魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅰ ***

【032】過去――魔王二日目⑦

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 夕食までの待ち時間、僕は城の散策をしようかと考えていた。

 ロビンに伝えてみると、「畏まりました」と頷いてくれた。この人は、どうして僕に対してこんなに腰が低いのだろう。やっぱりそれだけ、魔王というものは凄いのだろうか。
そんなことを考えながら暫く歩いていると、不意にロビンが立ち止まった。

「? どうかしたんですか?」
「来客のようです。追い返しますので、お部屋にお戻り下さい」

 僅かにロビンの眼差しが厳しいものへと変わったので、僕は何度か頷いた。

「おいおいロビン。つれないことを言うねぇ」

 が。その時、急に僕の真後ろから声が響いた。

「え?」

 僕が振り返る前にはもう、ロビンが僕と声の主の間に立っていた。

「お帰り下さい」
「折角、魔王様へのご挨拶に伺ったって言うのに、帰れだと?」
「魔王様はご多忙なので、貴方と話すような時間はないのです」

 別に僕は忙しくはない。
 しかしロビンは、僕と来訪者の会話を嫌がっているようだ。

 お客様は、真っ赤な髪をした長身の青年で、少々たれ目で、泣きぼくろがある。目の色は金色だ。服も深紅で、赤が好きなのかなと僕は思った。

 暫く僕の前で、ロビンと青年が、目にもとまらぬ速さで――何と言えばいいのか、手刀の応酬を繰り返していた。ロビンは無表情で、青年はニヤニヤ笑っている。

 決着はすぐについたのか、ロビンの攻撃を交わして、青年が僕の前に立った。そして屈んで僕を覗き込んできた。

「これはこれは、魔王様。へぇ……凄い美人」
「魔王様になんと不埒な――」
「ロビン。俺は魔王様と話してるの。ちょっと黙れよ、いい加減鬱陶しい」
「っ」

 ロビンが息を飲んでから、溜息をついた。

「俺はバルバトス侯爵。よろしくな、魔王様」
「よろしくお願いします」
「腰が低すぎるなぁ。それじゃ人生楽しめないぞ?」

 ニヤニヤと笑いながら、バルバトス侯爵さんが言った。侯爵というのはきっと貴族なのだろう。僕には貴族社会というのはよく分からないので、侯爵というのがどういう立場なのかもよく分からない。

「よし、俺が魔王の心得を伝授してやる。とりあえず応接間に案内してくれ――いいよな? 魔王様」
「あ、はい。ええとロビン……」

 反射的に僕は頷いてしまった。

「……畏まりました」

 溜息をつきながら、ロビンが頷いた。


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