上 下
12 / 33

12話 町役場へ行ってみよう

しおりを挟む



 俺は今、クノックスの町の町役場に来ている。役場の建物は石造りで頑丈にできている立派な建築物だ、中も広い、2階建ての大きな建物だ。

役場というのはどこも変わらない、日本に居た時みたいな市役所みたいな感じだ。造りも建物の中のレイアウトも似たようなものだ。カウンターがあり、住民が座る椅子がある。カウンターの奥は役場の職員達が何やら書類仕事をしている。

役場の中には人が沢山居て、俺の順番に回ってくるのに少し時間が掛かった。お、次は俺の番だな。

「次の方、どうぞ」

役場の職員に言われて、俺はカウンターの前に来て職員の女性に尋ねた。

「すいません、身分証を発行して貰いたいのですが、」

「身分証の発行ですね、この町に入る時に衛兵の方から木札を受け取りませんでしたか? 」

「あ、はい、受け取りました」

「では、それをこちらに渡して下さい」

俺は衛兵から貰った木札を取り出し、職員の女性に渡す。

「はい、確かに、それではこちらの書類に書き込んで下さい」

そう言って、職員の女性は一枚の紙を渡してきた、そこには何か文字が書かれていたのだが、俺にはまるで日本語の様に読める。しかし、問題が一つ、俺はこの世界の文字が書けない。困ったな。文字は読めるのに字が書けない、そういえば何でだ? 俺はこの世界の文字が解る。ただ見た事も無い文字の為、書けない。

「あのう、すいません、俺は字が書けません」

「あら、そうなのですか、わかりました、私が代筆いたします、質問に答えて下さいね」

「はい、すいません、よろしくお願いします」

「気にしなくていいんですよ、文字の読み書きが出来ない人は多くいますので」

そうなのか、この世界の識字率は低いという事か、・・・文字の読み書きか、いつか誰かに教わろうかな。いや、しかし、この歳で勉強は頭に入らないだろう、何事も無理はよくない、少しずつやっていこう。

「それでは、まずはお名前から教えて下さい」

「あ、はい、吉田 太郎と申します」

「ヨシダタローさんですね」

「あ、いえ、ヨシダが苗字でタロウが名前です」

「あら、家の名前があるのですか? もしかして貴方は貴族様ですか? 」

「あ、いえ、違います、貴族ではありません、俺の居た国では苗字があるのです」

「そうですか、では、ヨシダ・タローさんですね」

職員の女性は書類に書き込んでいる、タローではないんだが、まあ、いいか。ヨシダで通じれば。

「次は職業なのですが、ヨシダさんの職業は何ですか? 」

「え~と、民間人です」

「民間人? 変わったご職業ですね、平民や農民ではないのですか? 」

「いえ、ただの民間人です」

「そうですか、民間人、っと、それでは最後にご出身はどこですか? 」

「出身ですか? 」

さて、困ったぞ、賢者様からあまり日本の事は言わない様、秘密にするようにと言われているんだよな。今ご厄介になっているレクリオ村の事を説明した方がいいのかな、なるべく嘘は付きたくない、だがこの際仕方が無い、どの様にして説明した方がいいのか? ええーい、南無三。

「あのう、実は非常に申し上げにくい事なのですが、自分の出身地がわからないのです、俺がまだ小さい頃、この国に来たのですが、自分がどういう国の名前の出身だったかは覚えていないのです、今はレクリオ村でご厄介になっていますが、出身をレクリオ村にできませんか? 」

