おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元

文字の大きさ
上 下
32 / 33

32話 戦い終わって雨が降る

しおりを挟む



 俺は目を覚ました。見知らぬ天井だった。布団に寝かされている。

「この天井は知らないなあ・・・」

頭がぼーっとする、起き上がろうとして身体に力が入らない。動きが途中で止まる。

「いててて、」

体中のあちこちが痛い、筋肉痛だけじゃないな、打ち身や打撲などの怪我もしているみたいだ。

また布団に横になり、静かに休む。とにかく身体を休ませなくては。

それにしても、今何時だ? もう朝は過ぎていると思うが。

窓の外を見たら、外には雨が降っていた、雨の匂いがする。

不意に、部屋のドアが開き、村長さんが入室してきた。

「おや、ヨシダさん、気が付かれましたか」

俺は起き上がろうとして、しかし起き上がれなかった。

「あ~、あまり無理せん方がええですぞ、横になっておりなされ」

「あの~、ここは?」

「わしの家ですじゃ、あの後、ヨシダさんが倒れてここに運ばれてきて、そのままぐっすりと眠っておった様ですわい、5日も寝ておったのですぞ」

「え!? 5日、俺、5日も眠っていたのですか?」

道理で頭がぼーっとする訳だ、起きぬけに5日も眠っていた事を告げられて、考えが纏まらない。

「あの後、どうなりましたか? 」

俺が村長さんに聞いたら、村長さんは髭を扱《しご》きながら、気の無い様子で答えた。

「・・・終わりましたじゃ、・・・何もかも終わったんですじゃ・・・」

「終わった、んですか・・・」

それにしては、村長さんはどこか元気が無い様子だ、終わったとはどういう意味だろうか? 

「村長さん、あの後何があったのですか?」

村長さんは目を瞑り、そして、静かに答えた。

「レクリオ村は・・・壊滅しましたのじゃ、ゴブリン共は全滅しましたが、こちらの被害も甚大でしてな、多くの者が亡くなりましたわい、生き残ったのが僅か9人でしたじゃ」

・・・9人、・・・たったそれだけしか・・・。

「村の働き手がほぼ殺されて、この村は立ち行かなくなってしまいましたじゃ、事実上、村は壊滅ですじゃ・・・」

「そう、でしたか・・・」

無理も無い、村人があんなに殺されてしまっては、村を存続させる事は難しいだろう。

・・・レクリオ村が壊滅・・・か・・・。

「生き残った他の皆さんは、どうなりましたか?」

村長さんは水差しの水を木のコップに注ぎながら語ってくれた。

「ああ、その事ですか、まず村の生き残った女子《おなご》達はみな、領主様の屋敷で侍従として働ける事になりましたわい、徴税官殿が領主様に口利きして下さった様でしてな、村に居るより安全ですからの、もう出発して領主様の所へと村を出て行きましたわい、そう言えばミランダさんとカチュアちゃんが、ヨシダさんが目を覚ましたらよろしくと伝えてほしいと申しておりましたぞ、・・・ああ、それと、ミランダさんからヨシダさんに渡して欲しいと頼まれておりましたわい」

そう言って、村長さんは部屋の片隅に置いてある煙草と何かの袋を渡してきた。

「これは?」

「餞別だそうですじゃ、しばらくはこれで生活してほしいそうですじゃ」

俺は袋の中身を確認する、そこには沢山の鉄貨や銅貨、銀貨も少し混ざっていた。

「そんな、これは受け取れませんよ、このお金こそミランダさん達に必要でしょうに」

村長さんは水を飲みながら、俺に諭すように言った。

「ヨシダさん、そのお金はいわば報酬の様なものですわい、村人が全滅しなかっただけでもよかったのですじゃ、ミランダさんは間違いなくヨシダさんに救われたと言っておりました、そのお金は受け取るべきですわい」

「し、しかし・・・」

「ヨシダさん、受け取って下され、ミランダさんの優しさですじゃ、受け取りなされ」

俺はお金の入った袋を受け取り、ミランダさんにその場で深く感謝した。

「ありがとうございます、ミランダさん、大切に使わせて貰います」

村長さんは俺の分のコップも用意して水を注ぎ、渡してきた。俺はコップを受け取り一口水を飲む。

「それからカチュアちゃんじゃがの、冒険者になる事を諦めたと言っておりましたわい」

「そうですか、あんな目に遭ったのですから仕方が無いですね」

「うむ、・・・それもあるが・・・」

村長さんは歯切れが悪い感じで言いよどんだ。

「どうしました?」

「うむ、その、なんじゃ、ヨシダさんの戦いぶりを目の当たりにして、怖くなったと漏らしておりましたわい、余程、ショックじゃったんじゃろうのう」

「ああ、そうでしたか、・・・」

確かに、俺にもあんな攻撃的な一面があったなんて思わなかった、何かタガが外れた感じがして、気が付いたらゴブリンを滅多打ちにしていた。確かに、それを見たら恐怖を感じるだろうな。俺でも怖くなる。

