上 下
13 / 69

第12話 軍靴の足音 ①

しおりを挟む


 ここは駆け出し冒険者の町クラッチ。

石造りの建物が建ち並ぶ中世ヨーロッパ風の町並みだ。

新たな再出発の一歩を踏み出したはいいが、正直これから何をやっていこうかなどはノープランだ。

何か飯の食い扶持を見つけなければ、今持っているお金も直ぐに無くなってしまうだろう。

早いとこ仕事を見つけねば。

「そう言えば腹が減ったな、何処かで飯でも食うか。」

町の中をキョロキョロし、食事処を探す。

それにしてもこの町は色んな人がいる。

人間ヒューマンは勿論、エルフにドワーフ、獣人なんかも居て、多種多様な種族が生活しているみたいだ。

町の中をざっと見渡すと人間が八割、エルフなどの亜人が二割といったところだろうか。

町中の至る所に看板が掲げられている、文字ではなく絵柄で表現されている。

飯屋というとナイフとフォークが描かれている看板だと思う。

………あった! 飯屋だ。早速店の中へ入る。

 店の中は綺麗に掃除が行き届いており、清潔感のあるお店だとわかる。

「いらっしゃいませ~」と店の女将さんらしき人に言われ、店内に入る。

店内は広過ぎず狭過ぎない面積で、他のお客さんも入っている。

テーブルや椅子などが幾つか、あと、カウンター席もある。

自分一人なのでカウンター席に移動して座り、注文する。

「女将さん、何かおすすめってあるかい? 俺この町初めてでさ。」

女将さんは料理をしながら、他のお客さんの注文を聞きつつ、こちらに笑顔を向けた。

器用な人だな。

「スローターフィッシュの煮付けなんておすすめだよ。」

スローターフィッシュ? 水棲系モンスターじゃなかったっけ?

「女将さん、モンスターを食わせるのかい?」

女将さんは仕事の手を一旦止め、こっちに対応してくれた。

「何言ってんだい、スローターフィッシュは旨いよ。特にこの時期は脂が乗っていて最高なんだよ。それに庶民の味だよ、あんたも食ってみなよ。」

なんと、そうなのか。ものは試しだ、食ってみるか。

「それじゃあ、そのスローターフィッシュの煮付けを頂くよ。」

「はいよ、銅貨一枚と鉄貨五枚ね。」

鉄貨? 銅貨が最下硬貨じゃなかったのか。

ちょっと女将さんに聞いてみよう。優しそうな感じだし。

銅貨を二枚取り出し、カウンターの上に置きつつ聞いてみた。

「女将さん、つかぬ事を聞くけど、鉄貨何枚で銅貨一枚と同じ価値なんだい?」

女将さんはカウンターに置いた銅貨を仕舞い、お釣りの鉄貨五枚を渡しながら答えてくれた。

「あんたおのぼりさんかい? お金の流通し辛い田舎から出て来たのかい?」

「そうなんだよ、物凄く遠くから来たんだ。」

まあ、日本から転生してきましたと言ってもわからんだろう。

「いいかい、鉄貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で銀棒一本、てな感じでお金の価値が上がるんだよ。まあ、銀棒十本で金貨一枚だけど、金貨なんて滅多にお目にかかれないからねえ、こんなところかねえ。」

「なるほど、ありがとう女将さん。」

女将さんは親切に教えてくれた。やっぱりいい人だったな。

なるほど、大体ゲーム「ラングサーガ」とほぼ同じという訳か。

しばらくして、スローターフィッシュの煮付けが目の前に置かれた。

う~ん、イイ匂いだ。見た目はまんま魚料理って感じだな。

女将さんが「さあ、おあがり」と手の平を上に差し向けた。

早速頂くとしよう。両手を合わせる。

「頂きます!」

箸が無いのでフォークを使う。どれ、うまく切り身を口の中に運ぶ。

うん、いける。旨い。さばの煮付けみたいな味がする、魚料理を食っているって感じだ。

これがモンスターのスローターフィッシュなのか。いけるぞ。

「どうだい? 旨いだろう。」

「うん、いけるよ。この魚。」

あっという間に平らげる。ふう~、食った食った。お水を飲み、一心地付く。

手を合わせて「ご馳走様」をした。

女将さんがこちらを向いてにんまりとした笑顔を見せたので、俺も食後の満足した笑顔を見せる。

「また食いに来てもいいかい?」

「ああ、いつでも食べに来なよ。」

食後のまったりとした時間を過ごし、何気なしに女将さんに聞いてみた。

「ねえ女将さん、何か仕事ってあるかい?」

女将さんは食器を洗いながら答えた。

「あんた、今何もしてないのかい? だったら冒険者なんてどうだい? この町は駆け出し冒険者の町クラッチだよ。新米冒険者ばかりだから気の合う連中ばかりだと思うけどねえ。」

「うーん、冒険者かぁ~、冒険者ってあれだろ、モンスターと戦ったりするんだろう、俺、戦闘経験とか無いんだよねぇ~。」

「何言ってんだい、あんた見たところまだ若いじゃないかい、だったら王国軍に入ったらどうだい? 鍛えて貰えるよ。若いのに何もせずブラブラしてるよりよっぽどマシさね。」

「軍隊かぁ~………。」

確かに、軍隊に入れば衣食住は心配しなくてもよくなるって、刑務所で知り合ったユリも言っていたな。

それにお給金も貰えるらしいし、………意外といいんじゃないかな、軍に入隊するのも。

軍隊で経験を積んでから除隊して、それから冒険者になるってのもいいかもしれない。

女将さんが更に話を続ける。

「そういやあ、この町にも王国軍の駐屯地があった筈だよ、行ってみたらどうだい? ブラブラしてるよりマシだろ。」

「うーん、そうだなあ、じゃあちょっと行ってみるよ。」

女将さんに「ご馳走様」と言い、席を立ち店を出ようとする。

「まいどあり~」と後ろから聞こえて、店を出る。

(確かに、モンスター蔓延るこの世界で、戦う力が無いというのも生き延びる事ができないだろうな。)

さて、それじゃあ軍の駐屯地へ行ってみようかな。

確か町の端っこにあるって道行く人に聞いたな。よし、早速向かうか。

王国軍の駐屯地へ向けて歩き出す。

確かに自分にはゲームとしての知識があるが、戦闘経験が無い。

なので、いきなり冒険者をやろうものなら、この世界での経験の浅い自分は、間違いなくモンスターにやられる未来しか見えない。

戦闘経験や実戦経験を積むという為にも、ここは一つ、軍に入るってもの悪くないかもしれない。

 王国軍の駐屯地へとやって来た。

木のフェンスが広いグラウンドを囲み、その中では数人の兵士が何やら走り込みをしている。

自己鍛錬かな? 

入り口はどこだろう、キョロキョロとしていたのが門にいる兵士に見つかり、声を掛けられる。

「君、どうしたの? 王国軍に何か用かい?」

緊張しつつも、自分がここへ来た理由を伝える。

「あ、あのう、実は俺、軍に入隊しようかと思いまして、入隊志願者は受け付けていますか?」

「ああ、入隊志願者かい。王国軍は随時入隊を受け付けているよ。すまないが敷地内に入る前に鑑定の魔道具で君の事を調べさせてもらうよ、規則だからね。」

そう言って、兵士の一人は門の入り口近くにある小さな建物の中へと入って行った。

すぐさま出て来て、何やら手には水晶玉が板にくっ付いた様な道具を持っている。

あれが鑑定の魔道具なのかな。

兵士は俺の側まで近づき、魔道具をこちらへと向け、水晶の部分に手を触れるよう促された。

両手を水晶に触れ、しばらくそのままでいた。

兵士が何やら板に文字が浮かび上がってきているのを見ている。

なるほど、そういう仕組みか。

「今日の入隊志願者は君で四人目だよ、入隊は自由だけど一応試験があってね、それを通らないと入隊できないんだ。………………うん、犯罪歴無し。いいみたいだね、通っていいよ。ようこそクラッチ駐屯軍へ。」

ほっ、よかった。犯罪歴を見ていたのか。

一応刑務所でお勤めを果たしてきたから犯罪歴がクリアになったのかな? 

何にしても通されてよかった。

兵士に一礼し、敷地内へと足を運ぶ。

一番大きな建物に行って受付をしてほしいと言われたので、まずは大きな建物を目指す。

………軍隊か、自分に務まるだろうか。

少々の不安はあると思う。

これからの自分の行動基準が、まずは強くなるという目的だ。

王国軍に入って鍛えてもらう予定ではあるけど、はてさて、自分は一体どこへ向かっているのやら。

明日はどっちだろう?
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺若葉
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...