職員の女性は顎に手を当て、何か思案している様子だった。

「うーん、そうですか、その様な経緯があったのですね、・・・何か手掛かりとかは無いのですか? 」

「そうですねえ、・・・うーん、・・・やっぱり思いつきません、すいません」

「そうですか、・・・本当は駄目なのですが、出身地をレクリオ村(仮)、と書きます、こんな事は特例ですよ、いいですね」

「はい、ありがとうございます、申し訳ないです、」

「まあ、事情がお有りなのですから、致し方ないですね、これで身分証を発行できます、暫くお待ち下さい」

そう言って、職員の女性は何かの機械っぽい物に書類を通している、しばらくして、チーンっとまるで電子レンジみたいな音がして、何かカードの様な物が出てきた。

「はい、出来ました、これがヨシダさんの身分証になります、いいですか、犯罪などの行為を働きますと、この身分証は剥奪致しますので、行動には十分に気を付けて下さいね」

「はい、気を付けます」

俺は職員の女性から身分証を受け取る、何か厚紙で出来たカードだ、それには俺の名前、職業、出身地が書かれている。よーし、これで俺にも堂々と町中を歩けるぞ。

「それでは、以上になります、お疲れ様でした」

「はい、ありがとうございました」

俺はゆっくりと歩き、町役場を後にする。

これで、この町での俺の用事は済んだな、ラッシャーさんと合流する為に、この町の噴水広場まで行こう。確かそこで待ち合わせだったよな。俺は早速、この町の広場がある中央あたりに向かう。

 噴水広場までやって来たのだが、周りを見渡してもラッシャーさんの姿はまだどこにもなかった。まだ商人ギルドでの用事が終わっていないのかな、しばらく待っていよう。

俺は噴水近くにあるベンチに腰をかけ、寛(くつろ)ぐ。周りを見てもやっぱり色んな人種がいる、異世界に来てしまったんだなと、思い起こさせる。何気に地面に落ちている小石を拾い、力を入れて握ってみる。

ゴカッ

小石は粉々に砕けてしまった、うん、これは俺の力ではない。間違いなくスキル「ストレングス」のお陰だろう、スキルは常に発動するタイプのパッシブスキルってヤツかな。同じ様に「タフネス」のスキルもあるので、何らかの事に作用しているだろう。

「そうか、スキルや魔法がある世界なんだよな・・・」

まるでゲームか何かの様に思えてくるのだが、間違えてはいけない。これは紛れもなく現実だ、行動は慎重にしなくては、発言にも気を付けよう。

改めて俺のステータスを確認する。・・・このスキルポイントってヤツはおそらく新たなスキルを習得する為に必要なポイントだと推察できる。俺には1ポイントのスキルポイントがある、これを使って何かスキルを習得したいな。どうすればスキルを習得する事ができるのかな? 試しに色々やってみよう。

「スキル習得、スキル、スキル表示、スキル習得画面表示、・・・」

駄目だな、今度は頭の中で思ってみるか、スキル習得したい、と念じてみる。すると・・・

「お! 何か頭の中で思い浮かんだぞ」

俺の頭の中で、色んな種類のスキルが思い浮かんだ。なるほど、これでいいのか、よーし、早速スキルを何か習得してみるか。えーと、何がいいかな。・・・そういえば俺のユニークスキルは「スキル付け替え」だったな、これを有効に活用するスキルの方がいいよな、他人のスキルにも干渉できるかもしれないんだったよな、・・・だったらここはやはり、「鑑定」のスキルを習得するべきだよな。

俺は早速スキルの「鑑定」を習得したい、と念じる。・・・これで習得出来た筈だ。あとはこのスキルをスキルスロットに装備すればいい筈だ。俺は「鑑定」のスキルを空きスロットに付けるイメージをする。

「よし、これでよかった筈だ、一つ試してみるか、まずは自分の事を「鑑定」だ」

俺は自分自身を「鑑定」する。・・・すると、頭の中で俺のステータスが表示された。

名前 ヨシダ
職業 民間人

ユニークスキル スキル付け替え

スキル
・ストレングス
・タフネス
・回復魔法
・鑑定
・なし
・なし

スキルポイント 0P

おお! うまいこといったな、どうやらうまく出来たみたいだぞ。ちゃんと「鑑定」のスキルもスロットに装備されている、なんだ、やれば出来るじゃないか、俺。

それにしても、ホント、ゲームみたいだな。しかしこれで俺のユニークスキル、「スキル付け替え」も有効だとわかった、試しに町行く人を「鑑定」してみよう。どれどれ・・・

俺は通行人の一人に「鑑定」のスキルを使ってみた、すると頭の中にその人の名前と職業、スキル等が思い浮かんだ。通行人は何もスキルを持ってはいなかった。

「おお!? すごいな、こんな事も解っちゃうのか、すごいぞ、鑑定スキル」

俺は内心、とてもワクワクしている、自分がまるでゲームキャラになったかのような気分になる。

「しかし、浮かれてばかりもいられない、俺には日本に帰るという目標があるからな、それまでは慎重に行動しなくては」

俺は気を引き締め、これからのこの世界で、どうやってやっていくかを考えるのだった。













しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

処理中です...