9 / 78
第8話 ザコキャラ転生 ⑦
しおりを挟む山賊のアジトへ向け、森から出て広場を歩く。ここまでモンスターとの遭遇は無かった。
ポエム砦の周りに山賊の遺体が地面に転がっている。冒険者の仕業だ。
日本人気質なのか、遺体の前で両手を合わせ合掌する。
冒険者の姿は既に無い、仲間の一人が怪我を負ったらしく、この場を離脱していった。
(さて、もうこんな所に居たくない、早いとこポエムに山賊団を抜けて足を洗う事を伝えよう。)
その前に、ある保険を掛けておいた。これで万が一、いや、想定できる事柄に対処出来ている筈だ。
そのまま砦内に入りポエムを探す、砦内には至る所に血の痕が付いていた。
この場でも戦闘があった事を物語っている。
ポエムは何処だろうか、一応ポエムの部屋を確認する。居た。ポエムだ。
ポエムは鉄の剣を片手に持って、フーフーと息を乱し、こちらを警戒している様子だった。
もう終わりだな、ポエム山賊団も。
ここが冒険者に知られてしまった以上、もう未練も義理も無い。
ポエムに足を洗う事を伝える。
「お頭、話があるのですが。」
「後にしろ! 今は仲間がやられてそれどころじゃねえ! ジャズ! オメーも武器を見つけて襲撃に備えろ!」
ポエムはついさっきの冒険者達の襲撃にイラついている様子だ。
まあ、山賊団がどうなろうと知ったこっちゃ無いよ。勝手に話を続ける。
「お頭、実は俺はこのポエム山賊団を抜けようと思いまして、足を洗って出直そうと考えています。一応お頭に伝えて筋を通そうと思いましてね。」
この言葉を聞き、ポエムの表情は怒り心頭といった鬼のような表情をした。
まあ、そうなるわな。
「ジャズ、テメェ、今がどんな状況かわかってやがるのか? もう俺とお前等の三人しか居ネェんだぞ。それでもここを抜けるってのか? ああ!!」
「はい、俺はここを抜けて足を洗うつもりでした。もう自分で決めた事なので。」
ピシャリと返事をすると、ポエムは無言になり、しばらく沈黙が流れた。
そして………。
「わかった………わかったよジャズ………、ここを抜けるんだな、仕方ねえ、来る者拒まず去る者追わずだ。だがなジャズ、最後に一個だけ、どうしてもやって貰いてぇ仕事があるんだよ。そいつをこなしてから好きにすりゃあいいさ。な、頼むよ。」
ポエムは実に平坦な口調で話し始めた。最後に一つだけ……か……。
「何ですか? 最後にもう一仕事というのは?」
「なーに、簡単な事さ、ジャズ、オメェちょっと後ろを向いてくれねえか。直ぐ済むからよ。」
ほらキタ! 自分は無言で後ろに体を向く。
その刹那。背中の上から下へ斜めに激痛が走り、熱を感じて血が噴き出るのを感じた。
「うぐわあ!!」
わざとらしく断末魔を上げ、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
ピクリとも動かないフリをして、死んだように見せかけた。
(やはりな、思った通りだ。その行動は読めていたよポエム。)
砦に入る前に、精神コマンドの「不屈」を使っていた。
どんな攻撃を喰らってもダメージ1で済む効果がある、自分の切り札の一つだ。
見た目的には血がドバッと出ている様に見えるが、実際のダメージは1で済んでいる。
残りヒットポイントは5だ。
「言ったろ、簡単な仕事だって、この鉄の剣の切れ味を確かめたかったんだよ。ジャズ、テメーが悪いんだぜ。山賊を抜けてえなんて言うから。」
目を瞑っているので状況はわからないが、ポエムはこっちを殺して始末したと勘違いしてくれている様だ。
よし! いいぞ! 第一段階クリア。
「おーーーい! 誰か居ねえか?」
ポエムは大声で仲間を呼んだ。
「どうしやしたか? 頭? んん! こいつはジャズじゃねえですか、何があったんですかい?」
「ああ、この馬鹿がここを抜けてえなんて言い出すもんだから、口封じの為に殺っておいた。オメーちょっとこいつの死体を森まで捨ててこい。ここにあるんじゃ目障りだ。」
「へい、わかりやした。」
山賊の仲間はこちらの腕を掴み、そのままズルズルと引き摺って部屋を出て行った。
(よしよし、うまくいった。第二関門通過。このまま外へ連れ出してくれればこっちのものだ。)
「おめーも何だってまたこんな時に、山賊を抜けてえなんて言うのかねえ。」
(こんな時だからだよ。)
そして、ポエム砦の出入り口まで運ばれてきた時だった。
途中の通路で山賊が立ち止まる。何だ? 何してんの? 早いとこ外へ運んでくれよ。
目を瞑っているので状況はわからないが、どうやらまたトラブルらしい。
こちらの腕を掴んでいた山賊は手を離し、何やらジャキリと武器の様な物を構える音が聞こえた。
「テメー等! 冒険者か!? また来やがったのかよめんどくせー! たかが三人で何しに来やがった!!」
「あら? 私達を見て逃げないの? あらあら、もうそんな戦う判断しか出来ないのかしら。」
女性の声だ。随分余裕のある物言いだな。
「姐御、こいつ等ですよ。俺達の受けた護衛依頼の時に邪魔をした山賊ってのは。」
今度は男? いや、少年の声だ。待てよ、この声どこかで?
