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6話 ミランダさん家の晩御飯
しおりを挟む俺は今、ミランダさんのお宅にお邪魔して、ご家族の方と一緒に夕食をご馳走になっている。
外はもうすっかり暗くなってきている、先程解体された大猪、この村人達によるとビックボアと言うそうだが、そのビックボアの肉が各家庭に行き渡るように配られていた。ミランダさん家にも先程配られてきた。
ミランダさんは早速ビックボアの肉を切り分けて、今夜の料理に使うつもりのようだ。
う~ん、イイ匂いが漂ってきた、味付けは塩、胡椒かな、猪肉って日本でも食べた事がないんだよね。どんな味かな?
カチュアちゃんがミランダさんに問いかけた。
「ちょっとお母さん、今日はどうしたの? いつもより豪盛な夕飯じゃない、何かいい事でもあった?」
「何言ってんのよ、お客様がいるからに決まっているでしょう、今日だけじゃなく、これから食事を作る量を増やさないといけないかもしれないからね、今日は少し多めに作っただけよ。」
ミランダさんは今も料理を作っている、本当にいっぱい料理を作るんだな、テーブルの上には既に出来上がった料理が置かれている。明日の朝の分まで作っているみたいだ。
それにしても、照明器具が無いとホント薄暗いんだな。
今はランプに明かりが灯っているから少しは見えるけど。
電気が無いんだよな、こういう時は日本の方がいいなあと思うけど。
まあ仕方ない。有る物でやっていくしかないんだよな。
村の生活は案外過酷なのかもしれない、長閑な村なだけに。
「パンにトマトスープ、サラダにはドレッシングが掛かって、メインはやっぱりビックボアのローストよね、あ、ウチで採れた枝豆もある、ねえお母さん、これ一日じゃ食べきれないわよ。」
「それなら、明日食べればいいじゃない、ヨシダさんが沢山食べるかもしれないでしょ。」
「いえ、ミランダさん、お気持ちは有り難いのですが、俺ももう若くないですよ、そんなに沢山は食べれないですよ。」
「遠慮しなくていいんですよ、ヨシダさん、沢山食べて下さいね。」
「は、はい、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「ヨシダさんがウチに泊りに来て、なんだか賑やかになったみたいだわ、普段は私とカチュアの二人だけの食事なので、あまり会話がないんですよ。」
「そうなのですか?」
ここでカチュアちゃんが会話に加わった。
「そう言えば、村長さんが言っていたけど、解体したビックボアの肉は村全体に行き渡っても、まだ余っているらしいから、燻製にして町で売るんだって、さっき言っていたわ。」
「あら、そうなの、まああれだけ大きなビックボアですものねえ、貴重な村の収入源になるのかしら。」
なるほど、確かに大きな猪だったからな、余すとこなく使われる訳か。
あんなに大きな野生動物は俺も今まで見た事無いからな、有効に使われるんだろう。
「それをヨシダさんが見事に何とかしてしまうなんて、ヨシダさんって一体何者なの?」
「ただの民間人ですよ。」
「ふ~ん、民間人ねえ~。」
「カチュア、あまり立ち入った事を詮索しては駄目よ、ヨシダさん困っているじゃない。」
「は~い。」
「あはは、どうも。」
俺だってまさかこうなるなんて思ってもみない事だ、ただ結果的にこうなっただけで。俺自身大したヤツじゃない。ただの民間人だからな。
「さあ、出来ましたわ、今夜のお夕食です。」
ミランダさんは猪肉を塩、胡椒したローストをテーブルの真ん中に置いた。
凄い量の肉だ、それを切り分けてお皿の上に盛り付けていく。
うーむ、イイ匂いだ。食欲をそそる匂い、腹の虫も鳴いた。お腹が空いている事は確かだ。
「それでは・・・。」
「「「 頂きます。 」」」
早速ミランダさんお手製の料理にスプーンを付ける。まずはトマトスープからだ。
うん、うまい、トマトの酸味が利いていて実にうまい。
「このトマトスープは美味いですね。」
「うふふ、ありがとう、ヨシダさん。」
「このサラダも胡麻か何かのドレッシングが掛かっていて食欲をそそりますよ。」
「このサラダは私が作ったのよ。」
「え、カチュアちゃんが、そうなの、すごくおいしいよ。」
「褒めても何も出ませんよーだ。」
