21 / 84
*** 過去:Ⅰ ***
【021】過去――魔王一日目⑤
しおりを挟む「珈琲です。そこの砂糖やミルクを入れると甘くなったりまろやかになったりします」
「こーひー? さとう? みるく? ですか」
「怪しいものじゃないので、良かったら一口」
僕はそう告げてから、カップを傾けた。大変美味しい。僕はブラックが好きだ。
「!」
カップを傾けたロビンが、目を見開いた。
「美味しいです……こんな飲み物が存在するのですね。さすがは魔王様」
いや、魔王とか関係ないだろうと思いながら、僕は苦笑した。
そうだ、それより聞きたいことがあったのだ。
「あの、ところで僕は、どのようにして現れたんですか?」
前の魔王様がいたらしいが、次の魔王が現れるまでこの地を統べていた宰相や城を管理していた人がいる以上、やっぱり僕は、この場に急に現れたことになるんだと思う。その割に、ここに来た瞬間には皆が、あの部屋にいたのが不思議だ。
「魔王様がお生まれになる場合、大概玉座にて、光から生を受けます」
「ええと、つまり僕は、今生まれたところと言うことですか?」
「はい、その通りです。零歳でございます」
「……僕は自分のことを一八歳だと思ってました」
「確かに魔王様の外見は、人間で言えばそのくらいのお歳に見えます。しかしながら、魔族は皆自然から生を受けるため、外見年齢は多様なのです。大抵は赤子の姿で生まれるのですが、魔王様のように、既にご成長なさっているお方もおります」
なるほど、これが転生と言うことなのだろうかと僕は納得した。魔族ではなく魔神らしいが。
確かに僕は、外見はまだ見ていないから変わったのかどうかは分からないが、年齢は特に変わらないまま移動したようで、かつ自我はきちんと持っているし、ちゃんと転生して生まれ直したらしい。これで地球の方は安定するのだろう。
珈琲を飲みながら、僕はそんなことを考えた。
そして、どっと疲れた。
「教えてくれて有難うございます。あの、少し眠ってもいいですか?」
「承知しました」
「ご飯の時間になったら起こして下さい」
「――お食事を召し上がるのですか?」
「え? 食事、無いんですか?」
「いえその――……魔族は、人間とは違い、娯楽でしか食事をしないので、お疲れのご様子ですから、お食事をなさるとは思わず――大変失礼いたしました。早急に用意させます」
「あ、まだお腹空いていないので、本当にいつでも構わないです」
「勿体ないお言葉です」
「それじゃあ起きてから、またお願いすると思うので、用意などは特別しなくて構わないです」
魔族は娯楽でしか食事をしないのかと、僕は一つ頭が良くなった気がした。
また、ここに至るまで、そしてこの部屋にも窓がないことを不思議に思ったが、疲労感ゆえに、とりあえず眠りたかった。
何
せ僕は、交通事故にあって死に、自称神様に会い、その上いきなり魔王になって此処にいるのだ。怒濤の一日である。
そんなこんなで、僕は眠ることにしたのだった。
1
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる