魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第五章 ――

【076】告白、触れる唇

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 久方ぶりの温もりがどうしようもなく愛おしく思えて、僕は気づくと、自分の腕をオニキスの背中へと回していた。多分、こんな事を誰かにしたのは、初めてのことだった。

「僕は、」

 言っても良いのだろうかと、悩み続けた言葉を、口から出すべきなのか胸の内に止めるべきなのか迷う。

「……もしかしたら、多分、オニキスのことが、好きなのかもしれない……まだ分からないんだけど」

 すると虚を突かれたような気配がした後、オニキスが息を飲んだのが分かった。

 最も僕はただオニキスの熱い胸板に顔を押し付けていたから、表情までは分からなかったのだけれど。

「本当か?」
「……多分」
「そうか」

 吐息に笑みをのせ、オニキスが目を伏せて笑った。
 それから僕の頭の上に顎をのせ、更に腕に力を込めた。

「十分だ、それだけで。愛してるんだ、お前の事を。この度の間中、何度も何度もずっと、またこうやって抱きしめたくて、どうしようもなくて、辛かった」

 その声に顔を上げると、優しく唇が振ってきた。

「……っ、は」

 肩で息をすると、更に深く深く口づけられた。

 唇同士が離れるまでの間、随分と長い時間がかかった気がするのに、その上息苦しかったのに、離れた時は、その体温が無くなるのが寂しく思えた。

「アルト、俺の恋人になってくれ」
「だけど、まだ僕は分からないから……」
「それでも良い。これから分かっていけばいいし、そう思ってもらえるように俺は努力するから。ただ、お前を他の誰かに渡すことのない、確固とした約束だけでも、今は欲しいんだ」

 僕を抱きしめたまま、真剣な表情でオニキスが言う。

「本当にそれで、」

 本当にそれで良いのだろうか。そもそも僕を手に入れたい奇特な者なんて誰もいないのに。

「俺だけのアルトでいて欲しいんだ」

 今度は優しくオニキスが笑った。今度こそ、悲しそうな笑顔なんかじゃなかった。
 その表情を見るだけで、安堵している僕がいた。

 いつかオニキスは、僕に笑っていて欲しいと言っていたけれど――今は確かに、僕の方こそが、オニキスに笑っていて欲しい気がした。オニキスの笑顔が、きっと僕は好きなのだ。

「未来なんて築くことが出来るのか、分からないよ」
「それでも良い」
「本当に?」
「ああ。アルトが側にいてくれるのならば」

 つらつらとそう言うと、再びオニキスに唇を重ねられた。
 ただただ僕は、この体温が、ずっと側に在ればいいなと思ったのだった。



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