魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅲ ***

【057】過去――魔王三年目③

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 ――ただ、こんな幸せが、どうしようもなく、僕は怖かった。

 誰かがいつか言っていた気がする。
 人生は良い事と悪い事があって、平均すると零になるのだと。
 だったら、今幸せな僕は、これから不幸に見舞われるのだろうか?

 だけど、不幸って何だろう?
 現実世界で既に死んでいる僕にとっての、不幸。
 それを上手く想像できないまま、僕は私室へと戻った。

「遅かったな」

 するとそこには、バルバトス侯爵がいた。
 僕の応接室のソファに腰掛けて、バルは足を組んでいる。
「どうしたの?」

 彼が自分からやってくるのは、大変珍しい事で、それでいて、何か重要な用件があるときだと、僕はこの三年間で学んだんだと思う。

「良い報せと悪い報せがある。どちらから、聞きたい?」
「悪い報せかな」

 僕は暗い気分で終わるよりは、明るい気分で日々を終わりたいのだ。

「《聖都:ローズマリー》が、魔王討伐のために、勇者を召喚したらしい」

 その言葉に、思わず息を飲む。

「それって……つまり、僕が倒されるって事?」
「そんな事、死んでも俺がさせねぇよ」

 クスクスとバルが笑う。

「所詮、高々人間だ。魔族には勝てない。だから、心配するな」

 バルの言葉に、僕は目を細めた。

「油断しちゃ駄目だよ」
「分かってる」
「それに、魔王が勇者に倒されるのは、セオリーだ」
「セオリー?」

 僕の言葉に、バルが首を傾げた。

「論理なんて俺が破ってやる。お前はただ、生きる事だけ考えろよ、アルト様」
「有難う。だけど、正直勇者は怖いし、死にたくないけど……僕は、みんなにも死んで欲しくないんだ」
「じゃあ良い報せな。今回の勇者は、対魔王の力しか持ってないらしい。つまりお前が隠れ通せば、倒される事はあり得ない。隠れずとも、俺達が倒せば、助かる」
「だけどそれって、誰かが犠牲になるって事でしょ? それなら、僕が、正面に出て行くよ」
「TOPが出て行ってどうするんだよ。信頼して、俺達に任せてくれ」

バルのその言葉に、僕は眉を顰めた。

「信頼してるよ、だけど――」
「お前にはロビンがいる。ロビンは何があっても側にいる。それで十分。そうは思えないか?」
「それは嬉しいけど、僕はバルがいなくなるのだって嫌だ」
「俺がそう簡単に死ぬわけがないだろ。ただな、魔王様にそんな風に言ってもらえるだけで、俺は、魔族は、みんな幸せだ」



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