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31話 レクリオ村の夜 ④
しおりを挟む俺と少女冒険者二人は村長さん家の納屋へと到着した。
ここへ来る途中にも、ゴブリンと自警団メンバーのかなりの数が倒れていた。やはりここでも戦闘があった様だ。
納屋付近ではまだ戦闘は続いている、ホブゴブリン1匹に対してギダユウさんとラッシャーさん、その後方にパールさんが控えていて戦っている。徴税官の人は後ろで指示を飛ばし、その護衛の兵士はホブゴブリンに相対していた。
戦いはまだ決着が着かない様子だった、1対5だというのに何だか攻め切れていない感じだ。
俺はギダユウさん達に声を掛ける。
「ギダユウさん! 大丈夫ですか! 」
「ヨシダさんか! 見ての通りだよ、コイツ1匹にかなり苦戦している」
先程の冒険者がやられた例もある、俺はすかさず「鑑定」のスキルを使う。
名前 ホブゴブリン
種別 エースモンスター
スキル
・タフネス
・防御力プラス
やはり、間違いない、こいつもスキル持ちのモンスターだったか。しかも2つ。スキルから察するにこのホブゴブリンは打たれ強い固体の様だ。
「気を付けて下さい! こいつはスキル持ちのモンスターです! 防御が硬い筈です! 」
俺の言に徴税官が驚いていた。
「な!? 何だと! スキル持ちだと! いや、それよりもどうしてそんな事が解る、」
「今はそんな事気にしている場合ではありません! 俺達も参加します、」
俺はホブゴブリンに向かって駆け寄り、距離を縮める。
少女冒険者二人も自分達の戦い易い位置取りをして、武器を構えている。
「助かるよ! ヨシダさん! だけど急いだ方がいいんだ、早くしないと手遅れになってしまうよ! 」
「どういう事ですか? 」
俺の問いに、気持ちが焦っている風の態度で、ギダユウさんが答えた。
「他の自警団メンバーもやられちまって! 今、ゴブリンの殆どが納屋の小さい窓から中に侵入されちまったんだ! 」
「え!? ゴブリンが納屋へ侵入されたのですか! 」
「ああ! だから急いだ方がいいんだが、このホブゴブリンが邪魔をして納屋へ行けないんだ! 何とかしないと! 」
なるほど! そういう事か、だったら俺のユニークスキルの出番の様だな。早いとこコイツを弱体化させよう。
俺はゆっくりとした足取りで気取られない様に、ホブゴブリンの背後へと回り込んで、5メートル以内に近づく。
「ヨシダさん! あまり近づいちゃ危ないよ! 」
「わかっています! 隙があれば背後を突きます」
・・・よし! いける! 俺はホブゴブリンのステータスに干渉して、現在のスキルを解除し、代わりに「弱体化」のスキルを習得させ、スキルスロットに装備させる。
よーし! うまくいった! これでこのホブゴブリンは弱体化した筈だ。
俺はホブゴブリンの背後から一気に接近し、ハンマーを振り上げる。
「よせ! そこの中年! 不用意に奴に近づくな! 」
徴税官が危険を知らせるが、その声に反応したのがホブゴブリンだった。奴は兵士と相対していたが、後ろを振り返りこちらに注視した。
「うおおおーーー! 」
俺はハンマーを振り上げたまま、ホブゴブリンに近づき、攻撃態勢を取った。ホブゴブリンはその場で防御の姿勢を取り、俺の攻撃を受け止める算段だ。しかし!
