魔王の求める白い冬

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
40 / 84
*** 過去:Ⅱ ***

【041】過去――魔王三日目①

しおりを挟む
 僕が魔王になってから、今日で三日目になった。

 長閑な日差し――とは、とても言い難い、紫色の曇り空のもと、僕は目を覚ました。地下室に部屋はあるから、魔術で天気を確認した。ここへ来てから、もうずっとこの天気だ。時折稲光が走り、雹が降ってくる。

 もしかしてこの天候が、《ソドム》のデフォルトの天候なのだろうか?
 だとしたら、農耕どころではない。

 ――第一僕は、魔王のすべきことを、未だに何も知らない。

 昨日は勝手に調味料を揃えてみたり、色々考えては見たものの、よく考えてみれば、わざわざ宰相をしてくれる魔族がいたりするのだから、何か僕にはやるべき事があるのではないだろうか。この際勇者に倒されるというのは怖いので忘れよう。

 顔を洗い身支度を調えてから、僕は部屋を出た。

「おはようございます、魔王様。どちらへ?」

 するとすぐにロビンが現れたので、僕は吃驚した。

「よく僕が部屋を出たって分かったね」
「城でのことは何でも魔術で分かります。ご迷惑でしたか?」
「ううん。一人でたどり着けるか不安だったから、助かるよ。実は宰相のワースさんと話しがしたくて」
「承知いたしました。ご案内いたします」

 ロビンはそう告げると、燭台を片手に歩き始めた。
 気がつけば、まだ回廊の灯りは、薄暗い。

「ねぇロビン。この灯りは、やっぱり昼夜を表しているの?」
「はい。明々としていれば昼、消えている時は夜を表します」
「今は何時くらい?」
「午前五時、と言ったところでしょうか」
「え……ロビンって早起きなの?」
「私目は魔王様のお側に、いつでも控えております」
「ちゃんと寝てる?」
「魔族にとって睡眠とは、必ずしも必要なものではございません。一週間に一度ほど寝れば、十分です」

 そうなのかと、僕は感動した。食欲は兎も角、僕にはばっちり睡眠欲は残っているらしく、確かに妙に早起きはしてしまったが、今夜も眠ると思う。

「宰相さんも起きているかな?」
「ワース様は、月に一度ほどしかお眠りにはなりませんので」
「……それは、そう言う体なの? それとも、忙しいの?」

 僕の声に、ロビンが首を傾げながら振り返った。

「《ソドム》の地を安定させるべく、山のような仕事をこなしていらっしゃるのは事実です。けれどそれは、敬愛する陛下のためです。苦にはなりません」

 その言葉に、やはりこれは、出来ることを手伝わなければならないと、僕は誓った。
 宰相執務室は、僕が最初に現れた玉座の間のすぐ側にあった。

「これは、これは、陛下」

 僕がノックをすると、すっと扉が開き、扉の前で足をつき、宰相のワースさんが頭を垂れていた。

「あ、あの、楽にして下さい」
「勿体ないお言葉です」

 顔を上げたワースさんは、それから立ち上がった。

「ささ、お座り下さい」

 ソファに促されたので、僕は座りながら、頷いた。

「ワースさんもロビンも座って下さい」

 僕の部屋ではないというのに、僕が言うのもなんだかおかしな気分だ。

「感激でございます。宜しければ、ワースとお呼び下さい陛下」

 そう言えば昨日バルさんに、敬語を使うなと言われたことを思いだした。気を遣わせない気の使い方をした方が良いのかも知れない。よし、僕はこれから、敬語を使うのは極力控えよう。

「突然押しかけてゴメン。良かったら飲んで」

 そう告げ、僕は三つのカップを出現させた。中には桃の香りがするフレーバーティが入っている。僕はこのお茶がそれなりに好きだ。

「勿体ないことです」

 ワースはそう言ったが、不審そうにカップの中身を見据えていた。
 しかし隣でロビンがカップを傾けたのを見て、同様に飲む。

「! こ、これは一体……!」
「お口に合いませんでしたか……?」

 不安になって聞いてみる。

「いえ、大変美味です。魔王様御自ら入れて下さった一品だけのことはある」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

処理中です...