「あの時は、無我夢中で、まさか自分にあんな残虐な一面があったなんて思いませんでした」

気落ちした俺に、村長さんは優しく語り掛けた。

「ヨシダさん、いい機会じゃ、もうええ歳じゃろう、自分を見つめ直し、己を律するという事を学ばれてはいかがかの」

「己を律する、ですか、まさかこの歳で学ぶ事が増えるとは思いませんでしたよ」

「ふぉっふぉっふぉ、人間、生涯学ぶ事だらけですぞ、わしもこの歳まで生きておりますが、まだまだ賢者ルカイン様に比べたらひよっこですわい、ふぉっふぉっふぉ」

・・・確かに、俺は自分を律する事をしなければ、いつかは自滅するかもしれない。もういい歳なんだから、無理をせずやっていく為にも、その辺の事を意識してやっていこう。

「そう言えば、ギダユウさん達はどうしましたか? 」

「おお、ギダユウの悪ガキ共か、あやつ等は先の戦いぶりが徴税官の護衛の兵士に大層気に入られての、王国軍に入隊せんかと誘われておりましたわい、ギダユウもラッシャーも二つ返事で了承して軍に入隊しましたわい」

「そうですか、あの二人が軍隊に、きっと活躍しますよ、あの二人なら」

「まあ、あの二人も此度の件で思うところがあったんじゃろうのう、自分達が少しでも誰かの役に立ちたいと思っておるやもしれませぬな」

そうか、ギダユウさんもラッシャーさんも軍隊に入隊したのか、まあ、あの二人はまだ若いからなあ。

「村長さんはこれからどうされますか? 」

村が壊滅したという事は、もうレクリオ村は終わったという事なんだろう。村長さんはどうするのかな。

「わしか、わしはこの村に骨を埋《うず》めるつもりですわい、今更他の所へと住むつもりはありませんでな、な~に、わし一人くらいはどうにか生きていけますわい」

「・・・そうですか・・・」

村長さんの意思は固い様だ、多分説得しても聞き入れては貰えないだろうな。

「この村にある墓参りもせにゃならんからの、それに、パールにはもう言ってありますが、もうあの子はわしの奴隷ではありません、奴隷契約を解除しましたからの」

「え? パールさんを、つまり、村長さんは一人でここに残るおつもりですか? 」

「うむ、わしの我侭にパールを付き合わせる訳にはいきませんからの、もっとも、パールには駄々を捏ねられましたがの、ちゃんと言い聞かせておりますわい、説得するのに苦労しましたがの」

「そうでしたか、パールさんが・・・」

村長さんはこの村に骨を埋めるつもりのようだ。俺もこれからの生活を何とかしないとな。

「さあ、ヨシダさん、もう横になった方がええ、ゆっくりと休みなさるがええ」

「あ、はい、お世話になります、申し訳ないです」

「なーに、気にしなさんな、」

そう言って、村長さんは部屋を退室した。

・・・俺は、結局、村を、村人を守れなかった。

何がストレングスにタフネスだ、回復魔法だって、・・・何も出来なかったじゃないか。

自分の無力さ加減に腹が立つ、もう少し上手に出来なかったのかと、過ぎた後になって後悔ばかりが押し寄せてくる。

俺のこれまでの人生は後悔と諦めの連続だった。今更強くなりたいとも思わない。そう考えるには歳を取りすぎた。自分の限界ぐらいはとうに知っている。もう何年か前だったな。

気が付いたら、俺は涙を流していた。

自分の無力さによる悔しさの涙だったのか。

生き残った事に対する安堵の涙だったのか。

ただ、悲しかったのか。

自分でも、わからなかった。

俺は泣いた。

窓の外には雨が降っていた。

泣き疲れて眠るまで。

雨とともに泣いた。

 気が付くと、見知った天井だった。日本に居た自分のアパートの部屋だ。

「・・・そうか、眠っちまってたのか」

周りを見渡す、やはりここは俺の知っているアパートの部屋だ。

「そうか、帰って来たのか・・・日本に・・・」

何故だかわからないが、急に人恋しくなった。

煙草を一本、口に咥え火を付けて一服する。うまい。いつもの俺が吸っている煙草だ。

一服し終わった後、俺は実家に電話した。

「あ、もしもし・・・」

電話の受話器の向こうの声は、俺を優しく包み込むような、そんな感覚を覚えた。

やはり、人は一人では生きられないようだ。

今度の連休に、帰って墓参りでもするか。

久しぶりに聞く声は、少年時代に聞いた声と変わらぬ声の優しさだった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

初期ステータスが0!かと思ったら、よく見るとΩ(オメガ)ってなってたんですけどこれは最強ってことでいいんでしょうか?

夜ふかし
ファンタジー
気がついたらよくわからない所でよくわからない死を司る神と対面した須木透(スキトオル)。 1人目は美味しいとの話につられて、ある世界の初転生者となることに。 転生先で期待して初期ステータスを確認すると0! かと思いきや、よく見ると下が開いていたΩ(オメガ)だった。 Ωといえば、なんか強そうな気がする! この世界での冒険の幕が開いた。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...