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14話 レクリオ村へ帰ろう
しおりを挟む俺は噴水広場でラッシャーさんを待っている。もうすぐお昼時かな、という時、町の細い道からラッシャーさんがやって来た。俺は手を振り、声を掛ける。
「ラッシャーさん、ここです」
声に気付き、ラッシャーさんがこちらに向かってやって来た。何やら浮かない顔をしている、どうしたのかな?
「すいやせん、お待たせしやしたか? 」
「いえ、それ程待ってはいませんよ、それよりそちらはどうでしたか? こっちは賢者様に会えました」
「そうですかい、賢者様に会えましたかい、良かったですねえ、こっちは・・・うまくいきやせんでした・・・」
ラッシャーさんの肩が落ちている、うまくいかなかったらしい。
「確か、薬草の鑑定をして貰うんでしたよね、・・・まさか、して貰えなかったのですか? 」
「いえ、鑑定はして貰えやした、ただ、・・・」
「ただ? 」
ラッシャーさんは浮かない顔をして下を向きながら答えた。
「・・・品質の良い薬草が50束中、2束しかなかったそうなんでさあ、薬草栽培の産地として認めてもらうには最低でも半分の数の品質の良い薬草じゃなきゃならねえらしいんでさあ、・・・はあ~、村長さんに何と説明したらよいのやら・・・」
「そうでしたか、薬草栽培とは難しいものなのですね」
うーむ、俺に手伝える事は無さそうだな、薬草なんて栽培した事無いから、何か、色々大変みたいだな。
「・・・さあ、何時までもここに居たんじゃ埒が明きやせん、もう昼飯時でさあ、ヨシダさん、何か食って行きやしょう、あの露店に売っているサンドイッチにしやしょう、ここはあっしが奢りやすよ」
「よろしいのですか? 」
「へい、薬草を錬金術師に売ったので、懐具合はいいでさ、と言っても、品質の悪いのは買い叩かれやしたがね」
「そうですか、それじゃあお言葉に甘えてご馳走になります」
俺達はサンドイッチが売られている露店に行き、お昼ご飯のサンドイッチを購入する。何かの肉と野菜がパンに挟まれたシンプルなサンドイッチだ。ラッシャーさんに奢ってもらった。うまそうだ。
「食べ歩きながら村へ帰りやしょう」
「はい」
サンドイッチを一口、うむ、ボリュームがあって食べ応えがある。これは腹いっぱいになるな。
俺とラッシャーさんはレクリオ村へ帰る為、クノックスの町を後にする。壁門から外へ出て、街道を道なりに歩く。暫く歩き続けてサンドイッチも食べ終わり、水筒の水で喉を潤し、村へと続く道に辿り着いた。
「これを曲がるとレクリオ村へ行けやす、まあ、来た道を戻っただけなんですがね」
「サンドイッチ、ご馳走様でした、美味しかったです」
「どう致しやして、さあ、村に帰りやしょう」
街道から外れ、土が剥き出しの道を歩き、レクリオ村へと向かう、周りの景色は長閑な草原の風景だ、時折吹く風が心地いい。遠くまで見渡せるぐらいには何も無い静かな道だ。ゆっくりのんびり、道を歩く。
「いい景色ですね~」
「はっはっは、このへん何も無いですからねえ、ヨシダさんの国じゃあどうだったんですかい」
「俺の国ですか? そうですねえ、都会もあるし、田舎もある、そんな感じの町や村、都市なんかがある国ですねえ」
「へえ~、そうなのですかい、この国とあまり変わらないのかもしれないでやすねえ」
「仰る通りですよ、・・・そう言えばラッシャーさん、レクリオ村に魔法使いが居ると賢者様に聞きましたが、本当ですか? 」
「魔法使いですかい、ああ、居やすよ、村長さんとこに居るパールさんってべっぴんさんでさあ、あの人が確か魔法を使えるって言っていやしたよ」
「なるほど、パールさんですか、」
パールさん? はて? どこかで聞いた名だな、・・・ああ、そうか、確か村長さんのところで住み込みで働いているっていう、奴隷とか言っていたな。なるほど、魔法が使えるから村長さんがパールさんを買ったのかな、村に着いたら村長さんに話してパールさんに魔法の教えを乞えるように頼んでみよう。
そう思った次の瞬間、唐突にラッシャーさんが声を掛けた。
「ヨシダさん、ここからは警戒しながら行きやしょう、森が近いんでさあ、そこからモンスターがたまに這い出てくるんでさあ」
「え!? モンスター・・・」
「いいですかい、慎重に行きやしょう、もしモンスターに出くわしたらあっしが対処いたしやすから、来た時も実は警戒していやしたが、何事も無かったので油断しやした、ここからは慎重に」
「は、はい」
モンスターと聞いて体が強張る、緊張するなあ、襲われたらどうしよう。ラッシャーさんだけが頼りだ。頼みます、ラッシャーさん。
周りの景色を楽しむどころではなくなった、何時モンスターが現れるか心配になってきた。怖いなあ。
俺達はゆっくりと辺りを警戒しながら歩くのだった。何か物音一つでビクビクしてしまう、俺はビビリだからな。
村へ向けて歩く事1時間、ようやくレクリオ村の端っこが見えてきた。ほっとする、だが、ラッシャーさんが警戒を強めた声で俺に声を掛けた。
「ちょっと待って! あそこ! モンスターがいやす! 油断しないように! 」
「え!? は、はい! 」
村へと続く道の途中の草原にポツンと、なにか犬みたいな動物っぽいのが居た。・・・あれは犬じゃないのかな?