ドカッ
「グギャアアッ」
やはり思った通りだ、「弱体化」のスキルと俺の「ストレングス」のスキルの組み合わせによるコンボは強力だ。ホブゴブリンの防御を貫通して奴の腕の骨を折った。
「ギュルルッ・・・」
ホブゴブリンが堪らず後退して後ずさる。その先には徴税官の護衛の兵士が居た。
「何だかよくわからんが! チャンスだ! 一気に畳み掛けるぞ! 」
兵士の檄《げき》にギダユウさん達が一斉に動き出した。
「これでもくらえ! 」
「いきやすよ! 」
「水よ! 穿て! ウォーターニードル! 」
ギダユウさん達が一斉に攻撃に転じ、次々とホブゴブリンに攻撃していく。ギダユウさんは正面から鉄の剣で切りつけ、ラッシャーさんは背後からバックスタブを決め、パールさんは魔法攻撃でホブゴブリンの体にダメージを負わせている。
「ギャアアーーー・・・・・・」
これには堪らず、ホブゴブリンは防御も虚しく後ろへと倒れ込んだ。ホブゴブリンはピクリとも動かない。
「はあ、はあ、・・・ど、どうだ? 」
ギダユウさんの言葉にラッシャーさんが確認の為、ホブゴブリンの体を調べた。
「・・・こ、こいつは、・・・どうやら倒しきったみたいでさ、もうこいつは死んでいやす」
「はあ、はあ、・・・そ、そうか、」
ホブゴブリンは倒したが、まだ納屋にゴブリンが居る筈だ、急いで村人達を助けなくては。
俺は急いで納屋の扉の前まで駆け寄り、扉を開けようとした。だが・・・
「あ、あれ!? 開かない! 」
そこでラッシャーさんがこちらへと駆け寄り、俺に言った。
「閂《かんぬき》でさ、閂が納屋の扉に掛かっている筈でさ! そいつを何とかしないと! 」
「中から誰かに開けて貰えないのですか? 急がないと! 」
「そ、それが、さっきから声を掛けていやすが、納屋の中に逃げ込んだ村人達に声が届いていないかもしれやせん! ヨシダさん達が来る前でさ! 」
俺は納屋の小さな窓まで駆け寄り、納屋の中を見る。しかし、暗くてよく見えない。
「誰か! 誰でもいい! 扉の閂を外してくれ! 」
しかし、一向に返事が無い。暫く様子をみるといっても、急いでいるので悠長に構えてはいられない。
「誰か! 閂を! 」
俺が声を上げていると、ギダユウさんから声が掛かった。
「ヨシダさん! 家から斧を持ってきた! これで扉を叩き壊すから少し待って! 」
ギダユウさんが納屋の扉を斧で叩き壊している。急がないとならないが、今はギダユウさんだって解っている筈だ。ドカッドカッ、と扉を斧で叩く音が辺りに響く。周りを警戒する、大丈夫そうだ。もうこの辺りに出ているゴブリンはいなさそうだ。
暫くして、ギダユウさんが納屋の扉を叩き壊した。俺は直ぐに納屋の中へと入って確認する。
「こ、これは・・・」
そこには、夥《おびただ》しい数の村人達が横たわっていた。血を流しているし、ピクリとも動かない。凄惨な光景だった、思わずえづいてしまう程に。
「なんて光景だ・・・」
納屋の奥の方から声がもれ聞こえてきた。
「だ、誰か! 生きている人はいませんか! 誰か! 」
「・・・う・・・うっ・・・」
納屋の奥の方からだ、声が聞こえた。納屋の中は暗かったが、段々目が慣れてきた。そこには・・・
「・・・う・・・ヨシダさん・・・たすけ・・・」
そこには、ミランダさんやカチュアちゃん、他の若い女性数人がゴブリンに陵辱されていた。
「きさまら・・・よくもみんなを・・・」
そこから先は何も考えていなかった。ただ無我夢中でゴブリンにハンマーを振るい、叩き、潰し、ハンマーを振るい続けた。ゴブリンによる攻撃も受けた。体中のあちこちに石斧や棍棒で攻撃されたが、構う物か。
俺は一心不乱にハンマーを振るい続けた。この場にいるゴブリンを皆殺しにした。
返り血を浴びたのか、俺の体のあちこちから変な液体が掛かって気分は良くは無かった。
納屋の中は血と死の臭いがした。俺は無我夢中だった。力の限りハンマーを振るい、ゴブリンを叩いて回った。
「よ、・・・ヨシダさん・・・」
誰の声だったか、今は解らなかった。
ただ、只管《ひたすら》にハンマーを振るい続けた。
・・・・・・・・・
「ヨシダさん、もう終わりましたよ・・・」
「・・・終わった? 」
「はい、終わったんです・・・」
「・・・そうですか・・・」
その言葉を聴いた後、俺は意識を手放し、その場で倒れ込んだ。
そうか、もう、おわったのか。
薄れ行く意識の中で、俺は誰かの声を聞いた気がした。
おつかれさまでした。
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