やるなあ。
キエラ中尉が驚きの表情で、リップに結果を伝えた。
「リップ、君は凄いね。攻撃1回で命中させ、威力も申し分ない。ダメージ6、ダガーだとこれぐらいだけど、これは即戦力が期待できるね。次、ルキノ、試験を始めて下さい。」
「わかりました。」
今度はルキノと呼ばれた男だ、歳は三十代半ばといった感じで、自前の杖を持っている。
ローブを着ているのでおそらく魔法使いだと思う。
ルキノは的から離れた距離に立ち、杖を掲げ、何かの詠唱をしている。
「氷よ、敵を穿て。《アイスニードル》」
なんと、ルキノは氷結魔法のアイスニードルを使った。やはり魔法使いだったか。
ルキノの放った魔法は真っ直ぐ飛んでいき、的に攻撃が命中すると対象を氷漬けにした。
流石魔法。いいなあ、自分にも魔法が使えたらなあ。
魔力値0だもんな。自分には才能が無いんだろうな。
キエラ中尉もこれには流石に舌を巻いていた。ルキノの攻撃魔法の結果を中尉が伝える。
「流石魔法ですね、しかも氷結系魔法とは、ダメージは流石の14です。いやー、ここにも即戦力になりそうな人がいましたか。これは期待できますね、今回の新人は。次、最後にジャズ、試験を始めて下さい。」
「はい。」
さて、いよいよ出番か。
最初は剣にしようと思っていたが、みんなそれぞれ得意な物で試験を受けている。
自分も今できる得意な物といったら、やはり投擲だろうか。
本当は剣を装備して試験に臨みたかったが、戦士とはいえまだまだ半人前もいいところだ。
ここは一つ、投擲でやってみるか。
地面に落ちている小石を拾い上げ、少し的から離れた場所に立ち、狙いをつけて小石を投げる。
小石は真っ直ぐ飛んでいくのだが、射出速度が異様に速かった。
的に命中と同時にバキバキッと音がして、的が粉々に壊れてしまった。
(あ! そうか、「ストレングス」のスキルがレベル4だった。加減って難しい。)
ストレングスのスキルは筋力の値に影響し、能力値が表示される以上の効果がある。
筋力は11だが、ストレングスのレベル4ともなると、相当の威力がある。
ゲーム「ラングサーガ」でもそうだった。
キエラ中尉が壊れた的を見て、引きつった表情でこちらに結果を伝える。
「な、なるほど。投擲ですか。しかし、ここまで威力があるのも珍しいですね。えーと、ダメージは?」
キエラ中尉は結果が表示される木の板を見て、絶句していた。なんだろうか?
「ダ、ダメージ43………え? 43!? だって、投擲だよね。ただの………こほん、えー、ジャズ君、君の投擲は規格外です。ターゲットマークの的も壊れてしまいましたし、ただ、結果は凄いと思います。」
「ど、どうも。」
言葉が出てこない。しまったな、もう少し加減すべきだった。
まさか的が壊れるとは思って無かった。
「さ、さて、以上で実技試験は終了となります。みなさん、お疲れ様でした。みなさんの試験結果が出るまで先程の第三会議室にて待機していて下さい。以上、自分はここで失礼いたします。」
そう言って、キエラ中尉はこの場を後にした。
さてと、こちらも第三会議室へと向かうか。
目的地へと足を向けた時、ふとニールとリップから声を掛けられた。
「お前スゲーじゃん。やるなあ、俺と歳はそう違わないのに、大したヤツだよ。」
「ホント、中々やるじゃないあんた。今まで何やってたの?」
「いや~、大した事はやってないですよ、只の一民間人でして。」
そんな感じでニールとリップと知り合いになった。
まだまだ先は長そうだが、気の合いそうな仲間ができたのはよかったと思う。
第三会議室に到着して、しばらく待機していてもニールとリップはこっちと話していた。
出身はどこか? とか色々聞かれたが、答えに困る。
まさか日本から来ましたとは言えない。適当にお茶を濁してはぐらかす。
「うーん、出身はどうなんだろう? 俺、わからないんだよね。記憶が曖昧で。」
「なんだよそれ、まあいいや。俺達同じ部隊に配属されるといいな。」
「ニール、あんたとは腐れ縁だからもういいよ。あたしはジャズと組みたいね。」
しばらく話していると、キエラ中尉が部屋に入ってきた。皆は一斉に黙り込む。
「みなさん、お待たせしました。それでは試験結果を発表します。今回の試験を受けた人数は四人。いずれも素晴らしい逸材でした。それでは試験結果を伝えます。」
さて、合格しているだろうか? ちょっと不安だな。
だけどここまで来たんだ、もし受かったら、やるからには真面目に軍の仕事をしていこう。
61
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
転生の果てに
北丘 淳士
ファンタジー
先天性の障害を持つ本条司は、闘病空しく命を落としてしまう。
だが転生した先で新しい能力を手に入れ、その力で常人を逸した働きを見せ始める。
果たして彼が手に入れた力とは。そしてなぜ、その力を手に入れたのか。
少しミステリ要素も絡んだ、王道転生ファンタジー開幕!
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~
武蔵野純平
ファンタジー
アルバイト社員として毎日汗をかいて雑用をこなす弾光広(ミッツ)は、朝の通勤電車の乗客とともに異世界に転移してしまった。だが、転移先は無人だった。
異世界は、ステータス、ジョブ、スキル、魔法があるファンタジーなゲームのような世界で、ミッツは巨大な魔物を倒すチート能力を得て大いに活躍する。前向きで気は良いけれど、ちょっとおバカなミッツは、三人の仲間とともに町を探す旅に出る。2023/3/19 タイトル変更しました『アルバイト社員!異世界チートで大暴れ!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる