上 下
24 / 33

24話 オウルベアーとの戦い

しおりを挟む



 オウルベアーと遭遇してしまった、何故手負いなのか? なんでこんな人里に近い森の浅いところに来たのか? など疑問はあるが、今は悠長に考えている場合ではない。

見た所、オウルベアーはこちらに対して敵意をむき出しにしている様子ではある。手負いという事もあり、気が立っている。ラッシャーさんが言うにはモンスターではないとの事だが、むこうはやる気のようだ。

オウルベアーは体長1メートル60センチぐらいで頭が梟《ふくろう》で体が熊の姿をした野生動物だ。警戒すべきはやはり鋭い前足の爪だろうか。あんなものを喰らえば肉をごっそりもっていかれる、注意せねば。

オウルベアーがこちらに向かって歩き出した、一歩ずつ近づいて来る。

「ギダユウさん、オウルベアーがこちらに近づいて来ています、どうしますか? 」

ギダユウさんは腰だめにある鉄の剣を鞘から抜き、身構えながら言った。

「むこうはやる気みたいだ、このまま見逃しちゃあくれないみたいだよ、こっちもやるしかない」

ラッシャーさんも腰に差した小剣のダガーを抜き、構えながらこちらに言葉を掛けた。

「モンスターじゃありやせんが、野生動物ってのは偶に人を襲いやすからねえ、ここで対処しやす」

二人共やる気のようだ、俺もビクビクしながらも腰ベルトからハンマーを抜き、しっかりと持って身構える。

オウルベアーは着実に一歩ずつ近づいて来ている、正直怖いが、ここで迎え撃つしかない。

ギダユウさんが俺達に指示を飛ばす。

「ラッシャー! 俺がヤツを引き付けるから、その間に背後に回りこんで背後《バック》から致命攻撃《スタブ》を狙っていけ! 」

「へい! 」

「ヨシダさんは下がって俺のアシスト! 他にモンスターが居ないか警戒してくれ! 」

「わ、わかりました! 」

ギダユウさんの的確な指示で体の緊張が少しだけ解《ほぐ》れてきた、俺の足も動く。震えもいくらか収まった。

俺はギダユウさんよりも後ろへと下がり、背後を警戒する。ギダユウさんが前に出て剣を構える。

「さあ、こい! 」

この勢いに乗じたのか、同じタイミングでオウルベアーも動き出した。一気に速度を上げ、勢い良く走り出して来た。

オウルベアーが前足を振りかぶり、ギダユウさんを抉ろうとして急接近し、素早く振り下ろす。

ギダユウさんは後ろへバックステップを踏み、オウルベアーの攻撃を回避する。

「これで、どうだ! 」

ギダユウさんの武器攻撃が届く距離にオウルベアーが接近してきたので、すかさず剣を振り上げ、力を溜め一気に振り下ろす。

「グガァ! 」

オウルベアーにギダユウさんの攻撃が当たり、オウルベアーの横っ腹に剣による切り傷を与え、ギダユウさんは一旦距離を取る。

その間にラッシャーさんがオウルベアーの背後へと回りこみ、様子を伺っている。

オウルベアーの体から血が滴っている、生き物を傷つけているという行為に罪悪感を感じ、震えがくるが、こちらがやられる訳にはいかない、やらなければやられる。相手は野生動物、侮るわけにはいかない。

オウルベアーが更にギダユウさんに襲い掛かろうとして、その場で立ち上がり仁王立ち状態になり、鋭い前足の爪を振りかぶった。ギダユウさんはその場で剣を構え、受け止める覚悟みたいだ。

オウルベアーの鋭い爪の前足が素早く振り下ろされて、ギダユウさんを襲う、しかし、ギダユウさんも振り下ろされた爪を剣で受け止め、鍔迫(つばぜ)り合いの状態にまでなり、持ち堪えている。

ギダユウさんの体格だって、人並み以上にガタイがいい、力押しなら互角ぐらいだろうか、いや、押されている! 徐々にではあるが、ギダユウさんが後ろへと少しずつ後退している。

俺も何かしなくちゃと思うのだが、今、横槍を入れても大して役に立たないと思う。俺は俺で辺りの警戒をする、それぐらいしか出来ない。

ギダユウさんがオウルベアーと対峙していると、その背後からラッシャーさんが静かに近づいて距離を詰める、そして一気に接近しオウルベアーの背後からダガーを突き入れた。バックスタブだ。これは効いただろう。

「グガアアッ」

オウルベアーは多々良を踏んで態勢を崩した、その隙を見逃さず、ギダユウさんが鉄の剣を素早く振り下ろす。オウルベアーの体に剣の切っ先が当たり、更にダメージを蓄積させていった。

しかし、オウルベアーもただでは転ばなかった、態勢を崩しながらも鋭い爪でギダユウさんの腹に一撃加える。

「ぐっ!? いてえっ」

ギダユウさんはお腹を庇いながらでも、鉄の剣をオウルベアーに突き刺した。

「グガァッ」

更に剣を捻《ねじ》り、剣の傷を深いものにしようと小刻みに捻る。これは痛そうだ。

「こっちだってまだありやすよ! 」

ラッシャーさんがダガーを捻り、更に深手を負わせる。

「グガォァアアァァァ・・・・・・」

オウルベアーは断末魔を上げ、ドサリッ、とその場で倒れ込んだ、オウルベアーはピクリとも動かなくなった。

「はあっ、はあっ、や、やったか? 」

ギダユウさんがその場でへたり込んだ。

「・・・どうやら、倒したみたいでやすねえ」

ラッシャーさんがオウルベアーに近づき、呼吸を確かめていて、そう断言した。

どうやら終わったみたいだ、二人共強いなあ、俺なんか見てただけだったよ。

「いててっ、ちくしょう、腹に一発もらっちまった、血が止まらねえ」

そうだった! ギダユウさんが怪我をしたんだった、俺の回復魔法の出番か。俺はギダユウさんに駆け寄り、ギダユウさんの傷を見る。

「ギダユウさん、ちょっと傷を見せて下さい、俺の回復魔法で癒せるかもしれません」

「え!? ヨシダさん、あんた回復魔法が使えるのかい!? 」

「自信はありませんが、やってみます」

「た、頼むよ・・・」

ギダユウさんの傷はかなりの深手だった、このままじゃ血が止まらない。急がなくては。

俺は魔力を右手の手の平に集めるよう、マナを練り上げる、・・・よし、出来る。聖印《ホーリーシンボル》も持って来ている、常にポケットの中に入っている。

よーし、マナを練り上げた、手の平が温かくなってきた。これなら。

「癒しの光よ、彼《か》のものを癒したまえ、・・・《ハーフヒール》」

俺は右手の手の平を、ギダユウさんのお腹の傷にかざし、癒したいと念じる。

すると、ギダユウさんの体がやんわりと光だし、みるみるうちにお腹の傷が塞がっていく。よーし、成功だ。

「お!? おお!? すごいじゃないかヨシダさん、本当に傷が癒えたよ、ありがとう、しかし、ヨシダさんがパールさんのところで魔法を教わっているとは聞いていたが、まさかここまでの魔法とは思わなかったな、大したもんだ」

ギダユウさんはお腹のあたりを擦りながら傷が癒えた事に感心しているようだ。

「ふう~、何とかなりましたね、よかった、ギダユウさんの傷が治せて」

ラッシャーさんも驚いているようだ。

「すごいっすね、ヨシダさん、ホントに回復魔法が使えるんでやすねえ、こいつは恐れ入りやした」

「いや~、魔法って言っても、俺の場合、一日一回の魔法が限度でして、もう今日は魔法が使えないんですよ、これぐらいしかお役に立てなくて」

ギダユウさんはお腹の傷跡を擦りながら、俺に感謝の言葉を述べた。

「ヨシダさん、ありがとう、お陰で助かったよ、こういう傷ってのはほかって置くと酷くなるからね、今治せてよかったよ、ホント、感謝だよ」

「いえいえ、お役に立てて何よりです」

俺達はしばらく休憩をして、この後の事を話し合った。

「オウルベアーは町に持っていけば高値で取引されるんだよ、肉はうまいし、体内にある胆石は錬金術師に持っていけば高く買い取ってくれるしね、早速木に縛り付けて二人掛りで持ち上げて持っていこう、まずは村まで持っていけばいいだろう」

「へい、兄貴」

「わかりました」

俺達は、オウルベアーの手足を一本の木に縛り、俺とラッシャーさんで一旦村まで運ぶ事になった。

オウルベアーを村まで運んで、また森に戻り、今度は伐採した材木を村に運び入れる。

森に戻って材木を持ち上げようとしたその時だった、ラッシャーさんが何やら地面を見て怪訝な顔をした。

「・・・こいつは・・・」

「どうかしましたか? ラッシャーさん」

「ヨシダさん、一旦材木を降ろしてくだせい」

「? はい」

ラッシャーさんが何やら森の地面を屈みながら手で触れて、何かを確かめているみたいだ。一体どうしたっていうんだ? 

「ギダユウの兄貴! ちょっとこちらへ! 」

呼ばれて、ギダユウさんがラッシャーさんの元へ歩み寄る。

「どうした? ラッシャー」

ラッシャーさんは深刻な表情で俺達に説明した。

「こいつを見てくだせい、ゴブリンの足跡でさあ、しかも1匹や2匹じゃありやせん・・・」

「なに!? こんな村から近い森の浅い所でか! 」

「へい、おそらくオウルベアーを手負いにしたのはゴブリンなんじゃないかと思いやす」

「・・・なんてこった、村長に知らせないと」

どうやら只ならぬ事態になりそうな予感がしてきた、ゴブリンの足跡だって? 一体この森で何が起こっているんだろうか、オウルベアーが森の浅い場所にまで出て来た事と関係があるのだろうか。




















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

最強の回復魔法で、レベルアップ無双! 異常な速度でレベルアップで自由に冒険者をして、勇者よりも強くなります

おーちゃん
ファンタジー
俺は勇者パーティーに加入していて、勇者サリオス、大魔導士ジェンティル、剣士ムジカの3人パーティーの雑用係。雑用係で頑張る毎日であったものの、ある日勇者サリオスから殺されそうになる。俺を殺すのかよ!! もう役に立たないので、追放する気だったらしい。ダンジョンで殺される時に運良く命は助かる。ヒール魔法だけで冒険者として成り上がっていく。勇者サリオスに命を狙われつつも、生き延びていき、やがて俺のレベルは異常な速度で上がり、成長する。猫人、エルフ、ドワーフ族の女の子たちを仲間にしていきます。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...