魔王の求める白い冬

猫宮乾

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*** 過去:Ⅰ ***

【021】過去――魔王一日目⑤

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「珈琲です。そこの砂糖やミルクを入れると甘くなったりまろやかになったりします」
「こーひー? さとう? みるく? ですか」
「怪しいものじゃないので、良かったら一口」

 僕はそう告げてから、カップを傾けた。大変美味しい。僕はブラックが好きだ。

「!」

 カップを傾けたロビンが、目を見開いた。

「美味しいです……こんな飲み物が存在するのですね。さすがは魔王様」

 いや、魔王とか関係ないだろうと思いながら、僕は苦笑した。
 そうだ、それより聞きたいことがあったのだ。

「あの、ところで僕は、どのようにして現れたんですか?」

 前の魔王様がいたらしいが、次の魔王が現れるまでこの地を統べていた宰相や城を管理していた人がいる以上、やっぱり僕は、この場に急に現れたことになるんだと思う。その割に、ここに来た瞬間には皆が、あの部屋にいたのが不思議だ。

「魔王様がお生まれになる場合、大概玉座にて、光から生を受けます」
「ええと、つまり僕は、今生まれたところと言うことですか?」
「はい、その通りです。零歳でございます」
「……僕は自分のことを一八歳だと思ってました」
「確かに魔王様の外見は、人間で言えばそのくらいのお歳に見えます。しかしながら、魔族は皆自然から生を受けるため、外見年齢は多様なのです。大抵は赤子の姿で生まれるのですが、魔王様のように、既にご成長なさっているお方もおります」

 なるほど、これが転生と言うことなのだろうかと僕は納得した。魔族ではなく魔神らしいが。

 確かに僕は、外見はまだ見ていないから変わったのかどうかは分からないが、年齢は特に変わらないまま移動したようで、かつ自我はきちんと持っているし、ちゃんと転生して生まれ直したらしい。これで地球の方は安定するのだろう。

 珈琲を飲みながら、僕はそんなことを考えた。
 そして、どっと疲れた。

「教えてくれて有難うございます。あの、少し眠ってもいいですか?」
「承知しました」
「ご飯の時間になったら起こして下さい」
「――お食事を召し上がるのですか?」
「え? 食事、無いんですか?」
「いえその――……魔族は、人間とは違い、娯楽でしか食事をしないので、お疲れのご様子ですから、お食事をなさるとは思わず――大変失礼いたしました。早急に用意させます」
「あ、まだお腹空いていないので、本当にいつでも構わないです」
「勿体ないお言葉です」
「それじゃあ起きてから、またお願いすると思うので、用意などは特別しなくて構わないです」

 魔族は娯楽でしか食事をしないのかと、僕は一つ頭が良くなった気がした。

 また、ここに至るまで、そしてこの部屋にも窓がないことを不思議に思ったが、疲労感ゆえに、とりあえず眠りたかった。

 せ僕は、交通事故にあって死に、自称神様に会い、その上いきなり魔王になって此処にいるのだ。怒濤の一日である。

 そんなこんなで、僕は眠ることにしたのだった。



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