おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元

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26話 待ち人は来るのか

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 俺は今、昔のアニソンを口ずさんでいる。退屈なのもあるが、いつゴブリンが攻めてくるかもしれないという状況で、不安を払拭する為でもある。

昨日、冒険者ギルドに依頼を出した後、煙草がそろそろ切れそうだったので、ついでに煙草屋へ行って買い物をした後、レクリオ村へと帰ってきた。今日の俺の仕事は村の入り口で見張り、門番の仕事だ。

しかし、こう何も無いと退屈ではある、おっと、いかん、気を引き締めなければ、いつゴブリンが襲ってくるのかわからんのだから、油断は禁物だな。

しっかりと門番の仕事をこなそう、辺りを見回す、特に変わった様子は無い。穏やかな昼前の光景だ、時々そよぐ風が頬を撫でる、涼しいな、過ごしやすい季節だ、春ももうすぐ終わりかな、これからは暑くなるのかな、夏に向けて日の光も強くなってきていた。

「日照時間も長くなってきたしな、これから夏に季節が移っていくのかな」

うっすらと汗をかき始めた額を手で拭い、見張りを続ける。

しかし、冒険者はまだ来ない、来る様子が無い、本当に来てくれるのだろうか、まあ、昨日依頼を出したばかりだからな、そんなに直ぐには依頼を引き受けてはくれないのかもしれない。こっちは急いでいるというのに。

「しかし、報酬は目安の銀貨2枚以上の筈だ、ベテラン冒険者じゃないにしても、駆け出し冒険者でも腕のいい人が来てくれるかもしれないからな、もう暫く待っていよう」

村から伸びる舗装されていない、土が剥き出しの道をぼんやりと眺めていたら、何やら遠くの方から二人組みの男の姿が見えてきた。

「おや、あれが冒険者かな? やっぱりちゃんと来てくれたのか」

遠くの方からこちらへと道をやって来る二人組みの人影を眺めながら、少しだけ安堵する、きちんと依頼を引き受けてくれる冒険者がいる事に、少しだけ嬉しくなる。

暫く待っていると、二人組みの男達はこちらへと近づいて来た、やはり冒険者だけあってしっかりと武装している、一人は上等そうな服を着ていて、腰に帯剣している。もう一人の男は鉄の鎧を装着していて腰にはやはり帯剣している。左腕には鉄の盾を括り付けているみたいだ。

二人組みの男達がこちらに近づいて来たので、挨拶をする。

「どうも、冒険者さん、依頼を引き受けて下さりありがとうございます、詳しい話は村長さんが致しますので、村の中を案内致します」

俺が挨拶すると、二人組みの男達は首を傾げ、手の平をこちらに出し、こちらの言を遮る様な仕草をした。

「失礼、我々は冒険者ではない、領主様から命を受けた徴税官の者だ」

え? 徴税官? 

「そ、そうでしたか、これは失礼致しました、」

そうか、確かもうそろそろ税金を納める時期だってラッシャーさん達が言っていたな。

何もこんな、いつゴブリンが攻めてくるかわからない時に来なくてもいいのに。村の中がいつもよりピリピリしているのはこういう事も関係していたのかもしれない。

「それでは、村長さんの家までご案内致します、」

「いや、それには及ばん、レクリオ村の村長宅の場所は知っている、我々だけで向かわせてもらう、お前は村の門番の務めを果たせばよい」

「は、はあ、わかりました」

「それでは、我等は先に行かせて貰う」

「はい、どうぞ」

徴税官と、おそらくその従者か護衛だろう人は、村の中へと入って行った。

徴税官達が向かうの方へ行った後、聞こえない声で呟いた。

「なんだ、冒険者じゃなかったのか、紛らわしいな」

てっきり冒険者かと思った、違った、しかし、本当に冒険者は来るのだろうか、あまり遅いと心配になってくる。

暫く門番をしていると、村の中からミランダさんがこちらにやって来た。

「ヨシダさん、お勤めご苦労様です、これ、お弁当ですよ」

「これはミランダさん、わざわざ俺のお昼を持って来て下さいましたか、ありがとうございます」

ミランダさんが俺の昼飯を持って来てくれた、有り難い事だ。早速お弁当を広げる。

「うーん、イイ匂いですねえ、丁度お腹が空いていたんですよ、いやー有り難い、」

「お茶も持って来ましたから、ゆっくり食べて下さい」

「はい、どうもありがとうございます、早速頂きます」

俺はパンに齧り付いて咀嚼《そしゃく》する、そして、干し肉を齧り、お茶を飲む。

「うん、うまい、お腹が空いているから余計においしいですよ」

「ゆっくりでいいんですよ、ところでヨシダさん、もう自警団には慣れましたか? 」

「いや~、まだまだ至らない事が多くて、今日も本当は壊れた柵の修繕をしなくちゃいけなかったんですけど、ギダユウさん達がやると言って、俺は村の門番をする事になりまして、まだまだですよ」

「そうだったんですか、だけど門番だって大切なお仕事ですからね、ヨシダさん、無理だけはしないで下さいね」

「はい、わかりました」

昼食も食べ終わり、人心地ついて休憩をしながら、煙草を取り出し、火を付け一服する。う~~む、この一服だけはやめられない。いい感じの苦味の煙草を吸い、煙を燻らす。

「それでは、私は家へ戻ります、ヨシダさん、頑張って下さいね」

「はい、ミランダさん、お昼ご馳走様でした」

ミランダさんは村の中へと歩いて行った。さてと、飯も食ったし、見張りを続けよう。

午後の昼下がり、ちょっとだけ眠たくなってきたが、居眠りするほどではない。集中して門番を務める。

それにしても退屈だ、こう何も無いと手持ち無沙汰になってしまう。またアニソンでも歌うか。

そうこうしていると、日も傾いて来てそろそろ夕方頃になりそうな頃、ギダユウさんが様子を見に来た。

「やあ、ヨシダさん、どんな塩梅(あんばい)だい、こっちは柵の修繕が終わったよ」

俺は村の外の様子を見るのを切り替えて、ギダユウさんの方を見る。

「これはギダユウさん、こっちは特に何も無かったですよ、そう言えば徴税官の方達が村にやって来たみたいですが、」

「ああ、それは知っている、さっき村長さんのところへ顔を出しに行ったら、何やら村長さんと徴税官が揉めていたからね」

「揉めていたんですか、何か話し合っているのでしょうか? 」

「さあねえ、領主様の言う事はようわからんよ、それよりも、冒険者は来たかい? 」

「・・・いえ、冒険者の人はまだ今のところ来なかったみたいです」

「そうか、まあ、昨日依頼を出したばかりだからな、昨日の今日で事が運ぶ訳でもないか、しかし、こっちだって急いでいるのになあ」

「報酬だって銀貨3枚でしたから、引き受けてくれる人はいると思うんですが」

「そうだな、相場より幾らか多い筈だよな、もしかしたら誰が受けるか揉めてんのかもしれんな」

「そんな事もあるんですか? 」

「ああ、聞いた話だと、冒険者ランクによって格付けされているからね、それでこの依頼を誰が受けるか話し合っているのかもしれないよ」

ふーむ、そんな事もあるんだな、この仕事ってそんなに割りのいい依頼なのかな?

「ギダユウさん、ゴブリン退治の依頼って冒険者にとって割りのいい仕事だったりするんですか? 」

ギダユウさんは少し考えて、腕を組みながら答えた。

「そうさなあ、俺は冒険者じゃないが、ゴブリンと戦った事はあるが、奴等はめんどくさいんだよ、まず、1匹では行動しないし、偶《たま》に武装した奴がいたりで、結構気が抜けない相手なのさ、最も、ゴブリン自体はそんなに強いモンスターではないから、村人が武装して勝てる相手だからね、ただ、数が多いのさ」

「なるほど」

「とにかく、ヨシダさん、もしゴブリンの姿を見かけたら一人で対処せず、俺達自警団に知らせる事、いいね、」

「はい、わかりました」

「今日から夜の見回りもしなくちゃならないから、ヨシダさんは夜は休んで、朝一で村の見回りを頼むよ、夜の門番は他の者に任せるから」

「はい、」

ギダユウさんは伝えたい事を伝えたのか、ゆっくりと歩いて村の中へと向かった。

辺りはもうすっかり薄暗くなってきていた、結局、今日は冒険者の姿は現れなかった。お客さんが一人、いや、二人か、徴税官とその護衛の人だけだった、辺りが暗くなり、松明を持った自警団メンバーの一人が交代のため、俺の元へ来て、門番の仕事を交代してもらった。

冒険者はまだ来なかった。












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