「ラッシャーさん、あれは犬じゃないのですか? 」
「いえ、違いやす、あれはワイルドウルフってモンスターでさあ、警戒を! こっちに来やす! 」
ワイルドウルフと呼ばれたモンスターは、こちらへと近づいて来る。こっちに気付いているみたいだ。
「相手は一匹、大丈夫でさあ、あっしがなんとかいたしやす! ヨシダさんは下がって! 」
「は、はい」
ラッシャーさんが腰にあるダガーを抜いて身構える。俺はラッシャーさんの後ろへと移動する。その時、ワイルドウルフが勢いよく走り出した、こっちに向かって走って来ている。間違いなくこちらを攻撃するつもりだ。怖いなあ、大丈夫かなあ。
ワイルドウルフは涎を垂らしながら勢いよく走って来ている、もう目の前だ! ラッシャーさんが前に出る。
「ガゥゥッ」
ワイルドウルフがラッシャーさんに噛み付こうと、鋭い牙を覗かせながら口を大きく開けて襲い掛かった。
「ふん! 」
ラッシャーさんはその攻撃をかわしてカウンターぎみにダガーを突く。
「ギャンッ」
ワイルドウルフの体にラッシャーさんの突き入れたダガーが刺さる、見事な動きだ、ラッシャーさんは戦い慣れている感じだ。
この一撃でワイルドウルフは大きなダメージを負ったみたいだ、動きが明らかに遅くなった。
しかし、次の瞬間、今度は俺に向かって襲い掛かってきた。
「あぶねい! 」
「うわあ!」
ワイルドウルフは俺に向けて口を開き、鋭い牙で噛み付こうとジャンプしてきた。
冗談じゃない! あんなのに噛み付かれたら大怪我じゃ済まない!
俺は怖くて足が震えていたが、怖さのあまり勢いよく手を握り拳にして前に突き出した。
「ギャワンッ」
あろう事か、たまたま突き出した手がワイルドウルフの顔面にヒットした。
ドサリ。
ワイルドウルフは横たわり、身動き一つしなかった。ピクリとも動かない。
「はあ、はあ、・・・ど、どうなりましたか? 」
ラッシャーさんが倒れたワイルドウルフの元へ駆け寄り、横たわったモンスターを調べている。
「こ、こいつは・・・、ヨシダさん、お手柄でやすよ、ワイルドウルフは倒れやしたよ、もう大丈夫でさあ」
「そ、そうですか、よかった」
そうか、俺には「ストレングス」のスキルがあるんだったな、だから一撃でモンスターを何とかできたのか。まさかここまで「ストレングス」が強いとは思わなかった。力が上昇している、俺にはこんな力なんて無い、不思議な気分だ。
「やりやすねえ、ヨシダさん、戦えるじゃねえですかい、大したもんだ」
「いやあ、ラッシャーさんがモンスターに攻撃して弱らせたからですよ、俺なんて大した事は何も」
ふう~、やれやれ、何とかなってよかった。怖かった。たまたま偶然ストレートパンチが入ってよかった。
倒れたモンスターはこのままにして、俺達はレクリオ村へと急ぐのだった。後はスライムがモンスターの亡骸を食べてくれるらしい。掃除屋か、スライムならではだな。とにかく二人共無事でよかった。
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