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―― 第三章 ――
【050】土砂崩れの村
しおりを挟む森を抜け、僕達四人が最初に辿り着いたのは、《ブラウンフォレスト》という村だった。
それまで自然豊かな道だったというのに、いざ足を踏み入れた人間の国最初の街の姿は、悲惨だった。小さな村を囲むように、四つの山がある。そのどの山にも、ほとんど木の姿はない。土肌や岩が露出していた。
村全体は、入ってすぐの小高い丘の上から、全て見渡すことが出来た。
どの家も、柱が崩れ、傾いている。
土石流に襲われたことは、明らかだった。
村の中央にある高台の上の教会だけが、なんとか形を保っている。
「――アルト」
オニキスに名を呼ばれ、僕は慌てて顔を向けた。
彼の方が背が高いから、どうしても僅かに首を傾けざるをおえない。
「これから生存者がいる教会へと行く。その……神聖な場所などは平気か?」
「神様のご加護で苦しくなったりしません?」
続いたルイの言葉に、フランが溜息をついた。
「俺は人間だから平気だけど」
「特に今まで気分が悪くなったことはないよ」
僕が答えると、三人が頷いた。
それから、土砂で足場の悪い、石畳の道を僕らは歩き、教会へと向かった。
ギシギシと音を立てて、古びた教会の扉が開く。
教会に入るなんて、何百年ぶりだろう。
綺麗なステンドグラスを見上げ、思わず僕は感嘆の息を漏らしそうになった。
「勇者様!」
そこへ、この教会の司祭らしき人が走り寄ってきた。
「魔王退治は、どうなりましたか?」
「成功した」
オニキスがきっぱりとそう告げると、周囲から歓声が上がった。
見渡せば、子供が、老婆が、老人が、女性が、男性が、様々な人々が、毛布にくるまり、震えていた。灯りはと言えば、聖書が載る台の左右にある、燭台だけである。
「では、もうこの村が災害に襲われることはないのですね!?」
若い青年が立ち上がり、オニキスに歩み寄った。
「ああ。魔王の手により災害が起きることはない。魔族達も沈静化したから、災害を引き起こしたりはしない」
フランとルイは静かにその言葉を聞いていた。
計画通りだという表情だった。
だけど――……僕は、このままじゃ駄目だと思った。すぐにまた土石流に襲われるのは、火を見るより明らかなのだから。
「これでまた林業ができます。勇者様、有難うございます。きっと新しく植えた木もすぐに、来年には大きく育つはずです」
青年のその言葉に、僕は我慢しきれなくなった。
「待って下さい」
すると周囲の視線が僕に集まった。だけど気にしている暇はなかった。
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