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―― 第二章 ――
【039】旅立ち
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「畏まりました。アルト様のお留守は、このロビン、しかとお守りいたしております」
ロビンに相談すると、あっさりとそう言われた。
雰囲気からして、僕の命令だから聞いたと言うよりは、先に勇者側と相談していた気配である。そのくらいは、長い付き合いだから、僕にも分かるようになっていた。
僕は大抵の品物は魔術で出現させることが出来るし、魔族独特の髪や目の色と言うよりは、元々が人間なので、服装さえ変えてしまえば、普通の人間にしか見えないから、服装だけ旅装束に変えればよかった。どんな服が最近の人間らしいのか考えていると、魔術師のフランが、いくつか持っていた魔術師のローブを見せてくれた。よく似たものを創造魔術で作りだし、僕はそれを身につけた。他に必要そうな旅の装備は、いつの間にかロビンが全て用意してくれていた。半日も経たないうちに、後は旅立つだけ、と言った形になった。
その上、思い立ったが吉日だ、と言われて、早速旅に出かけることになった。
あんまりにもこれは早すぎるんじゃないのかと僕は思う。
「いってらっしゃいませ」
城の玄関で、頭を下げる使用人一同とその中央に立ったロビンにそう言われ、僕は苦笑するしかなかった。
それから僕の方を不安そうにチラチラと見ている神官のルイと、最早最初からパーティにいたかのように僕を扱う魔術師のフラン、そして黙々と先頭を歩く勇者オニキスという三人とともに、僕は城下街を進んだ。
最近じっくりと見ることはなかったが、随分と栄えていた。
「あ、魔王さ――アルト様! いってらっしゃい!」
「アルト様、お元気で!」
「アルト様、早く帰ってきて下さいね!」
「お土産は、新しい調味料で!」
「ええ、宝石がいいよ!」
方々からそんな声が聞こえてきて、店の前を通る度には、飲食物などを押しつけられた。
恐らく僕が倒されたフリをして人間の土地を旅してくると言うのは、ロビンの魔術で、全魔族に通達されているのだと思う。恐らく、人間街の人間にも通達が行っているはずだ。
ただしこのての魔術は、勇者が来るから逃げろ、と言うようなものと同じで、僕と発信者と受信者、受信者同士、の間以外では、口外したり文字や絵に起こしたり出来ない仕様になっている。だから外部に漏れることはない。
「人望があるんだな」
勇者が首だけで振り返って僕を見た。
気恥ずかしくなったので、僕は目を逸らしながら、フードを被った。
「あー、被ってた方が良いな。お前の顔、目立ちすぎるわ」
するとフランにそう言われた。
「? 魔族っぽいって事?」
「いやちょっと綺麗すぎるってこと」
「確かにそれは僕も思います」
ルイにもそう言われ、僕はそう言えば、ここのところすっかり忘れていたが、美貌という特典を手に入れていたのだったと思い出した。結局この千二百年一度もモテ期は来なかったのであるが。
ロビンに相談すると、あっさりとそう言われた。
雰囲気からして、僕の命令だから聞いたと言うよりは、先に勇者側と相談していた気配である。そのくらいは、長い付き合いだから、僕にも分かるようになっていた。
僕は大抵の品物は魔術で出現させることが出来るし、魔族独特の髪や目の色と言うよりは、元々が人間なので、服装さえ変えてしまえば、普通の人間にしか見えないから、服装だけ旅装束に変えればよかった。どんな服が最近の人間らしいのか考えていると、魔術師のフランが、いくつか持っていた魔術師のローブを見せてくれた。よく似たものを創造魔術で作りだし、僕はそれを身につけた。他に必要そうな旅の装備は、いつの間にかロビンが全て用意してくれていた。半日も経たないうちに、後は旅立つだけ、と言った形になった。
その上、思い立ったが吉日だ、と言われて、早速旅に出かけることになった。
あんまりにもこれは早すぎるんじゃないのかと僕は思う。
「いってらっしゃいませ」
城の玄関で、頭を下げる使用人一同とその中央に立ったロビンにそう言われ、僕は苦笑するしかなかった。
それから僕の方を不安そうにチラチラと見ている神官のルイと、最早最初からパーティにいたかのように僕を扱う魔術師のフラン、そして黙々と先頭を歩く勇者オニキスという三人とともに、僕は城下街を進んだ。
最近じっくりと見ることはなかったが、随分と栄えていた。
「あ、魔王さ――アルト様! いってらっしゃい!」
「アルト様、お元気で!」
「アルト様、早く帰ってきて下さいね!」
「お土産は、新しい調味料で!」
「ええ、宝石がいいよ!」
方々からそんな声が聞こえてきて、店の前を通る度には、飲食物などを押しつけられた。
恐らく僕が倒されたフリをして人間の土地を旅してくると言うのは、ロビンの魔術で、全魔族に通達されているのだと思う。恐らく、人間街の人間にも通達が行っているはずだ。
ただしこのての魔術は、勇者が来るから逃げろ、と言うようなものと同じで、僕と発信者と受信者、受信者同士、の間以外では、口外したり文字や絵に起こしたり出来ない仕様になっている。だから外部に漏れることはない。
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「? 魔族っぽいって事?」
「いやちょっと綺麗すぎるってこと」
「確かにそれは僕も思います」
ルイにもそう言われ、僕はそう言えば、ここのところすっかり忘れていたが、美貌という特典を手に入れていたのだったと思い出した。結局この千二百年一度もモテ期は来なかったのであるが。
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