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*** 過去:Ⅰ ***
【022】過去――魔王一日目⑥
しおりを挟む暗闇の中、僕は目を覚ました。
消し方が分からなかったので、寝室のシャンデリアの灯りをつけたまま眠ったのだが、今は消えている。今のところ、電化製品を見たことがないので、これも魔術か何かで、ついたり消えたりするのだろう。
時計を見ると、寝る前は午後の三時半くらいだったのだが、今は夜の九時半だった。
しかし窓がないモノだから、時計を持っていなかったら大変だったなと考える。
思いの外長く眠ってしまったようで、もうすっかり夜である。
これでは食事の用意をしてもらうのも悪い。
それに――不思議なことに、朝以降なにも食べていないはずなのに、空腹を感じていなかった。僕はきっちり三食食べるたちなのに、本当に不思議だ。そういえば、魔族にとっては、食事は娯楽らしい。魔神にとってもそうなのだろうか?
「あー、お風呂は入りたい」
起き上がりながら、僕は思わず呟いた。
重そうな扉を押し開けて、応接間へ出る。扉が軽かったので、驚いた。魔神になったから、ひ弱な僕にも少し体力がついたのかも知れない。
それから先ほど見つけた浴室へと向かった。
洗面所と脱衣所があり、中扉を開けると、その先にシャワーらしきものが見える。
左手の壁には、備え付けの棚があり、そこには見るからに触り心地の良さそうなタオルが入っていた。そして、棚の隣には、全身が映る鏡がある。
「――え?」
僕は鏡を見て、目を見開いた。
そこに映っているのは、間違いなく僕だと思う。手を動かしてみれば、鏡に映っている人物の手も動いた。しかしながら、ごくごく平々凡々だった僕の顔が、なんとも……なんて表現して良いのか分からないが、以前と比較すると、大変綺麗な顔立ちになっていた。スタイルも抜群だ。変わらないのは、黒い髪と瞳だけである。なのに確かにその顔が、僕のものであると、直感的に分かった。
――そうだ、そう言えば僕は、美貌を頼んだのだった!
やった、これならきっと、モテ期が来る!
僕は一人嬉しくなりながら、服を脱いで、側にあった籠に入れた。
それから浴室へと入る。
が、お湯の出し方が分からない。第一、湯船がないのも寂しい。
そんなことを考えていたら、室内の作りが急に変わった。
シャワーは見慣れたものに変わり、浴槽――というか温泉がそこに出現した。
「うわぁ……」
これが、魔術か!
まだまだ訳が分からないままではあるが、寝たら結構すっきりした。
そのため、手に入れた美貌やら魔術やらを、純粋に僕は喜んだ。
案外僕はついているのかも知れない。
シャワーで体を流してから、僕はゆっくりと温泉につかった。四角く白い大理石で出来ていて、ライオンのような彫刻の口から、お湯が間断なく出てくる。しかし僕は、ごく普通の家庭的な足を伸ばせる湯船を想像していただけで、このようなどこかの高級ホテルにでもありそうな温泉は想定外だった。この辺りは、やっぱり僕がまだまだ魔術を上手く使えないと言うことなのだろうか。
色々と考えながら、ゆっくりと温泉につかった後、僕は外へと出た。
「あ、着替えどうしよう……」
僕はバスタオルで体を拭きながら、棚へと視線を向けた。するとバスローブを発見した。 良かった。とりあえず下着は見つからなかったので、バスローブを着る。
「魔術で服が出せたりもするのかな?」
そこで僕は目を伏せ、パンツを想像した。
それから目を開けると、ぽとりとパンツが落ちてきた。
便利だ!
早速身につけ、バスローブを着直してから、僕は外へと出た。
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