「何言ってんのこの子は、ドレッシングはウチの自家製でしょ、自分の手柄にしないの。」
「ちょっとお母さん、そんな事言わなくてもいいのよ、どーせわかりゃしないんだから。」
「いやー、このサラダに掛かっているドレッシングも最高ですよ、胡麻か何かですか?」
「うふふ、それは秘密ですよ、ヨシダさん。」
「な~んだ、教えて欲しかったな~。」
「ドレッシングは各ご家庭に秘伝の味がありましてね、村の中でも滅多に教えないんですよ。」
「なるほど、そうだったのですか、それじゃあ、あまり聞けませんね。」
「すみませんねえ。」
「いえいえ。」
さあ、お次はメインの猪肉のローストだ、一切れをうまいことスプーンを使って掬って口に運ぶ。うん、うまい、少し歯ごたえがある癖の有るぐらいで、肉本来の旨味がある、塩、胡椒が利いていて食べ応えがある。実にうまい。
「この猪肉もうまいですね、塩、胡椒のシンプルな味付けがいいですよ。」
「これが食べられるのもヨシダさんのお陰ですわね。」
「ホントね~。」
「いやいや、大した事は、俺なんてただ逃げ回っていただけですからね。」
「そうでした、ヨシダさんが追いかけられた時は肝を冷やしましたわ、よくご無事で。」
「村にある大木に激突させるなんて、中々できる事じゃないわよ、やるじゃないヨシダさん。」
「ははは、ホント、無事でよかったです。」
あの時は本当に怖かったからなあ、正に命の危機だった。うまくいってよかった。
「それにしても、みなさん日本語がお上手なんですね、みなさんヨーロッパ風の顔立ちをしていらっしゃるから、言葉が通じないのかと思っちゃいましたよ。」
「よーろっぱ? にほん語? ヨシダさん、何言ってるんですか? 私もヨシダさんも同じアイチ語を喋っているじゃないですか、確かにヨシダさんは黒髪に黒い瞳の異国風の方だとは思っていましたけど、こうして言葉が通じているじゃないですか。」
アイチ語? はて? 名古屋弁の事じゃないよな、俺は日本語しか出来ないのだが。
確かにこうして今も言葉が通じている。どうなってんだ? アイチ語って? 聞いた事無いな。
「そういえば、ヨシダさんって何処から来た人なの?」
「俺かい、日本って国からだよ。」
「にほん? ・・・ふーん、そうなんだ。」
この反応、日本の事を知らない感じだな、ギダユウさんも村長さんも知らないって事は、日本ってあまり知られていない国なのかな。
皆で夕食を食べ終わる。美味しかった。そういえば誰かの手料理なんて久しぶりに食べた気がする。
「「「 ご馳走様でした。 」」」
俺は手を合わせて食事を終わる。あ、煙草が吸いたくなってきた。どうしよう。ちょっと聞いてみようかな。
「すみません、ミランダさん、煙草ってありますか?」
「煙草ですか、ウチの主人がよく吸っていましたわ、ヨシダさんも煙草を吸われるのですね。」
「はい、食後の後は一服と決めているので。」
「いいですよ、ウチの主人ので良ければ、今持ってきますね。」
「すみません、何か催促したみたいになってしまって。」
「いいんですよ。」
ミランダさんは席を立ち、奥の方にある部屋へと向かった。旦那さんの煙草を持って来てくれるみたいだ、有り難い、そして申し訳ない。
だけどこの一服だけはやめられない。二十歳の頃から吸っているからなあ。
煙草は体に良くないのは解ってはいるのだが。
「持って参りましたわ。」
「どうも、ミランダさん、かたじけないです。」
俺はミランダさんから煙草と灰皿と、あと何か火を付けるっぽい道具を受け取る。俺は外へ向かう。
「どちらに行かれるのですか?」
「外です、外で煙草を吸おうかと。」
「ウチの中でもいいんですよ。」
「いえ、煙草のヤニが壁とかに付かないようにしますんで、それじゃあ、外へ出ます。」
俺は玄関の扉を開けて外へと出る、煙草を一本、口に咥えて火を付ける道具を使い、煙草に火を付ける。
「ふう~~、うまい、この苦味がまたいい、やっぱり食事の後はこれだよな、旦那さんに感謝だな。」
俺は煙草を吹かし、今までの事を思い出していた。
やっぱり何かおかしい。
今までの会話からも、どうにも腑に落ちない事が色々あった気がする。
どうなっているのやら。
「参ったなあ、ここは、何処なんだ………………。」
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