ああ、そうか。荷馬車襲撃の時のあの護衛の少年か。
「私達はいつまでも駆け出しの新米冒険者じゃないってところを見せてあげるわ! 覚悟なさい!」
今のはあの荷馬車護衛の時の少女の声だ。
なるほど、姐御とかいう手練れの冒険者を仲間にして、ポエム山賊団を壊滅させようと乗り込んできた訳か。
若いのに勇敢だな。
「貴方達は下がっていなさい、こいつの強さはおそらく貴方達では手に負えないわ。私が一人で相手するから。よーく戦い方を観察するように。」
「「 はい! 姐御! 」」
どうやらここで戦いが始まるみたいだ。姐御と呼ばれた女性と山賊のシミター使いの男との一騎打ちらしい。
「それでは、いきますよ!」
片目を少しだけ開き、状況を確認する。ところが………。
「うぐっ!? て、てめぇ、よく……も…やって………く………れ………。」
なんと、山賊の男は女性に一太刀を浴びせられ、後ろへと倒れ、ピクリとも動かなかった。
マジか。一撃か、凄いな姐御。
「さあ、先を急ぎましょう。情報によれば人質が居るのよね?」
「ちょ、ちょっと待って下さい姐御、この山賊には見覚えがあります、仲間に引き摺られていたところを鑑みるに、おそらく仲間割れをしたものと思います。この男は山賊を抜けたがっていた節があります。それにまだ息があります。」
(おや? どうやら俺の事らしい。しまった、呼吸をしているのを見破られたか。)
「………一応、回復薬ならあるけど、どうする? ガーネット。」
「ラット、お願い。その回復薬を一つこっちに。」
「はいはい、ガーネットは一度こうと決めたら頑として聞かないからなあ。はいよ、回復薬。」
少年が少女に薬瓶の様な何かを渡して、その蓋を空けて中の液体をこちらの口元につけた。
口の中に液体を流し込んできた感触がして、次の瞬間、自分の体がポワンと光だした。
痛みが和らいでいくのが感じられた。HPも6まで回復したみたいだ。
そうか、これが回復薬ってやつか。
本当は意識が既にあったのだが、目を覚ましたフリをした。
「う、う~ん、ここは? 俺は確か、ポエムにやられて………。」
「どうやら気が付いたみたいね、もう大丈夫、私達が助けに来たわよ。あなた、山賊の頭目にやられたのよね。」
「あ、ああ、足を洗う事を伝えたら。やられちまったよ。参ったよホント。」
「やっぱりあなた、山賊には向いてないわね。これからどうするの?」
「そうだな、取り敢えずここを出るよ。」
「そう、私達はこれからポエムのところまで出向いて、引導を渡すつもりよ。人質も救出しないとね。」
なるほど、それでここまでやって来たという事か。
「気を付けるんだよ、山賊の頭目のポエムは極悪人だからね、どんな手段を使ってくるかわかったもんじゃないよ。」
こちらの言葉を聞き、少女はハニカミながら答えた。
「わかったわ、やっぱりあなた、山賊は辞めるべきね。もう悪さしちゃ駄目よ。」
そう言いながら、三人の冒険者達はこの場を後にし、ポエムの居る部屋へと走って向かった。
どうやら心配してもらったみたいだな。
しかし、幾ら手練れの仲間が助っ人に一人増えても、ポエムの強さはレベル5程度の実力はあると思う。
このまま行かせてしまってよかったのだろうか?
(まあいい、俺はポエムにとって死んだ事になっている。今更ここに用は無い、早いとこここから抜け出して外に出て、それから………。)
それから、どうする?
外へと繋がる扉のドアノブに手を掛け、冒険者の少女のハニカんだ笑顔を思い出したその時。
その場で動けなかった。いや、動かなかった。
(ここから一歩外に出れば、俺は自由だ。なのに………。)
本当にこのままでいいのか? ポエムは強い。三人掛かりでもうまくいかないかもしれない。
(ちくしょう! ほっとけねえじゃねえか! 今更へたれの俺が行ったところで………。)
怖くて足が震えている。情けない。
でも、だけどさ。
ドアノブから手を離し、振り返る。
「まあ、あれだ。回復薬一つ分の借りぐらい、返しとくのも悪くは無いよな」
60
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる